社員にITパスポートを取らせたい。会社での位置づけと費用負担の考え方

社員にITパスポートを取らせたい|会社での位置づけと費用負担 資格

社員にITパスポートを取らせることは、DX推進・情報セキュリティ意識の底上げ・全社員への共通IT語彙の浸透といった目的に向いています。受験料は1人7,500円(税込)で、全国のテストセンターでCBT方式により随時受験できます。ただし会社による団体申し込みや一括払いの仕組みはなく、社員が個別に申し込む形式です。費用負担・業務命令の有無・合格率を上げるための支援方法を整理しておくと、社内展開がスムーズになります。

ITパスポートが社内研修の対象として選ばれる理由

ITパスポートは、IT専門職でない社員に対してITリテラシーの基礎を証明できる国家資格(情報処理技術者試験)のひとつです。経済産業省とデジタル庁(2025年4月以降共管)が所管するIPAが運営しています。

全社員対象の研修目的としてITパスポートが選ばれる場面には、次のような背景があります。

  • 社内DX推進の一環として、IT語彙・概念の共通化が必要になっている
  • 情報セキュリティインシデントへの対策として、全員がセキュリティ知識を持つ状態を作りたい
  • 国家資格という客観的な基準で社員のITスキルを測りたい
  • 採用・評価制度にITリテラシーの基準を組み込みたい

出題範囲は3分野です。ストラテジ系(経営・法律・マーケティング、35%)・マネジメント系(プロジェクト管理・システム監査、20%)・テクノロジ系(IT用語・ネットワーク・セキュリティ・計算問題、45%)で構成されています。IT専門職だけでなく営業・経理・総務・管理職など幅広い職種に関係する内容が含まれている点が、全社展開に向いている理由のひとつです。

メリット デメリット・注意点
国家資格(情報処理技術者試験)で客観的な基準がある IT専門職には物足りない難易度。基本情報技術者試験以上が求められる職種には別途対応が必要
受験料7,500円(税込)と費用が比較的小さい 全国テストセンターでの受験のため、社員が業務時間内に受けにくい場合がある
CBT方式で随時受験可能。社員ごとに時期を分散できる 団体申し込みや一括払いの仕組みがなく、個別申し込みが必要
合格率は約48〜49%(令和7〜8年度)。準備次第で合格できる水準 準備なしでは落ちる。社員の学習を支援しないと合格率が下がる
合格証書が発行され、社員の取得状況を証明できる 資格の有効期限はないが、2027年度以降に新試験が開始予定(2026年10月時点)

費用負担のパターンは3つに整理できる

会社がITパスポートの取得を推進する場合、費用負担の方法はいくつかのパターンに分かれます。どのパターンを選ぶかは、対象範囲・強制度合い・コスト管理の観点で決まります。

パターン 内容 向いているケース
全額会社負担(受験前に支給) 受験料を会社が全額負担。合否にかかわらず支払う 業務命令として受験を義務付ける場合。社員への負担をゼロにしたい場合
合格時のみ支給(成果払い) 受験料を一時立替・合格後に返還、または合格報奨金として支給 受験を奨励するが強制はしない場合。自主性を促しながらインセンティブを設けたい場合
自己負担(受験奨励のみ) 費用は個人負担。会社は受験機会の案内・教材提供・勉強時間の確保を支援する 任意参加として展開する場合。費用を抑えながら取得を促したい場合

業務命令として受験を義務付ける場合、費用は会社が負担するのが一般的です。自己負担のまま業務命令とすることには、労働法上の問題が生じる場合があります。社労士や顧問弁護士への確認をお勧めします。

受験料(7,500円)のほかに、教材費(市販のテキスト1,000〜2,000円程度)・学習用問題集や対策ツールの費用が追加でかかる場合があります。受験料と合わせて1人あたりの総コストを試算した上で方針を決めると、社内稟議が通りやすくなります。

合格率を上げるには会社側の支援が効く

ITパスポートの合格率は令和7年度48.6%・令和8年度4〜8月49.3%(IPA統計情報)です。準備なしで受けると落ちる水準のため、会社が受験を推進するなら学習支援とあわせて実施するほうが合格率が上がります。

会社側でできる支援の例を挙げます。

  • 教材の用意。市販のテキスト・問題集を共有ストックとして用意し、社員が借りられる環境を作ります。全員分購入するよりも共有のほうがコストを抑えられます。
  • 学習時間の確保。業務時間内に週1回・30分程度の学習時間を設けると、学習が継続しやすくなります。完全に業務外に委ねると進捗にばらつきが出やすいです。
  • 勉強会・社内学習グループ。同時期に受験を目指す社員が複数いる場合、週次で問題を持ち寄って解く場を作ると進捗管理と相互サポートができます。
  • 受験目標日の設定。CBT方式で随時受験できるため、目標日を設定しないまま放置すると受験自体が先延ばしになるケースがあります。入社後◯ヶ月以内・四半期内など期限を設けると取得率が上がります。
  • 合格状況の管理。合格証書の提出を依頼し、取得者リストを人事側で管理します。合格率の集計は、次年度の支援方針の見直しに使えます。

