障害者グループホームの虐待防止研修。義務の内容と進め方。

障害者グループホームの虐待防止研修の義務と進め方 介護

障害者グループホーム(共同生活援助)では、虐待防止について研修・委員会・担当者設置・指針の整備の4つが義務です。このページでは、義務の内容と根拠・回数・研修と委員会の進め方・GHに特有の注意点を整理します。

GHの虐待防止義務:研修・委員会・担当者・指針の4つ

GHの虐待防止義務は、基準省令第40条の2(包括型は第213条で準用)と解釈通知(障発第1206001号 第三の3の(31))に定められています。

義務の内容は次の4つです。

GHの虐待防止義務の一覧
義務 内容・回数
研修 年1回以上(新規採用時も必ず実施)
委員会 少なくとも年1回
担当者の設置 虐待防止の推進に係る担当者を配置すること
指針の整備 虐待防止のための指針を整備すること

4つのうち1つでも欠けると、運営指導での指摘対象になります。また、身体拘束の体制不備のような「体制不備減算」は虐待防止テーマには設けられていませんが、指定基準違反として改善勧告・指定取消の対象になり得ます。

根拠条文の構造:準用で義務が生まれる

GHの虐待防止義務の根拠は、次のように「準用」という方法で定められています。

  • 包括型:第213条が第40条の2を準用
  • 日中型:第213条の11が第40条の2を準用
  • 外部型:第213条の22が第40条の2を準用

第40条の2の条文は「居宅介護」の章にあります。GHの章には直接「研修を年1回以上実施すること」とは書かれておらず、第213条で「第40条の2の規定は…について準用する」と書かれることで、GHにも同じ義務が適用されます。

解釈通知(障発第1206001号)の参照先はGHの章ではなく「居宅介護」の章(第三の3の(31))です。GHのページを確認しても研修の詳細が書かれていない場合があるのは、この準用の構造によります。

研修の内容と進め方

虐待防止の研修で扱う内容は、解釈通知(障発第1206001号 第三の3の(31))で示されています。内容の中心は、虐待防止に関する基礎的知識と発見・通報の方法です。

実務上は、次のような内容を組み合わせて研修を構成することが多いです。

  • 虐待の定義と5種類(身体的虐待・性的虐待・心理的虐待・放棄・放置(ネグレクト)・経済的虐待)
  • 虐待の発生要因と予防の視点
  • 発見したときの対応手順(事業所内の報告ルート・市区町村への通報)
  • 通報義務の説明(職員全員に義務があること)
  • 不適切なケアの具体例と発見・指摘の方法

研修の方法は問いません。外部の研修会への参加・DVDや動画教材の視聴・内部で講師を立てる集合研修のいずれも認められています。外部研修に参加した職員が、事業所内で他の職員に内容を共有する方法も可能ですが、その場合は「共有した事実」の記録(日時・出席者・内容の概要)も残しておく必要があります。

新規採用時の研修は、定期研修とは別に実施する。

年1回の定期研修とは別に、新規採用時にも必ず研修を実施することが義務です。採用後できるだけ早い時期に実施することが求められています。

採用のタイミングが年1回の定期研修の直前・直後であれば、定期研修をもって新規採用時の研修を代えることが現実的に認められるケースもありますが、採用から時間が空きすぎないよう配慮が必要です。採用から半年以上経ってから初めて研修を受けた、という状態は好ましくありません。

記録は、研修ごとに日時・内容・受講者名を残しておくことが必要です。新規採用時の研修は定期研修の記録とは別に整理しておくと、運営指導での確認がスムーズです。

委員会の進め方

虐待防止委員会は「少なくとも年1回」開催します。委員会の構成員については基準省令で詳細が規定されているわけではありませんが、実務上は管理者・虐待防止担当者を中心に、サービス管理責任者・支援員が参加する形が多いです。

委員会で扱う主な内容は次のとおりです。

  • 前回委員会以降の虐待(またはその疑い)の発生状況の報告・確認
  • 今年度の研修の実施状況の振り返り
  • 虐待防止指針の内容を見直す必要があるかどうかの確認
  • 次年度の研修・委員会の年間計画の確認
  • 職員から上がってきた「気になる支援場面」の共有と確認

委員会の記録(開催日・参加者・議題・確認事項・決定事項)は残しておく必要があります。記録の書式は法令で定められていませんが、運営指導では内容の確認が行われます。

GHでは、身体拘束の委員会(少なくとも年1回)と同じ日に合わせて開催する事業所もあります。その場合でも、虐待防止と身体拘束はそれぞれ別の議事録として作成することが必要です(テーマごとに別の義務であるため、まとめて1枚の記録にすると区別がつきにくくなります)。

