飲食店の月商の上限は席数と回転数で決まる。30席・原価率35%・FL68%で実現できる月商を計算する。

飲食店の月商の上限は席数と回転数で決まる。30席・原価率35%・FL68%で実現できる月商を計算する。 飲食店の開業

飲食店の月商の上限は、席数×(客単価×回転数)×営業日数の計算式で決まります。日本政策金融公庫の創業計画書記入例(洋風居酒屋・25席・2025年4月版)では月商322万円ですが、席数が20席なら257万円、35席なら450万円と変わります。上限月商を計算してから、原価率・FL比率・損益分岐点を設計するのが収支計画の出発点です。

月商の計算式と公庫記入例の内訳

飲食店の月商は、次の式で計算します。

月商 = 席数 × (昼の客単価 × 昼の回転数 + 夜の客単価 × 夜の回転数)× 営業日数

公庫の記入例(洋風居酒屋・25席・営業日数26日)では、次のように計算しています。

時間帯 席数 客単価 回転数 営業日数 売上
昼 25席 900円 1.0回転 26日 585,000円
夜 25席 4,500円 0.9回転 26日 2,632,500円
合計 3,217,500円(約322万円)

夜の売上(263万円)が全体の81.8%を占めています。客単価が昼の5倍のため、回転数が昼より低くても夜の売上が収益全体を支える構造です。

「席数」は飲食店の営業許可の申請時に届け出る定員に準じます。「回転数」は1日に同じ席が何組に使われるかを示す指標で、1.0回転なら全席が1日1組に使われることを意味します。「営業日数」は月の実際の営業日です。記入例では月26日(月1〜2回休)を設定しています。

席数別の月商上限

公庫記入例の客単価・回転数・営業日数(昼900円×1.0回転、夜4,500円×0.9回転、26日)を固定して、席数だけを変えると月商の上限がどう変わるかを計算します。1席あたりの月商単価は(900×1.0+4,500×0.9)×26=128,700円になります。

席数 月商の上限 記入例(25席)との差 損益分岐点(240.2万円)との関係
15席 193万円 −129万円 上限が損益分岐点を下回る(100%稼働でも赤字)
20席 257万円 −65万円 上限の93.5%で損益分岐点に達する
25席(記入例) 322万円 0 上限の74.6%で損益分岐点に達する
30席 386万円 +64万円 上限の62.2%で損益分岐点に達する
35席 450万円 +128万円 上限の53.3%で損益分岐点に達する
40席 515万円 +193万円 上限の46.6%で損益分岐点に達する
50席 644万円 +322万円 上限の37.3%で損益分岐点に達する

※損益分岐点は公庫記入例の固定費(人件費88.6万+家賃20万+その他47.5万=156.1万円)・原価率35%から算出した240.2万円を固定値として使用。

15席の場合、客単価・回転数・営業日数がすべて記入例と同じであっても、月商の上限(193万円)が損益分岐点(240.2万円)を下回ります。記入例と同じ固定費構造(特に人件費88.6万円・家賃20万円)を維持する場合、席を満席にしても損益がマイナスになります。小規模店舗では、固定費を席数に合わせて引き下げるか、客単価・回転数を記入例より高く設定する必要があります。

回転数を変えると月商がどう変わるか

25席・26日を固定して、昼と夜の回転数を変えた場合の月商の変化を計算します。昼(客単価900円)と夜(客単価4,500円)では、1回転あたりの売上が5倍異なるため、昼の回転数を上げるよりも夜の回転数を上げるほうが月商への影響が大きくなります。

昼の回転数を変えた場合(夜0.9回転固定):

昼の回転数 昼の売上 夜の売上(固定) 月商の合計
0.5回転 29万円 263万円 293万円
0.8回転 47万円 263万円 310万円
1.0回転(記入例) 59万円 263万円 322万円
1.5回転 88万円 263万円 351万円
2.0回転 117万円 263万円 380万円

夜の回転数を変えた場合(昼1.0回転固定):

夜の回転数 昼の売上(固定) 夜の売上 月商の合計
0.5回転 59万円 146万円 205万円
0.7回転 59万円 205万円 263万円
0.9回転(記入例) 59万円 263万円 322万円
1.2回転 59万円 351万円 410万円
1.5回転 59万円 439万円 497万円

