FL比率(原価と人件費の合計÷売上)は「60%以下が目安」と飲食業界で広く言われていますが、これは経験則で、法令や公的な統計で定められた基準ではありません。日本政策金融公庫総合研究所の「小企業の経営指標調査」(飲食店,宿泊業・2025年度調査)で業種別の平均値を見ると、一般飲食店(464社)は原価率35.0%+人件費率32.9%=67.9%で、業種別に見た飲食店10業種のうち60%を下回ったのは喫茶店(57.9%)とバー等(50.6%)だけでした。黒字かつ自己資本プラスの企業に絞っても、一般飲食店のFLは63.7%です。
全国の小企業の決算データで業種別のFL比率を計算し、平均値が目安の60%を超えて見える3つの理由と、FL比率よりも先に見るべき数字を、順に整理します。数字はすべて公庫の公表資料から取り、計算は当方が行いました。
FL比率は原価+人件費÷売上、FLR比率は家賃を加えたもの
FL比率のFはFood(食材・飲料の原価)、LはLabor(人件費)です。売上に対して、原価と人件費の合計が何%かを示します。FLR比率は、これにRent(家賃)を加えたものです。飲食店の3大コストをまとめて見る指標として使われています。
公庫の「創業の手引+(飲食業編)」も、「原価・人件費・家賃それぞれの対売上高比率の合計が利益を出すために必要な水準となっているか検討してみましょう」と書いています。ただし手引には「60%」「70%」という数字はありません。手引が示しているのは「業種別の原価率・人件費率の目安」の表と、業態によってコスト配分(フード重視・サービス重視・立地重視)が違うという考え方です。
60%・70%は業界の経験則で、法令・統計の基準ではない
「FLは60%以下」「FLRは70%以下」という目安は、飲食店の経営指南書や業界のサイトで広く使われていますが、当方が確認した範囲では、出どころとなる法令や公的な統計は見つかりませんでした。原価と人件費で60%使うと、残りの40%で家賃・光熱費・広告費・消耗品・決済手数料などの経費と、借入の返済、税金、個人なら生活費を払うことになるため、経験的に「このあたりが限界」とされてきた数字と理解するのが正確です。
目安として使うこと自体に問題はありません。問題は、「60%を切っていれば大丈夫」「超えていたらだめ」と、それだけで判断することです。家賃が安い郊外の店と、家賃が高い駅前の店では、FLに使える余地は違います。
全国の小企業の平均は、どの業種もFL比率が60%を超えている
日本政策金融公庫総合研究所の「小企業の経営指標調査」は、公庫国民生活事業の融資先のうち法人企業(従業者50人未満・決算期間1年)の決算書を業種別に集計したものです。飲食店,宿泊業の2025年度調査(2026年掲載)から、飲食店の業種別の平均値を抜き出し、原価率(100%−売上高総利益率)と人件費率(人件費対売上高比率)を足してFL比率を計算しました。
| 業種(調査の表記) | 対象数 | 原価率 | 人件費率 | FL比率 | 営業利益率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 一般飲食店(全体) | 464 | 35.0% | 32.9% | 67.9% | −2.2% |
| 食堂,レストラン | 347 | 35.2% | 33.0% | 68.2% | −2.0% |
| 一般食堂 | 35 | 36.0% | 31.5% | 67.5% | −4.2% |
| 日本料理店 | 74 | 38.0% | 31.5% | 69.5% | −1.9% |
| 西洋料理店 | 66 | 34.0% | 32.2% | 66.2% | −2.4% |
| 中華料理店 | 109 | 35.0% | 33.6% | 68.6% | −1.0% |
| カレー料理店 | 33 | 30.0% | 39.7% | 69.7% | −1.4% |
| そば・うどん店 | 26 | 30.6% | 38.2% | 68.8% | −3.9% |
| すし店 | 37 | 41.1% | 30.2% | 71.3% | −2.5% |
| 喫茶店 | 35 | 28.1% | 29.8% | 57.9% | −2.2% |
