認知症の親が振り込め詐欺にあった。すでにお金を送金してしまった後でも、できることがある。財産保全の手段・警察への届け出・二次被害を防ぐ体制の構築——発覚後の最初の48時間に何をするかが、被害の拡大を防ぐ上で重要だ。
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振り込め詐欺発覚直後にやること
振り込め詐欺と気づいた直後にやるべきことを優先順位の高い順に整理した。
- 送金先の銀行に「振込詐欺救済法」に基づく申請(すでに振り込んだ場合):振り込み先の銀行に「振り込み詐欺の被害を受けた」と連絡することで、被害救済の手続きが始まる可能性がある(振り込め詐欺救済法第4条)。振込先の口座が「凍結」されれば、まだ出金されていない残金を取り戻せる可能性がある。早ければ早いほど回収可能性が高い
- 被害者の口座の凍結・出金制限の依頼:本人の口座をもつ銀行に連絡して「追加出金のリスクがある」として出金制限・連絡の対応を求める
- 警察への相談・被害届の提出:最寄りの警察署(または警察相談専用電話#9110)に相談する。被害届を提出することで捜査が開始される可能性がある
- 消費者ホットライン(188)への相談:消費生活センターに相談することで、対応方法のアドバイスが受けられる
振り込め詐欺救済法による被害回復の仕組み
「犯罪利用預金口座等に係る資金による被害回復分配金の支払等に関する法律(振り込め詐欺救済法)」(2008年施行)は、詐欺に使われた口座の凍結と被害回復分配金の支払いを定めた法律だ。
手続きの流れを整理した。
- 被害者または警察が振込先の銀行に「詐欺に使われた口座」として申告する
- 銀行が口座を「犯罪利用預金口座」として認定し、口座を凍結する
- 預金保険機構が被害回復分配金の支払いの公告を行う
- 被害者が「被害回復分配金の支払申請」を金融機関に提出する
- 被害額に応じた分配金が支払われる
ただしこの制度には限界がある。
- 振込先の口座に残金がない(すでに引き出されている)場合は回収できない
- 複数の被害者がいる場合は残金を按分するため、被害全額が戻ることはまれ
- 現金・電子マネーによる支払いには適用されない
- 手続きの完了まで数か月〜1年程度かかることがある
電子マネー・ギフトカードでの被害
近年の振り込め詐欺は「銀行振込」ではなく「コンビニでプリペイド型電子マネー・ギフトカードを購入させてコードを伝える」という手口が増えている。認知症高齢者が「コンビニでカードを購入してほしい」と言われ、コードを伝えてしまったというケースだ。
電子マネー・ギフトカードでの被害は、振り込め詐欺救済法の対象にならないため、回収が非常に難しい。コンビニのレシートと使用履歴を持って警察に届け出ることと、各電子マネー・ギフトカード会社に被害状況を申告することが最初のステップだが、回収できる可能性は低い。
電子マネー・ギフトカードでの支払いを求められた時点で「詐欺」と判断することが重要で、コンビニスタッフへの声かけで未然に防げたケースもある。コンビニには「高齢者への詐欺抑止のための声かけ」が推奨されている。
振り込め詐欺被害の金融機関への補償請求
振り込め詐欺による不正出金(ネットバンキングへの不正アクセスによる出金等)は、金融機関に「補償の請求」ができる場合がある。
- フィッシング詐欺による不正出金:本人が偽サイトでIDとパスワードを入力して不正アクセスされた場合でも、金融機関(特にネット銀行)では「不正アクセスによる被害の補償制度」を持っている場合がある。補償の条件(本人の過失の程度・報告のタイミング等)は各金融機関によって異なる
- 預金者保護法による保護:預金者保護法では「偽造・盗難カードによるATM不正出金」について金融機関への補償請求が認められている(預金者保護法第4条・第5条)。ただし本人の「重大な過失」がある場合は補償が制限されることがある
不正出金を発見したら「直ちに金融機関に連絡して補償の可否を確認する」ことが重要だ。連絡が遅れると補償が受けられなくなる可能性がある。
「オレオレ詐欺」の特徴と認知症高齢者が狙われる理由
振り込め詐欺(特殊詐欺)の中で最も多いのが「オレオレ詐欺」だ。認知症高齢者が特に狙われる理由を整理した。
- 記憶の混乱を利用される:「お母さん、俺だよ、わかる?(電話)」という声かけに対して、認知症の場合「声がおかしいけど本当に子供かもしれない」という判断ができにくくなっている
- 何度でも引っかかる:認知症が進んでいると「以前も同じような電話があった」という記憶が残りにくい。同じ詐欺グループが繰り返し電話してくる「リピート被害」が起きやすい
- 家族に相談しない:「誰かに言わないで」という犯人の指示に従ってしまう。認知症の場合は特に「指示に従わなければならない」という思い込みが強くなることがある
