福祉事業所の経営診断、6つの指標の見方

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障害福祉サービスの事業所が、自分の決算の数字をどう読むかは、業種特有の事情があります。一般的な財務分析の「経常利益率」や「自己資本比率」は、介護報酬・障害福祉サービス報酬で収入が決まるこの業界には、そのまま当てはまりません。

厚生労働省が毎年集計する経営概況調査には、放課後等デイサービス・児童発達支援・グループホーム・生活介護・就労移行支援・短期入所それぞれについて、全国の事業所の収支差率・人件費率・職員数・給与水準などがまとめられています。自分の事業所の数字をここと比べることが、経営の現在地を把握する最初の一歩です。

この記事では、経営診断で使う6つの指標のそれぞれについて、何を表す数字なのか、全国ではどのくらいが多いのか、どこに注目すればよいのかを整理します。数字はすべて厚生労働省「令和7年障害福祉サービス等経営概況調査結果」(令和6年度決算)にもとづきます。

収支差率は、事業所の体力を表す

収支差率は、収入から支出を引いた差額(収支差)を、収入で割った数字です。一般でいう「利益率」に近い指標です。

式:収支差率(%)=(収入 − 支出)÷ 収入 × 100

厚生労働省の調査では、全国の事業所の収支差率を集計しています。この集計は「収支差の合計 ÷ 収入の合計」で計算されているため、収入の大きい事業所の影響を強く受けます(金額加重の平均)。一方、収支差率の中央値は、全国の事業所を収支差率の低い順に並べたとき真ん中に来る値で、「規模を問わない事業所ごとの実態」に近い数字です。

令和6年度決算の集計(表の平均)は次のとおりです。

サービス 収支差率(表の平均) 収支差率(中央値) 調査事業所数
放課後等デイサービス 9.1% 2.7% 304
児童発達支援 9.7% 7.8%(注) 320
共同生活援助(包括型) 6.9% 5.3% 341
共同生活援助(日中型) 5.1% 5.9% 236
生活介護 6.3% 7.9% 368
就労移行支援 6.0% 4.5% 296
短期入所 2.3% 2.8% 337

(注)児童発達支援は表の平均7.8%・中央値9.7%で、中央値が平均を上回る。収入の大きい事業所の収支が相対的に低いためと考えられる。

自分の収支差率が中央値より高ければ、全国の半数より上の水準にあります。中央値を大きく下回っている場合、収入が少ないか、支出が多いかのどちらかを確認することになります。

収支差率がマイナス(赤字)でも、すぐに事業を続けられなくなるわけではありません。手元資金があれば赤字が続いても一定期間は運営できます。ただし、赤字が続くほど手元資金が減り、それが資金繰りの問題につながります。

サービスによって赤字の事業所の割合は大きく違います。短期入所(41.8%)や就労移行支援(39.9%)は約4割が赤字で、生活介護(25.3%)は4分の1程度です。この違いは、サービスの構造(稼働率の上がりやすさ・人件費の構成)に起因します。

人件費率は、収入に対して給与に使っている割合

人件費率は、収入に対して人件費がどれだけの割合を占めているかを示します。

式:人件費率(%)= 人件費 ÷ 収入 × 100

厚生労働省の調査では「給与費」として集計されています。記入要領によると、給与費には役員報酬・職員俸給・職員諸手当・非常勤職員給与・退職金・退職共済掛金・法定福利費が含まれます。派遣職員費は、法人が人件費として処理していれば含まれます。

令和6年度決算の給与費率(全国平均)は次のとおりです。

サービス 給与費率(全国平均)
放課後等デイサービス 64.4%
児童発達支援 68.0%
共同生活援助(包括型) 61.7%
共同生活援助(日中型) 66.1%
生活介護 69.1%
就労移行支援 64.2%
短期入所 69.2%

人件費率が高いこと自体は「悪い」ことではありません。福祉の仕事は対人サービスで、人件費が高い水準にあることは、給与を十分に確保している状態とも読めます。問題が生じるのは、人件費率が高い状態が続いて収支差率が低下するときです。

人件費率が全国平均より大幅に高い場合、次の2つのどちらかが起きています。①給与水準が高い(1人あたりの給与が全国平均より高い)、②職員1人あたりの収入が低い(稼働率が低い、定員が埋まっていないなど)。この2つは対策が違うため、どちらが原因かを切り分けることが重要です。切り分けには後述の「職員1人あたり収入」の指標を使います。

稼働率は、定員に対して実際の利用者数がどれだけ来ているか

稼働率は、定員や登録者数に対して実際に来た利用者数(延べ利用者数)の割合です。

稼働率が低いと、収入が少なくなります。人件費・家賃・水光熱費などの固定費は稼働率によらず発生するため、稼働率が低い状態が続くと、収支差率が下がります。

福祉医療機構(WAM)の経営分析参考指標(2023年度決算・融資先事業所にもとづく)では、稼働率の参考値として次の数字が出ています。

サービス WAM参考稼働率 調査事業所数(WAM)
放課後等デイサービス 87.8% 1,170
児童発達支援 80.8% 258
共同生活援助(包括型) 85.7% 1,886
共同生活援助(日中型) 86.0% 113
生活介護 84.2% 3,019
就労移行支援 69.2% 183