担当者の設置

虐待防止の推進に係る担当者の設置が義務です。担当者は専任でなくてもよく、管理者やサービス管理責任者が兼務する形が一般的です。

担当者の主な役割は次のとおりです。

  • 年間の研修計画・委員会の開催計画を立て、実施を主導する
  • 虐待(またはその疑い)が発生した場合に、対応の中心を担う
  • 虐待防止指針の整備・定期的な見直しを行う
  • 職員からの相談・報告の窓口になる

担当者が誰かを、スタッフ全員が知っている状態にしておくことが重要です。担当者の名前が分からない、あるいは担当者自身が自分の役割を把握していない状態は、運営指導で指摘されるリスクがあります。

指針の整備

虐待防止のための指針を整備することも義務です。指針は一度作ったら終わりではなく、委員会で定期的に内容を見直すことが求められています。

指針に含めることが求められる内容としては、次のようなものがあります。

  • 事業所における虐待防止に関する基本的な考え方
  • 虐待の定義と禁止事項
  • 虐待(またはその疑い)を発見した場合の対応手順(報告ルート・市区町村への通報方法)
  • 虐待防止のための研修・委員会の実施に関する事項
  • 担当者の役割・権限

指針は職員が参照できる形で保管・共有しておく必要があります。棚の中にしまったままで職員が中身を知らない状態は、形式的には整備済みでも実態が伴っていないとして指摘対象になる場合があります。研修の場で指針の内容を一緒に確認する機会を設けることが望ましいです。

GHに特有の注意点

GHは入所系(居住系)のサービスです。利用者が生活の多くの時間を施設で過ごすため、通所系のサービスと比べて、いくつかの点で特有の注意が必要です。

外部の目が届きにくい環境であること。

通所サービスでは利用者が毎日帰宅するため、ご家族がご本人の様子を確認できる機会が日常的にあります。GHでは、生活の場が施設の中にあるため、職員とご利用者の関係が長時間にわたって密になります。外部からの目が届きにくい状態が続くと、職員の言動が当たり前になり、虐待のリスクに気づきにくくなる場合があります。

研修では、不適切なケアの具体例を取り上げ、「これは虐待にあたるのではないか」と職員同士が指摘し合える職場風土をつくることが重要です。「気になる支援場面を報告しやすい仕組みがあるかどうか」が、虐待の早期発見に直結します。

「不適切なケア」が虐待につながる。

明確な身体的暴力や放棄だけでなく、日常的な支援の中にある「不適切なケア」が虐待の前段階として意識されています。不適切なケアの例としては、次のようなものがあります。

  • 利用者の意向を確認せずに支援の内容を決める
  • プライバシーへの配慮がない(着替えや入浴の際に声かけをしない等)
  • 職員間で利用者を呼び捨てにする・侮辱的なあだ名を使う
  • 利用者の前で他の利用者の話を(個人情報として)話す
  • 選択肢を提示せずに職員の都合に合わせた支援をする

「虐待ではないが不適切」な状態が常態化していると、さらに深刻な虐待行為につながるリスクがあります。研修では、虐待の定義と種類を覚えるだけでなく、自分たちの支援を振り返る場にすることが重要です。

通報は職員全員の義務。

GHで虐待(またはその疑い)を発見した場合、市区町村への通報は職員全員の義務です(障害者虐待防止法 第16条)。

通報は管理者だけが行うのではありません。現場の職員が直接、市区町村に通報することも法律上認められています。「まず上司に報告してから」という社内の手順を経ることが一般的ですが、「上司への報告を通報の代わりにすること」はできません。市区町村への通報が義務です。

また、通報をためらわせる「不利益取扱いの禁止」も同法に明記されています(第16条第3項)。通報を理由に解雇・降格・減給等の不利益な取扱いをすることは禁止されています。このことを職員全員が知っておくことが、通報のハードルを下げることにつながります。

このことは、事業所内の報告ルートを決めるだけでなく、研修の中で「市区町村への通報は全職員の義務」という点を明確に伝えることが重要です。

虐待が疑われた場合の対応フロー

虐待(またはその疑い)を発見した場合、事業所として対応すべき手順があります。研修の中で、この手順を職員全員が把握しておくことが重要です。

初動の3ステップ。

まず発見した職員がとるべき行動は、次の3つです。

  1. 利用者の安全確保:虐待を受けていると疑われる利用者を、危険な状況から離す(加害者とされる人物から物理的に距離を置かせる)
  2. 管理者への報告:発見した状況・日時・利用者の状態を管理者に報告する
  3. 記録を残す:発見した状況を書面で記録する(後から整理するのではなく、できるだけ早い段階で書く)

加害者とされる職員(またはその疑いのある人物)が管理者自身である場合、直接の上司への報告が難しいケースがあります。指針の中で「管理者が当事者である場合の報告先(法人の本部担当者・市区町村等)」をあらかじめ定めておくことが重要です。

市区町村への通報と都道府県への報告。

虐待(またはその疑い)を発見した場合、速やかに市区町村への通報が必要です(障害者虐待防止法 第16条)。「虐待かどうか確信が持てない」状態でも、疑いの段階で通報することが義務です。

