小規模多機能型居宅介護の開業で日本政策金融公庫(公庫)への融資を申し込む場合、創業計画書の提出が求められます。公庫の創業計画書では「事業の見通し(月次の売上・費用の試算)」が核になります。小規模多機能に即した記入のポイントを整理します。
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公庫の創業計画書は「月次の売上と費用の見通し」が中心
日本政策金融公庫の創業計画書(国民生活事業・様式)は、次の主要項目で構成されています。
| 項目 | 小規模多機能の場合の記入の核 |
|---|---|
| 創業の動機 | なぜ小規模多機能型居宅介護を開業するか(地域の需要・経験など) |
| 経営者の略歴等 | 介護の実務経験・管理者研修の修了歴・業界での職歴 |
| 取扱商品・サービス | 通い・泊まり・訪問の3サービス、対象(要介護高齢者)、登録定員29人 |
| 取引先・販売先 | 利用者(高齢者・家族)、ケアマネジャーからの紹介ルート |
| 従業員 | 介護職員・看護職員・計画作成担当者の人数と役割 |
| 借入の状況 | 他の金融機関からの借入額 |
| 必要な資金と調達方法 | 開業費・物件費・設備費の明細と、融資額・自己資金の内訳 |
| 事業の見通し | 開業から1〜2年の月次売上・費用・利益の試算(←最も重要) |
「事業の見通し」欄:売上の計算方法
小規模多機能の月次売上は「登録者数 × 1人あたりの月額報酬」で計算します。月額報酬は要介護度と地域区分によって異なり、処遇改善加算などの各種加算を加えた額が実際の収入になります。
公庫の審査担当者が理解しやすいように、次の順で試算を示すと説明しやすくなります。
- 稼働率の仮定:開業1か月目・6か月目・1年目・2年目の登録者数の見込み(最大29人に対してどのペースで増やすか)
- 要介護度の構成:想定する利用者の平均要介護度(要介護3が中心なら月22,359単位が基本報酬、など)
- 地域区分:事業所の所在地の地域区分(1単位あたりの金額)
- 加算の見込み:処遇改善加算の区分、認知症加算の算定予定など
「収支シミュレーターで試算した数字をもとに記入する」という方法が実務的です。シミュレーターの無料版でも月次売上の概算が確認できます。
「事業の見通し」欄:費用の記入方法
費用は固定費と変動費に分けて整理します。
| 費用の区分 | 主な内訳 | 性質 |
|---|---|---|
| 人件費 | 介護職員・看護職員・計画作成担当者・管理者の給与・社会保険料 | 固定費(最大の費用) |
| 家賃・リース料 | 物件の賃料・リース車両の費用 | 固定費 |
| 水道光熱費 | 電気・ガス・水道 | 一部変動 |
| 食費・食材料費 | 通い・宿泊の食事提供にかかる実費 | 変動費(利用者数に応じる) |
| 消耗品費 | 介護用品・衛生用品・事務用品 | 変動費 |
| 借入返済(元本) | 公庫融資の元本返済分 | 固定(毎月払い) |
人件費は月次費用の最大の項目です。介護職員の常勤換算と人数・給与水準から概算し、社会保険料(法定福利費)を加えた額で計上します。
開業初期の赤字期間を正直に示す
小規模多機能型居宅介護は、登録者が満員(29人)になるまでに時間がかかります。開業直後は登録者が少なく、固定費(人件費・家賃など)が収入を上回る赤字の月が続きます。
公庫の審査で「最初から黒字になる計画」を作ることは現実的ではありません。むしろ「赤字がいつまで続き、いくら資金が必要か」を正確に試算して提示する方が審査担当者の信頼を得やすくなります。
試算で示すポイントは次の3点です。
- 月次赤字の累計がピークになる時期(月次赤字が最も大きくなるタイミング)
- 累積赤字の最大額(この額を賄える資金があるかが融資の目安)
- 月次黒字に転換する見込み時期(登録者が何人になれば黒字化するか)
必要な資金の算出方法
開業に必要な資金は「初期費用」と「開業後の運転資金」に分けます。
| 区分 | 主な内容 |
|---|---|
| 初期費用(開業前) | 物件の敷金・礼金・改装費・設備備品・車両・登記費用など |
