障害者グループホーム(共同生活援助、以下GH)には、身体拘束廃止未実施減算という報酬上の仕組みがあります。実際に身体拘束をしたかどうかに関わらず、「体制が整っていない」だけで減算が適用されます。
その「体制」として必要なのは、次の3要件です。
- 身体拘束等の適正化のための委員会を定期的に開催し、結果を従業者に周知していること
- 身体拘束等の適正化のための指針を整備していること
- 従業者に対し、身体拘束等の適正化のための研修を定期的に実施していること
根拠は、指定障害福祉サービスの事業等の人員、設備及び運営に関する基準(平成18年厚労省令第171号、以下指定基準)第35条の2です。同条文は共同生活援助(包括型は第213条、日中サービス支援型は第213条の11、外部型は第213条の22)において準用されています。
減算の計算(所定単位数の100分の10の減算)と適用される4条件の詳細については、GHの身体拘束廃止未実施減算、10%の計算と減算期間の考え方。をご覧ください。この記事では、「どうすれば3要件を満たせるか」に絞って整理します。
3要件の中身:委員会・指針・研修にそれぞれ何が必要か
3要件それぞれで必要な取り組みを整理します。
委員会:定期的な開催と、開催結果の全職員への周知が求められます。「定期的」の頻度は基準に明示されていませんが、年1回以上の開催が運営指導で確認される際の目安とされています(高知市「令和7年度 集団指導資料」)。委員会の開催記録(日時・出席者・議事内容・決定事項)と、職員への周知を確認できる記録(議事録の回覧サイン・説明会の出席簿など)の両方が必要です。
指針:GH事業所として身体拘束廃止に向けた姿勢・対応手順・記録の方法などを文書化したものです。具体的な記載事項は事業所の判断に委ねられていますが、次の項目を含む形が運営指導での指摘を踏まえた実務の目安とされています:身体拘束廃止に向けた基本方針・禁止される行為の定義と具体例・緊急やむを得ない場合の3要件(切迫性・非代替性・一時性)と記録手順・委員会および研修の年間計画・不適切な対応を発見した場合の報告経路。
研修:全職員を対象に定期的に実施することと、新規採用時にも実施することが求められます。「定期的」は少なくとも年1回以上が目安です。実施記録(日時・テーマ・参加職員の確認サイン)を残すことが必要です。
GHの「夜間支援」ならではの身体拘束リスク
GHは宿泊施設です。通所型サービスと違い、職員の少ない夜間に利用者が生活する場面があります。この点がGHの身体拘束廃止研修で特に押さえておくべき事柄です。
夜間の支援場面で「身体拘束に当たる行為」として確認しておきたい例を挙げます。
就寝中の転落防止を目的とした拘束:ベッドから転落するリスクのある利用者に対し、就寝中に体幹ベルト等で固定する行為です。転落防止という意図があっても、緊急やむを得ない場合の3要件(切迫性・非代替性・一時性)を満たさなければ禁止されます。代替方法として、ベッドを最低位置まで下げる・床にマットを敷く・センサーで動きに気づける環境にするなどを先に検討します。
夜間外出を防ぐための施錠:夜間に無断で外出するリスクのある利用者に対し、居室を外側から施錠する行為です。身体拘束に該当します。代替方法として、センサーや離床センサーで職員が気づける体制を作る・日中に外出の希望を実現させる支援を厚くするなどを先に検討します。
強い力での介助の継続:入浴・排泄の介助中に、利用者が動かないよう身体を強く押さえ続ける行為が継続した場合は、身体拘束に当たる可能性があります。複数人での介助に変える・介助の手順を見直すなどの代替方法を検討します。
これらの行為が起きた(または起きそうになった)場合の対応手順と記録方法を研修で共有しておくことが重要です。
3類型で委員会の対象範囲が異なる
GHには包括型・日中サービス支援型・外部型の3類型があります。委員会の設置と研修の実施義務は3類型すべてに共通しますが、管理上の対象範囲に違いがあります。
日中サービス支援型(居住と日中活動を一体的に提供する類型)では、居住支援と日中支援の両方の場面が委員会の検討対象となります。包括型・外部型は居住支援の場面が中心です。
複数の住居(ユニット)を抱える事業所の場合、委員会は事業所単位で開催し、各住居への情報の共有と周知の確認を行います。
委員会の議題:毎年確認する4つの事項
委員会で取り上げる議題について、義務として定められた内容はありません。運営指導で開催記録を確認される際に、身体拘束廃止に向けた取り組みとして実質的に議論した内容が残っているかが問われます。
年間を通じて確認しておくべき4つの事項を以下に挙げます。
1. 前期の身体拘束の実施状況の確認:実施件数・理由・記録の内容を確認します。記録の形式・記載内容が基準に照らして適切かどうかを点検します。
