訪問介護の個人情報保護研修、ご自宅で知り得た情報の取り扱いと漏えい対応。

訪問介護の個人情報保護研修、ご自宅で知り得た情報の取り扱いと漏えい対応。 介護

訪問介護は、利用者の自宅に立ち入ってサービスを提供します。自宅に上がることで、事業者は氏名・住所・病状・家族構成・財産状況・生活習慣など、施設系サービスとは比べものにならないほど広い範囲の個人情報を知り得る立場になります。

根拠は2つあります。指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準(以下「指定基準」)の秘密保持規定と、個人情報の保護に関する法律(平成15年法律第57号。以下「個人情報保護法」)です。この記事では、訪問介護に特有の個人情報の取り扱いと、研修で伝えるべき内容を整理します。

個人情報保護研修の義務根拠は指定基準と個人情報保護法の2本立てになる

指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準(平成11年厚生省令第37号)では、訪問介護に従事する者は正当な理由なく業務上知り得た利用者または家族の秘密を漏らしてはならないとされています。この守秘義務は退職後も継続します。事業者には、採用時の契約等において従業者が退職後も秘密を保持するよう必要な措置を講じることが求められています。

個人情報保護法上は、訪問介護事業者は「個人情報取扱事業者」に該当します。利用目的の特定・通知・公表、安全管理措置の実施、第三者への提供制限等の義務を負います。研修の実施についての直接規定はないものの、厚生労働省「福祉・介護関係事業者における個人情報の適正な取扱いのためのガイダンス」(2017年5月・2022年4月改訂)では、従業者への定期的な研修の実施を求めています。

訪問介護で取り扱う個人情報は「ご自宅の中のすべて」にわたる

訪問介護の職員(ヘルパー)は、利用者の自宅に入ることで、本人が意識していないさまざまな個人情報を知り得ます。これが施設と大きく異なる点です。

区分 具体例
基本情報 氏名・住所・電話番号・生年月日
介護保険関連 介護保険番号・要介護度・ケアプラン・認定情報
医療・健康情報 病名・服薬情報・主治医名・バイタルデータ
生活情報 家族構成・緊急連絡先・生活リズム・食の好み・宗教的信条
財産・経済状況 自宅の間取り・貴重品の保管場所・通帳・現金の存在
人間関係・近隣情報 家族の仕事・生活状況・近所付き合いの状況
住環境 合鍵の預かり・自宅の防犯状況・外出パターン

特に財産・経済状況に関する情報は、悪用されると利用者に直接的な被害が及ぶリスクがあります。服薬情報・病名・要介護度などは「要配慮個人情報」にあたり、第三者への提供に本人の明示的な同意が必要です(個人情報保護法第20条第2項・第27条)。

訪問介護で起きやすい個人情報漏えいの場面

訪問介護の現場では、次のような場面で個人情報の漏えいが起きやすいです。研修でこれらの場面を具体的に扱うことが効果的です。

SNS・スマートフォンへの投稿・記録

利用者宅の様子・持ち物・食事・介護の場面をスマートフォンで撮影し、SNSに投稿する行為が問題になっています。「本人と分からなければよい」という認識が誤りです。複数の情報(地域・服装・年齢・状況等)の組み合わせで特定できる場合があります。

また、業務記録として写真を撮る場合も、個人のスマートフォンで撮影すること自体が問題です。業務記録に写真が必要な場合は、事業所が管理するデバイスを使用し、個人のスマートフォンへの転送を禁止するルールを定めます。

訪問先での会話・電話対応

訪問先から電話でサービス提供の状況を管理者に報告する際、利用者が聞こえる場所での会話に注意が必要です。また、「〇〇さんの訪問に行っています」という電話の内容を、同席している家族以外の第三者に聞かれることもあります。

近隣住民への情報漏えいも起きやすい場面です。「〇〇さん最近どうですか」と近所の方に声をかけられた場合、業務で知り得た情報をそのまま話すことは守秘義務違反になります。「詳しいことはお伝えできません」と答えることが適切な対応です。

書類・ケア記録の管理

訪問介護の職員は、ケア記録を利用者宅に置いておく形式をとる事業所があります。この書類の管理も個人情報の安全管理措置の対象です。紛失・他の利用者への誤交付・退室時の書き忘れなどが問題になります。

退職者が持ち出す情報

退職した職員が担当利用者の連絡先・情報を持ち出して、競合他社からの勧誘や営業に使うケースがあります。採用時の誓約書に守秘義務の継続と情報持ち出し禁止を明記しておくことが、事業者側の事前対応になります。

家族への情報提供も本人の同意が原則になる

利用者の家族であっても、個人情報保護法の観点では利用者本人とは別の個人です。病状・介護状況等を家族に伝える場合も、原則として本人の同意が根拠になります。

訪問介護の現場では「家族ならよい」という判断で情報提供してしまうケースが起きやすいです。本人の意思で家族への情報提供を断っているケース・本人と家族の意向が異なるケースに注意が必要です。

