小規模多機能と通所介護、開業するならどちらか。報酬・指定・設備の違い。

介護

小規模多機能型居宅介護と通所介護(デイサービス)は、どちらも高齢者を支える介護サービスです。しかし開業という視点で比べると、指定手続きの難しさ・報酬の計算方法・必要な設備・初期費用のいずれもが大きく違います。

先に結論を言います。開業のハードルが低いのは通所介護です。都道府県が指定し、申請のタイミングに制約がなく、宿泊室のような特殊な設備も不要です。一方、小規模多機能型居宅介護は市区町村が公募で指定する地域密着型サービスであり、参入できるかどうか自体が地域の介護保険事業計画次第です。ただし、ひとつの事業所で通い・訪問・宿泊の三機能を担え、ケアマネジメントも内包できる点は、利用者との継続的な関係を築きやすいという強みになります。どちらが良いかは、手元の資金・運営の得意分野・地域の状況によって変わります。

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2つのサービスの違いを一覧で整理する

まず基本的な違いを表にまとめます。個々の項目は後の章で詳しく説明しますが、全体像を先に把握しておくことで、それぞれの違いの意味が理解しやすくなります。

小規模多機能型居宅介護と通所介護の比較(2026年度時点)
項目 小規模多機能型居宅介護 通所介護(デイサービス)
提供するサービス 通い・訪問・宿泊の三機能 通いのみ
報酬の計算方法 月額定額(登録者数×要介護度) 日額出来高(利用日数×単位)
ケアマネジメント 事業所が計画作成担当者を配置(内包) 外部のケアマネが担当
指定する機関 市区町村(地域密着型) 都道府県(定員19人以上)
市区町村(定員18人以下:地域密着型通所介護)
指定の方法 公募制(計画で必要と判断された場合のみ公募) 申請ベース(基準を満たせば指定)
定員 登録29人以下・通い15人以下・宿泊9人以下 規模区分で分かれる(通常規模・大規模Ⅰ・大規模Ⅱ)
開業初期費用の目安 2,000〜4,000万円(物件・改修・宿泊室含む) 500〜2,000万円程度(規模・物件による)
全国平均の収支差率 2.7%(令和5年度介護事業経営実態調査) 2.4%(令和4年度介護事業経営実態調査)

出典:厚生労働省「令和5年度介護事業経営実態調査」(小規模多機能型居宅介護)、厚生労働省「令和4年度介護事業経営実態調査」(通所介護)。両者は調査年度が異なるため、直接の比較には注意が必要です。

全国平均の収支差率は小規模多機能が2.7%(令和5年度)、通所介護が2.4%(令和4年度)と、どちらも決して高い水準ではありません。介護事業全体の収支が厳しい中で、どちらのサービスを選んでも経営の効率化は避けられないということは、開業前に理解しておく必要があります。

報酬の計算方法が根本的に違う

開業後の収益の読み方に直結するため、報酬の仕組みの違いを詳しく押さえておきます。

小規模多機能型居宅介護は月額定額

小規模多機能型居宅介護の基本報酬は、登録している利用者の要介護度に応じた月額定額です。要介護1の登録者が1人いれば、その月に通いが3回でも10回でも、訪問が1回でも5回でも、宿泊を利用しなくても、基本報酬の計算は変わりません。

2026年度時点の報酬額(通常規模・地域区分55%の場合、1単位10円換算)を目安として示すと、要介護1が月額約10,250円、要介護2が月額約15,000円、要介護3が月額約22,000円、要介護5が月額約26,900円程度になります(地域区分・加算の状況によって実際の額は変わります)。

月額定額の特徴は、通いの利用頻度が増えても減っても収入が変わらない点にあります。登録者が29人の満員に近い状態を維持できれば、日々の利用コマ数の変動にかかわらず収入が安定します。一方で、登録者が少ない開業初期は、設備や人員の固定費に対して収入が少ない状態が続きます。どれだけ通いのスペースを埋めても、登録者数以上の収入にはならない構造です。

通いの利用定員は15人以下ですが、登録者29人全員が毎日来るわけではありません。通い・訪問・宿泊を柔軟に組み合わせて使うサービスの性質上、実態として通いは週2〜3回の利用者が多く、定員15人のスペースに1日あたり10〜12人程度が来るというような運用になることが一般的です。

