認知症の親の銀行口座が凍結されると、「介護費が払えない」「施設の入居費が出せない」という緊急の事態に陥ることがある。口座凍結後に口座のお金を引き出す手段は限られる。法律上の「仮払い制度」は相続後の制度であり、生前の凍結には適用されない。生前の凍結後に動ける手段は、成年後見の申立てがほぼ唯一の正式なルートになる。その間の資金繰りをどう乗り越えるかが実務的な課題だ。
5問の診断で今すぐ危険度と損失額を確認できます。
▶ 認知症診断後 手続きナビ(無料診断)
「口座凍結後の仮払い」は相続後の制度で生前には使えない
2019年の民法改正で「遺産分割前の預貯金払戻し制度」が新設された(民法第909条の2)。これは相続発生後に相続人が遺産分割前でも各自の法定相続分に基づいて口座残高の一部を払い戻せる制度だ。
しかし、この制度は「相続開始後」つまり「本人の死亡後」に使える制度であり、本人が生存中の口座凍結には適用されない。生前の凍結への対処とは別の制度だ。
生前に凍結された口座から合法的にお金を引き出すには、後見人が選任されるか、銀行独自の対応窓口を通じた手続きが必要になる。
凍結後にお金を引き出す3つの方法と現実的な時間軸
方法1:成年後見の申立て(法定後見)
最も確実な手段だが、申立てから後見人選任まで通常2〜4か月かかる(最高裁判所統計)。審判前に後見人が動けるわけではないため、急いでいる場合の即応策にはならない。申立てには戸籍謄本・住民票・診断書(所定書式)・財産目録などの書類が必要で、司法書士または弁護士に依頼するのが通常だ。申立て費用は書類取得・弁護士・司法書士費用を含めると25万〜40万円程度かかる。
方法2:銀行窓口への個別相談
一部の銀行では、成年後見人が選任されていない段階でも、家族が所定の手続きを行えば一定範囲での払い戻しに応じることがある。ただし対応できる金額の上限や必要書類は銀行によって大きく異なる。まず取引銀行のコールセンターに「親が認知症で口座が動かせない状態になっている。緊急の介護費用が必要だが方法はあるか」と問い合わせて確認する。
方法3:一時的に家族が立て替える
後見人が選任されるまでの数か月間、介護費・医療費等を家族が立て替え、後見が開始した後に後見人を通じて精算する方法だ。領収書をすべて保管し、立て替えた事実を記録(メモ・家族間のメール等)に残すことが重要だ。正式な精算は後見が始まった後になる。
審判前の保全処分:急を要する場合の家裁への申立て
成年後見の申立て後、正式な審判が出るまでの間に「急いでお金が必要」という状況が生じた場合、家庭裁判所に「審判前の保全処分」を申立てる方法がある(家事事件手続法第105条)。
これは「正式な後見審判が出る前に、緊急の必要性があることを裁判所が認めた場合に、仮の措置として財産の管理権限を一時的に付与する」ものだ。施設入居費の支払いや緊急医療費への対応が典型的な適用場面になる。
申立ての要件として「急迫の事情があること」「後見等の開始申立てがすでに行われていること」が必要だ。まず正式な後見申立てを行い、その後に保全処分を申立てる流れになる。司法書士または弁護士に依頼するのが実務的だ。
凍結を防ぐために今すぐできる備え
口座凍結後の仮払いは、いずれの方法も時間・費用・手続きコストがかかる。最善策は凍結前に動くことだ。
今すぐできる備えは3つある。
- 代理人カードの申請:本人の同意のもとで、家族が入出金できるカードを発行する。今週中に銀行窓口に電話して手続き方法を確認する。
- 任意後見契約の締結:本人の判断能力があるうちに、将来の後見人を決めて公正証書で残す。司法書士または弁護士への相談から始める。
- 家族信託の設計:財産の管理権を信頼できる家族に移す。初期費用がかかるが、凍結後の手続きコストと比べると長期的に安くなるケースが多い。
この記事のまとめ
- 「預貯金払戻し制度」(2019年民法改正)は相続後の制度であり、生前の凍結には使えない
- 凍結後の正式な手段は法定後見申立てが原則(2〜4か月かかる)
- 急を要する場合は「審判前の保全処分」を家裁に申立てる方法がある(後見申立てが前提)
- 銀行独自の緊急対応がある場合もあるため、まず取引銀行に問い合わせる
- 最善策は凍結前に代理人カード・任意後見・家族信託のいずれかを備えること
出典:民法第909条の2(遺産分割前の預貯金払戻し)、家事事件手続法第105条(審判前の保全処分)、最高裁判所「成年後見関係事件の概況」(令和5年)
5問の診断で今すぐ危険度と損失額を確認できます。
▶ 認知症診断後 手続きナビ(無料診断)

コメント