| 酒場,ビヤホール | 212 | 32.2% | 32.2% | 64.4% | −1.8% |
| バー,キャバレー,ナイトクラブ | 73 | 20.2% | 30.4% | 50.6% | −1.1% |
食堂・レストラン系はどの業種もFLが66〜71%で、60%を大きく超えています。すし店は原価率41.1%で最も高く、カレー料理店とそば・うどん店は原価率が30%前後と低い代わりに人件費率が38〜40%と高く、結果としてFLは同じ68〜70%に収まっています。原価にかけるか、人にかけるかの配分は業種で違っても、合計は似た水準になるのが興味深いところです。
60%を下回るのは、原価率が低い喫茶店(57.9%)とバー等(50.6%)だけです。公庫の手引が「業態ごとのコスト配分」で、バーやスナックをサービス重視型(フードのコストを抑える)に分類しているのと整合します。
そして、どの業種も営業利益率の平均値はマイナスです。平均的な小企業の飲食店は、原価と人件費でFL68%前後、残りの32%で家賃・光熱費などの諸経費(一般飲食店の平均で30.7%)を払うと、営業利益がほぼ残らない構造になっています。
出典:日本政策金融公庫総合研究所「小企業の経営指標調査」飲食店,宿泊業 業種別経営指標(2025年度調査)。原価率は「100%−売上高総利益率(平均値)」、FL比率は「原価率+人件費対売上高比率(平均値)」を当方が計算したものです。数字はPDFから機械で抜き出し、原典の表と照合しました。
原価にかけるか、人にかけるかは業態で決まる。公庫の手引の3つの型
FL比率の中身(原価と人件費の配分)は、業態で違います。公庫の手引(飲食業編)は、飲食店のコスト配分を3つの型に分けています。
| 型 | コストのかけ方 | 手引の例 | 注意点(手引の記述) |
|---|---|---|---|
| フード重視型 | 原材料費にコストをかけ、サービスのコストを抑える | バイキング、ハンバーガーなど | 食材にコストをかけてもリーズナブルに提供できる一方、効率的な作業工程や少ない人数で回す工夫が必要 |
| サービス重視型 | 人件費にコストをかけ、フードのコストを抑える | バー、スナックなど | 質の高い接客で店の雰囲気や居心地のよさで集客。利益を確保できる価格設定としつつ、顧客に不満を感じさせないよう留意 |
| 立地重視型 | 家賃にコストをかけ、フード・サービスのコストをできるだけ抑える | 大手コーヒーチェーンなど | 固定費負担が大きくなるため、資本に余裕がなければリスクが高くなる |
上の全国の表で、すし店が原価率41.1%・人件費率30.2%、カレー料理店が原価率30.0%・人件費率39.7%と、配分が逆なのに合計が似ているのは、この型の違いです。自分の店がどの型かを決めると、原価率と人件費率のどちらを厚くし、どちらを抑えるかの方針が立ちます。FL比率の合計だけを見て「60%以下に」と考えるより、型を決めてから配分を考えるほうが、計画の筋が通ります。
出典:日本政策金融公庫「創業の手引+ 新たに飲食業を始めるみなさまへ」11ページ「業態ごとのコスト配分」。
黒字の企業に絞っても、FL比率は58〜67%
平均値は赤字の企業も含んでいます。同じ調査には「黒字かつ自己資本プラス企業の平均」が別に示されているので、黒字の企業だけでFL比率を計算すると次のようになります。
| 業種 | 原価率 | 人件費率 | FL比率 | 営業利益率 |
|---|---|---|---|---|
| 一般飲食店 | 32.2% | 31.5% | 63.7% | 4.3% |
| 食堂,レストラン | 33.2% | 31.6% | 64.8% | 3.9% |
| 一般食堂 | 34.1% | 24.5% | 58.6% | 5.6% |
| 日本料理店 | 37.8% | 29.3% | 67.1% | 5.8% |
| 西洋料理店 | 31.3% | 32.3% | 63.6% | 4.6% |
| 中華料理店 | 34.5% | 32.5% | 67.0% | 3.3% |
| すし店 | 37.1% | 27.5% | 64.6% | 9.9% |
| 喫茶店 | 24.6% | 30.9% | 55.5% | 5.2% |
| 酒場,ビヤホール | 30.6% | 30.0% | 60.6% | 4.4% |
