飲食店の保証金・礼金はいくらかかるか。物件取得費500万円の内訳と、返ってくる金額の見通し。

飲食店の保証金・礼金はいくらかかるか。物件取得費500万円の内訳と、返ってくる金額の見通し。 飲食店の開業

公庫の創業計画書記入例(洋風居酒屋)では、物件取得費(保証金・礼金・仲介手数料等)として500万円が計上されています。設備資金970万円のうち52%を占める最大の項目です。保証金は退去時に一部または全額が返還される預かり金ですが、礼金・仲介手数料は返ってきません。家賃20万円の物件で保証金が10か月分なら200万円、礼金2か月なら40万円になります。開業費用の中でも物件取得費は事前に削れる余地が大きく、保証金の月数や礼金の有無が初期借入額と月次返済額に直接影響します。

保証金・礼金・仲介手数料の定義と違い

物件契約時に必要な費用は複数の項目に分かれています。それぞれの性格が異なり、返ってくるかどうかも違います。

保証金(敷金)は、貸主(家主)への預かり金です。退去時に原状回復費用を差し引いた残額が返還されます。保証金の月数は物件や地域によって大きく異なり、一般的に商業テナントは住宅より月数が多い傾向があります。

礼金は、慣行的な謝礼として貸主に支払うものです。退去しても返ってきません。都市部を中心に礼金ゼロの物件も増えていますが、飲食テナントではいまだに礼金が設定される物件も多くあります。

仲介手数料は、不動産会社への成功報酬です。宅地建物取引業法により、貸主・借主の合計で受け取れる仲介手数料の上限は家賃1か月分(消費税別)です。実務では借主側が家賃1か月分を負担するケースが多くなっています。

前払い家賃は、入居日から月末までの日割り分と翌月分を一括で支払うケースが一般的です。物件によっては2か月分前払いを求める場合もあります。

項目 相場(目安) 家賃20万円の場合 退去時に返るか
保証金(敷金) 家賃6〜12か月分 120〜240万円 一部返還(原状回復費を差し引く)
礼金 家賃0〜2か月分 0〜40万円 返ってこない
仲介手数料 家賃1か月分(上限) 20万円(消費税別) 返ってこない
前払い家賃 1〜2か月分 20〜40万円 返ってこない(翌月分は充当済み)
合計の目安 — 160〜340万円 —

保証金・礼金の月数は物件・地域・時期によって大きく異なります。契約前に各項目を一覧で確認し、返還の有無を区別して把握しておくことが重要です。

公庫記入例の物件取得費500万円の内訳を推定する

公庫の創業計画書記入例(洋風居酒屋・2025年4月版)では、物件取得費が500万円としてひとくくりに計上されています。家賃20万円の物件を前提に、内訳を推定すると次のようになります。

推定項目 計算根拠 金額(目安)
保証金(10か月分と仮定) 20万円×10か月 200万円
礼金(2か月分と仮定) 20万円×2か月 40万円
仲介手数料(1か月分) 20万円×1か月+消費税 約22万円
前払い家賃(2か月分) 20万円×2か月 40万円
小計 — 約302万円
残り(保証会社費用・各種保険等) 500万円との差額 約198万円

約300万円の内訳推定に対して、記入例の500万円には約200万円の差があります。この差額には、保証会社利用料、火災保険料(長期一括)、管理会社への事務手数料、内装工事着工前の仮払い等が含まれると考えられます。物件によっては造作譲渡料(前テナントの設備の引き取り費)が含まれることもあります。

重要なのは、保証金の月数次第で物件取得費が大幅に変動するという点です。保証金が6か月か12か月かで80万円の差が生じます。

保証金の月数 保証金額 礼金2か月+仲介1か月+前払い2か月 合計(目安)
6か月分 120万円 102万円 222万円
8か月分 160万円 102万円 262万円
10か月分 200万円 102万円 302万円
12か月分 240万円 102万円 342万円

同じ家賃の物件でも、保証金の月数が6か月か12か月かで120万円の差が生じます。借入額に直接影響するため、物件選定時に確認すべき最重要項目のひとつです。

保証金から退去時に返ってくる金額の見通し

保証金は預かり金なので、原則として退去時に返還されます。ただし、飲食店テナントの原状回復義務は一般的な住宅より広い範囲になることが多く、実際には相当額が差し引かれるケースがあります。

飲食テナントの原状回復では、内装撤去(スケルトン返却を求める物件もある)、厨房設備・換気ダクトの清掃・修繕、床・壁の油汚れや傷の修繕、グリストラップの清掃、臭気除去などが求められることがあります。スケルトン返却が求められる場合、内装全体の撤去工事費として数十万〜100万円以上かかることもあります。

原状回復費(目安) 返還額(保証金200万円の場合) 返還率
ほぼなし(きれいな状態で退去) 約200万円 約100%
50万円 150万円 75%
100万円 100万円 50%
150万円 50万円 25%
200万円以上 0円(差額を追加請求される場合も) 0%

原状回復費が200万円を超える場合、保証金だけでは足りず、追加で請求されるケースもあります。退去時のコストを見越して開業当初から計画しておくことが重要です。

なお、原状回復の範囲は契約書の特約で詳細が決まります。「スケルトン返却特約」「原状回復の範囲」の条項は、契約前に必ず確認し、不明な点は交渉・確認する必要があります。

物件取得費が月次損益に与える影響

物件取得費は設備資金として借入の対象になります。公庫記入例では、設備資金970万円(物件取得費500万円を含む)のうち700万円を公庫から借入しています。物件取得費が変わると借入額が変わり、月次返済額と損益分岐点が変動します。

