「やさしい日本語」は、外国人住民・障害のある方・子どもなど、通常の日本語の理解が難しい方に伝わりやすいように整えられた日本語表現です。登録日本語教員の基礎試験「言語と社会」区分でも出題が想定される重要なテーマです。この記事では、やさしい日本語の基本的な考え方・作り方・実際の場面での活用方法を整理します。
「やさしい日本語」とは何か
やさしい日本語は1995年の阪神・淡路大震災をきっかけに生まれた概念です。在留外国人が日本語も母国語の放送・掲示もなく情報を得られなかった教訓から、「外国人にも通じる平易な日本語」が研究・実践されるようになりました。
現在は防災情報だけでなく、行政窓口・医療機関・職場・地域の日本語教室など多岐にわたる場面で活用されています。
「やさしい日本語」と「やさしい英語(Plain English)」の違い
英語圏ではPlain English(平易な英語)という概念が行政・法律文書の分野で整備されています。やさしい日本語は日本語固有の特徴(漢字・敬語・語順の柔軟性等)に対応した概念であり、単純に他の言語の「平易化」と同一ではありません。
やさしい日本語の基本ルール
やさしい日本語の作成には、弘前大学の研究グループを中心に整理されたルールが広く参照されています。代表的なルールを紹介します。
語彙のルール
- 難しい言葉はやさしい言葉に言い換える:「罹患する」→「病気になる」/「申請する」→「申し込む」
- カタカナ語は日本語に言い換えるか説明を加える:「アレルギー」→「アレルギー(特定のものに体が反応する病気)」
- 二重否定は使わない:「〜しないわけではない」→「〜することもある」
- 曖昧な表現を避ける:「早めに」→「今日中に」「○月○日までに」
文構造のルール
- 一文を短くする:一文に情報を詰め込みすぎない(目安は20〜30字程度)
- 主語を明示する:日本語は主語を省略しがちだが、やさしい日本語では「あなたは〜」「市は〜」のように主語を入れる
- 能動態を使う:「〜されます」より「〜します」。受動態は主語が分かりにくい
- 重要な情報を最初に書く:日本語の語順(述語が最後)は情報が分散しやすい。結論・重要事項を先に書く
漢字のルール
- 難しい漢字にはひらがなで読み仮名を振る(ルビ)
- 常用漢字の中でも読みにくいものは平仮名にする
- 目安:JLPT N2〜N3レベルの漢字を基準とする場合が多い
やさしい日本語の実際の例文
行政文書の例
【難しい日本語】「ごみの収集につきましては、所定の場所に排出いただく際に分別の徹底をお願いします。」
【やさしい日本語】「ごみは ごみを出す場所に持って行ってください。ごみの種類で分けて出してください。」
医療場面の例
【難しい日本語】「服薬を中断せずに継続してください。」
【やさしい日本語】「薬は毎日飲んでください。途中でやめないでください。」
やさしい日本語の「レベル」と場面設計
やさしい日本語には厳密な統一規格はなく、対象者・場面・目的に合わせて「どのくらいやさしくするか」を設計する必要があります。次のような軸で難易度を調整します。
語彙レベルの調整
- JLPT N5〜N4レベル(入門・初級段階)の語彙で構成する:非常にやさしい。ただし情報量が限られる
- JLPT N3〜N2レベルの語彙を上限とする:一般的なやさしい日本語の目安
- 専門用語・行政用語は必ずやさしい言葉に言い換えるか説明を付ける
文の長さと複雑さ
- 目安:1文20〜30字以内。文が長くなるときは2文に分割する
- 接続助詞(〜が・〜ので・〜から・〜て)で文を繋ぎすぎない
- 条件節(〜したら・〜すれば)は「もし」と明示して使う
漢字・ひらがな
- 難しい漢字にはルビ(読み仮名)を付ける
- ルビを付けられない媒体(看板・掲示等)ではひらがなにする
- 目安:小学4〜6年生の漢字まで(JLPT N3以上相当の漢字にルビを付ける)
「やさしい日本語」の作成ステップ
難しい日本語をやさしい日本語に書き直すときの手順を整理します。
