2019年2月の安衛則改正(第36条第41号の追加)により、フルハーネス型墜落制止用器具を使用して行う業務に特別教育が義務付けられました。既存の作業員への経過措置は2022年1月1日に終了しており、現在、経験の長さにかかわらず未受講の状態でこの作業を行わせることはできません。修了証がなければ現場に入れないケースも増えています。今すぐ確認しておくべき3点を整理します。
確認すべき第1点:経過措置は2022年1月に終わっている
フルハーネス型安全帯(正式名称:フルハーネス型墜落制止用器具)の特別教育義務は、2019年2月1日施行の安衛則改正で安衛則第36条第41号に追加されました。この改正は「安全帯」という名称を廃止して「墜落制止用器具」に変更し、フルハーネス型の使用を原則とする方向性を法令に明記したものです。
改正施行時点で既に対象業務に従事していた作業員については、2022年1月1日まで特別教育を受けることなく作業を継続できる経過措置が設けられていました。この経過措置は2022年1月1日をもって終了しています。
2022年1月1日以降、経験年数・在職年数にかかわらず、フルハーネス型特別教育の修了証なしで対象業務に就かせることは違法です。「昔から現場にいるベテランだから受けていないはずがない」という認識は事実誤認になり得ます。特に、2019年以前から同じ会社で働いているベテラン作業員について、修了証の有無を確認していない事業所は少なくありません。今すぐ確認する必要があります。
どの作業が対象になるか
安衛則第36条第41号が定める特別教育の対象業務は、次の2つの条件を両方満たす作業です。
- 高さが2m以上の箇所での作業であること
- 作業床を設けることが困難な場所での作業であること
ここでいう「作業床」とは、足場・作業台・ゴンドラなど安定した作業面を指します。仮設足場が設置されていればそこが作業床になりますが、屋根・柱・梁の上での作業、鉄骨建て方、電気工事など、安定した作業床を確保できない場面ではフルハーネス型の使用が前提となります。
「うちの現場では足場を必ず組んでいるから関係ない」とは言い切れません。足場の設置が完了する前の鉄骨建て方段階、足場解体後の仕上げ段階、足場が届かない狭小スペースでの作業など、同じ現場の中でも対象となる場面が混在します。
確認すべき第2点:高さ6.75mを超える箇所ではフルハーネス型が原則になる
特別教育の対象業務かどうかは「高さ2m以上・作業床なし」で判断しますが、使用する器具の種類については別の基準があります。
厚生労働省の通達(基発0125第2号・平成31年1月25日)は、高さの区分に応じて使用できる器具を次のように定めています。
| 高さの区分 | 使用できる器具 |
|---|---|
| 2m以上6.75m以下(建設作業等では5m以下) | フルハーネス型・胴ベルト型のいずれも使用可(ただしフルハーネス型が推奨) |
| 6.75mを超える箇所(建設作業等では5mを超える箇所) | フルハーネス型のみ。胴ベルト型は原則使用不可 |
建設作業等では、高さ5mを超える箇所ではフルハーネス型が原則となります(前掲通達)。一般的な建設現場では2階床面が地上から3〜4m、3階床面が6〜7mに相当することが多く、3階以上での高所作業ではほぼ自動的にフルハーネス型が必要になります。
なお、6.75mという数値は、ランヤード(命綱)の最大の自由落下距離と人体への衝撃を考慮した安全係数から算出されたものです。この高さを超えると、胴ベルト型では落下時に腹部・腰部への致命的な衝撃が生じるリスクが高まるため、フルハーネス型に限定されています(前掲通達)。
特別教育の受講要件と使用器具の要件は別の話です。「胴ベルト型しか使っていない」からといって特別教育が不要になるわけではなく、対象業務(高さ2m以上・作業床なし)に従事する以上は受講が必要です。
確認すべき第3点:特別教育のカリキュラムと修了証の保管
フルハーネス型安全帯の特別教育のカリキュラムは、厚生労働省告示(安全帯の使用等に関する特別教育規程)に基づく学科と実技で構成されています。科目と時間の内訳は次のとおりです。
| 区分 | 科目 | 時間 |
|---|---|---|
| 学科 | 墜落制止用器具に関する知識 | 1時間 |
| 墜落制止用器具の使用法等 | 3時間 | |
| 労働災害の防止に関する知識 | 1.5時間 | |
| 関係法令 | 0.5時間 | |
| 実技 | 墜落制止用器具の使用方法等 | 1.5時間 |
| 合計 | 7.5時間 |
学科6時間・実技1.5時間の合計7.5時間が標準的な受講時間です。
