足場の組立て・解体・変更を行う作業員全員に必要なのが「足場の組立て等の業務に係る特別教育」(労働安全衛生規則第36条第39号)です。一方、現場で「足場の組立て等作業主任者」として選任されるには、作業主任者技能講習の修了が必要です(労働安全衛生法第14条・労働安全衛生法施行令第6条第15号の2)。この2つは制度の目的も取得方法も異なる別物であり、作業主任者の資格を持っていても特別教育を受けていない場合は、特別教育が必要な業務(高さ5メートル以上の足場の組立て等)に就かせることができません。現場でこの2つを混同している事例は多く、未受講のまま作業に就かせることで法違反となるリスクがあります。
特別教育が必要な「足場の組立て等の業務」の定義
安衛則第36条第39号は、次の業務を特別教育の対象として規定しています。
足場の組立て、解体又は変更の作業に係る業務(地上又は堅固な床上における補助作業の業務を除く。)(労働安全衛生規則第36条第39号 e-Gov法令検索より)
高さの制限については、安衛法施行令第6条第15号の2・安衛則第565条により「高さ五メートル以上の足場の組立て、解体又は変更の作業については作業主任者の選任が必要」とされている一方、特別教育の対象となる業務については安衛則第36条第39号が「高さの制限」を明示していません。つまり、特別教育については高さ5メートル未満の足場であっても対象になります。実務的には、すべての高さの足場作業について特別教育を受けた作業員が従事することが推奨されています。
対象となる足場の種類は広く、わく組足場・単管足場・くさび緊結式足場(ビケ足場)・移動式足場(ローリングタワー)など、現場でよく使われるものはほぼすべて含まれます。「組立て・解体・変更」の全ての作業が対象であり、たとえばパーツを1か所外すだけの部分変更も「変更の作業」として特別教育が必要な業務に含まれます。
ただし、「地上又は堅固な床上における補助作業」は除外されています。これは、足場の組立て・解体・変更を直接行わず、地上で材料を手渡すだけの補助的な作業を指します。
出典:労働安全衛生規則第36条第39号(e-Gov法令検索で原文を確認)
特別教育と作業主任者の違い
建設現場でしばしば混同されるのが「特別教育」と「作業主任者」です。この2つは全く異なる制度です。
| 足場の組立て等の業務に係る特別教育 | 足場の組立て等作業主任者 | |
|---|---|---|
| 根拠条文 | 安衛則第36条第39号 | 安衛法第14条・令第6条第15号の2 |
| 誰が対象 | 足場の組立て・解体・変更の作業に従事するすべての作業員 | 高さ5メートル以上の足場の組立て・解体・変更作業を行う際に事業者が選任する責任者(1名以上) |
| 取得方法 | 登録教習機関や自社での特別教育を修了(学科+実技) | 都道府県労働局長の登録を受けた機関が実施する技能講習の修了 |
| 資格の性質 | 個人の修了証明(作業従事の前提条件) | 作業指揮・点検の責任者としての選任(現場ごとに事業者が選任) |
| 代替可否 | 作業主任者資格で代替できない | 特別教育で代替できない |
最も重要なのは、「作業主任者の資格(技能講習修了)があれば特別教育は不要」という解釈が誤りである点です。特別教育は作業に従事するすべての作業員に求められる修了証明であり、作業主任者の資格とは独立した要件です。
逆に、特別教育を修了した作業員を作業主任者として選任できるかというと、これも不可です。作業主任者は技能講習(特別教育よりも長時間・高度な内容)の修了者の中から事業者が選任します。
現場で「あの人は作業主任者だから特別教育は大丈夫」という判断で未受講の作業員を従事させると、安衛法違反となります。
特別教育の科目と時間数
足場の組立て等の業務に係る特別教育の科目と時間数は、「足場の組立て等の業務に係る特別教育規程」(平成27年厚生労働省告示第311号)で定められています。
学科教育は以下の3科目です。
- 足場及び作業の方法に関する知識(3時間):足場の種類・材料・構造、組立て・解体・変更の方法、点検の方法
- 工事用設備、機械、器具、作業環境等に関する知識(2時間):工具・用具の取扱い、作業環境の整備
- 労働災害の防止に関する知識(2時間):墜落・転落・崩壊の防止措置、関係法令
学科の合計は7時間です。
実技教育は以下の1科目です。
- 足場の組立て、解体又は変更の作業(3時間):実際の足場材料を使った組立て・解体・変更の実技
学科7時間+実技3時間で、合計10時間が特別教育の標準的な時間数です。
