福祉事業所の経営で「人件費率が全国平均を超えている」と気づいたとき、その原因が「職員への給与が高いから」なのか「収入が少ないから(稼働率が低い、加算が少ない)」なのかを分けて考えないと、対策の方向が逆になります。この記事では、人件費率を分解する考え方と、令和7年の全国調査との比べ方を整理します。
人件費率は「給与水準」と「職員1人あたりの収入」の両方で決まります
人件費率は次の式で計算されます。
人件費率(%)= 人件費 ÷ 収入 × 100
この式を分解すると、次のように書き直せます。
人件費率 = (人件費 ÷ 職員数)÷(収入 ÷ 職員数)
つまり、
人件費率 = 職員1人あたりの人件費 ÷ 職員1人あたりの収入
この恒等式から、人件費率が全国平均より高い原因は次の2つのどちらか(または両方)です。
| 原因 | 意味 | 主な対策の方向 |
|---|---|---|
| 職員1人あたりの人件費(給与水準)が高い | 給与・処遇が全国平均より高い | 処遇改善加算の活用・給与体系の見直し(ただし離職率への影響に注意) |
| 職員1人あたりの収入が少ない | 稼働率が低い、加算の取得が少ない、1単位の報酬が低い | 稼働率の改善・加算の取得状況の見直し |
人件費率が高いと聞くと「給与を下げればよい」と考えがちですが、実際には「稼働率が低く、職員1人がカバーしている収入が少ない」ことが原因の場合の方が多いです。
全国の人件費率の水準(令和7年調査)
厚生労働省「令和7年障害福祉サービス等経営概況調査結果」(令和6年度決算)では、各種別の人件費率(給与費の収入に占める割合)が公表されています。調査の「給与費」は職員俸給・手当・非常勤給与・社会保険料(事業者負担分)などを含む広い範囲の人件費です。
放課後等デイサービスの人件費率(給与費率)の表の平均は、令和6年度の調査で60%台後半の水準です(原典数値は調査PDFに掲載。以下の全国平均は一次資料の確認値を使用)。
一般的に、福祉サービスは人件費率が高い事業です。利用者へのサービスは職員が直接提供するため、収入の60〜70%以上が人件費になる種別が多くなっています。問題になるのは「全国平均と比べて特に高い場合」や「収支差率がマイナスになるほど高い場合」です。
出典:厚生労働省「令和7年障害福祉サービス等経営概況調査結果」(令和6年度決算)第48回障害福祉サービス等報酬改定検討チーム資料5
給与水準が原因かどうかを確認するには、職種別給与の比較が使えます
調査では、常勤・非常勤別の職種ごとの月額給与(令和7年4月分)も公表されています。
公表されている職種の例(種別によって異なります):
- 管理者(施設長)
- サービス管理責任者・児童発達支援管理責任者
- 生活支援員・指導員・世話人(種別により名称が異なる)
- 看護師・理学療法士・作業療法士(配置している場合)
自事業所の主要職種の月額給与を全国の調査の数字と比べることで、給与水準が高い職種・低い職種を特定できます。給与水準が全国平均と大きく変わらないのに人件費率が高い場合、原因は「収入の少なさ(稼働率・加算)」にある可能性が高くなります。
稼働率が人件費率に与える影響
職員の配置は、実際の利用者数ではなく「基準の人員配置の最低ライン(定員に対応した人数)」を下回らないように決まります。そのため、稼働率が低い(利用者が少ない)状態でも職員数はある程度維持されます。
このとき、収入は少ないのに人件費は変わらないため、人件費率が上がります。
例:定員10人の放デイで、人員配置基準を満たすために職員が3人必要な場合を考えます。
| 状況 | 月の延べ利用人数 | 収入のイメージ | 人件費(概算) | 人件費率 |
|---|---|---|---|---|
| 稼働率 70% | 月200人日 | 高め | 同じ | 低め |
| 稼働率 50% | 月140人日 | 低め | 同じ | 高め |
稼働率が下がると収入が減るが人件費はほぼ変わらないため、人件費率が上昇します。「人件費率が高い=給与が高い」ではなく「人件費率が高い=稼働率が低い可能性がある」という見方が重要です。
加算の取得が人件費率に影響することもあります
障害福祉サービスの報酬には、職員の配置や要件を満たすと加算される仕組みがあります(処遇改善加算・特定処遇改善加算・業務継続計画加算など)。
加算を取得していない場合、同じ職員数・給与水準でも収入が少ないため、人件費率が上がります。逆に、加算を適切に取得していれば収入が増え、人件費率が下がります。
処遇改善加算は、実際に職員の給与として支払う義務がある加算ですが、収入の一部として計上されることで収入総額を増やし、見かけ上の人件費率は下がります(ただし費用側の人件費も増えるため、実際の収支差率への効果は加算の計上方法による)。
「人件費率の差の内訳」を確認する手順
自事業所の人件費率が全国平均と何ポイント違うかが分かったら、その差の要因を次の手順で分解できます。
- 職員1人あたりの人件費(給与水準)を全国の職種別給与と比べる:大きく違う職種があれば、給与水準が原因の一部
- 職員1人あたりの収入を全国平均と比べる:低ければ、稼働率・加算が原因の一部
- 稼働率を確認する:損益分岐の稼働率(費用を収入が上回る稼働率)と比べる
- 加算の取得状況を確認する:取得できていない主要加算があれば検討の余地がある
この4つのステップを順番に確認することで、「何が人件費率を押し上げているか」の見当がつきます。
自事業所の数字を入れて全国と比べられます
このサイトでは、放デイ・児発・グループホーム・生活介護・就労移行・短期入所の決算の数字を入れて、令和7年調査の全国平均・中央値と比べる無料のツールを提供しています。人件費率の全国平均との差分と、「給与水準の差か、収入の差か」の要因分解はPro版(買い切り9,800円)で確認できます。
まとめ:人件費率が高い原因を正しく特定する
- 人件費率は「職員1人あたりの人件費(給与水準)÷ 職員1人あたりの収入」で分解できる
- 人件費率が高い原因は「給与水準が高い」より「稼働率が低い(収入が少ない)」の場合が多い
- 厚生労働省の調査では、職種別の月額給与も公表されているため、自事業所の給与水準と全国を比べられる(出典:「令和7年障害福祉サービス等経営概況調査結果」)
- 加算の取得状況によっても収入が変わるため、人件費率の分析と合わせて確認する
- 「人件費を下げる」前に、「収入を増やせないか(稼働率・加算)」を先に検討する


コメント