公庫の記入例(洋風居酒屋・月商322万円)の人件費率は27.5%です。一方、公庫の経営指標調査による一般飲食店の全国平均は33%前後で、記入例より5pt以上高い水準です。人件費率が5pt上昇すると、月商322万円の場合は毎月16.1万円の費用増になり、年間193万円の損益悪化につながります。黒字を維持するためには、アルバイトの時給・稼働時間・シフト構成の3点を数字で管理することが重要です。
飲食店の人件費率の計算式と全国水準
人件費率は「人件費÷売上高×100」で計算します。公庫の創業計画書記入例(洋風居酒屋・2025年4月版)では、軌道後(月商322万円)の人件費は88.6万円で、人件費率は88.6÷322×100=27.5%です。
公庫の「小企業の経営指標調査2025年度」によると、一般飲食店の人件費率の全体平均は33%前後です。記入例の27.5%は全国平均より5pt以上低く、開業計画の前提として使う場合は「計画通りに人件費を抑えられるか」を確認する必要があります。
以下は、人件費率が変化した場合に月次損益がどう変わるかを示す試算です。前提は月商322万円・原価率35%(原価112.7万円)・家賃20万円・その他47.5万円・返済5.8万円(固定)です。
| 人件費率 | 月次人件費(万円) | 単月損益(万円) | 記入例(47.4万円)との差 |
|---|---|---|---|
| 25% | 80.5 | 55.5 | +8.1万円 |
| 27.5%(記入例) | 88.6 | 47.4 | 基準 |
| 28% | 90.2 | 45.8 | −1.6万円 |
| 30% | 96.6 | 39.4 | −8.0万円 |
| 33%(全国平均) | 106.3 | 29.7 | −17.7万円 |
| 35% | 112.7 | 23.3 | −24.1万円 |
| 40% | 128.8 | 7.2 | −40.2万円 |
※月商322万円・原価率35%・家賃20万円・その他47.5万円・返済5.8万円を固定した場合の試算です。
記入例の27.5%と全国平均の33%の差は5.5ptです。この差は毎月322万円×0.055=17.7万円の人件費増に相当し、年間では212万円の損益悪化になります。人件費率33%の全国平均水準では単月損益が29.7万円になり、記入例(47.4万円)の63%の水準に下がります。
公庫記入例の人件費の内訳を読む
公庫の創業計画書記入例(洋風居酒屋)の人件費の内訳は、創業当初と軌道後で異なります。
| 区分 | 内訳 | 創業当初(万円) | 軌道後(万円) |
|---|---|---|---|
| 正社員 | 1人→軌道後2人(1人あたり約20万円) | 20 | 40 |
| 専従者(家族従業者) | 1人×10万円 | 10 | 10 |
| アルバイト | 時給1,300円×12時間×26日×2人 | 40.6 | 40.6(38.6とも) |
| 合計 | 約70 | 88.6 |
記入例のアルバイト費用を計算すると、時給1,300円×12時間×26日×2人=811,200円(≒81.1万円)です。ただし記入例の人件費合計が88.6万円である一方、正社員40万+専従者10万+アルバイト81.1万の合計は131.1万円になり、内訳が合いません。記入例では正社員の給与が記載の20万円より実態として低い可能性があるか、あるいは記入例の創業当初の人件費70万円(正社員20万+専従者10万+アルバイト40万)を軌道後に正社員を1人追加して18.6万円増やした数字として読むのが整合的です。いずれにせよ、記入例に明記されている「人件費88.6万円(軌道後)」を使います。
創業当初から軌道後への人件費の増加は70万円→88.6万円(+18.6万円)です。これは正社員を1人追加したことによるものです。月商も創業当初247.7万円から322万円へ増加するため、人件費率は70÷247.7×100=28.3%から88.6÷322×100=27.5%へわずかに下がります。月商の伸びが人件費の伸びを上回ることで、人件費率が維持または低下するのが理想的な成長の形です。
アルバイトの時給が上がると人件費がどう変わるか
アルバイトの時給は最低賃金の改定・地域の競合の状況によって変化します。記入例の条件(2人・1日12時間・月26日)を固定したまま時給だけを変えると、月次のアルバイト人件費は以下のように変わります。
| 時給(円) | 月次アルバイト人件費(万円) | 前年比コスト(記入例比) | 月商322万円に対する比率 |
|---|---|---|---|
| 1,200 | 74.9 | −6.2万円 | 23.3% |
| 1,300(記入例) | 81.1 | 基準 | 25.2% |
| 1,400 | 87.4 | +6.2万円 | 27.1% |