一般飲食店で見ると、黒字の企業は全体の平均より原価率が2.8ポイント(35.0%→32.2%)、人件費率が1.4ポイント(32.9%→31.5%)低く、それでもFLは63.7%で、60%は切っていません。黒字の企業の営業利益率は、業種によって3.3%(中華料理店)から9.9%(すし店)までの幅があります。一般飲食店で全体の平均と黒字企業を比べると、FLの差は4.2ポイント、営業利益率の差は6.5ポイントです。この程度の差が、赤字と黒字を分けています。
この表から言えるのは、「FL60%以下」は黒字企業の平均ですら達していない水準で、目標として高すぎるわけではないが、超えたら即だめという線でもない、ということです。
平均値のFL比率が高く見える3つの理由
調査の数字を自分の計画と比べるときは、次の3点を知っておく必要があります。調査の「利用の手引き」に書かれている定義です。
| 項目 | 調査の定義 | 個人店の計画との違い |
|---|---|---|
| 対象 | 公庫の融資先のうち法人企業(従業者50人未満) | 個人事業は含まれていない |
| 人件費 | 役員報酬・退職金・福利厚生費を含む | 個人営業の計画では事業主の分を人件費に入れないため、同じ店でも人件費率は低く出る |
| 売上高 | 原則として消費税を含む額 | 税抜で計画している場合、分母が違う |
| 平均値 | 赤字の企業を含む全サンプルの平均 | 黒字企業の平均は別に示されている |
特に2つ目が大きな違いです。法人では代表者の役員報酬が人件費に入るので、人件費率32.9%には経営者本人の取り分が含まれています。個人営業の計画で事業主の生活費を人件費に入れていないなら、調査の人件費率と比べると自分の数字は低く見えます。比べるときは、事業主の取り分を人件費に足してから比べるか、調査の数字を読むときに「経営者の報酬込み」と意識する必要があります。
出典:日本政策金融公庫総合研究所「小企業の経営指標調査 利用の手引き」:調査対象企業、人件費・諸経費・売上高の定義。
公庫の記入例のFL比率も63%で、60%を超えている
公庫の創業計画書の記入例(洋風居酒屋)の数字でFL比率を計算すると、創業当初は(原価87万円+人件費70万円)÷売上248万円=63.3%、軌道に乗った後は(113万円+88万円)÷322万円=62.4%です。FLR比率は、家賃20万円を加えて、創業当初71.4%、軌道に乗った後68.6%です。
記入例は個人営業なので、人件費70万円に事業主の分は含まれていません。それでもFLは63%です。公庫が記入例として示している計画自体が、「60%以下」の目安には収まっていないということです。FL60%以下は、達成できれば余裕のある計画ですが、記入例の水準(63%前後)でも計画として成り立つと公庫自身が示していると読めます。
原価+人件費+諸経費で98.6%。全国の平均は、営業利益がほぼ残らない
FL比率の残りで払う諸経費も、同じ調査に平均値があります。一般飲食店の「諸経費対売上高比率」は30.7%です。調査の定義で、諸経費は販売費・一般管理費から人件費・減価償却費・外注加工費を除いた額なので、家賃・光熱費・広告費・消耗品・支払手数料などがここに入ります。
| 項目 | 売上に対する割合 |
|---|---|
| 原価率(100%−売上高総利益率) | 35.0% |
| 人件費率 | 32.9% |
| 諸経費率(家賃・光熱費・広告費・手数料など) | 30.7% |
| 合計 | 98.6% |
| 売上高営業利益率(調査の平均値) | −2.2% |
原価・人件費・諸経費の合計が98.6%なので、残りは1.4%です。調査の営業利益率が−2.2%なのは、諸経費に含まれない減価償却費などが販売費・一般管理費にあるためで、それを引くと平均的な一般飲食店は営業赤字になります。FL比率が68%というのは、「残りの32%で家賃・光熱費・広告費などをすべて払い、さらに内装や厨房機器の減価償却費を払うと、利益が残らない」水準だということです。
この表は、FL比率を60%に近づける意味を別の角度から示しています。FLが8ポイント下がれば、営業利益率は−2.2%から約6%になり、黒字企業の平均(4.3%)を上回る水準です。原価率を2〜3ポイント、人件費率を2〜3ポイント下げるだけで、その差の半分以上が埋まります。