| 運転資金(開業後) | 赤字が続く間の人件費・家賃等の固定費・仕入(食材等)の支払い |
運転資金は「月次赤字の累計ピーク額×1.2程度(安全マージン)」を目安にします。収支シミュレーターの「資金繰り」機能を使うと、月ごとのキャッシュ残高の推移から必要な手元資金が確認できます。
審査で評価されるポイント
公庫の審査担当者が特に見るのは次の点です。
- 根拠のある数字:介護保険の告示単価・地域の要介護者数などのデータに基づいていること
- 経営者の経験・資格:介護業界での実務経験・管理者研修の修了、計画作成担当者(介護支援専門員)の確保見込み
- 自己資金の状況:必要資金の10〜30%程度の自己資金があることが一般的な目安
- 市区町村の整備計画との整合性:開業予定地で指定の見込みがあること(公募で採択される見込み)
創業計画書は、開業の意欲と現実的な試算の両方を示す場です。楽観的すぎる数字より、保守的かつ根拠のある数字で作成することがポイントです。
公庫で使える主な融資制度
日本政策金融公庫の国民生活事業で、小規模多機能型居宅介護の開業に利用できる主な融資制度を整理します。
| 制度名 | 概要 | 上限額の目安 |
|---|---|---|
| 新規開業資金 | 新たに事業を開始する方または開業後7年以内の方向けの制度。創業計画書の提出が求められる | 7,200万円(うち運転資金4,800万円) |
| 女性、若者/シニア起業家支援資金 | 女性または35歳未満もしくは55歳以上の方が対象。新規開業資金と組み合わせられる | 7,200万円 |
| 介護・保育サービス向け特別融資 | 介護・保育分野で事業を営む方(または予定の方)向けの優遇制度。通常よりも低い利率での融資が受けられる場合がある | 制度により異なる |
自己資金が少ない場合でも、新規開業資金の制度では「創業時の借入限度額の特例」として一定の要件を満たせば自己資金の要件が緩和される場合があります。公庫の窓口で詳細を確認してください。
月次収支の試算例
事業の見通し欄に記入する月次試算のイメージです。開業1年目・2年目の2パターンで作成するのが一般的です。
| 時期 | 登録者数(想定) | 月次売上目安 | 月次費用目安 | 月次収支 |
|---|---|---|---|---|
| 開業1か月目 | 5人 | 約13万円 | 約120万円 | ▲約107万円 |
| 開業6か月目 | 15人 | 約40万円 | 約130万円 | ▲約90万円 |
| 開業1年目 | 22人 | 約58万円 | 約135万円 | ▲約77万円 |
| 開業2年目 | 27人 | 約72万円 | 約140万円 | ▲約68万円 |
| 黒字化(目安) | 29人(定員) | 約77万円 | 約145万円 | ▲まだ赤字(加算次第) |
※上記は概算のイメージです。実際の売上は地域区分・要介護度の構成・算定する加算によって大きく異なります。費用は人員体制・物件賃料によっても差があります。具体的な数字は収支シミュレーターで試算してください。
注目点として、小規模多機能は登録定員29人でも固定費の大きさから黒字化が難しいケースがあります。「定員満員で黒字化」ではなく「加算を積み上げて黒字化」の計画が現実的です。
赤字期間の試算の具体例
月次赤字が続く期間の累積赤字(資金需要のピーク)を試算しておくことが、公庫融資の審査で重要です。
- 上の試算例では、開業1か月目から月次赤字が100万円前後で続きます
- 登録者が安定する2年目まで、月次赤字の累計が2,000〜2,500万円程度になることも珍しくありません
- この「赤字累計のピーク額」が、必要な運転資金の基準になります
融資申込額は「初期費用(敷金・改装・設備・車両)」+「赤字累計のピーク額」を目安に設定します。初期費用だけを融資額にしてしまうと、開業後の運転資金が不足して資金ショートするリスクがあります。
自己資金が少ない場合の対策
公庫への融資申請で「自己資金が少ない」と悩む場合は、次の方法を検討できます。
