放デイ・児発のBCPは、何を作り、年1回以上の訓練で何を確かめるか。

放デイ・児発のBCPは、何を作り、年1回以上の訓練で何を確かめるか。 福祉事業の開業と運営

放課後等デイサービス(放デイ)と児童発達支援(児発)には、業務継続計画(BCP)の策定と、それに基づく研修・訓練が義務として定められています。作るのは自然災害BCPと感染症BCPの2本です。研修はそれぞれ年1回以上、訓練もそれぞれ年1回以上実施します(解釈通知:障発0330第12号 令和6年3月30日)。未策定のまま運営すると、令和6年4月から基本報酬の1%を減算されます。

BCPは令和6年度から義務。根拠は基準第38条の2

放課後等デイサービスと児童発達支援のBCP義務は、指定通所支援の事業の設備及び運営に関する基準(以下「基準」)の第38条の2に定められています。放デイは基準第71条において第38条の2を準用しています。

第38条の2の内容は、次の3点です。

  1. 感染症や非常災害の発生時において、利用者に対するサービスの提供を継続的に実施するため、業務継続に向けた計画(業務継続計画)を策定する
  2. 研修・訓練を定期的に実施する
  3. 業務継続計画を定期的に見直し、必要に応じて変更する

「業務継続計画」がBCPです。令和3年度の報酬改定でこの義務が定められ、3年間の経過措置が設けられました。令和6年4月(2024年4月)から経過措置が終わり、完全に義務化されています。

厚生労働省は「障害福祉サービス事業所等における自然災害発生時の業務継続ガイドライン」(令和3年3月)の中で、全ての障害福祉サービス等事業者を対象に、BCPの策定・研修・訓練を義務付けることになった旨を明記しています。放デイと児発は、このガイドラインが定める「通所系サービス」に含まれます。

作るのは2本。自然災害BCPと感染症BCPは別物

BCPは1本ではありません。基準第38条の2が定める「感染症や非常災害」という文言のとおり、対象が2種類あります。

  • 自然災害BCP:地震・水害・風害・雪害など自然災害に備えた計画
  • 感染症BCP:新型コロナウイルス等の感染症が発生・拡大したときの計画

厚労省は自然災害用と感染症用でそれぞれガイドラインとひな形を公開しています。

  • 「障害福祉サービス事業所等における自然災害発生時の業務継続ガイドライン」(令和3年3月)
  • 「障害福祉サービス事業所等における新型コロナウイルス感染症発生時の業務継続ガイドライン」(令和3年3月)

自然災害BCPは「地震・水害など災害が起きたとき、限られた職員・設備でどうサービスを続けるか」を書くものです。感染症BCPは「スタッフが次々と出勤できなくなったとき、感染対策をしながらどうサービスを続けるか」を書くものです。起こる事態が違うため、書く内容も対策も変わります。

2本をひとつにまとめることは避けたほうが無難です。運営指導で「感染症と自然災害が混在している」と指摘された事例が報告されています。厚労省のひな形も2種類に分かれているので、そのまま活用する形で進めるのが最も確実です。

自然災害BCPに書く5つの要素

厚労省ガイドライン(令和3年3月)は、自然災害BCPに盛り込む内容として大きく「1. 総論」「2. 平常時の対応」「3. 緊急時の対応」「4. 他施設との連携」「5. 地域との連携」という構成を示しています。放デイ・児発が最低限押さえる要素を5点に整理します。

① 推進体制(誰が何をするか)

BCPの中核は「誰が、いつ、何をするか」を決めておくことです。ガイドラインは「全体の意思決定者を決めておくこと、各業務の担当者を決めておくこと」を推進のポイントの筆頭に挙げています。

災害発生時は情報が乱れ、管理者が不在になることもあります。「施設長が不在の場合は○○が統括責任者を代行する」という代替者まで含めて決めておくことが重要です。責任者・情報班・安全確認班など役割分担を書面に残し、全職員が把握していることが求められます。

② リスクの把握(ハザードマップの確認)

事業所が所在する自治体のハザードマップを確認し、地震・洪水・土砂災害などのリスクを把握します。リスクの大きさは立地によって大きく異なります。自分の事業所がどのリスクに当てはまるかを確認した上で、対策を検討します。