市区町村は通報を受けると、事実確認のための調査や立入調査を行う場合があります。事業所は調査に協力することが求められます。

虐待が認定された場合、都道府県への報告が別途義務になります(同法 第18条)。都道府県はその情報を集計し、毎年の実態調査として公表しています。

再発防止策の検討。

事案が一段落した後、委員会等で再発防止策を検討することが求められます。「なぜ起きたか(要因分析)」「今後どのような体制にするか(再発防止策)」「指針や研修内容の見直しが必要かどうか」の3点を確認します。

再発防止策の検討と記録は、次の運営指導で確認されることがあります。「事案が起きた記録はあるが、その後の対応・改善の記録がない」場合は、問題が生じ続けるリスクがあるとして指摘の対象になります。

年間の研修と委員会のスケジュール

虐待防止の研修(年1回以上)と委員会(少なくとも年1回)を、年間のどの時期にどう配置するかは事業所によって異なります。ただし、次のような考え方で時期を決めると、他のテーマとの調整がしやすくなります。

研修と委員会の関係。

委員会は「研修の実施状況を振り返る場」でもあります。そのため、次の順序が自然です。

  • 上半期に研修を実施する
  • 下半期に委員会を開催し、研修の振り返りと翌年度の計画を立てる

この配置にすると、委員会で「今年の研修の良かった点・改善が必要な点」を議論した上で、翌年度の研修内容を改善することができます。

他のテーマとの兼ね合い。

GHには虐待防止以外にも、身体拘束・感染症・BCP・非常災害の研修義務があります。研修を毎月1テーマで年間に配置する場合、追加テーマを含めると年12〜13回になります。

月ごとの担当を年度初めに決めておくと、実施漏れが起きにくくなります。年間計画は書面に残しておくことで、運営指導でも「計画的に実施している」ことの証拠になります。

運営指導で確認されること

運営指導では、虐待防止について次のような確認が行われることが多いです。

  • 研修の実施記録(日時・内容・受講者名簿)があるか
  • 新規採用時の研修が実施されているか
  • 委員会の開催記録があるか
  • 虐待防止の担当者が設置されているか(誰が担当者かが分かるか)
  • 虐待防止の指針が整備されているか(職員が参照できる状態にあるか)

いずれも「実施した事実があること」と「記録が残っていること」の両方が必要です。実施したが記録がない場合、運営指導では「実施した」と主張しても証明できないため、未実施と同等の扱いになる場合があります。

記録は、研修と委員会それぞれについて日時・参加者・内容の概要が分かるものを整備しておくことが基本です。指針については、最終改定日が明記されていること・内容が現在の体制に合っていることが確認されます。

虐待防止と身体拘束:両方に委員会が義務

GHでは、虐待防止と身体拘束の適正化のどちらにも「委員会を少なくとも年1回」実施する義務があります。この2つは似ているようで、義務の内容と位置づけが異なります。

虐待防止と身体拘束の義務の比較(GH)
項目 虐待防止 身体拘束の適正化
研修 年1回以上(新規採用時も必ず) 年1回以上(新規採用時も必ず)
委員会 少なくとも年1回 少なくとも年1回
担当者 義務 義務
指針 義務 義務
体制不備による減算 なし(指定基準違反として対応) 10%(施設・居住系)

義務の構造は同じですが、身体拘束については「委員会の未実施・指針の未整備・研修の未実施」のいずれかが確認されると報酬の10%が減算されます。虐待防止にはこの減算規定はありませんが、繰り返しの指定基準違反は改善勧告・公表・指定取消の対象になり得ます。どちらも軽視できない義務として整備することが必要です。

研修キットを使う場合

各テーマの研修資料・確認テスト・委員会の議題案・記録用紙をまとめた研修キット(障害者グループホーム版)を用意しています。

虐待防止テーマは無料で試せます。研修資料・確認テスト・委員会の議題案・記録用紙のすべてが使えます。「無料でまず1テーマ試す」ところから始めることができます。

有料版(14,800円・買い切り)では、GH版の12テーマすべて(義務5テーマ+追加7テーマ)が使えます。義務テーマの記録様式(身体拘束・事故・苦情・地域連携推進会議・預かり金の出納確認)と、研修を発表形式で進める「発表モード(スライド)」も含まれています。

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この記事を書いた人

業種別のツールを、一人で作っています。開業前の収支シミュレーター、法定研修キット、資格の問題集。どれも、厚生労働省の告示や調査の原文を自分で確かめてから数字を組み込んでいます。使う人が「この数字、合ってるか」と不安になるようなツールは作りたくないので。

上場企業で20年間、営業ひとすじ。電話営業・インサイドセールスから、約70名のチームのマネジメントへ。現場で「根拠のない数字」が判断を狂わせる場面を見続けてきたせいか、ツールを作るときも出典を確かめずにはいられません。

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