通所介護は日額出来高

通所介護の基本報酬は、利用者が実際に利用した日ごとに算定します。サービス提供時間の区分(2時間以上3時間未満から8時間以上9時間未満まで7区分)と要介護度によって単位数が変わります。通常規模・3〜4時間未満の場合、要介護1で1日約380単位、要介護5で約600単位が基本報酬の目安です(地域区分によって変動します)。

出来高制は、利用者が来た日だけ収入が発生する構造です。月に20日利用してもらえれば20日分、10日しか来なければ10日分になります。定員に対して実際に来た利用者の割合(稼働率)が収益を左右するため、一日あたりの利用者数を安定的に確保することが重要です。

稼働率を高めるには、送迎の範囲・時間帯・定員に合わせた利用者スケジュールの調整が必要になります。曜日によって利用者数にばらつきが生じやすく、特定の曜日だけ少ないという状況を改善することが、通所介護の運営効率化において重要なテーマになります。

小規模多機能はケアマネを事業所が雇う

小規模多機能型居宅介護には、計画作成担当者の配置が義務づけられています。計画作成担当者は介護支援専門員(ケアマネジャー)の資格が必要です。配置基準は、登録者が1〜25人の場合は1人以上、26〜29人の場合は2人以上とされています。

この仕組みの特徴は、利用者のケアプランを外部のケアマネに依頼するのではなく、事業所の内部で作成・管理できることです。通所介護では、居宅介護支援事業所のケアマネが「この利用者さんにデイサービスを使ってもらおう」というプランを立てて初めて、利用者が来所する流れになります。つまり、外部のケアマネとの関係が集客の入口になっています。

小規模多機能型居宅介護は、利用者との契約が成立すれば、自前のケアマネが通い・訪問・宿泊のスケジュールをまとめて調整します。「来週は訪問を増やして通いを少なくしよう」「調子が悪いから泊まりに来てもらおう」といった変更を、外部機関との調整なしに事業所内で完結できます。これが利用者・家族にとって使い勝手のよさにつながり、地域での評判を形成しやすいとも言われています。

収益面でも、居宅介護支援費を算定できる点が有利に働きます。居宅介護支援費は要介護1〜2で月1,063単位、要介護3〜5で月1,372単位です(居宅介護支援費Ⅰ・Ⅱの区分あり)。登録者全員分のケアプランを事業所内で完結させることで、この単位分が収入として加わります。

一方で、ケアマネを常時確保し続けることが前提となるため、採用・雇用コストが固定費として加わります。地方の一部では有資格者の確保が困難なケースもあり、事業所の立地によっては計画作成担当者の確保がボトルネックになることがあります。開業前に、採用の見込みについて確認しておくことが重要です。

指定手続きの難しさが大きく違う

開業できるかどうかという最初の関門において、2つのサービスは大きく異なります。この点は見落とされやすいですが、事業計画を立てる前に確認すべき最重要事項のひとつです。

通所介護の指定:定員の規模で指定機関が変わる

通所介護は、定員の規模によって指定する機関が異なります。2016年4月以降、定員18人以下の通所介護は「地域密着型通所介護」として市区町村が指定します。定員19人以上の通所介護は引き続き都道府県が指定します。

地域密着型通所介護(定員18人以下)は、小規模多機能型居宅介護と同じく地域密着型サービスに分類されますが、公募制ではありません。人員基準・設備基準・運営基準を満たした事業者が申請すれば、原則として指定されます。「今この地域にすでに複数の事業所がある」という理由で指定が断られることは基本的にありません。

申請のタイミングは市区町村(定員18人以下)または都道府県(定員19人以上)が設定するスケジュールに合わせて動く形になります。多くの場合、年4回程度の指定月が設けられており、準備が整ったら次の指定月に合わせて手続きを進めます。小規模多機能型居宅介護の公募制と比べると、基準を満たしていれば申請できる点で参入のしやすさは高い部類に入ります。

小規模多機能型居宅介護は公募制が基本

小規模多機能型居宅介護は地域密着型サービスに分類されます。指定権者は市区町村です。そして多くの市区町村では、3年ごとに策定する介護保険事業計画の中に「この地域にどれだけの定員が必要か」という整備目標を設定しており、その目標に基づいて公募が行われます。

公募が行われていない市区町村では、そもそも申請の機会自体がありません。また、公募があっても複数の事業者が応募した場合は選考があります。事業計画の内容・法人の信頼性・地域との連携実績などが審査されます。「基準を満たせば指定される」という通所介護とは異なり、地域の計画と公募のタイミング次第という制約があります。