- マル経融資(小規模事業者経営改善資金):商工会・商工会議所の経営指導を一定期間受けることで、公庫から無担保・無保証人で融資を受けられる制度。ただし、経営指導の実績が必要なため時間がかかります
- 都道府県・市区町村の創業補助金・助成金:自治体によって介護サービスの開業を支援する補助金があります
- 社会福祉法人・NPO法人格の取得:法人格によっては社会福祉施設設備費等補助金(都道府県)の対象になる場合があります
自己資金の額は審査の際に確認されますが、自己資金がゼロでも融資が受けられないわけではありません。自己資金の少なさを補う「業界経験」「具体的な利用者見込み」「計画の緻密さ」を前面に出すことで、審査の評価を高めることも可能です。
面談でよく聞かれる質問
公庫の融資申請では、創業計画書を提出した後に担当者との面談が行われます。次の質問が多くの面談で確認されます。
- 「なぜ小規模多機能型居宅介護を選んだのですか」:地域の需要・自分の経験と結びつけて説明することが重要です
- 「登録者を集める方法は」:ケアマネジャーへの営業方法・地域への告知方法を具体的に説明できるようにしておきます
- 「指定は取れる見通しですか」:市区町村の整備計画で枠があること・公募への応募状況を説明できるとよいです
- 「赤字の間はどうやって資金を賄いますか」:融資額と自己資金の合計で赤字期間の運転資金を賄える計算であることを示します
- 「計画作成担当者(介護支援専門員)の確保見込みは」:採用予定の人材・または自分が資格を持っているかを確認されます
収支シミュレーターとの組み合わせ
公庫の創業計画書に記入する「事業の見通し」の月次売上・費用は、収支シミュレーターを使って試算すると作業が効率化されます。シミュレーターでは次の試算が可能です。
- 登録者数・要介護度構成・地域区分を変えた場合の月次売上の変化
- 処遇改善加算・各種加算を算定した場合の売上への影響
- 人件費・家賃等の費用を変えた場合の月次収支・累積赤字の推移
- 黒字化に必要な登録者数と目標達成の時期
シミュレーターで試算した結果を、公庫の創業計画書の「事業の見通し」欄に転記することで、根拠のある数字を示すことができます。
創業計画書を提出する前のチェックリスト
公庫への申込前に、創業計画書の内容をチェックする項目をまとめます。
- 「事業の見通し」の売上は、告示単価をもとに計算しているか(「1人30万円」などの根拠のない数字になっていないか)
- 月次費用の人件費は、採用する職員の人数・給与・社会保険料を積み上げて計算しているか
- 赤字期間の累計額が、申込む融資額+自己資金でカバーできているか
- 市区町村の整備計画に整備枠があることを確認しているか
- 管理者研修の修了、または修了見込みが示せるか
- 計画作成担当者(介護支援専門員)の確保見込みが説明できるか
- 自己資金の出所(貯蓄・退職金等)の説明ができるか
市区町村の整備計画との事前調整
小規模多機能型居宅介護は、市区町村の第9期介護保険事業計画に整備目標数が設定されています。整備枠に空きがない地域では、新規の指定申請ができません。公庫に創業計画書を提出する前に、次の確認を行うことをお勧めします。
- 開業予定の市区町村で小規模多機能型居宅介護の整備枠があるかどうか(市区町村の介護保険担当窓口に確認)
- 公募のスケジュール(公募の時期・選考基準・結果通知の目安)
- 公募への応募に必要な書類(法人格の有無・事業実績の要件など)
公庫への相談・融資申込のタイミングとしては、「公募に応募し採択の見込みが立ってから」が実際的です。指定が下りる前の段階から準備を進めることは可能ですが、採択前に大きな費用をかけることはリスクになります。公庫の担当者とも「指定が下りる見込みの段階での申込」であることを前提に相談するとよいでしょう。
参考・出典
- 日本政策金融公庫「創業計画書」様式(国民生活事業)
- 指定地域密着型サービスに要する費用の額の算定に関する基準(平成18年厚生労働省告示第126号):報酬単価の確認
公庫の融資制度・書類の様式は変更されることがあります。申込前に最新の様式をご確認ください。
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