建設の一人親方の現場は、月によって仕事の量が揃いません。3月の年度末は複数の現場が重なり、6月の梅雨から7月は雨天で工程が遅れ、1月から2月は新規の現場が立ち上がらない。月の請求額が100万円を超えることもあれば、40万円に届かない月もある。
収入がこれだけ変動すると、消費税の積立を「毎月一定額」にしようとしても合いません。繁忙月に多く受け取って閑散月に少ない。この現実に合わせた積立の考え方を、消費税の試算と一緒に整理します。
この記事の対象は、インボイスに登録している一人親方(個人事業主)です。会社に雇用されている職人(雇用契約)は給与所得者のため、消費税の申告は必要ありません。
消費税はいつ払うのか
消費税の申告と納税は、原則として翌年の3月31日までです。今年(2027年)中に売り上げた消費税は、2028年3月に払います。
前年の年間消費税が48万円を超えると、翌年8月に「中間納付」が入ります。前年の年税額の半分を前払いします。年間の請求額が大きい繁忙な一人親方ほど、この中間納付に備えておく必要があります。
積立の目的は「3月の申告時に払えない状態を防ぐこと」と「8月の中間納付に備えること」の2つです。この2回のために、受け取った請求額から少しずつ分けておきます。
2027年以降、消費税はいくらになるのか
インボイスに登録している一人親方が使える特例は、次のとおり変わります。
- 2026年末まで:2割特例(受取消費税の20%を納付)
- 2027年・2028年:3割特例(受取消費税の30%を納付)
- 2029年以降:本則課税または簡易課税の選択
月の平均請求額が税込80万円の場合の試算です。税込80万円の消費税分は約7万2,727円(税抜72万7,273円の10%)です。
| 年分 | 制度 | 計算のしかた(月平均) | 1年で納める消費税(試算) | 1か月あたり |
|---|---|---|---|---|
| 2026年分 | 2割特例 | 7万2,727円×20% | 約17万5千円 | 約1万4,500円 |
| 2027年・2028年分 | 3割特例 | 7万2,727円×30% | 約26万2千円 | 約2万1,800円 |
| 2029年分から | 簡易課税・第3種 | 7万2,727円×(1-70%) | 約26万2千円 | 約2万1,800円 |
(年間請求額が均等月80万円・税込の仮定。実際は繁閑による変動があります。)
建設業の一人親方は2029年以降も負担が増えない
表を見ると、3割特例が終わる2029年以降の試算額が3割特例と同じになっています。これは偶然ではなく、建設業の簡易課税の区分が理由です。
建設業の一人親方が属する簡易課税の区分は第3種(みなし仕入率70%)です(国税庁タックスアンサーNo.6509)。受取消費税のうち70%は仕入に使ったとみなして控除し、残り30%を納付します。この30%という数字が、3割特例(30%)と一致します。
美容師・軽貨物ドライバー・フリーランスエンジニアなどが属する第5種(サービス業・運輸業)は、みなし仕入率が50%のため、納付は受取消費税の50%です。これは3割特例(30%)より大きく増えます。
建設業の場合は、簡易課税を選択すれば2029年以降も3割特例と同じ30%負担のまま維持できます。「3割特例が終わったら消費税が跳ね上がる」という心配は、他の業種と比べて建設業では小さい。これが建設業の一人親方固有のポイントです。
ただし簡易課税を選択するためには、前年の12月31日までに「消費税簡易課税制度選択届出書」を税務署に提出する必要があります。2029年分から使うには、2028年12月31日までの届出が必要です。
なお、元請から材料・部品を支給されて手間賃だけを受け取る仕事の場合は第4種(みなし仕入率60%)に該当します(消費税法基本通達13-2-7)。第4種では納付は受取消費税の40%になります。自分の仕事の内容が第3種か第4種かは、税務署や税理士に確認してください。
現場が止まる月がある場合の積立の実践