開業を考えている地域の市区町村窓口に、公募の予定・現在の整備状況・次回の計画策定時期を事前に確認することが欠かせません。これが小規模多機能型居宅介護の開業難易度を高めている最大の要因です。

また、地域密着型サービスは原則として、その市区町村に住む高齢者だけが利用できます。商圏が市区町村内に限定されるため、複数の市区町村を対象にしたい場合は、それぞれの市区町村で別々に指定を受ける必要があります。介護保険事業計画が更新されるたびに、整備目標の見直しや公募の可否が変わるため、継続的に行政との情報交換をしていく関係が必要です。

開業に必要な設備・面積の条件が違う

設備の基準も2つのサービスで大きく異なります。物件探しや改修工事の範囲に直接影響するため、事前に把握しておく必要があります。

通所介護の設備基準

通所介護に必要な主な設備は、食堂・機能訓練室(合計で利用定員1人あたり3平方メートル以上)、静養室、相談室、事務室などです。宿泊のための居室は必要ありません。在宅の高齢者が日中だけ来所する形態のため、施設としての規模設計はシンプルです。

テナントの空き店舗・元スーパーのフロアなど、比較的広い空間であれば転用できるケースが多く、物件の選択肢は小規模多機能型居宅介護よりも広い傾向があります。また、夜間に職員が常駐する必要がないため、夜間の運営コスト(人件費・光熱費)を抑えやすい点も特徴です。

小規模多機能型居宅介護の設備基準

小規模多機能型居宅介護には、通いのための食堂・機能訓練室・静養室に加えて、宿泊のための個室または静養室が必要です。宿泊定員は9人以下ですが、プライバシーへの配慮から個室形式が望ましいとされています。

宿泊機能を設けるということは、浴室・トイレが24時間使える状態でなければならないことを意味します。通いのみの日中営業では問題にならない夜間の安全確保・設備のメンテナンスも、小規模多機能では日常の運営課題になります。夜間に宿泊者がいる場合は夜間の介護職員の配置も必要です。

また、訪問機能のための車両・駐車スペース・スタッフの動線計画も加わります。訪問に出るスタッフと通いの対応をするスタッフを同じ事業所から動かす必要があるため、建物の間取りや動線が重要になります。住宅地や既存建物を改修して開業する場合、構造や間取りの制約から改修工事が大掛かりになることがあります。これが初期費用を押し上げる主な要因です。

通所介護の開業初期費用が500〜2,000万円程度とされるのに対し、小規模多機能型居宅介護では2,000〜4,000万円程度を見込む必要があるのは、この宿泊室を含む設備整備のコストが加わるためです。ただし、物件を取得するか賃借するか、改修の規模がどの程度かによって幅が大きく変わります。

収益が安定するまでの期間が違う

2つのサービスは、開業後の収益の立ち上がりかたも異なります。開業後の資金繰りを検討する際に重要な視点です。

通所介護は稼働率が収益に直結する

通所介護は出来高制のため、利用者が来た日だけ収入が発生します。開業直後から1日あたりの利用者数を増やすほど収入も増えますが、利用者が少なければその分だけ収入も少ない関係です。空席が多い状態は売上の機会損失に直結します。

開業後の早期に稼働率を上げるには、外部のケアマネへの働きかけが重要です。ケアプランを作成しているケアマネが利用者に「このデイサービスを使いませんか」と提案して初めて利用につながる構造であるため、近隣の居宅介護支援事業所やケアマネとの関係構築が集客の鍵になります。「開業と同時に利用者が来る」という状況は、よほど準備をしていない限り起きません。開業前から地域のケアマネへの挨拶回りを計画に組み込んでおく必要があります。

稼働率が低い時期の収支赤字を乗り越えるための運転資金として、最低でも6か月分の固定費(人件費・家賃・光熱費等)を手元に用意しておくことが一般的に推奨されます。

小規模多機能は登録者数が積み上がる形

小規模多機能型居宅介護の月額定額は、登録者数が増えるほど収入が増える構造です。1人登録が増えれば月額分が確実に加わり、1人退所すれば月額分が減ります。日々の利用コマ数の変動よりも、登録者の在籍数が収入の安定度を決めます。