社内実施と外部委託の選択
特別教育は、事業者が自社で実施しても、登録教習機関等に委託して実施してもどちらでも問題ありません。ただし社内実施の場合は、担当者が「当該特別教育を行う十分な知識・技能を有していること」が条件です(安衛法第59条第3項の趣旨)。フルハーネス型安全帯の特別教育を社内で実施するには、担当者自身が同特別教育を修了しているか、それと同等以上の知識・技能を持っていることが必要です。
外部委託先としては、建設業労働災害防止協会(建災防)、各都道府県の安全衛生サービスセンター、登録教習機関などが一般的です。費用は機関によって異なりますが、数千円〜1万円台が目安です。外部機関で受講した場合は、機関から修了証が発行されます。
旧来の「安全帯」の特別教育との関係
2019年の改正以前に「安全帯の使用に関する特別教育」を修了していた作業員については、受けた教育の内容と現行の「墜落制止用器具」の特別教育要件が一致しているかを確認する必要があります。
改正前の教育でフルハーネス型の取扱いを含む内容を受講していた場合は、差分補完の教育を受ければ現行要件を満たすことができます(厚生労働省の通達で経過措置として認められた取り扱い)。ただしこの経過措置の適用は経過措置期間中(2022年1月1日まで)の話であり、現在は原則として現行カリキュラムを修了している修了証が必要です。古い修了証しかない方については、受けた内容と日付を確認したうえで、不足があれば再受講または差分受講を手配することをお勧めします。
修了証の有無と記録の整備
修了証は、受講者が特別教育を修了したことを証明する書類です。法令上は「事業者が記録を作成・保存する」義務(安衛則第38条)と、「受講者個人が修了証を携帯・保管する」という実務上の慣行の両方があります。
建設現場では元請けが入場時に修了証の確認を行うことが一般化しており、修了証がなければ現場に入れないという運用も珍しくありません。特別教育を実施した際は、次の情報を記録に残し、3年間保存してください(安衛則第38条)。
- 受講者の氏名
- 教育した事項(科目・内容)
- 教育の実施年月日
- 担当講師の氏名または委託先機関名
社内記録とは別に、受講者本人への修了証の交付も行ってください。修了証の様式に法令上の決まりはありませんが、少なくとも「受講者氏名」「受講科目」「修了年月日」「事業者名(または委託機関名)」が記載されていれば、実務上の確認に耐えられます。
未受講のまま就かせた場合の法的リスク
特別教育の実施義務に違反して、未受講の労働者を対象業務に就かせた場合には、罰則があります。労働安全衛生法第119条は、第59条第3項(特別教育の義務)に違反した事業者に対して「6か月以下の懲役または50万円以下の罰金」を科すと定めています。
罰則だけが問題なのではありません。未受講の作業員が高所作業中に墜落した場合、事業者は「安全配慮義務を怠った」として民事上の損害賠償責任を問われることになります。建設業での墜落・転落は労働災害の中でも件数・死亡者数ともに多く、フルハーネス特別教育の未実施はそのリスクと直結します。
「特別教育を受けさせる手間と費用がかかる」と感じる場合もあるかもしれませんが、事故が起きた際の損害・制裁・現場停止の代償と比較すれば、事前の教育実施のコストは小さいと言えます。新規採用・現場への新規投入のタイミングで、受講状況の確認と手配を仕組み化しておくことをお勧めします。
まとめ
フルハーネス型安全帯の特別教育について、今すぐ確認すべき3点は次のとおりです。
- 経過措置は2022年1月1日に終了している:経験年数にかかわらず、未受講の作業員を対象業務に就かせることはできません。
- 高さ6.75m超(建設作業等では5m超)ではフルハーネス型が原則となる:胴ベルト型の使用は高さによって制限されます(厚生労働省 基発0125第2号)。
- カリキュラムは学科6時間・実技1.5時間の合計7.5時間:修了後は修了証を交付し、3年間の記録保存と受講者への携帯保管の両方を行います(安衛則第38条)。
特別教育の実施と記録管理は、現場での安全確保と法令遵守の両面で欠かせない業務です。在職中の作業員の受講状況を今一度確認し、不足があれば早めに受講を手配してください。
建設業の安全衛生教育の全体像については、ハブ記事「建設業の安全衛生教育、何が義務で何回必要か。雇い入れ・特別教育・職長の3層構造を整理する」(/kensetsu-kenshu-gimu/)もあわせてご覧ください。


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