従業者1人あたりの年間売上高も、同じ調査に載っています。一般飲食店の平均は805.1万円(月に約67万円)です。従業者には3か月以上継続雇用のパート・アルバイトも1人として数えるので、短時間の従業者が多い店ほどこの数字は小さくなります。自分の計画の年商を、事業主と従業員とアルバイトの人数で割って並べると、人手のかけ方が全国の平均と比べて厚いか薄いかの目安になります。
FL比率よりも先に、残りで何を払えるかを見る
FL比率は、売上のうち原価と人件費で使う割合です。大事なのは、残りの割合で何を払わなければならないかです。残りから払うものは、家賃、光熱費、広告費、消耗品、通信費、保険、決済手数料などの諸経費と、借入の利息と元金、税金、個人なら生活費です。
当方のシミュレーターの初期値(記入例の軌道後に合わせた例・月商約322万円)で見ると、FL比率64.3%・FLR比率70.5%で、営業利益は月約48.5万円です。そこから借入の元金返済(1,000万円・10年・据置6か月で月約8.8万円)と事業主の生活費25万円を引くと、残りは月約14万円です。FLが64%でも、売上が計画の90%にとどまれば営業利益は約28万円に減り、元金と生活費の約34万円を下回ります。FL比率が目安に近くても、売上の規模と返済・生活費の重さで、資金が減るかどうかは変わります。
見るべき順番は、FL比率の数字そのものより、次の3つです。
- 損益分岐点の月商:毎月の人件費・家賃・諸経費を、売上から原価と決済手数料を引いた残りでまかなえる売上はいくらか。初期値の例では約245.7万円(1日約36人の客数)で、計画の月商約322万円との差は約76万円です
- 営業利益から、借入の元金と税金と生活費を払って残るか
- 売上が計画の9割、8割になったときに、それでも残るか
自分の店のFL比率を計算する
FL比率の計算は、原価率を決めて、人件費を人数×単価で積み上げ、売上で割るだけです。手順は次のとおりです。
- 原価率を置く(メニューの構成と仕入先から。記入例は35%)
- 人件費を積み上げる(正社員の人数×月給、家族従業者、アルバイトの1日の延べ時間×時給×営業日数、正社員に掛ける法定福利費)。個人営業なら事業主の分は別に「生活費」として置く
- 売上(軌道に乗った後の計画)で割ってFL比率を出す。家賃を足してFLR比率も出す
- 同じ業種の全国の平均(上の表)と並べる。比べるときは、調査の人件費に役員報酬が含まれていることを踏まえる
- FLの残りから、諸経費・返済・税金・生活費を払って残るかを確かめる
「飲食店の開業 収支シミュレーター」では、業態を選ぶと、この記事の表と同じ全国の平均(平均値・中央値・黒字企業の平均)と自分の計画の原価率・人件費率・その他の経費率・営業利益率を並べて表示します。FL比率・FLR比率・損益分岐点の月商と1日の客数も出ます。基本の機能は無料です。
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- 創業計画書の「事業の見通し」、飲食店は4段で書く。公庫の記入例の数字と、計算の根拠の書き方。
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出典
- 日本政策金融公庫総合研究所「小企業の経営指標調査」飲食店,宿泊業 業種別経営指標(2025年度調査・2026年掲載)。業種別のPDF
- 同「利用の手引き」:調査対象と指標の定義
- 日本政策金融公庫「創業の手引+ 新たに飲食業を始めるみなさまへ」(平成30年4月):業態ごとのコスト配分、原価率・人件費率の目安(11〜12ページ)
- 日本政策金融公庫「創業計画書 記入例(洋風居酒屋)」(2025年4月版)
作成:fufumumu_design(ふふ)。確認日:2026年10月7日。FL比率・FLR比率・損益分岐点の計算は当方が行ったものです。調査の対象は公庫の融資先の法人企業で、飲食店全体の平均ではありません。公庫の資料は同公庫が作成したもので、この記事とツールは同公庫とは関係がありません。


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