- 伝えたい情報を明確にする:何を伝えるか・誰に伝えるかを決める。伝える情報量を絞る
- 難しい語・長い文を見つける:漢字2〜3字以上の語・行政用語・専門用語を洗い出す
- やさしい言葉に言い換える:同義語(よりやさしい語)・説明付き(例:「在留資格=住む許可」)に変換
- 文を短くする:長い文を2〜3文に分割。接続詞(そして・また・しかし)を使ってつなぐ
- 主語を入れる:「あなたは」「市は」「病院は」など主語を明示する
- 読み返す:日本語学習者・やさしい日本語を知らない第三者に読んでもらい、分かりにくい箇所を修正する
やさしい日本語と多文化共生
やさしい日本語は単なる「分かりやすい表現技術」ではなく「多文化共生社会の実現に向けたコミュニケーションのあり方」という社会的な意義を持っています。在留外国人395万人を超えた日本社会では、行政・医療・教育・職場のあらゆる場面でやさしい日本語の需要が高まっています。
登録日本語教員として働く場合、「認定機関での日本語教育」だけでなく「地域の日本語支援・やさしい日本語の研修・行政のやさしい日本語化支援」などに関わる機会も生まれています。やさしい日本語の知識は日本語教師のキャリアを広げるスキルの一つです。
やさしい日本語と日本語教育の関係
登録日本語教員の基礎試験「言語と社会」区分では、やさしい日本語・多文化共生・地域の日本語支援などの社会的な文脈での日本語のあり方が出題される可能性があります。
やさしい日本語は「日本語教師が教える日本語」とは性質が異なります。認定機関でのアカデミックな日本語教育では「正確で複雑な日本語も使えるようにする」ことが目標ですが、地域日本語教室・生活日本語支援では「今の段階でコミュニケーションができる日本語」としてやさしい日本語が活用されます。
日本語教師として「いつ・どのような場面で・どのレベルの日本語を使うか」を判断できることが、現場での実践力につながります。
やさしい日本語のチェックリスト
自分が書いた文書・案内をやさしい日本語に直す際のチェックリストです。
- □ 一文が20〜30字程度に収まっているか
- □ 主語(あなた・市・会社)が明示されているか
- □ 二重否定(〜しないわけではない)を使っていないか
- □ 曖昧な期限・条件(早めに・場合によっては)を具体的な日付・数字に変えているか
- □ 漢字2〜3字以上の語にルビ・説明を付けているか
- □ カタカナ語に説明(括弧書き)を付けているか
- □ 受動態(〜されます)を能動態(〜します)に変えているか
- □ JLPT N3レベル以上の語彙を必要以上に使っていないか
すべての項目を完璧に満たす必要はありませんが、「誰に・何を伝えるか」を明確にした上で、このチェックリストを参考にやさしい日本語を作成してください。
「やさしい日本語」の活用場面
行政・防災
各地方自治体でやさしい日本語を使った防災マニュアル・避難誘導看板・行政窓口の案内文が整備されつつあります。国際交流基金・出入国在留管理庁・文化庁等の機関もやさしい日本語のガイドラインを公表しています。
職場・労働環境
外国人労働者が増加する中で、職場の安全説明・業務マニュアル・注意書きなどをやさしい日本語で作成する需要が高まっています。日本語教師がやさしい日本語の作成支援・研修を行う機会も生まれています。
医療・介護
外国人患者への問診・説明・同意書、外国人介護職員への業務説明などでやさしい日本語が活用されています。医療場面では特に「正確に伝わること」が重要であり、曖昧な表現を排した平易な表現が求められます。
よくある質問
Q. やさしい日本語は「幼稚な日本語」ですか?
やさしい日本語は「幼稚な日本語」ではありません。難しい語・複雑な構文を平易に言い換えることで「より多くの人に正確に伝わる日本語」を目指すものです。ビジネス文書の「Plain Japanese」として活用する文脈では、むしろ洗練された表現として評価されます。
