認知症と手続きに関して、家族から多く寄せられる質問とその回答をまとめた。「何から始めればいいか」「後見と家族信託のどちらがいいか」「遺言がなかったらどうなるか」等のよくある疑問に法的な根拠とともに答える。
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- Q1:「何から始めればいいか」
- Q2:「後見と家族信託はどちらがいいか」
- Q3:「認知症の診断後でも遺言は書けるか」
- Q4:「後見申立ての費用はいくらかかるか」
- Q5:「遺言がなかった場合、財産はどうなるか」
- Q6:「認知症になってからでも家族信託は設定できるか」
- Q7:「後見人になったら何をするか」
- Q8:「銀行口座が凍結されたらどうすればいいか」
- Q9:「後見人が財産を使い込んでいたらどうするか」
- Q10:「認知症の親が不動産を売却しようとしている。止めることはできるか」
- Q11:「後見人を途中で変えることはできるか」
- Q12:「親が施設に入った後の「自宅」はどうすればいいか」
- Q13:「本人が「後見はいらない」と言っている場合どうするか」
- Q14:「後見人と医師の意見が対立した場合どうするか」
- Q15:「認知症と診断されたが、まだ軽度で本人が元気なうちにできることは」
- この記事のまとめ
Q1:「何から始めればいいか」
A:まず「地域包括支援センターへの相談」と「要介護認定の申請」から始める。それと並行して「弁護士・司法書士への相談(後見・家族信託・遺言の選択)」を行う。意思能力があるうちに法的な手続き(家族信託・任意後見・遺言)を先に動かすことが最優先。財産管理は「後で何とかなる」と思うと手遅れになることが多い。
Q2:「後見と家族信託はどちらがいいか」
A:意思能力がある段階では「家族信託」が推奨されるケースが多い。理由は①専門職後見人の報酬(月2〜5万円)が不要で費用が抑えられる②家庭裁判所の監督を受けずに柔軟な財産管理ができる③信頼できる家族(子等)を受託者に設定できる等。ただし「不動産・複数の口座の管理が必要で、設定コスト(30〜100万円程度)をかけられる場合」に特に有効。意思能力がすでに低下している場合は法定後見(後見・保佐・補助)が唯一の選択肢になる(民法第7条等)。
Q3:「認知症の診断後でも遺言は書けるか」
A:認知症の診断後でも、軽度〜中等度の段階では「遺言能力(遺言の内容を理解できる意思能力)」がある場合が多い(民法第963条)。ただし重度になると遺言能力が認められないリスクがある。診断後はできるだけ早期に「公正証書遺言(公証役場)」を作成することを推奨。公証人が遺言能力を確認するため、後で遺言能力を巡る争いが起きにくくなる。診断後に作成する場合は「医師の診断書(遺言作成日に意思能力がある旨)」を添付することが推奨される。
Q4:「後見申立ての費用はいくらかかるか」
A:申立て費用自体は収入印紙800円と書類取得費(数千円)・診断書作成費(数千〜1万円程度)で3万円以内に収まることが多い。鑑定が必要な場合は別途5〜10万円程度かかる。弁護士・司法書士に申立てを委任する場合は10〜30万円程度。後見が開始されると後見人報酬(月2〜5万円)が継続的に発生する。10年間で総額240〜600万円の規模になることもある。
Q5:「遺言がなかった場合、財産はどうなるか」
A:遺言がない場合は「法定相続(民法第900条〜)」に従って相続人間で財産が分配される。相続人全員の合意による「遺産分割協議」が必要(相続人の一人が認知症で意思能力がない場合は後見人が必要になる)。法定相続分の例:配偶者と子2人の場合は「配偶者1/2・子各1/4」。遺産分割協議がまとまらない場合は「家庭裁判所への遺産分割調停の申立て」が必要になる。
Q6:「認知症になってからでも家族信託は設定できるか」
A:認知症の診断後でも「軽度の認知症で意思能力が残っている段階」であれば家族信託を設定できる可能性がある。ただし「信託契約の内容を理解して合意する意思能力(契約能力)」が必要。意思能力が低下していると「後から無効と主張される」リスクがある。認知症の診断後に家族信託を設定する場合は、公証役場での公正証書作成(公証人による意思確認)・精神科医への受診(意思能力の確認)等の対策を講じることが推奨される。
Q7:「後見人になったら何をするか」
A:後見人の主な仕事は①財産管理(通帳・不動産・有価証券等の管理・収支の記録)②身上監護(介護サービスの手続き・医療機関・施設との契約等)③家庭裁判所への報告(年1回の「後見等事務報告書」の提出)。財産は後見人自身の財産と「絶対に混在させない」ことが最重要のルール。家庭裁判所・後見監督人の監督下で管理するため、大きな処分(居住用不動産の売却等)には家庭裁判所の許可が必要(民法第859条の3)。
Q8:「銀行口座が凍結されたらどうすればいいか」
A:銀行口座が認知症を理由に実質的に凍結された場合の対処法は①後見申立て(家庭裁判所)→後見人が選任されると口座管理を引き継げる②家族信託が設定されている場合は「信託口口座」は凍結の影響を受けない③日常生活自立支援事業(社会福祉協議会)の活用で日常の生活費の払い出しを支援してもらう。意思能力がある段階での事前の「家族信託設定・任意後見契約」が口座凍結への最強の対策だ。