昼の回転数を0.5から2.0に4倍にしても、月商の増加は約87万円(293万→380万)です。一方、夜の回転数を0.5から1.5に3倍にすると月商は292万円増加します(205万→497万)。夜の客単価(4,500円)が昼の客単価(900円)の5倍のため、夜の回転数1回転分の価値は昼の5回転分に相当します。居酒屋・ダイニングバー業態では夜の回転数が月商の大半を決めるため、夜の稼働をどう設計するかが収支計画の核心です。

月商の上限から損益分岐点を逆算する

公庫記入例の固定費(人件費88.6万円+家賃20万円+その他47.5万円=156.1万円)と原価率35%(粗利率65%)を使うと、返済開始前の損益分岐点は次のように計算できます。

損益分岐点の月商 = 固定費 ÷ 粗利率 = 156.1万円 ÷ 0.65 = 240.2万円

この損益分岐点が月商の上限に対して何%の位置にあるかで、収益の余裕が分かります。比率が低いほど、満席に届かなくても黒字を維持できます。

席数 月商の上限 損益分岐点(240.2万円固定) 損益分岐点÷上限月商 100%稼働時の余裕
15席 193万円 240.2万円 124.5%(上限超え) −47万円(赤字)
20席 257万円 240.2万円 93.5% +17万円
25席(記入例) 322万円 240.2万円 74.6% +82万円
30席 386万円 240.2万円 62.2% +146万円
35席 450万円 240.2万円 53.3% +210万円

25席(記入例)では、最大月商の74.6%まで売上が落ちても損益分岐点を維持できます。逆に言えば、100%稼働が前提の収支計画を立てている場合、売上が計画を25.4%以上下回ると赤字になります。

日本政策金融公庫の「2025年度新規開業実態調査」によると、開業後に「黒字基調」と回答した開業者は67.0%です。33%の開業者が黒字基調ではない状態が続いている背景には、収支計画の前提(席数・回転数・客単価)が実態と合わなかったケースが含まれます。損益分岐点が月商の上限に対して低い位置にあるほど、立ち上がり期の赤字月が短くなります。

FL比率68%を前提にした収益設計

公庫「小企業の経営指標調査2025年度」では、一般飲食店の原価率(食材費率)は35%前後、人件費率は33%前後で、FL比率の合計は68%前後になります。「FL比率は60%が目標」という経験則がありますが、公庫の統計では全国平均が68%であり、60%は公的な基準ではありません。

FL比率68%を前提にした場合、残りの32%で家賃・その他経費・利益をまかなうことになります。

公庫記入例の家賃・その他の合計:20万円+47.5万円=67.5万円

FL比率68%前提の損益分岐点(FL全額が変動費と仮定):67.5万円 ÷ 0.32 = 210.9万円

この210.9万円は「FL比率が収益の68%を変動費として占める」という前提での最低限の月商です。しかし実際の飲食店では、人件費の一部(正社員・家族従業者の給与)が固定費です。公庫記入例でも人件費88.6万円のうち、正社員・家族従業者分の計30万円は売上にかかわらず発生します。

このため、実際の損益分岐点は「FL全額が変動費」と仮定した210.9万円よりも高くなります。

計算の前提 損益分岐点の月商 25席・上限322万円に対する比率
FL比率68%がすべて変動費(理論値) 210.9万円 65.5%
公庫記入例の実際(人件費に固定部分あり) 240.2万円 74.6%
返済開始後(月5.8万円の元金返済を加算) 249.1万円 77.4%

FL比率の概算だけで収支計画を立てると、実際の損益分岐点(固定費込み)との間に29万円のずれが生じます。収支計画を立てる際は、人件費のうちどこまでが固定費かを確認した上で損益分岐点を計算することが求められます。

昼と夜のバランスが収益リスクに与える影響

飲食店の月商は昼と夜の売上の合計ですが、業態によって昼夜の比率が大きく異なります。同じ月商322万円でも、昼と夜の構成比率が違えば収益のリスクの性質が変わります。

公庫記入例(洋風居酒屋)の昼夜構成は、昼585千円(18.2%)・夜2,632千円(81.8%)です。夜メインの業態では、週末と平日で客数の差が大きくなります。週末・忘年会シーズンに集中する売上が月商を決める一方、平日の夜の稼働が落ちると月商が急減します。

