整骨院・接骨院を含む療術業で黒字になっている事業所は、全国で43%のみです。残りの57%は赤字または収支トントンの状態です。この数字は日本政策金融公庫「2025年度小企業の経営指標調査」(医療・福祉〔療術業〕184社、2026年8月公表)で確認できます。
「経営が下手だから赤字になる」という話ではありません。業種として構造的に利益を出しにくい仕組みになっています。その仕組みを理解しておくことが、開業前の計画を現実的にするうえで重要です。
損益分岐点比率99.7%が示す余裕のなさ
療術業の損益分岐点比率の中央値は99.7%です(公庫2025年度調査)。損益分岐点比率とは、売上に対して費用がどれだけの割合を占めるかを示す数字です。
99.7%というのは、売上の99.7%がコストとして出ていき、手元に残る利益は売上の0.3%しかないことを意味します。月売上が150万円の院であれば、利益は4,500円です。売上高経常利益率の中央値は1.9%、平均値はマイナス0.1%(赤字水準)です。
「なぜそこまで余裕がないのか」には、業種特有の3つの構造的な理由があります。
理由1. 保険診療の点数は国が決める
整骨院の収入の大部分を占める保険診療(柔道整復療養費)は、厚生労働省が定める算定基準によって点数が決まります。
たとえば後療料は1施術につき505円(保発0529第4号・令和6年6月1日施術分から適用)です。この単価は院が自由に変えることができません。患者数を増やすか、保険診療の単価が上がる加算(骨折・脱臼の整復料など)や自費診療を組み合わせるか、どちらかしか売上を増やす方法がありません。
飲食店や小売業であれば「商品の値段を上げる」という選択肢がありますが、保険診療に依存する整骨院ではそれができません。これが価格決定権を持てない業種の難しさです。
理由2. 人件費率が売上の50%を占める
療術業の人件費率の中央値は50.0%(公庫2025年度調査)です。売上の半分が人件費に消えます。
この高い人件費率には理由があります。整骨院の施術は、機械ではなく柔道整復師が手を動かして行います。患者数を増やすには、柔整師の数を増やすしかありません。しかし柔整師を増やすと人件費が増え、利益率が下がります。「売上を上げようとすると費用も増える」という構造から抜け出せない業種です。
一人院(院長1人で運営)の場合、院長が施術・受付・レセプト作成をすべてこなすため人件費は低く抑えられます。しかしその分、対応できる患者数に上限が生じます。1日に1人で対応できる患者数の目安は20〜30人程度と言われています。
理由3. 患者1人あたりの時間と来院頻度に上限がある
施術には時間がかかります。後療料が算定される施術でも、1人あたり最低10〜15分の対応時間が必要です。1日の診療時間を8時間とすると、1人の柔整師が対応できる患者数は物理的に30〜40人が上限です。
また、患者の来院頻度は症状の改善とともに下がります。急性期(週3〜5回来院)が回復すると、通院頻度は週1〜2回に落ちます。これは回復の証拠であり良いことですが、同時に売上の減少を意味します。新規患者を継続的に獲得し続けないと、売上が徐々に下がっていきます。
黒字の43%の院は何が違うのか
構造的に利益が出にくい業種で黒字を出している院には、いくつかの共通点があります。
自費診療の比率を高めている
保険診療の点数は変えられませんが、自費診療(整体・テーピング指導・姿勢矯正・ストレッチ指導など)は院が価格を設定できます。1回3,000〜8,000円の自費メニューを保険診療と組み合わせると、1患者あたりの売上単価が上がります。
患者の継続通院を仕組み化している
新規患者の獲得にはコスト(広告・口コミ・紹介)がかかります。既存患者に継続して通院してもらう仕組み(回数券・月額プラン・メンテナンス提案)を持っている院は、集客コストを抑えながら安定した売上を維持できます。
一人院として固定費を徹底的に抑えている
スタッフを雇わずに院長1人で運営する一人院は、人件費が院長の取り分だけで済みます。対応患者数の上限は下がりますが、固定費が低いため少ない患者数でも黒字になれます。
開業前に現実的な数字を試算しておく
「全国で57%が赤字か収支トントン」という事実は、開業をやめる理由ではありません。43%は黒字です。ただし、うまくいっている院は偶然ではなく、開業前から数字を把握して計画を立てています。
現実的な計画には、次の数字が必要です。
- 月の固定費(家賃・人件費・リース料・光熱費)
- 1日の目標患者数と患者単価(保険診療比率・自費比率)
- 損益分岐点(何人以上来れば黒字か)
- 保険収入の入金タイミング(翌々月入金)を反映した資金繰り
これらを月ごとに試算しておくと、「何が起きたら資金が詰まるか」「患者数がどの水準を下回ると危険か」があらかじめわかります。
整骨院・接骨院 開業収支シミュレーター
患者数・患者単価・固定費を入力して、損益分岐点と月次資金繰りを試算できます。全国の公庫データ(損益分岐点比率・人件費率・利益率)との比較機能付き。保険入金のタイムラグ(翌々月入金)も反映しています。
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出典:日本政策金融公庫「2025年度小企業の経営指標調査」(2026年8月公表、医療・福祉〔療術業〕184社)


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