認知症の親の家が売れない。不動産売却できない理由と3つの対策

親が認知症になると、自宅や収益不動産の売却が突然できなくなることがある。「不動産会社から連絡がきても、親が認知症だから売れない」という状況は珍しくない。不動産は親名義である限り、売買契約は本人の判断能力がある状態でなければ法律上有効に成立しない。診断後に動かないまま症状が進行すると、将来の売却・活用に成年後見か家族信託が必須になる。今の段階で何ができるかを整理する。

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認知症になった親の不動産が売れない法律上の理由

不動産売買契約は、売主(本人)が「何を・いくらで・誰に売るか」を理解した上で締結される必要がある。民法では、意思能力を持たない者が行った法律行為は無効と定めている(民法第3条の2)。

成年被後見人(法定後見が開始した人)の行った法律行為は取り消すことができる(民法第9条)。認知症によって判断能力が「著しく不十分」な状態(被補佐人・民法第11条以下)でも、不動産売買には家庭裁判所の許可が必要な場合がある。

要するに、認知症が進んだ状態では、①本人が直接契約する、②家族が無断で代理して契約する、のどちらも法律上の問題が生じる。正式な代理権を持つ成年後見人か、財産管理権限を持つ家族信託の受託者でなければ、不動産売買の手続きを進めることができない。

「家族がいれば売れる」は誤解。法的な代理権が必要

「子供が一緒に窓口に行けば大丈夫」という思い込みを持つ家族は少なくないが、これは事実ではない。

不動産売買の際、登記手続きには司法書士による「本人確認情報」の作成が必要だ。司法書士は本人に面談して判断能力を確認し、問題があると判断した場合は手続きを進められない。また、登記上の権利者(本人)が意思確認できない状態では、買主側の権利が保護されないリスクがあるため、不動産業者や金融機関も取引を拒否するケースが増えている。

家族が「代わりに」署名押印しても、それは法的な代理行為とはならず、後で無効・取消しの対象になる可能性がある。

認知症でも不動産を売却できる3つの方法

方法1:判断能力があるうちに売却する
最もシンプルな方法は、本人に判断能力があるうちに売却手続きを進めることだ。軽度認知症の段階では、司法書士の面談を通じて本人の意思確認が取れれば売買を進めることができる。診断を受けたが症状が軽い段階で「今すぐ売る必要はないが、将来売る可能性がある」と考えているなら、事前に不動産会社・司法書士に相談して準備を整えておく。

方法2:家族信託を設計して受託者に売却権限を持たせる
本人の判断能力があるうちに家族信託を設計し、不動産を信託財産に含める方法だ。受託者(家族)が信託契約の範囲内で不動産の売買・賃貸借・リフォームを行う権限を持てる。将来、本人の判断能力が低下した後でも、受託者が独自の判断で不動産を処分できる。

方法3:成年後見人を選任してもらう(法定後見)
判断能力が低下した後は法定後見を申立て、後見人が選任されれば後見人が不動産売却の手続きを行える。ただし、自宅(本人の居住用不動産)の売却には家庭裁判所の許可が必要(民法第859条の3)であり、必要性・代替手段の有無・本人の意向等の審査がある。施設入居や医療費のための売却は許可されることが多いが、単なる資産活用目的では許可が難しい場合もある。

認知症と不動産で頻繁に起きる3つのトラブル

トラブル1:売却のタイミングを逃す
「もう少し症状が落ち着いてから」と先延ばしにしているうちに判断能力が認められなくなり、売りたいタイミングで売れなくなるケースだ。不動産価格が高いうちに動こうとしても、後見申立てに数か月かかるため機動的に動けない。

トラブル2:収益不動産の管理が止まる
親名義の賃貸アパート・マンションの修繕・退去対応・賃料改定等の判断ができなくなり、管理が放置状態になるケースだ。入居者からの要望に対応できず、空室が増加するケースもある。

トラブル3:相続後に遺産分割できない
兄弟の中に認知症の人がいる場合、その人は法定代理人(後見人)なしに遺産分割協議に参加できない。後見人が選任されると、後見人は「本人の利益を最大化する」義務があるため、単純承認・特定の相続人に有利な分割を受け入れない可能性がある。

この記事のまとめ

  • 認知症が進むと不動産売買の意思確認ができず、司法書士・不動産業者が取引を拒否するケースが多い
  • 家族が無断で代理署名しても法的に無効・取消しリスクがある
  • 診断後すぐなら「本人が直接売る」か「家族信託で受託者に売却権限を持たせる」準備ができる
  • 判断能力が失われた後は法定後見申立てが必要で、自宅売却には家裁許可が必要
  • 収益不動産の管理停止・相続時の遺産分割問題も早期対策が有効

出典:民法第3条の2(意思能力)・第9条(成年被後見人の行為能力)・第859条の3(居住用不動産の処分)、法務省「成年後見制度について」

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この記事を書いた人

業種別のツールを、一人で作っています。開業前の収支シミュレーター、法定研修キット、資格の問題集。どれも、厚生労働省の告示や調査の原文を自分で確かめてから数字を組み込んでいます。使う人が「この数字、合ってるか」と不安になるようなツールは作りたくないので。

上場企業で20年間、営業ひとすじ。電話営業・インサイドセールスから、約70名のチームのマネジメントへ。現場で「根拠のない数字」が判断を狂わせる場面を見続けてきたせいか、ツールを作るときも出典を確かめずにはいられません。

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