Q9:「後見人が財産を使い込んでいたらどうするか」
A:後見人(特に専門職後見人以外の家族後見人)が財産を使い込んだ場合の対処法は①家庭裁判所への「後見人の解任申立て(民法第846条)」②解任後に後見人に「不当利得・不法行為による返還請求(民法第703条・第709条)」③刑事告訴(業務上横領罪・刑法第253条)。後見制度支援信託・預貯金の活用や後見監督人の選任によって使い込みリスクを予防することが重要。
Q10:「認知症の親が不動産を売却しようとしている。止めることはできるか」
A:認知症で意思能力が低下している状態での不動産売買は「法律上無効(意思無能力)(民法第3条の2)」となる可能性がある。止める方法は①後見申立て(後見人が選任されると後見人の同意なしの売買は取り消せる)②家庭裁判所への「審判前の保全処分(家事事件手続法第105条以下)」の申立て(財産の処分禁止命令等)③司法書士・弁護士に相談して不動産会社・購入者への警告を行う。意思能力の有無は「本人の状態の記録(医師の診断書等)」が証拠になる。
Q11:「後見人を途中で変えることはできるか」
A:後見人の変更は「後見人の辞任・解任」という形で行われる。後見人が自ら辞任したい場合は「家庭裁判所への辞任許可申立て(民法第844条)」が必要(正当な理由が必要)。後見人を解任したい(不正行為・職務怠慢等がある)場合は「家庭裁判所への解任申立て(民法第846条)」を行う。申立てができる人は「本人・親族・検察官等」。後見人の変更後は新たな後見人が選任される。家庭裁判所が後見人の選任を行う。
Q12:「親が施設に入った後の「自宅」はどうすればいいか」
A:施設入居後の自宅への対応は主に3つ。①そのまま保有する(維持費・固定資産税は継続発生)②賃貸に出す(収入は本人の生活費に充てられる・後見人の判断で可能だが居住用不動産の賃貸は家庭裁判所への届出が必要な場合がある)③売却する(後見人が行う場合は「居住用不動産の売却の許可(民法第859条の3)」の申請が必要)。売却のタイミングは「本人が住まなくなった日から3年目の年末まで」に行うと「居住用財産の3,000万円特別控除(租税特別措置法第35条)」が使える可能性がある。
Q13:「本人が「後見はいらない」と言っている場合どうするか」
A:本人に判断能力がある場合は「本人の意思が最優先」される。後見を望まない場合は強制的な申立てはできない(本人の同意なしに後見が開始されることはない——補助の場合は特に)。ただし判断能力が低下して「本人が後見はいらないと言っているが実際には管理できない状態」になった場合は、家族が後見申立てをすることができる。本人の「以前の意思(後見はいらない)」と「現在の状態(管理できない)」が矛盾する場合は、現在の状態・本人の利益を優先して後見申立てを進めることが一般的だ。
Q14:「後見人と医師の意見が対立した場合どうするか」
A:後見人には「身上監護権(本人の生活・医療・介護に関する契約をする権限)」があるが、「医療行為自体への同意権(手術・治療への同意)」は後見人にはない(法律上明確な規定がなく、一般的に認められていない)。医師と後見人が「治療方針で意見が対立した場合」は、主治医・後見監督人・ケアマネジャー等が話し合いを行い、本人の推定意思(本人がかつて示した治療への意向)・本人の利益を優先した判断を行う。意見の対立が解決しない場合は倫理委員会・家庭裁判所への相談が考えられる。
Q15:「認知症と診断されたが、まだ軽度で本人が元気なうちにできることは」
A:軽度の認知症(またはMCI)の段階でできること・やるべきことを整理した。①「エンディングノート(終活ノート)」への自分の希望・連絡先・財産の一覧の記入②公正証書遺言の作成(遺言能力がある段階で)③家族信託の設定(信頼できる子・甥・姪等と信託契約の締結)④任意後見契約の締結(将来の後見人を指名)⑤かかりつけ医への定期受診の習慣化⑥家族への「認知症が進んだ場合の希望(施設に入るか・延命治療の希望等)」の伝達。意思能力がある段階での準備が、将来のトラブルを防ぐ最大の対策だ。
この記事のまとめ
- Q1 何から始めるか:地域包括支援センターへの相談・要介護認定の申請・弁護士への相談を並行して行う。意思能力があるうちに法的手続きを最優先
- Q2 後見vs家族信託:意思能力があれば家族信託(柔軟・報酬不要)が有力。意思能力が低下していれば法定後見(民法第7条等)が唯一の選択肢
- Q3 診断後の遺言:軽度〜中等度の認知症では遺言能力がある(民法第963条)。公正証書遺言+医師の診断書の添付が推奨
- Q4 後見費用:申立て費用3万円以下(鑑定が必要な場合は別途5〜10万円)。後見人報酬は月2〜5万円の継続費用
- Q7 後見人の仕事:財産管理・身上監護・年1回の家庭裁判所への報告。自分の財産との混在は厳禁
出典:民法第3条の2(意思能力)・第7条(後見開始の審判)・第703条(不当利得)・第709条(不法行為)・第846条(後見人の解任)・第859条の3(居住用不動産の処分の制限)・第900条(法定相続分)・第963条(遺言能力)、家事事件手続法第105条以下(審判前の保全処分)、刑法第253条(業務上横領)
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