ただし、利用者が意思確認できない状態にあり緊急性がある場合は、本人の生命・財産の保護のために必要な例外に該当することがあります(個人情報保護法第18条第3項第2号)。本人の状態と緊急性に応じた個別の判断が必要です。

第三者への情報提供が認められる介護現場の主なケース

ケース 根拠・条件
緊急時に医療機関へ情報提供する 生命・財産保護のために必要で、本人の同意を得ることが困難な場合(第27条第1項第2号)
法令に基づく行政への報告 法令に基づく場合(第27条第1項第1号)
サービス担当者会議での情報共有 利用開始時に本人・家族の同意を得ており、重要事項説明書の利用目的に記載がある場合
システム会社・委託先への提供 委託の場合は「第三者提供」に該当しない(委託先の監督義務あり)

安全管理措置は「書類・デジタル・口頭・鍵」の4区分で整理する

訪問介護では、施設と違い職員が複数の場所(自宅・事業所・利用者宅)にまたがって業務を行います。安全管理措置をこの実態に合わせて整理します。

紙の記録の管理

  • 事業所内:施錠できるキャビネットに保管する
  • 利用者宅に置く記録(連絡帳・ケア記録):所定の場所に保管し、持ち出し時は責任者への報告ルールを設ける
  • 廃棄:シュレッダーを使用する。自宅に持ち帰っての廃棄は禁止する

電子データの管理

  • 業務用のタブレット・スマートフォンと個人用デバイスを明確に分ける
  • 個人のスマートフォンへの業務データの保存・転送を禁止する
  • パスワードの定期変更・使い回し禁止

口頭・会話の管理

  • 利用者宅周辺での大声での情報共有を避ける
  • 近隣住民からの質問への対応方針を統一する(「詳しいことはお伝えできません」)
  • SNSへの利用者情報・内部情報の投稿は全面禁止とする

合鍵・訪問時の鍵管理

合鍵を預かっている場合は、鍵の管理台帳を作成し、担当職員以外が使用しない体制をとります。退職時の鍵返却手続きを採用時に書面で明確にしておきます。合鍵の紛失は、利用者の自宅の防犯に直接かかわるため、紛失した場合の報告・対応手順を事前に決めておく必要があります。

漏えいが発生した場合は個人情報保護委員会への報告義務が生じるケースがある

2022年4月施行の個人情報保護法改正で、一定の個人データの漏えい等が発生した場合に報告義務が義務化されました(第26条)。病歴・障害・服薬情報など要配慮個人情報の漏えいは、件数を問わず報告対象です。訪問介護では日常的に要配慮個人情報を取り扱うため、1件の漏えいでも報告義務の検討が必要になります。

漏えい発生時の社内対応手順として次の流れを研修で確認します。

  1. 事実確認(何が・いつ・どのような状況で漏えいしたか)
  2. 管理者への即時報告
  3. 被害拡大防止措置(データの削除要請・書類の回収等)
  4. 本人・家族への通知(対象となる場合)
  5. 個人情報保護委員会への報告(義務がある場合・速報は概ね3〜5日以内)
  6. 再発防止策の検討・記録

研修は年1回以上・採用時にも実施する

厚生労働省のガイダンスでは、従業者への個人情報保護研修を定期的に実施することを求めています。実務上は年1回以上の実施が一般的です。新入職員には採用時にも実施します。

訪問介護では特に「SNS投稿禁止」と「合鍵・自宅情報の管理」が現場に即した研修テーマです。事例形式(「こういう行動が問題になります」)で伝えることが理解を深めます。

訪問介護向け法定研修キットで年1回の記録を整える

訪問介護向け法定研修・訓練キット(https://fufumumu-design.com/kenshu-kit-houmon/)の有料版(14,800円買い切り)には、SNS投稿禁止や合鍵管理など訪問介護特有の事例を含む個人情報保護の研修資料・確認テスト・受講記録が含まれます。職員はスマートフォンから受講でき、管理者は受講状況を一覧で確認できます。

無料版では虐待防止の1テーマを利用できます。個人情報保護を含む12テーマすべての利用には有料版が必要です。

あわせて読みたい:訪問介護の法定研修、何を何回やればいいか。

この記事で確認した根拠

  • 指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準(平成11年厚生省令第37号)秘密保持規定
  • 個人情報の保護に関する法律(平成15年法律第57号)
  • 厚生労働省「福祉・介護関係事業者における個人情報の適正な取扱いのためのガイダンス」(2017年5月30日・最終改正2022年4月)
この記事を書いた人

業種別のツールを、一人で作っています。開業前の収支シミュレーター、法定研修キット、資格の問題集。どれも、厚生労働省の告示や調査の原文を自分で確かめてから数字を組み込んでいます。使う人が「この数字、合ってるか」と不安になるようなツールは作りたくないので。

上場企業で20年間、営業ひとすじ。電話営業・インサイドセールスから、約70名のチームのマネジメントへ。現場で「根拠のない数字」が判断を狂わせる場面を見続けてきたせいか、ツールを作るときも出典を確かめずにはいられません。

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