訪問介護の感染症対策で義務になっているのは3つです。年1回以上の研修、年1回以上の訓練、おおむね6か月に1回以上の委員会です。
「研修と訓練の違いが分からない」「何をやればいいか具体的に知りたい」という管理者向けに、根拠条文から研修の内容・訓練の方法・委員会の議題まで整理します。
感染症対策の義務の根拠
訪問介護事業所の感染症・食中毒対策に関する義務は、指定居宅サービス等の事業の人員及び運営に関する基準(平成11年厚生省令第37号)第31条第3項が根拠です。
第31条第3項は次の義務を定めています。
- 感染症・食中毒の予防・まん延防止のための研修(年1回以上・新規採用時も)
- 感染症の予防・まん延防止のための訓練(年1回以上)
- 感染症・食中毒の予防・まん延防止のための委員会の定期開催(おおむね6か月に1回以上)
- 感染症・食中毒の予防・まん延防止のための指針の整備
- 研修・訓練の実施内容の記録(2年間保存)
感染症対策では、研修・訓練ともに年1回以上の実施が求められています。虐待防止(年1回以上)や身体拘束(年1回以上)と同じ頻度ですが、委員会の開催頻度がおおむね6か月に1回以上と、他テーマ(虐待防止は年1回以上)より多くなっています。
研修と訓練の違い
感染症対策では「研修」と「訓練」の2つが別々に義務として定められています。混同しやすい点なので整理します。
| 研修 | 訓練 | |
|---|---|---|
| 目的 | 感染症・食中毒に関する知識の習得 | 発生時の対応手順を実際に体験して身につける |
| 形式 | 資料を使った座学・テスト・動画視聴など | 模擬的な発生場面を設定して実際に動く |
| 頻度 | 年1回以上 | 年1回以上 |
| 内容例 | 感染経路・手洗い・PPEの使い方・食中毒の原因食品 | PPE(個人防護具)の着脱手順、手洗いの確認、嘔吐物処理の手順 |
訓練は「実際に動く」要素を含む点で研修と異なります。「資料を使った座学」だけでは訓練の要件を満たしません。PPEの着脱・嘔吐物処理セットの使い方・手洗いの手順を全職員が実際に確認できる形で実施します。
研修で扱う内容の骨格
感染症・食中毒対策の研修で伝える内容として、次のテーマが挙げられます。
感染経路の3つ
感染症の主な感染経路は3つです。研修では、自分の業務の中でどの経路にさらされる可能性があるかを具体的に伝えます。
- 接触感染:感染者の体液・排泄物が手や物の表面について広がる。排泄介助・入浴介助・傷の処置などで注意が必要
- 飛沫感染:感染者の咳やくしゃみ・会話で飛ぶしぶき(飛沫)を吸い込む。距離が近い場面でのマスクが重要
- 空気感染:感染者の飛沫核(飛沫が乾燥して浮遊したもの)を吸い込む。麻疹・水痘・結核が代表的で、特別な換気が必要
訪問介護で特に多い感染経路は接触感染です。手洗いと手指衛生が最も重要な対策になります。
手洗い・手指消毒の方法
手指衛生は感染対策の基本です。研修では「いつ」「どのように」を具体的に伝えます。
訪問介護で手指衛生が必要な場面の例として、次のものがあります。
- 利用者宅に到着したとき・退出する前
- 排泄介助・入浴介助・食事介助の前後
- 利用者の体液・排泄物に触れた(または触れた可能性がある)後
- マスクや手袋を外した後
石けんと流水による手洗いは、目に見える汚れがある場合に有効です。速乾性手指消毒薬(アルコール製剤)は、手洗い場がない・汚れがない場合の補完として使います。ノロウイルスはアルコールの効果が限定的なため、石けんと流水での手洗いが重要です。
PPE(個人防護具)の使い方
PPEとは、手袋・マスク・エプロン・ゴーグルなどの感染防護のための装備です。研修では次の点を伝えます。
- どの場面でどのPPEが必要か(排泄介助は手袋必須・入浴介助は手袋+エプロン、など)
- 手袋は使い捨て・1ケアごとに交換が原則
- PPEを外す順番(汚染面が内側になるように外す)と外した後の手指衛生
訪問先での嘔吐・下痢発生時の対応
訪問先で利用者が嘔吐・下痢を起こした場合の初期対応を研修で伝えます。ノロウイルスのような感染性胃腸炎の疑いがある場合、嘔吐物を適切に処理しないと二次感染が起きます。
嘔吐物処理の主な手順として次のものがあります。
- 換気する(窓を開ける)