これらの時間数は「最低基準」ではなく、告示が定める標準です。ただし、「十分な知識及び技能を有していると認められる者」については、科目の全部または一部を省略できる規定があります。省略の判断は事業者が根拠をもって行う必要があり、単なる経験年数だけでは省略の根拠にはなりません。
出典:足場の組立て等の業務に係る特別教育規程(平成27年厚生労働省告示第311号 e-Gov法令検索で原文を確認)
社内で特別教育を実施する場合の留意点
特別教育は、登録教習機関(建設業労働災害防止協会・中央労働災害防止協会等)に委託する方法と、事業者が自社内で実施する方法があります。自社で実施することは法令上認められていますが、いくつかの条件を満たす必要があります。
講師については、安衛則第36条に基づく特別教育規程が定める科目の内容を十分に理解し、実技においては実際の足場作業の指導ができる知識・経験を有する者が担当することが求められます。「技能講習の修了者が講師になれる」という明示的な規定はありませんが、作業主任者技能講習修了者が講師として指導に当たるケースが実務上多くみられます。
自社実施の場合は、教育計画・教材・実施記録をしっかり整備することが重要です。安衛則第38条が定める記録(氏名・生年月日・教育年月日・科目・時間・担当者)を3年間保存する義務は、自社実施であっても変わりません。
また、学科教育のみを自社で実施し、実技は登録教習機関で受講するという分担も可能です。実技設備が整っていない場合や、専門的な指導が必要な場合には、実技部分だけ外部委託する選択肢があります。
2015年施行前から足場作業に従事している作業員への対応
安衛則第36条第39号は、平成27年(2015年)7月1日に施行されました。それ以前は、足場の組立て・解体・変更の業務について、現在のような特別教育の義務はありませんでした。
施行後に新たに足場作業に就く作業員は特別教育の修了が必要であることは明確ですが、施行前から継続して足場作業に従事してきた作業員についてはどう扱うかという問題があります。
結論として、施行前から従事していた作業員に対する「みなし修了」の規定は存在しません。厚生労働省の通達でも、施行日以降に新たに足場の組立て等の業務に就く者については特別教育が必要であることが示されており、既存の作業員が当然に特別教育を修了しているとは扱われません。
施行から10年以上が経過した現在も、雇用形態や職歴の都合で特別教育の記録が不明確な作業員がいる場合があります。特別教育の受講記録がない場合は、改めて特別教育を受講させるか、自社内での実施記録を整備することが必要です。「昔から足場をやっているから大丈夫」という口頭での確認だけでは、労働基準監督署の調査に対応できません。
特別教育修了証の形式と元請への提出
特別教育を修了した際に発行される修了証(特別教育修了証)には、法令上の厳密な書式が指定されているわけではありません。しかし、安衛則第38条が定める記録事項(氏名・生年月日・教育の年月日・教育の内容・講師名等)を網羅した内容であることが前提となります。
登録教習機関が発行する修了証には、機関のロゴ・科目・時間・修了年月日・発行番号が記載されており、一般的に信頼性の高い証明として元請に受け入れられます。自社が発行する修了証の場合は、教育実施記録(台帳)を併せて整備し、問い合わせがあった際に根拠を示せるようにしておくことが重要です。
元請事業者(特定元方事業者)は、下請け作業員が特別教育を修了しているかを確認する義務(安衛法第29条・第30条に基づく関係請負人への指導)を負っています。多くの元請は、足場作業に従事する作業員の特別教育修了証のコピー提出を、現場入場の条件としています。
自社実施の場合は、修了証に加えて「教育実施記録(教育実施年月日・科目・時間・講師名・受講者氏名の一覧)」を用意しておくと、元請への提出に対応しやすくなります。
まとめ
足場の組立て等の業務に係る特別教育(安衛則第36条第39号)と、足場の組立て等作業主任者(安衛法第14条)は、それぞれ独立した制度です。作業主任者の資格があっても特別教育の受講義務はなくならず、特別教育を修了しても作業主任者に選任できるわけではありません。
特別教育の内容は平成27年厚生労働省告示第311号が定める学科3科目(7時間)・実技1科目(3時間)の合計10時間が基準です。自社実施も認められていますが、記録の整備(3年保存)と講師の適切な選定が必要です。2015年施行前から足場作業に従事していた作業員についても、みなし修了の規定はないため、記録を確認したうえで対応することが求められます。
元請への提出を求められる修了証は、安衛則第38条の記録事項を満たした形式で整備しておくことで、現場入場の手続きをスムーズに進められます。


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