試験は分野ごとに300点以上の足切りがあるため(総合600点以上・各分野300点以上、1,000点満点)、IT未経験者がテクノロジ系を苦手なまま受験すると足切りに当たるリスクがあります。学習支援を行う場合、テクノロジ系の用語・計算問題に慣れる機会を特に設けると効果的です。

資格手当・インセンティブの考え方

ITパスポートの合格に対して資格手当を設定している会社はあります。金額・支給形態・支給条件は会社によって異なります。月次で支給するケースと、一時金として支給するケースがあります。

資格手当を設定する場合のポイントを整理します。

  • 支給条件の明確化。合格証書の提出を条件とします。合格発表は受験月の翌月のため、提出期限に余裕を持たせます。
  • 他の資格との整合性。基本情報技術者試験・応用情報技術者試験など上位資格との金額バランスを検討します。ITパスポートを上位資格より高く設定すると、上位資格の取得意欲に影響する場合があります。
  • 費用負担との二重取りを整理する。受験料を会社が全額負担している場合、合格報奨金と合わせると実質的にプラスになります。それが意図通りかを確認します。
  • 退職時の返還規定。一時金を支給した後、短期間で退職する社員への対応をあらかじめ就業規則に明記しておくと後のトラブルを防げます。

資格手当の水準について一般的な相場を断言することはできません。同業他社や人事担当者向けの情報交換の場を参考に、自社の給与水準・資格取得への期待度と合わせて検討してください。

人材開発支援助成金の活用可能性

ITパスポートの取得を支援する費用(受験料・教材費・学習時間に相当する賃金など)は、人材開発支援助成金(厚生労働省)の対象になりうるケースがあります。

人材開発支援助成金は、事業主が社員の職業能力開発のために行う教育訓練や資格取得支援に対して費用の一部を助成する制度です。ただし、助成の対象になるかどうかは訓練の種類・実施方法・対象者・申請手続きの要件を満たす必要があります。

活用を検討する場合の確認ポイントです。

  • 対象コースが「人材開発支援助成金の対象訓練」に該当するかを確認する(厚生労働省の公式ページで要件を確認)
  • 訓練計画の事前届出が必要な場合があるため、実施前に管轄のハローワークまたは都道府県労働局に相談する
  • 助成率・助成額は事業主の規模(中小企業・大企業)によって異なる
  • OJT(業務命令での自己学習)とOFF-JT(業務外の研修・講座)では対象の扱いが変わるケースがある

助成金の申請には手続きコストがかかります。受験料7,500円の助成を受けるために多くの時間を要する場合、費用対効果が合わないことがあります。社員数が多い場合や、継続的に毎年受験者が出る場合は検討する価値があります。詳細は社会保険労務士や最寄りのハローワークへの相談をお勧めします。

2027年度の新試験と取得推進のタイミング

IPAは2027年度から現行のITパスポート試験に代わる新試験を開始する予定を発表しています(2026年3月31日プレス発表)。現行の試験は2026年12月27日が最後の試験日とされています(2026年10月時点)。

現行試験の合格は無効にはなりません(IPA公式FAQ)。ただし新試験の合格証書とは区別される可能性があります。

社内研修の観点からは、次のように考えると整理しやすいです。

  • 2026年内に受験を完了させるなら、今がタイミング。現行試験は12月27日が最後です。全社員対象で年内完了を目指すなら、受験申し込みから逆算して学習計画を立てます。
  • 2027年以降の採用・評価基準には新試験の動向を織り込む。新試験の名称・出題範囲・合格基準は2026年10月時点で確定していません。今後のIPA発表を確認しながら方針を更新します。
  • 現行合格者を評価する基準は変えなくてよい。現行の合格は継続して有効なため、既存の取得者の扱いを変更する必要はありません。

中小企業でIT専任部門がなく総務・経理が兼任しているケースの推進方法は中小企業での活用で詳しく解説しています。

まとめ:社内展開のポイント

社員にITパスポートを取得させる取り組みを進める場合のポイントをまとめます。

  • 費用負担のパターン(全額負担・合格時支給・自己負担)を業務命令の有無と合わせて決める
  • 団体申し込みの仕組みはなく、社員が個別に申し込む形式。人事側は受験申し込みの案内・合格証書の回収を担当する
  • 合格率は約49%。準備なしでは落ちるため、教材・学習時間・目標日の設定など会社側の支援が合格率に影響する
  • 受験料7,500円のほかに教材費がかかる。人材開発支援助成金の活用可能性を確認しておく
  • 2026年12月27日が現行試験の最終受験日(2026年10月時点)。年内取得を目指すなら今から着手が必要

社員の学習支援に対策問題集を活用する場合は、こちらもご覧ください。

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この記事を書いた人

業種別のツールを、一人で作っています。開業前の収支シミュレーター、法定研修キット、資格の問題集。どれも、厚生労働省の告示や調査の原文を自分で確かめてから数字を組み込んでいます。使う人が「この数字、合ってるか」と不安になるようなツールは作りたくないので。

上場企業で20年間、営業ひとすじ。電話営業・インサイドセールスから、約70名のチームのマネジメントへ。現場で「根拠のない数字」が判断を狂わせる場面を見続けてきたせいか、ツールを作るときも出典を確かめずにはいられません。

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