応用試験の記述問題は、選択肢を選ぶ形式では測れないことを問います。文法を正確に説明する、学習者の誤りに対して適切な対応を書く、授業場面を設定して指導案の要素を書く——このような設問が出ます。
この記事では、応用試験の記述問題の形式・設問の種類・採点で見られる観点・準備として有効なことを、文部科学省が公表しているサンプル問題と出題内容をもとに整理します。
応用試験に記述問題がある理由
基礎試験は選択式100問で、日本語教育の理論・知識を持っているかどうかを問います。応用試験は「知識を教室で実際に使えるか」を問う試験です。
教師の仕事には、知識を持っているだけでは対応できない場面があります。
- 文法項目を学習者に分かりやすく説明する
- 学習者の誤りを分析して、どう対応するかを判断する
- 授業の目的・対象・手順を考えて計画を立てる
これらは選択式では十分に測れません。「何を書くべきか」を自分で組み立てて文章にする力が問われる形式として、記述問題があります(出典:文部科学省「令和8年度登録日本語教員試験の試験案内」)。
記述問題の設問タイプは3種類ある
文部科学省が公表している応用試験のサンプル問題から、記述問題は大きく3つのタイプに分類できます。
| タイプ | 問われること | 使う知識の区分 |
|---|---|---|
| 文法説明型 | 特定の文法項目・語の使い方を、学習者に説明する文章を書く | 言語区分(文法論・語彙論) |
| 誤り分析・対応型 | 提示された学習者の誤りを分析し、原因と教師の対応を書く | 言語と心理区分(習得論)・言語と教育区分(誤り訂正) |
| 授業設計型 | 指定された条件(学習者のレベル・目的・場面)に合わせた授業の手順・活動を書く | 言語と教育区分(教授法・カリキュラム設計) |
(出典:文部科学省「令和7年度日本語教員試験の出題内容及びサンプル問題」)
文法説明型:「学習者に伝わる言葉で」が要件になる
文法説明型の設問では、専門用語を並べた解説ではなく、「初級の学習者に口頭で伝える」「ひらがな・カタカナしか知らない学習者を想定する」という条件がつくことがあります。
たとえば「〜てある」と「〜ている」の違いを説明する場面では、次のような観点が評価に関係します。
- 意味の違い(動作の結果が残る状態 vs 動作・変化が続いている状態)を、具体的な例文で示しているか
- 学習者が混同しやすいポイントに触れているか
- 学習者の理解に合わせた言葉の選択ができているか
「正しいことを言う」だけでなく「相手に届く書き方をする」という教師としての観点が、記述の中に表れることが求められます。
誤り分析・対応型:原因の特定と対応の根拠がセットになる
誤り分析・対応型では、学習者の発話や文章に含まれる誤りが提示され、「この誤りの原因は何か」「教師としてどう対応するか」を書きます。
評価に関係する観点は以下のとおりです。
- 誤りの種類を特定できているか:発達上の誤り(過剰般化など)・母語の干渉(転移)・偶発的な誤りを区別しているか
- 原因の説明が根拠を持っているか:「この誤りは〇〇が原因である」という主張に対して、言語学的・習得論的な裏付けがあるか
- 対応が誤りの性質に合っているか:即時訂正が必要な誤りか、放置してよい段階の誤りか、という判断ができているか
誤りの種類と対応の判断は、言語と心理区分(習得論・中間言語・誤り分析)と言語と教育区分(誤り訂正・フィードバック)の知識が土台になります。どちらも基礎試験の出題範囲に含まれます(出典:文部科学省「令和7年度出題内容及びサンプル問題」)。
授業設計型:条件を読み取って手順を組み立てる
授業設計型では、「初級・成人・生活日本語の習得が目的」「就労目的の学習者・中級・30分の授業」のような条件が設定されます。その条件に合わせて、授業の目標・導入・練習・まとめの流れを書きます。
評価に関係する観点は以下のとおりです。
- 条件と授業の整合性:学習者のレベル・目的・場面が、活動の設定に反映されているか
- 手順の一貫性:導入→練習→産出(または確認)という流れが崩れていないか
- 教授法の選択が条件に合っているか:コミュニカティブアプローチ・タスク中心教授法など、学習目的に対して適切な教授法が選ばれているか
授業設計は言語と教育区分(教授法・シラバスデザイン・授業設計)の内容です。知識として持っているだけでなく、「与えられた条件に応用できるか」が記述問題では確認されます。
採点では何を見ているか
文部科学省はサンプル問題とともに「出題のねらい」を示しています。記述問題の採点観点として一貫しているのは、次の2点です。
ひとつは「日本語教育の知識を使って考えられているか」です。感覚や経験だけで書いた記述と、習得論・言語学・教授法の枠組みに基づいた記述は、読めば違いがわかります。専門用語を並べることが目的ではなく、「その言葉を使う必要のある内容があって、その表現を使っている」という状態が求められます。
もうひとつは「教師の立場から書いているか」です。「学習者として知りたいこと」ではなく「教師として何を伝え、何をどう対応するか」という視点が文章に表れているかどうかが見られます(出典:文部科学省「令和7年度日本語教員試験の出題内容及びサンプル問題」のサンプル問題解説)。
準備として有効なこと
| 準備 | 具体的にやること | なぜ効くか |
|---|---|---|
| 文法項目を「説明できる形」で整理する | 「テ形」「条件形」「アスペクト」など頻出項目を、初級学習者に話しかける形で書いてみる | 知識を「使える形」に変えておかないと、本番で手が止まる。頭の中にあるだけでは書けない |
| 誤り訂正の手法を場面別に使い分けて覚える | リキャスト・明示的訂正・エリシテーション等を「どの誤りに・どの場面で・なぜ」と結びつけて整理する | 対応の選択には必ず根拠が必要。手法の名前だけでなく「なぜそれを選ぶか」まで書けることが求められる |
| サンプル問題の記述設問を実際に書いてみる | 文部科学省公表のサンプル問題(応用試験分)に実際に書いて、字数・構成・知識の使い方を確認する | 読んで理解できても、書くと知識の穴が見える。時間を測って書く練習が本番の手の動きを作る |
基礎試験の理論知識が記述の根拠になる
応用試験の記述問題は、基礎試験で問われる理論が「書く根拠」として機能します。習得論を知らなければ誤り分析が書けません。教授法を知らなければ授業設計が書けません。文法論を知らなければ文法説明が書けません。
基礎試験と応用試験は別々の試験ではなく、基礎試験の知識を応用場面で使えるかどうかを応用試験が確認する、という関係にあります。
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参考資料:文部科学省「令和8年度登録日本語教員試験の試験案内」「令和7年度日本語教員試験の出題内容及びサンプル問題」(2026年10月現在)


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