| 1,500 | 93.6 | +12.5万円 | 29.1% |
| 1,600 | 99.8 | +18.7万円 | 31.0% |
| 1,700 | 106.1 | +24.9万円 | 32.9% |
※2人・1日12時間・月26日で計算(時給×12×26×2)。
時給が100円上がるごとに月次のアルバイト人件費は6.2万円増加します。時給1,300円から1,500円に上がった場合、月次コストは81.1万円から93.6万円へ12.5万円増え、年間では150万円の増加になります。このコスト増を吸収するためには、月商を約19.2万円(12.5÷0.65≒19.2)増やすか、他の固定費を削減する必要があります。
なお、最低賃金は都道府県ごとに異なり、毎年10月前後に改定されます。記入例の時給1,300円が自店の所在地の最低賃金を下回る場合は、最低賃金を適用した金額で計算し直す必要があります。
稼働時間の設計が人件費率に与える影響
記入例のアルバイトは「1日12時間×2人」という前提です。ランチとディナーの通し営業をほぼ1日中2人で回す設定です。稼働時間を変えると人件費がどう変わるかを確認します。時給1,300円・2人・月26日の条件で計算します。
| 1日の稼働時間 | 月次アルバイト人件費(万円) | 月商322万円に対する比率 | 記入例(12時間)との差 |
|---|---|---|---|
| 8時間 | 54.1 | 16.8% | −27.0万円 |
| 10時間 | 67.6 | 21.0% | −13.5万円 |
| 12時間(記入例) | 81.1 | 25.2% | 基準 |
| 14時間 | 94.6 | 29.4% | +13.5万円 |
| 16時間 | 108.2 | 33.6% | +27.1万円 |
※時給1,300円×稼働時間×26日×2人で計算。
12時間から10時間に短縮できれば、月次のアルバイト人件費は13.5万円減り、年間162万円のコスト削減になります。ただし、稼働時間を短縮すると営業できる時間帯が狭まります。ランチのみ・ディナーのみの業態で実質的に10時間以下の営業でまかなえる場合は、12時間フルで人を配置する必要はありません。
実際のシフト設計では、ランチタイム(11〜15時)とディナータイム(17〜22時)に分けて別々のアルバイトを入れる方法が一般的です。この場合、1人あたりの稼働時間は4〜5時間程度になり、1日の総人時(人数×時間)を細かく調整できます。総人時を管理することで、繁忙時間帯には人を増やし、閑散時間帯には少なくする運用が可能になります。
人件費率が33%を超えた場合の損益への影響
月商に対する人件費率が上昇すると、損益分岐点も上昇します。以下は家賃・その他経費・返済を固定したまま、人件費率だけを変えた場合の月次損益の変化です。
| 人件費率 | 月次人件費(万円) | 原価(万円) | 固定費他(万円) | 単月損益(万円) | 年間損益(万円) |
|---|---|---|---|---|---|
| 27.5%(記入例) | 88.6 | 112.7 | 73.3 | 47.4 | 568.8 |
| 30% | 96.6 | 112.7 | 73.3 | 39.4 | 472.8 |
| 33%(全国平均) | 106.3 | 112.7 | 73.3 | 29.7 | 356.4 |
| 35% | 112.7 | 112.7 | 73.3 | 23.3 | 279.6 |
| 38% | 122.4 | 112.7 | 73.3 | 13.6 | 163.2 |
※月商322万円・原価率35%(112.7万円)・家賃20万円・その他47.5万円・返済5.8万円を固定。固定費他=73.3万円。年間損益は単月損益×12で計算。
人件費率が記入例の27.5%から全国平均の33%まで上昇すると、単月損益は47.4万円から29.7万円に下がります(−17.7万円)。年間では212万円の損益悪化です。さらに38%まで上昇すると単月損益は13.6万円となり、客数の落ち込みや原価の上振れが重なると赤字に転じるリスクが高くなります。
損益分岐点(固定費÷粗利率)で確認すると、人件費率33%の場合の固定費は106.3+73.3=179.6万円で、損益分岐点の月商は179.6÷0.65=276.3万円です。記入例(損益分岐点249.1万円・返済開始後)より27.2万円高く、集客が想定より少ない月に赤字になるリスクが広がります。
人件費を変動費化するための考え方
人件費は「固定費的な部分(正社員・専従者の給与)」と「変動費的な部分(アルバイトのシフト)」に分けて管理します。正社員と専従者の給与は売上に関わらず毎月発生するため、採用人数を増やすほど固定費が膨らみます。アルバイトはシフトで調整できるため、売上の少ない日・時間帯を絞ることで変動費として扱えます。