- 電話対応の判断力が低下している:電話越しに「会社のお金を横領した・事故の示談金が必要」等の複雑な状況説明を理解・整理する能力が低下しているため、真偽の判断ができない
二次被害を防ぐための具体的な対策
被害が判明した後の「二次被害防止」のための対策を整理した。
- 電話機を詐欺対策機能付きのものに変える:録音機能・警告メッセージ再生機能付きの電話機は、詐欺電話に効果があることが実証されている。自治体によっては補助金が出ることがある
- 通帳・カード・印鑑を管理する:本人が自由に使えない状態にする。ただし本人の「財産の自律」を制限することになるため、後見申立てを経て後見人が財産管理する体制を作ることが法律上の適切な対応だ
- 後見人の設定:後見人が財産管理を担うことで、業者が「後見人の同意が必要」と認識して接触を諦めることが多い。後見申立ては時間がかかるため、被害が疑われる段階で速やかに着手する
- 警察の「振り込め詐欺被害防止システム」の活用:一部の自治体・警察では、「過去に特殊詐欺の被害にあった高齢者への見守り電話」「警告シールの配布」等のサービスを提供している。警察の生活安全課に問い合わせることをすすめる
家族が「気づいていなかった被害」の確認方法
過去の被害を確認する方法を整理した。認知症が進んでいる場合、本人が被害を申告できないため、家族が気づいていないケースがある。
- 通帳の全記録を確認する:過去数年の通帳を確認して「不自然な出金(金額・頻度・振込先が不審なもの)」がないか確認する。複数の口座がある場合はすべての口座を確認する
- 郵便物を確認する:自宅に届いている郵便物(特に「当選通知」「未払い案内」「会員登録完了」等)を確認する
- コンビニのレシートを確認する:コンビニのレシートに「電子マネー・ギフトカードの購入記録」があれば詐欺の可能性がある
- 介護スタッフへの確認:ヘルパー・ケアマネジャーに「最近不審な電話・訪問者がなかったか」を確認する
振り込め詐欺被害後の「家族への情報共有」と体制整備
振り込め詐欺の被害が一度発覚した後は、家族全員が状況を共有して再発防止の体制を作ることが重要だ。
- 被害金額・口座・被害日時の記録:判明している情報を書面にまとめる。後の手続き(警察・弁護士・銀行への申告)で必要になる
- 家族への連絡:同居していない家族にも「認知症の親が詐欺にあった」という事実を共有する。家族全員が情報を持つことで、今後の対応(後見申立て・財産管理の移行)についての合意が取りやすくなる
- 介護支援専門員(ケアマネジャー)への報告:担当ケアマネジャーに被害の事実を伝える。今後の介護支援の内容や「見守りの強化」について相談できる
- 地域包括支援センターへの相談:地域包括支援センターには権利擁護の担当者がおり、高齢者の消費者被害・詐欺被害への対応・後見申立ての支援を受けられる
「ATM操作を指示する電話」への対応
振り込め詐欺のうち「警察・金融機関を装い、ATMで操作するよう指示する」という手口に対して、金融機関では対策を強化している。
- ATMの近くでの携帯電話使用の制限:多くの金融機関では、ATM付近に「ATM操作中は電話をしないよう」警告を表示している。ATM付近で携帯電話で話しながら操作している高齢者に対して、警備員・スタッフが声かけすることが推奨されている
- ATMの振込上限額の設定:ネットバンキングだけでなく、ATMでも振込上限額を設定できる場合がある。銀行に問い合わせて「ATMの振込上限額を下げる」ことが詐欺被害額の最小化に有効だ
- 「還付金詐欺(キャッシュバック詐欺)」への注意:「医療費の還付がある。ATMで手続きできる」等と言われてATMを操作させる「還付金詐欺」は、高齢者を標的にした特殊詐欺の中でも件数が多い。自治体・税務署からの「ATMでの操作を指示する連絡」は詐欺だと判断してよい
この記事のまとめ
- 振り込め詐欺発覚直後は「振込先銀行への連絡(振り込め詐欺救済法)」「本人口座の出金制限依頼」「警察への被害届」の順で対応する
- 振り込め詐欺救済法(2008年施行)は振込先口座の凍結と被害回収を定めた制度。残金がない場合や電子マネー・ギフトカードには適用されない
- 電子マネー・ギフトカードでの被害は回収が困難。コンビニスタッフへの声かけで未然に防いでもらうことが有効
- 二次被害防止には「詐欺対策電話機への変更」「後見申立て」「通帳・カードの管理体制の構築」「ATM振込上限額の設定」が有効
- 相談先:振込先銀行・警察(#9110)・消費者ホットライン(188)・地域包括支援センター・法テラス
出典:犯罪利用預金口座等に係る資金による被害回復分配金の支払等に関する法律(振り込め詐欺救済法)第4条、民法第3条の2(意思能力)、消費者契約法第4条
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