- 使い捨て手袋・マスク・エプロンを着用する
- 嘔吐物をペーパータオルで囲んで外側から内側へ拭き取り、ビニール袋に密封して廃棄する
- 次亜塩素酸ナトリウム液(0.1%)で汚染した場所を消毒する
- 使ったPPEを脱いでビニール袋に入れ、石けんで手を洗う
訓練では、このフローを実際にやってみる形で実施します。嘔吐物に見立てた模型(色水入りの袋など)を使い、PPEの着脱・処理手順を全職員が確認します。
食中毒の予防
訪問介護で食事介助を行う場合、食中毒の予防についても研修で触れます。主な注意点として次のものがあります。
- 食材の保存温度・加熱温度(食肉は中心温度75℃以上)
- 生肉・生魚を触った手は必ず洗う
- 調理器具の洗浄・消毒
- 利用者の食物アレルギーの確認
訓練の内容と進め方
訓練は「実際に動く」形で実施します。座学の研修とは別に、年1回以上の実施が必要です。訓練の内容として次のものが挙げられます。
PPEの着脱訓練
全職員が手袋・マスク・エプロンを正しく着脱できるかを確認します。手袋の外し方(親指を使って内側から引き抜く方法)、マスクの外し方(耳紐を持つ)など、汚染面に触れないための手順を実際に行います。
嘔吐物処理の訓練
模擬的な嘔吐物を用意して、処理手順を全員で確認します。処理セット(手袋・マスク・エプロン・ペーパータオル・ビニール袋・次亜塩素酸ナトリウム液)が事業所に備わっているかを確認するよい機会にもなります。
手洗いの確認
手洗いの手順(6ステップ洗い・30秒以上)を全員で確認します。簡易的な手洗いチェッカー(UV照射で洗い残しが見えるキット)を使うと、洗い残しの多い場所が視覚的に確認できて効果的です。
委員会の議題として扱う内容
感染症・食中毒対策の委員会は、おおむね6か月に1回以上開催します。議題として定期的に扱う内容の例を挙げます。
- 前回の委員会以降の感染症・食中毒の発生状況(事案がない場合も記録)
- 感染症・食中毒が疑われる事案があった場合の経緯と対応の振り返り
- PPEや消毒薬の在庫・使用期限の確認
- 利用者宅でのリスク(施設が感染対策をしていない環境・同居家族が感染している状況)の共有
- 次回研修・訓練の内容と日程の確認
- 感染症対策指針の更新の要否
記録の保存
研修と訓練を実施したら、その都度記録を残します。
記録に含める項目として、次のものが挙げられます。
- 実施日・実施時間
- 研修・訓練のテーマ(「感染症・食中毒の予防及びまん延防止のための研修」など)
- 実施内容(使用資料を添付するか、内容の概要を文章で記録)
- 出席者の氏名または確認印
- 実施責任者の氏名
記録の保存期間は2年間です(指定居宅サービス等の事業の人員及び運営に関する基準 第37条第2項)。
季節ごとの感染症リスクを意識する
年1回以上の研修と訓練をいつ実施するかを考えるとき、季節ごとの感染症リスクを参考にすることができます。
- 秋〜冬(11〜2月頃):ノロウイルス・インフルエンザのシーズン。この時期の前に研修・訓練を1回実施しておくことが効果的
- 梅雨〜夏(6〜9月頃):食中毒(カンピロバクター・サルモネラ)・熱中症のリスクが高い時期。食材管理や水分補給の注意を研修に含める
研修・訓練の実施タイミングの目安として、インフルエンザシーズン前(10〜11月)や食中毒シーズン前(5〜6月)など、季節のリスクに合わせて実施する事業所が多いです。
訪問介護向け法定研修キットで管理する
「感染症・食中毒の予防」テーマは、訪問介護向け法定研修・訓練キット(https://fufumumu-design.com/kenshu-kit-houmon/)で無料から使えます。研修資料・確認テスト・受講記録・委員会の議題案をブラウザ上で管理でき、職員がスマートフォンから受講結果を提出することもできます。
有料版(14,800円買い切り)では、認知症の基礎知識・高齢者の特性と安全な介助・ターミナルケア・服薬介助と医療行為の範囲など、訪問介護固有の4テーマを含む12テーマすべてを利用できます。
この記事で確認した根拠
- 指定居宅サービス等の事業の人員及び運営に関する基準(平成11年厚生省令第37号)第31条第3項・第37条第2項


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