飲食店の家賃は、売上の何%まで払えるか。FLRの「R」部分を逆算する手順。

飲食店の家賃は、売上の何%まで払えるか。FLRの「R」部分を逆算する手順。 飲食店の開業

飲食店の家賃は、月商の10%以内が目安と言われています。これは法律や統計の基準ではなく、飲食業界で長く使われてきた経験則です。公庫の創業計画書の記入例(洋風居酒屋・軌道後月商322万円)では、家賃20万円で全体の6.2%に収めています。10%に当てはめると32万円が上限になりますが、立地・業態・席数によって「払える家賃」の水準は変わります。

家賃の適正水準を判断するには、「この物件の家賃を払っても、損益分岐点を超えた利益が出るか」を試算する方法が確実です。以下では、家賃10%ルールの背景と、物件ごとに「払えるかどうか」を確かめる手順を整理します。

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「家賃は売上の10%以内」は、経験則で、公的な基準ではない

「家賃は売上の10%」という数字は、飲食業界の実務経験から広まった目安で、国税庁・公庫・統計局などが定める公的な基準ではありません。

この目安が使われる理由は、FL比率(食材費+人件費)に家賃を加えたFLR比率の観点から説明されることが多いです。食材費35%・人件費33%のFL比率68%に家賃10%を加えるとFLR78%、残りが22%になります。22%から諸経費(光熱費・消耗品・リース料など)を払って利益を出さなければならないため、家賃が10%を超えると利益が出にくくなる、という論理です。

ただし、業態によって食材費や人件費の率は異なるため、家賃の「払える上限」も変わります。原価率が低い業態はFL比率が低く、家賃に充てられる割合が高くなります。業態別の原価率・人件費率の詳細は、ラーメン・カフェ・居酒屋、業態を選ぶ前に見る3つの数字で確認できます。

公庫の記入例(洋風居酒屋)の家賃比率は6.2%

公庫の創業計画書の記入例(洋風居酒屋・25席・軌道後月商322万円)では、家賃は月20万円で売上比率は6.2%です。

公庫の記入例(洋風居酒屋)の家賃と費用構成
費目 月額 売上に対する比率
売上高 3,220,000円 100.0%
原価 1,130,000円 35.1%
人件費 880,000円 27.3%
家賃 200,000円 6.2%
その他諸経費 470,000円 14.6%
営業利益 540,000円 16.8%

出典:日本政策金融公庫「創業計画書 記入例(洋風居酒屋)」(2025年4月版)。

家賃6.2%でFLR比率は68.6%(原価35.1%+人件費27.3%+家賃6.2%)です。諸経費14.6%を加えた合計費用は83.2%で、営業利益は16.8%(月約54万円)です。

「10%の余裕があるのに6.2%に抑えている」のは、この物件が意識的に低い家賃の物件を選んでいるためではありません。25席の居酒屋として月商322万円を確保できる立地の物件で、月20万円が実際の賃料だった、という話です。立地・物件規模・賃料の組み合わせが変われば、比率も変わります。

家賃と売上の関係を決める3つの変数

家賃が「払えるか」は3つの変数で決まります。

①客単価:客単価が高いほど、少ない客数でも高い売上が出るため、家賃の割合が下がります。客単価2,000円の店と客単価8,000円の店では、同じ家賃20万円でも売上に占める比率が大きく変わります。

②座席数と回転数:席数が多く、回転数も高い業態(ラーメン・うどんなど)は同じ物件でも売上を大きくできるため、家賃の割合が下がります。席数が少ないか回転数が低い業態(カフェ・コース料理)は、客単価で補わないと家賃の割合が上がりやすいです。

③その他の固定費合計:家賃だけが高くても、人件費や諸経費が低く抑えられるなら損益分岐点は想定より高くなりません。逆に、家賃は安くても人件費が高ければ同じ結果になります。「家賃だけを見る」よりも、固定費の合計で判断する方が正確です。

客単価と席数の違いによる月商の目安(回転率・稼働率が同じ場合の比較)
条件 客単価 席数 1日2回転・稼働率80%・26営業日 家賃20万円の比率
小さなカフェ 1,200円 15席 月商約75万円 26.7%
ランチ主体の食堂 1,500円 20席 月商約124万円 16.1%
居酒屋(夜) 3,000円 25席 月商約312万円 6.4%
コース料理(夜1回転) 8,000円 20席 月商約166万円(1回転) 12.0%

同じ月20万円の家賃でも、カフェでは26.7%と高く、居酒屋では6.4%と低くなります。業態や規模によって「払える家賃の額」は大きく変わるため、他店の事例をそのまま当てはめるよりも、自分の計画で試算することが大切です。