積立を「毎月一定額」にすると、繁忙月に残りすぎて閑散月に不足するという逆転が起きます。収入に連動させることが重要です。
方法1:請求書を送った日に一定割合を移す
請求書を発行したその日、または入金確認の翌日に、請求額(税込)の3%を別口座に移します。
3割特例の2027年・2028年は、受取消費税の30%が納付額です。請求額(税込)に対する消費税の比率は約9.09%。その30%なので、請求額(税込)の約2.7%です。3%を積み立てれば、3割特例の期間は十分に対応できます。2029年以降も簡易課税第3種を選べば同じ3%で対応できます。
繁忙月に請求が多ければ積立も多く、閑散月に請求が少なければ積立も少なくなる。自然に収入に連動します。
方法2:月末に実際の消費税を計算して移す
より精密にやりたい場合は、月の締め後に実際の請求合計から消費税分を計算して移します。
2027年の計算例:月合計請求額(税込)÷1.1×0.1=消費税分。その30%を別口座に移す。
月末にまとめて計算するため手間はかかりますが、積み立てすぎることがありません。
閑散月の積立が少なくても問題ない理由
積立は「その月に払う」ものではなく、「年一回(と中間納付一回)の申告に備える」ものです。繁忙月に多く積み立てた分が、閑散月の少ない積立を補います。年間を通じて「積立合計≒年間の納付予定額」であれば、月ごとのばらつきは問題ありません。
中間納付に備える
前年の年間消費税が48万円を超えると、翌年8月に中間納付が入ります。前年の年税額の半分が前払いになります。
月平均80万円の請求(年間960万円)の場合、年間消費税は約26万2千円(3割特例)。この年税額なら翌年8月に中間納付は発生しません(48万円以下)。
ただし、繁忙な年に年間請求額が1,000万円を大きく超えると、翌年8月に中間納付が発生します。このタイミングを年初に把握して、積立の中から8月分を取り分けておく方法が有効です。
簡易課税の届出と2年継続
2029年分から簡易課税を使うには、2028年12月31日までに「消費税簡易課税制度選択届出書」を所轄の税務署に提出します。届出書は国税庁のサイト(第10号様式)からダウンロードでき、郵送・持参・e-Taxで提出できます。
簡易課税を選択すると2年間継続適用が義務になります(国税庁タックスアンサーNo.6505)。選択した年と翌年は本則課税に戻せません。外注費や材料費が多く経費割合が高い年は、本則課税の方が納付額が少なくなるケースがあります。どちらが有利かは個々の経費の状況によるため、税務署か税理士に確認してください。
また、2割特例・3割特例を使った翌年に届出をすれば、その年から簡易課税に移ることができます。「3割特例が終わる2029年になってから届出を出す」のでも遅くありませんが、届出の期限(前年末)を過ぎると適用できないため、2028年末に確実に出すことが重要です。
繁忙月と閑散月の試算をそれぞれ確認する
月の請求額が変動する場合、年間の平均だけで計算すると実態と乖離します。繁忙月と閑散月それぞれの消費税分と積立額を確認することで、「この月はいくら積み立てればよいか」が具体的になります。
3割特例の仕組みと2029年以降の変化については、一人親方の3割特例とは。2割特例が終わる2027年から、消費税はいくら増えるかで整理しました。
年間の売上・経費を入力すると、2026年から2029年以降の消費税の変化を試算できます。試算の結果から、元請への値上げ相談シート(A4・法律根拠入り)を作成することもできます。
出典:国税庁「令和8年度 税制改正特集」(3割特例)・消費税法附則第51条の2(2割特例)・消費税法第37条第1項(簡易課税)・タックスアンサーNo.6509(第3種・みなし仕入率70%)・タックスアンサーNo.6505(簡易課税の届出と2年間の継続適用)・消費税法基本通達13-2-7(第4種・手間賃)・国税庁「消費税の中間申告と中間納付」。本記事の内容は執筆時点の情報に基づきます。詳細は税務署・税理士にご確認ください。