2. ヒヤリハットと事例の振り返り:実際に身体拘束に至った場面・「拘束しそうになった場面」の情報を収集し、代替的な対応が可能だったかを振り返ります。体制や環境の改善につなげます。
3. 指針の確認と更新の要否の検討:職員の入れ替わりや利用者の状況の変化があった場合、指針の内容が実態に合っているかを確認します。
4. 研修計画の確認:当年度の研修が予定どおり実施されているか、未受講の職員がいないかを確認します。次年度の研修計画を確認します。
指針に含める主要項目
指針(身体拘束適正化のための指針)は、GH事業所として作成しておく内部文書です。形式は自由ですが、次の項目を含む内容が一般的な目安です。
- 身体拘束廃止に向けた基本方針(事業所の姿勢を明文化)
- 身体拘束に当たる行為の定義と具体例(通所型と異なる夜間の場面も含めた例示)
- 緊急やむを得ない場合の3要件(切迫性・非代替性・一時性)の定義
- 身体拘束を実施する場合の手続きと記録の方法(実施前の確認・記録の様式・記録する事項)
- 代替的な対応の例示(環境整備・複数職員での対応など)
- 委員会の開催頻度・構成・役割
- 研修の実施頻度・対象・方法
- 不適切な対応を発見した場合の報告経路
研修で伝える内容の組み立て方
身体拘束廃止研修の内容として基準が定めているのは「身体拘束等の適正化のための研修」という枠だけで、具体的な内容は規定されていません。GHの実情に合わせて次の要素を組み合わせます。
基礎知識の確認:身体拘束に当たる行為の定義・禁止の根拠・緊急やむを得ない場合の3要件。毎年の研修で基礎を繰り返し確認することで、職員が判断に迷わない状態を維持します。
夜間の場面のロールプレイ・事例検討:夜間支援特有のリスク(転落・外出・介助中の押さえ込みなど)の事例を取り上げ、「どう対応するか」を職員が言葉で説明できる状態にします。事例を使って考えることが、実際の判断力の育成につながります。
代替的な対応の共有:実際に身体拘束を回避できた対応の事例(自事業所・他事業所・行政等のガイドラインから)を共有します。「何もできない」ではなく「こういう方法があった」という経験の積み上げが職員の選択肢を広げます。
記録の書き方の確認:身体拘束を実施した場合の記録様式と記載事項(実施した行為・やむを得なかった理由・代替方法が取れなかった理由・時間・状況の詳細)を確認します。記録の様式がない場合は研修を機に整備します。
新規採用職員への研修の注意点
定期研修とは別に、新規採用の職員には採用時に研修を実施することが求められます。定期研修の次回開催を待たずに、採用のタイミングで個別に実施します。
記録は定期研修の記録とは別に保管しておきます。「いつ・誰に・何を実施したか」が後から確認できる状態にしておきます。
運営指導で確認される記録の形
運営指導では、次の記録が実際に存在するかを確認されることがあります(高知市「令和7年度 集団指導資料」)。
- 身体拘束等の適正化に関する委員会の開催記録(日時・参加者・議事内容)
- 委員会結果の職員への周知を示す記録(回覧サイン・説明会の出席簿など)
- 指針(文書として存在し、最終更新日が分かること)
- 研修の実施記録(日時・テーマ・参加者の確認サイン)
- 身体拘束を実施した場合の記録(様式・内容が基準に照らして適切か)
記録は「作ってあること」だけでなく、「内容が実際に行った取り組みを反映しているか」も確認されます。形式だけ整えた記録では、指摘を受ける可能性があります。
研修の記録として残すもの
- 研修の実施日・テーマ・実施方法
- 参加した職員の氏名と受講確認のサイン(全員分)
- 新規採用時に個別実施した場合の記録(採用日・対象者・確認内容)
- 委員会の開催記録:日時・出席者・議事内容・決定事項
- 委員会結果の職員への周知の証拠
- 指針の整備状況(最終更新日・管理場所)
- 身体拘束を実施した場合の記録(3要件の充足・時間・状況の詳細)
障害者グループホーム向け法定研修・訓練キット
障害者グループホームの法定研修(12テーマ)に対応した研修・訓練キットを公開しています。身体拘束廃止テーマでは、委員会の議題案・研修教材・確認テスト・受講記録様式をブラウザで使えます。
出典:指定障害福祉サービスの事業等の人員、設備及び運営に関する基準(平成18年厚労省令第171号)第35条の2・第213条・第213条の11・第213条の22・厚生労働省・こども家庭庁「障害者福祉施設等における身体拘束廃止の手引き」(令和6年改訂版)・高知市「令和7年度 集団指導資料」。


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