Q. やさしい日本語はJLPT何級レベルですか?
やさしい日本語の難易度には幅がありますが、一般的にJLPT N4〜N3レベル(基本的な日常会話が成立するレベル)を目安として作成されることが多いです。ただし、対象者・場面によって難易度の目安が変わるため、一概に「○級レベル」と定めることは難しいです。
やさしい日本語の研修・指導者として働く
登録日本語教員として認定機関(日本語学校等)で働くだけでなく、「やさしい日本語の研修・啓発活動」に関わるキャリアパスも存在します。
行政向け研修
各地の自治体では「外国人住民との窓口対応」「外国人患者への対応」「防災情報のやさしい日本語化」に向けた職員研修が実施されています。日本語教師・やさしい日本語の知識を持つ専門家が研修講師として関わることがあります。
企業向け研修
外国人労働者を多く採用している製造業・建設業・農業・介護業などの企業では、「日本人従業員が外国人と働く際のコミュニケーション研修」として、やさしい日本語のワークショップが実施されることがあります。
地域日本語支援ボランティア向け研修
地域の日本語ボランティアにやさしい日本語の基本を教える研修も増えています。国際交流基金・自治体国際化協会(CLAIR)・各地の国際交流協会などがやさしい日本語の研修プログラムを提供しています。
「言語と社会」区分でのやさしい日本語の位置づけ
登録日本語教員の基礎試験「言語と社会」区分では、「多文化共生・言語政策・地域の日本語支援・やさしい日本語」がテーマとして含まれています。やさしい日本語は単独の知識ではなく、次のような社会的文脈とあわせて理解することが重要です。
- 在留外国人の増加と多文化共生の必要性(社会的背景)
- 日本語教育推進法(2019年)とやさしい日本語の位置づけ(制度的背景)
- 防災・医療・行政での活用場面(実践的な文脈)
- 日本語能力が不十分な人への情報保障という人権・平等の観点(社会正義の観点)
試験では「やさしい日本語のルールを知っているか」だけでなく「なぜやさしい日本語が必要か・どのような場面で活用されるか」という文脈理解が問われる可能性があります。
「多言語対応」とやさしい日本語の違い
外国人への情報提供の手段として「やさしい日本語」と「多言語対応(英語・中国語等での情報提供)」が比較されることがあります。両者の特徴を整理します。
- 多言語対応のメリット:母語話者は母語で情報を得られる。誤解・理解不足が少ない
- 多言語対応の課題:対応言語数に限界がある(世界には約6,000〜7,000の言語がある)。日本の在留外国人は多国籍で、一部の言語にしか対応できない。翻訳・通訳のコストが高い
- やさしい日本語のメリット:1つの表現で多くの人に伝わる可能性がある(JLPT N4程度があれば理解できる)。作成・更新コストが低い
- やさしい日本語の課題:日本語学習がある程度進んでいないと読めない。来日直後・日本語未学習者には効果が限られる
実際には「やさしい日本語+主要言語の多言語対応」を組み合わせることが最も効果的です。日本語教師として「やさしい日本語の役割と限界」を理解していることは、地域日本語支援に関わる際に重要な視点です。
まとめ
- やさしい日本語は1995年阪神・淡路大震災を機に生まれた、外国人・高齢者・障害のある方に伝わりやすい平易な日本語表現
- 基本ルールは「難しい語の言い換え・一文を短く・主語を明示・重要情報を最初に」など
- 行政・防災・医療・職場などの場面で活用が広がっている
- 試験「言語と社会」区分で出題が想定される。「多文化共生・地域日本語支援」との関連で理解を深める
- 日本語教育の現場では「アカデミックな日本語」と「やさしい日本語・生活日本語」の違いを意識した指導場面の使い分けが重要
- 多言語対応との組み合わせが最も効果的。やさしい日本語の役割と限界を理解していることも重要
当サイトでは、文部科学省が公表している出題範囲49項目に接地した登録日本語教員(基礎試験)のAI問題集を公開しています。1日3問まで無料です。
「言語と社会」区分の全体対策については、こちらの記事もあわせてご覧ください。

コメント