業態パターン 昼の売上(試算) 夜の売上(試算) 月商合計 収益リスクの特徴
夜メイン(居酒屋型・記入例) 25席×900円×1.0回転×26日=59万円 25席×4,500円×0.9回転×26日=263万円 322万円 週末・季節イベント依存。平日の夜の稼働が月商を左右する
昼夜均等(カフェ・洋食型) 25席×1,500円×1.5回転×26日=146万円 25席×2,500円×0.7回転×26日=114万円 260万円 月商は下がるが、昼夜どちらかが落ちても影響が分散する

夜メインの業態(記入例の居酒屋型)で月商322万円を維持するには、夜の0.9回転を維持することが前提です。夜の回転数が0.7回転に落ちると月商は263万円になります(前掲の夜の回転数テーブルより)。このとき損益分岐点(240.2万円)との差は22万円まで縮まり、わずかな客数の減少でも赤字に転じるリスクが高まります。昼夜の月商バランスを設計段階で確認しておくことが、開業後の収益の安定につながります。

月商の上限を決める3つの制約

飲食店の月商は席数・客単価・回転数・営業日数の積で計算できますが、実際にはこれらを無限に増やせるわけではありません。月商の上限は次の3つの制約で決まります。

1つ目は物理的な制約です。席数は物件の面積と内装設計で決まります。回転数は1組あたりの滞在時間に依存します。居酒屋のように1組あたり平均2時間の場合、夜5時間の営業では物理的な最大回転数は2〜2.5回転が上限になります。

2つ目は人的・厨房の制約です。席数が増えても、調理スタッフの数と厨房の処理能力が追いつかなければ計画どおりの回転数は実現しません。席数30席・夜の回転数1.5回転を計画しても、厨房のキャパシティが不足していれば実際の稼働はそれを下回ります。人件費と厨房設備への投資のバランスが、実現可能な月商の上限を決めます。

3つ目は採算上の制約です。月商の上限(満席100%稼働時)が損益分岐点を上回っていることが最低条件です。前掲のテーブルで示したように、15席・固定費156.1万円の組み合わせでは、満席にしても損益分岐点に届きません。席数・固定費・客単価・回転数の組み合わせが採算に合うかを確認するのが収支計画の目的です。

収支計画の出発点は月商の上限設計

飲食店の収支計画は、「どれだけ売れるか」の前に「最大でいくらまで売れるか」を計算することから始まります。席数×客単価×回転数×営業日数で計算される月商の上限が、損益分岐点を十分に上回るかどうかが、計画全体の実現可能性を左右します。

公庫記入例(25席)では月商の上限322万円に対して損益分岐点が240.2万円(74.6%)で、約25%の余裕があります。この余裕が、立ち上がり77%スタートでも1か月目から単月黒字になる根拠です。

席数が少ない(15〜20席)場合、固定費を記入例より引き下げるか、客単価・回転数を引き上げて1席あたりの月商単価を高める必要があります。席数が多い(35席以上)場合、上限月商は大きくなりますが、固定費(特に人件費と家賃)も比例して増える傾向があるため、月商の上限と固定費のバランスを改めて計算することが求められます。

自分の計画している席数・客単価・回転数・原価率の条件で、月商の上限と損益分岐点の試算は、飲食店の開業 収支シミュレーターで確認できます。

本記事の数字は日本政策金融公庫「創業計画書記入例(2025年4月版・洋風居酒屋)」および「2025年度新規開業実態調査」「小企業の経営指標調査2025年度」をもとにした試算です。実際の数字は業態・物件・経営状況により異なります。本ツールは当方が作成した民間のシミュレーターであり、日本政策金融公庫が作成・提供するものではありません。むむ(fufumumu_design)作成・2026年10月確認。

この記事を書いた人

業種別のツールを、一人で作っています。開業前の収支シミュレーター、法定研修キット、資格の問題集。どれも、厚生労働省の告示や調査の原文を自分で確かめてから数字を組み込んでいます。使う人が「この数字、合ってるか」と不安になるようなツールは作りたくないので。

上場企業で20年間、営業ひとすじ。電話営業・インサイドセールスから、約70名のチームのマネジメントへ。現場で「根拠のない数字」が判断を狂わせる場面を見続けてきたせいか、ツールを作るときも出典を確かめずにはいられません。

ご質問はメールで。電話・面談はしていません。

fufumumu_designをフォローする
飲食店の開業
fufumumu_designをフォローする

コメント

タイトルとURLをコピーしました