ハザードマップは定期的に見直しが行われるため、内容が変わっていれば差し替えることも必要です。BCPへの添付が推奨されています。

③ 優先業務の選定

被災時は限られた職員・設備でサービスを続けることになります。「どの業務を優先するか」を事前に整理しておかないと、いざというとき判断が止まります。

放デイ・児発の通所サービスで被災直後に優先すべき業務は、利用者の安全確認と家族への連絡、引き渡しです。給食、送迎、活動支援などの通常業務は状況に応じて縮小・休止します。どの水準の職員出勤率でどのサービスを提供するかの目安(例:出勤3割なら安全確認のみ、5割なら基本的なケアのみ)を決めておくと、現場の判断が速くなります。

④ 緊急時の対応(安否確認・避難・連絡)

BCP発動の基準(「震度○以上なら発動」「洪水警戒が発表されたら発動」など)を決め、発動後の初動手順を整理します。

緊急時の対応で最初に行うのは、利用者と職員の安否確認です。利用者の安否確認シートを準備しておくと、混乱した状況でも漏れなく確認できます。また、施設内外の避難場所と避難方法を決め、職員全員が把握しておくことも必要です。

⑤ 平常時の備え(備蓄・設備)

電気・水道・ガスが止まったとき、3日間を自力で乗り切れるだけの備蓄を用意します。ガイドラインは「行政支援開始の目安である被災後3日目まで、自力で業務継続するため備蓄を行う」と定めています。水は1人1日3リットル×3日分、食料は1人1日3食×3日分が目安です。

備蓄品は定期的にメンテナンス担当者を決め、賞味期限・使用期限のあるものを管理します。「ローリングストック」(古いものから使い、補充する)の仕組みを取り入れると管理しやすくなります。

通所サービスに固有の3点

ガイドライン(令和3年3月)の第3-2-2節「通所系・固有事項」には、入所系と異なる通所サービスならではの対応事項が示されています。放デイ・児発のBCPにあたって特に意識すべき3点を整理します。

① 緊急連絡先は複数の手段で把握する

ガイドラインは「緊急連絡先の把握にあたっては、複数の連絡先や連絡手段(固定電話、携帯電話、メール等)を把握しておくことが望ましい」(3-2-2 平時からの対応)と記しています。

災害時は固定電話が使えなくなることが多く、携帯電話も輻輳(集中)して繋がりにくくなります。保護者の連絡先として固定電話しか把握していない状態では、肝心なときに連絡できません。携帯電話・メール・LINEなど複数の手段を家族登録のタイミングで取得しておくことが、通所系BCPの基本です。

② サービスの休止・縮小の基準を決めておく

ガイドラインは「台風などで甚大な被害が予想される場合などにおいては、サービスの休止・縮小を余儀なくされることを想定し、あらかじめその基準を定めておく」(3-2-2 災害が予想される場合の対応)と示しています。

「大雨警報が発表されたら休所」「交通機関が止まったら送迎なし」といった基準を文書化しておくと、職員の判断に迷いがなくなります。保護者への説明もあらかじめ行っておくことがガイドラインで求められています。特定相談支援事業所にも情報共有しておくことが推奨されています。

③ 利用中に被災したときの引き渡しの流れ

ガイドラインは「利用中に被災した場合は、利用者の安否確認後、あらかじめ把握している緊急連絡先を活用し、利用者家族への安否状況の連絡を行う。利用者の安全確保や家族への連絡状況を踏まえ、順次利用者の帰宅を支援する」(3-2-2 災害発生時の対応)と記しています。

入所施設と違い、通所サービスは利用者が家に帰るための手順が必要です。利用中に地震が起きたとき、誰が安否確認を行い、誰が家族に連絡し、どういう順番で引き渡すか。送迎車が使えないとき家族に迎えに来てもらうのか、避難所で合流するのか。こうした「引き渡しの手順」を盛り込むことが、放デイ・児発のBCPでは特に重要です。

研修は年1回以上。何を確認するか

解釈通知(障発0330第12号 令和6年3月30日)は、BCPの研修について「少なくとも年1回以上実施すること」と定めています。新規に採用した職員についても別途行うことが望ましいとされています。

BCPの研修で確認すべき主な内容は、次のとおりです。

  • BCPの発動基準(「震度○以上」「洪水警戒発表時」など)
  • 自分の役割(情報班・安全確認班・保護者連絡担当など)
  • 緊急連絡先と連絡手段の確認
  • 避難場所・避難ルートの確認
  • 備蓄品の場所・使い方

研修は机上での確認でもかまいません。「BCPの発動基準と自分の役割を全職員が言える状態になっているか」が、年1回研修の到達点の目安です。

研修を実施した場合は、日時・参加者・内容を記録しておきます。運営指導で「研修の実施記録はありますか」と確認されることがあります。

訓練は年1回以上。何を確かめるか

解釈通知(障発0330第12号 令和6年3月30日)は、BCPの訓練について「少なくとも年1回以上実施すること」と定めています。研修と訓練は別です。研修は「BCPの内容を知る」、訓練は「BCPに基づいて実際に動いてみる」段階です。