開業初期は登録者がまだ少なく、建物・設備・スタッフの固定費が重くのしかかる時期が続きます。全国平均の収支差率が2.7%(令和5年度介護事業経営実態調査)というのは、登録者が安定した成熟した状態の数字であり、開業直後はこれを大幅に下回ることが多いです。一方、登録者が安定すれば、通いの利用日数が月によって変動しても収入の急変が起きにくくなります。

小規模多機能型居宅介護の登録定員は29人です。この定員まで登録者が増えるまでの期間が、開業後の経営的な「山場」になります。開業から12〜18か月で定員の6〜7割程度の登録者数を確保できるかどうかが、事業継続の分岐点になるケースが多いとされています。

出典:厚生労働省「令和5年度介護事業経営実態調査」(小規模多機能型居宅介護の収支差率2.7%)

どちらを選ぶか判断するための軸

以上の違いをふまえて、開業を検討している方がどちらを選ぶかを判断するための軸を整理します。これは「どちらが良いか」ではなく、「自分の状況に合っているか」という観点での整理です。

通所介護が向いているケース

  • 初期投資をできるだけ抑えたい(1,000万円台前半から始めたい)
  • ケアマネを自前で雇うコスト・確保の難しさを避けたい
  • 地域の介護保険事業計画の制約を受けずに参入したい
  • まず通いのサービスに特化して運営ノウハウを積みたい
  • 複数の市区町村をまたいで事業を展開することを将来的に考えている
  • 居宅介護支援事業所などケアマネの母体となる組織との連携ができる見込みがある

小規模多機能型居宅介護が向いているケース

  • 利用者との継続的で深い関係を築き、通い・訪問・宿泊を一元管理したい
  • 地域のケアマネへの依存を減らし、ケアプランから自前で完結させたい
  • 開業予定の市区町村が公募を予定しており、参入できる見込みがある
  • 2,000〜4,000万円規模の初期投資に対応できる自己資金または借入の見込みがある
  • 医療法人・社会福祉法人など、すでに介護事業の基盤と地域での実績を持っている
  • 看取りや重度ケアを含む、在宅生活の継続を最後まで支えることをサービスの軸にしたい

判断の前に確認すべきこと

小規模多機能型居宅介護の開業を検討している場合は、まず以下の2点を確認することが先決です。

  1. 市区町村の介護保険事業計画:計画の中で小規模多機能型居宅介護の整備が必要とされているか、公募の予定があるかを市区町村の介護保険担当窓口に確認する。次の計画期間(3年ごと)での整備予定があるかも含めて聞いておく
  2. 物件・改修の現実性:宿泊室を含む設備基準を満たす物件が確保できるか、改修費がどの程度かかるかの見積もりを取る。特に宿泊室の個室確保・夜間トイレ・バリアフリーへの対応が可能かどうか

通所介護の場合も、稼働率を支える利用者確保のルート(近隣のケアマネへのアプローチ・地域包括支援センターとの関係)の目処を、開業前から立てておくことが重要です。どちらのサービスも、設備基準・人員基準を満たすだけでは収益にはなりません。実際に利用者が来る仕組みをどう作るかを、設備・資金の計画と並行して考えておく必要があります。

まとめ

小規模多機能型居宅介護と通所介護の違いは、単なるサービス内容の違いにとどまりません。指定手続きの難しさ・報酬の仕組み・必要な設備・初期費用・収益が安定するまでの構造が根本から異なります。

開業のハードルという点では通所介護の方が低く、地域密着型サービスとしてケアマネを内包した総合的なケアを担いたいという場合には小規模多機能型居宅介護が向いています。ただし、小規模多機能型居宅介護は「やりたいと思えばすぐに申請できる」サービスではなく、地域の計画と公募のタイミングという外部要因が参入を左右します。開業を検討しているなら、市区町村窓口への確認を最初に行うことをおすすめします。

どちらの選択でも、事前の数字の試算と、地域の実情に合わせた計画が欠かせません。収支シミュレーターを使って複数のシナリオを比べてみることが、判断の材料になります。

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この記事を書いた人

業種別のツールを、一人で作っています。開業前の収支シミュレーター、法定研修キット、資格の問題集。どれも、厚生労働省の告示や調査の原文を自分で確かめてから数字を組み込んでいます。使う人が「この数字、合ってるか」と不安になるようなツールは作りたくないので。

上場企業で20年間、営業ひとすじ。電話営業・インサイドセールスから、約70名のチームのマネジメントへ。現場で「根拠のない数字」が判断を狂わせる場面を見続けてきたせいか、ツールを作るときも出典を確かめずにはいられません。

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