「払える家賃の上限」を、損益分岐点から逆算する

家賃の適正水準を判断するより確実な方法は、「損益分岐点を超えて利益が出るか」から逆算することです。

手順は次のとおりです。

  • まず、その物件で達成できると思う月商の見通しを立てる(席数・回転数・客単価から計算)
  • 次に、人件費・光熱費・諸経費など家賃以外の固定費を積み上げる
  • 原価率から限界利益率を出す(限界利益率 = 1 − 原価率)
  • 「月商 × 限界利益率 − 家賃以外の固定費」を計算する。この値がプラスなら営業利益が出る。その差額が「家賃に充てられる最大額」

公庫の記入例(洋風居酒屋・軌道後月商322万円)で計算します。

  • 月商322万円 × 限界利益率64.9% = 限界利益209万円
  • 家賃以外の固定費(人件費88万 + 諸経費47万)= 135万円
  • 209万円 − 135万円 = 74万円が、家賃に充てられる最大額

最大74万円まで家賃に充てても営業利益はゼロにはなりません。実際の家賃は20万円なので、营業利益は54万円(74万−20万)あります。

ただし、この計算は「売上計画が達成できた場合」の話です。開業直後は売上が計画を下回ることが多く、公庫の記入例でも創業当初は軌道後の約77%(248万円)を前提にしています。創業当初の売上248万円で計算すると、限界利益は161万円(248万×64.9%)、家賃以外の固定費は135万円のままなので、家賃に充てられる最大額は26万円まで下がります。実際の家賃は20万円なので依然プラスですが、余裕は少ない状態です。

公庫の記入例で「家賃に充てられる最大額」を、売上の水準別に計算
月商の水準 限界利益(64.9%) 家賃以外の固定費 家賃の最大額 記入例の家賃20万円との関係
322万円(計画・軌道後) 209万円 135万円 74万円 余裕あり(差54万円)
248万円(創業当初・計画の77%) 161万円 135万円 26万円 余裕あり(差6万円)
207万円(計画の64%) 134万円 135万円 −1万円 損益分岐点(家賃なしで)

家賃を確認するタイミングは、物件を探す前

物件探しの順序として、「まず物件を内見してから、家賃が払えるか確認する」では遅い場合があります。気に入った物件が先にあると、「なんとか採算が取れるように計画を作る」という方向に思考が傾きやすいためです。

より確実なのは、先に「自分の業態・席数・客単価・人件費計画で、家賃にいくら充てられるか」を計算してから物件を探す手順です。

計算する項目は次のとおりです。

  • 業態と客単価を決める(何を、いくらで売るか)
  • 席数と回転数の上限を決める(物件の規模感の前提)
  • 月商の試算を出す(客単価 × 席数 × 回転数 × 稼働率 × 営業日数)
  • 人件費・光熱費・諸経費を積み上げる(家賃以外の固定費)
  • 「月商 × 限界利益率 − 家賃以外の固定費」を計算し、払える家賃の上限を出す
  • その範囲内の家賃の物件を条件に加える

このプロセスを経ておくと、物件探しの段階で「この家賃では損益分岐点を超えられない」という物件を早い段階で除外できます。

家賃以外の固定費を圧縮すると、払える家賃の上限が上がる

家賃の上限を上げたいなら、分子(月商)を増やすか、分母(家賃以外の固定費)を減らすかのどちらかです。

人件費を下げる手段としては、当初は事業主と家族従業者が多くの業務を担う体制で始め、売上が安定してからスタッフを増やす方法があります。公庫の記入例でも、人件費のうち「事業主の専従者(配偶者等)の人件費を低めに設定して開業し、軌道に乗ったら上げる」という組み立ては多く見られます。

諸経費を圧縮する観点では、食器・備品などを初期から一気に揃えず段階的に導入する・デリバリー代行を当初は使わないなどの選択も固定費に影響します。

どの費目をどこまで圧縮できるかは、業態と事業主の働き方によって変わります。「家賃10%」という目安より、実際の計画で固定費と月商を入力して試算する方が、物件選びの判断に直結します。

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出典

作成:fufumumu_design(ふふ)。確認日:2026年10月19日。

この記事を書いた人

業種別のツールを、一人で作っています。開業前の収支シミュレーター、法定研修キット、資格の問題集。どれも、厚生労働省の告示や調査の原文を自分で確かめてから数字を組み込んでいます。使う人が「この数字、合ってるか」と不安になるようなツールは作りたくないので。

上場企業で20年間、営業ひとすじ。電話営業・インサイドセールスから、約70名のチームのマネジメントへ。現場で「根拠のない数字」が判断を狂わせる場面を見続けてきたせいか、ツールを作るときも出典を確かめずにはいられません。

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