元利均等返済の月次返済額の計算式(年利2.5%・10年返済):

月次返済額 = 借入額 × [月利×(1+月利)^120] ÷ [(1+月利)^120-1]
月利 = 2.5% ÷ 12 ≒ 0.2083%

借入額 月次返済額(10年・年利2.5%) 年間返済額 公庫記入例との差
500万円 約4.7万円 約56.5万円 △約22万円/月
600万円 約5.7万円 約68万円 △約11万円/月
700万円(記入例) 約6.6万円 約79.5万円 —
800万円 約7.6万円 約91万円 +約1万円/月
900万円 約8.5万円 約102万円 +約1.9万円/月

公庫記入例の損益分岐点月商は249.1万円(返済込み)で算出されています。借入額が100万円少なくなると月次返済が約1万円減り、損益分岐点の月商は約1.5万円低下します。物件取得費200万円の差(保証金6か月vs12か月)は借入額に直接反映され、月次損益に継続的な影響を与えます。

物件取得費を抑えるための選択肢

物件取得費は交渉・選択の余地がある費用です。同じエリアでも条件によって大きく異なります。

保証金の月数が少ない物件を選ぶことで、初期費用を抑えられます。6か月と12か月では同じ家賃でも120万円の差(家賃20万円の場合)があります。保証金は将来的に一部返還されますが、開業時点ではキャッシュアウトとして発生します。

礼金ゼロの物件も選択肢のひとつです。都市部を中心に礼金なし物件が増えており、家賃2か月分(40万円)の節約になります。ただし礼金なし物件は競争率が高いことも多く、内見・申し込みのスピードが重要になります。

居抜き物件(前テナントの内装・設備を引き継ぐ物件)では、造作譲渡料がかかりますが、内外装工事費(記入例では200万円)や厨房設備費(同150万円)を削減できる場合があります。物件取得費自体は変わりませんが、設備資金合計を抑えられるため借入額を減らせます。

保証会社の利用は、保証金の代わりに月額保証料(家賃の0.5〜1%程度)を支払う形です。初期の保証金を100〜200万円削減できますが、入居中ずっと毎月費用がかかります。月額2,000円(家賃20万円の1%)なら10年間で24万円になり、保証金の削減分との比較が必要です。

開業前に用意すべき現金(物件取得費と自己資金の関係)

物件取得費は、融資の実行前に支払いが発生するケースがあります。物件の申し込みから契約・引き渡しまでのスケジュールと、公庫融資の審査・実行スケジュールが合わない場合、自己資金から先払いが必要になることがあります。

公庫記入例では、自己資金560万円(うち360万円が自己調達・200万円が親からの借入)が計上されています。融資は申し込みから実行まで数週間〜1か月程度かかることが多く、物件契約のタイミングと融資実行のタイミングをすり合わせることが重要です。

開業準備フェーズ 主な支出 資金源の目安
物件申し込み〜契約 保証金・礼金・仲介手数料・前払い家賃 自己資金(融資実行前の場合)
融資実行後〜内装工事 内外装工事・厨房設備・什器備品 融資資金
開業前(準備期間) 家賃・仕入・スタッフ採用費・広告費 運転資金(融資に含む)
開業月〜2か月目 仕入・人件費・各種運営費 運転資金(融資に含む)

公庫記入例では運転資金290万円のうち「準備期間の家賃等」として60万円が計上されています。内装工事期間(通常1〜2か月)は売上が立たない状態で家賃が発生するため、この分を見越した資金計画が必要です。

物件取得費の試算と収支シミュレーションで確認すること

物件取得費が変わると、借入額・月次返済額・損益分岐点のすべてが連動して変わります。収支計画を立てる際は、物件取得費を実際に想定している物件の条件(保証金の月数・礼金の有無)で入力して確認することが重要です。

公庫記入例の500万円はあくまで参考値です。保証金6か月(120万円)・礼金なしの物件なら物件取得費を大幅に抑えられ、借入額も減り月次の負担が軽くなります。逆に保証金12か月・礼金2か月の物件では物件取得費だけで340万円を超え、記入例より借入額が増える可能性もあります。

保証金は将来的に返還される可能性がありますが、廃業時には原状回復費との差し引きになるため、全額手元に戻る前提で計画を立てないことが重要です。収支シミュレーターで借入額・返済期間・月次固定費をさまざまな条件で試算し、損益分岐点の水準を確認しておくことをお勧めします。

物件取得費・借入額・返済期間を変えた場合の月次収支への影響は、飲食店の開業 収支シミュレーターで確認できます。

本記事の数字は日本政策金融公庫「創業計画書記入例(2025年4月版・洋風居酒屋)」および「2025年度新規開業実態調査」をもとにした試算です。保証金・礼金の相場は物件・地域・時期によって大きく異なります。物件契約・原状回復の範囲については不動産会社・各行政窓口にご確認ください。本ツールは当方が作成した民間のシミュレーターであり、日本政策金融公庫が作成・提供するものではありません。むむ(fufumumu_design)作成・2026年10月確認。

この記事を書いた人

業種別のツールを、一人で作っています。開業前の収支シミュレーター、法定研修キット、資格の問題集。どれも、厚生労働省の告示や調査の原文を自分で確かめてから数字を組み込んでいます。使う人が「この数字、合ってるか」と不安になるようなツールは作りたくないので。

上場企業で20年間、営業ひとすじ。電話営業・インサイドセールスから、約70名のチームのマネジメントへ。現場で「根拠のない数字」が判断を狂わせる場面を見続けてきたせいか、ツールを作るときも出典を確かめずにはいられません。

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