ガイドライン(令和3年3月)は「BCPは作成するだけでは実効性があるとは言えません。危機発生時においても迅速に行動が出来るよう、関係者に周知し、平時から研修、訓練(シミュレーション)を行う必要があります。また、最新の知見等を踏まえ、定期的に見直すことも重要です」(3-1 BCP作成のポイント)と記しています。

訓練で確かめることの目安は次のとおりです。

  • BCP発動の連絡が届くか(連絡網が実際に機能するか)
  • 各自が担当する役割を実際に動いて確認できるか
  • 利用者の安否確認シートを使って漏れなく確認できるか
  • 緊急連絡先への連絡が実際に取れるか
  • 避難経路・避難場所まで誘導できるか

机上シミュレーション(「このとき誰が何をするか」を口頭で確認していく訓練)から始めるだけでも、構いません。実際に動いてみると「管理者が不在のとき誰が判断するか決まっていない」「保護者の連絡先が古い情報のままだった」という穴が見つかります。見つかった課題はBCPに反映させます。

ガイドラインは「インフラ・設備・納品が止まった場合、責任者が不在の場合など、様々な状況を想定したシミュレーションを行うことにも留意する」と記しています。

訓練の記録も必ず残します。日時・参加者・実施した内容・気づいた課題・BCPへの反映内容を書き留めておきます。

未策定のまま運営すると基本報酬の1%を減算

BCPが未策定の場合、令和6年4月から基本報酬の1%が減算されます(こども家庭庁「令和6年度障害児通所支援に関する報酬改定について」)。放デイ・児発の月間の基本報酬は事業所の規模や稼働率によって変わりますが、たとえば月200万円規模であれば月2万円の影響です。年換算では24万円になります。

減算の対象になるのは「BCP(自然災害・感染症の2本)を策定していない」場合です。策定してあれば、研修・訓練が年1回未満でも減算にはなりません(ただし義務違反の指摘を受ける可能性があります)。

BCP未策定の減算は令和6年4月に始まりましたが、運営指導でBCPの有無を確認されるケースが増えています。ひな形を使って2本を作成しておくことが、最初のステップです。

毎年の研修・訓練を記録として残す

BCPを作ったあとの運用で押さえておくべきポイントを最後にまとめます。

項目 頻度 根拠
自然災害BCP 研修 年1回以上 解釈通知(障発0330第12号)
自然災害BCP 訓練 年1回以上 解釈通知(障発0330第12号)
感染症BCP 研修 年1回以上 解釈通知(障発0330第12号)
感染症BCP 訓練 年1回以上 解釈通知(障発0330第12号)
BCPの見直し 定期的に 基準第38条の2

研修・訓練はいずれも実施した記録を残します。運営指導では「研修記録」「訓練記録」を確認されます。記録には最低限、日時・参加者・内容の3点を書いておきます。

BCPは作って終わりではなく、訓練で見つかった課題や法令・基準の変更があればその都度更新します。年1回の研修・訓練のタイミングで内容を見直す習慣をつけると、BCPが「棚にしまったまま」になるのを防げます。


放デイ・児発の法定研修には、BCPのほかにも、虐待防止・身体拘束廃止・感染症予防・安全計画・非常災害など、毎年実施が義務づけられているテーマが複数あります。研修の義務と回数の全体像は、放デイ・児発の研修と訓練は何が義務で、年何回実施するかでまとめています。

法定研修のテーマごとの資料・確認テスト・受講記録が一式揃う放デイ・児発の法定研修・訓練キットでは、BCPの研修・訓練に使える素材もまとめて提供しています。

あわせて読みたい:放デイ・児発の感染症研修は、年2回以上が義務。委員会は3か月に1回以上。

あわせて読みたい:放デイ・児発の身体拘束廃止、記録が必要な場面と1%減算の条件。

この記事を書いた人

業種別のツールを、一人で作っています。開業前の収支シミュレーター、法定研修キット、資格の問題集。どれも、厚生労働省の告示や調査の原文を自分で確かめてから数字を組み込んでいます。使う人が「この数字、合ってるか」と不安になるようなツールは作りたくないので。

上場企業で20年間、営業ひとすじ。電話営業・インサイドセールスから、約70名のチームのマネジメントへ。現場で「根拠のない数字」が判断を狂わせる場面を見続けてきたせいか、ツールを作るときも出典を確かめずにはいられません。

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