記入例の構成(正社員2人+専従者1人+アルバイト2人)では、人件費88.6万円の内訳は固定費分(正社員40万+専従者10万)が50万円・変動費的な部分(アルバイト)が38.6万円程度です。固定費的な人件費50万円は、売上がゼロでも発生します。この固定費部分が大きいほど、売上が落ちたときの損益悪化が深刻になります。
繁閑の差が大きい業態(週末と平日で客数が倍以上異なる・観光地型など)では、正社員の比率を低く保ち、繁忙期に合わせてアルバイトを柔軟に調整する方が人件費率を安定させやすいです。一方で、調理や接客の品質を維持するためには一定数の熟練スタッフが必要で、すべてをアルバイトで回すことは実務上難しい場合が多いです。
なお、歩合制(売上の何%を給与にする)や業績連動型の賞与を取り入れることで、人件費の変動費化を試みる方法もあります。歩合制の給与体系を導入する場合は、最低賃金を下回らないよう注意が必要です(最低賃金法により、出来高払いでも最低賃金が保障されます)。設計は社会保険労務士に確認することをおすすめします。
人件費率とFL比率の関係
FL比率は「Food(食材費・原価)+Labor(人件費)」を売上で割った比率です。記入例の軌道後では、原価112.7万円+人件費88.6万円=201.3万円で、FL比率は201.3÷322×100=62.5%です。
公庫の「小企業の経営指標調査2025年度」では、一般飲食店のFL比率の全国平均は原価率35%前後+人件費率33%前後で合計68%程度です。記入例(62.5%)と全国平均(68%)の差は5.5ptで、その大部分は人件費率の差(27.5%対33%)から来ています。
FL比率60%という数字が「目標」として語られることがあります。ただし、これは公庫や行政機関が定めた公的な基準でも統計上の推奨値でもありません。全国平均が68%であることを考えると、FL60%は多くの店舗にとって難しい水準です。FL比率はコスト管理の目安として使うものですが、達成できなければ経営が成立しないというものではありません。
人件費率が上昇するとFL比率も上昇します。原価率35%を固定したまま人件費率が33%まで上がった場合のFL比率は68%で、全国平均水準です。人件費率が38%まで上昇した場合のFL比率は73%になり、その他経費(家賃・返済等)と合わせると利益がほとんど残らない水準になります。
| 人件費率 | FL比率(原価率35%固定) | 月次損益(万円) |
|---|---|---|
| 27.5%(記入例) | 62.5% | 47.4 |
| 30% | 65.0% | 39.4 |
| 33%(全国平均) | 68.0% | 29.7 |
| 35% | 70.0% | 23.3 |
| 38% | 73.0% | 13.6 |
まとめ:人件費率を27.5%に保つための3つの管理ポイント
公庫の記入例(人件費率27.5%)と全国平均(33%前後)の差は5pt以上あります。人件費率が5pt高くなるだけで、月商322万円の場合は毎月16万円以上の損益悪化につながります。この差を縮めるために管理できる3つのポイントは以下のとおりです。
第1に、アルバイトの時給を最低賃金+αの水準で設定し、採用できる地域と業態を選ぶことです。時給が1,300円から1,500円に上がると月12.5万円・年150万円のコスト増です。開業地域の最低賃金の水準と近隣の飲食店の募集時給を確認した上で、収支計画に実際の数字を使います。
第2に、稼働時間を業態に合わせて設計することです。12時間通しで2人を配置する場合と、ランチ・ディナーを分けて4〜5時間ずつ別々のアルバイトを入れる場合では、同じ人数でも月次コストが変わります。繁忙時間帯に合わせた人員配置が人件費率の管理につながります。
第3に、月次の人件費率を毎月確認することです。人件費率が目標値を超えた月は、翌月のシフトを調整する判断材料になります。人件費率の管理は「気づいたときに下げる」のではなく、毎月数字を見て早期に対応する習慣が重要です。
人件費率・原価率・固定費を合わせた月次損益の試算は、飲食店の開業 収支シミュレーターで確認できます。アルバイトの時給・人数・稼働時間を入力すると、36か月の月次収支と人件費率が自動で計算されます。
本記事の数字は日本政策金融公庫「創業計画書記入例(2025年4月版・洋風居酒屋)」および「小企業の経営指標調査2025年度」をもとにした試算です。実際の人件費・経営状況により異なります。給与体系の設計については、社会保険労務士または労働局にご相談ください。本ツールは当方が作成した民間のシミュレーターであり、日本政策金融公庫が作成・提供するものではありません。むむ(fufumumu_design)作成・2026年10月確認。


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