WAMの数字は融資先の決算にもとづいており、全事業所の平均ではありません。また2023年度(令和5年度)のデータで、今の状況とは1年ずれています。参考値としてお使いください。

就労移行支援の参考稼働率が69.2%と他のサービスより低い水準にあることが読み取れます。就労移行支援は利用期限(原則2年)があり、利用者が随時変わるため、他のサービスと比べて稼働率が安定しにくい構造です。

稼働率の「損益分岐点」、つまり「収支がちょうど0になる稼働率」を確認することで、現在の稼働率と黒字化ラインの差が分かります。「あと何人来てもらえれば黒字になるか」の目安としても使えます。

職員1人あたり収入は、生産性の目安になる

職員1人あたり収入は、収入合計を職員数(常勤換算)で割った数字です。これが高いほど、1人の職員が稼ぐ報酬が多いことを意味します。

放課後等デイサービスの全国平均では、事業所1か所あたりの年間収入は約3,103万円(令和6年度・調査事業所304か所の平均)、常勤換算職員数は5.13人で、職員1人あたり年収入は約605万円(月換算で約50万円)です。

この「職員1人あたり収入」は、職員の給与水準(放デイの常勤職員の平均月給は約33万円)とは別の指標です。職員1人が稼ぐ報酬と、職員が受け取る給与の差が、事業所に残る余力になります。

この指標が低い場合、①稼働率が低い(利用者が少ない)、②定員に対して職員数が多すぎる、③1人1日あたりの報酬単価が低い、のいずれかです。

人件費率と組み合わせて見ると、問題の所在が分かります。

  • 人件費率が高く、職員1人あたり収入も低い → 稼働率の問題(利用者を増やす)
  • 人件費率が高く、職員1人あたり収入は平均並み → 給与水準の問題(給与の構成を確認する)
  • 人件費率は平均並みだが収支が悪い → 給与費以外の費用(事業費・管理費)の確認

手元資金は、資金繰りの余裕を示す

手元資金は、事業所が今持っている現金・預金の合計です。収支差率がプラスであっても、手元資金が少なければ、報酬の入金が遅れたとき(障害福祉サービスの報酬は請求から約2か月後に入金される)に支払いに詰まるリスクがあります。

目安として、月の収入の2か月分が手元資金にあれば、報酬の入金サイクルに合わせて資金繰りが回りやすくなります。1か月分を割ると、毎月の支出のタイミングによっては不足する場面が出てきます。

この「2か月分」は、報酬の入金が請求から約2か月後であることに基づく一般的な考え方であり、公的機関が定めた基準ではありません。事業所の規模・仕入れの有無・加算の入金タイミングによっても変わります。

開業間もない時期は手元資金が減りやすい時期です。開業時の借入が多い場合は、元金の返済が始まる前に手元資金の水準を確認しておくことが重要です。

返済後の余力は、借入を返しながら経営できるかを見る

返済後の余力は、収支差額から借入金の元金返済額を引いた金額です。収支がプラスでも、借入の返済額が大きければ、実際には手元に残る資金が少なくなります。

式:返済後の余力(万円)= 年間の収支差額 − 年間の元金返済額

開業からしばらくは、初期投資の借入の返済が始まります。この時期に収支差率が低いと、返済後の余力がマイナスになることがあります。返済後の余力がマイナスになっている場合、手元資金がその分ずつ減っていくことを意味します。

元金の返済スケジュールと収支の見通しをあわせて確認することで、「いつごろ資金的に余裕が出てくるか」を把握できます。

6指標を組み合わせて読む

6つの指標は単独で見るより、組み合わせて読むことで問題の所在が分かります。

状況 考えられる原因 まず確認すること
収支差率が低い 稼働率が低い・人件費率が高い・加算を取り切れていない 稼働率と人件費率の両方を確認
人件費率が高い ①給与が高い ②利用者が少なく収入が少ない 職員1人あたり収入を確認して切り分け
手元資金が少ない 赤字が続いている・開業間もない・借入返済が重い 収支差率と返済後の余力を確認
稼働率が低い 新規利用者の獲得が少ない・定員が埋まっていない 損益分岐の稼働率と現在の差を確認

経営診断は、問題があるかどうかを「見える化」するツールです。収支差率が全国の上位にある事業所でも、手元資金や返済余力に課題がある場合があります。逆に収支が厳しい時期でも、手元資金が十分にあれば、対策を講じる時間的な余裕があります。

診断結果は参考であり、事業計画の変更や資金調達の判断については、顧問の税理士・公認会計士・中小企業診断士にご相談ください。

経営診断ツールで確認できること

この記事で説明した6つの指標は、経営診断ツール(無料版・Pro版)で確認できます。

無料版では:収支差率・人件費率・稼働率・職員1人あたり収入・手元資金の5指標について、全国の平均・中央値との比較と、全国の分布の中での自社の位置を確認できます。

Pro版(9,800円)では:上記に加えて、経営主体別・規模別の比較、人件費率の内訳分解(給与水準と稼働率のどちらに原因があるか)、損益分岐の稼働率、返済後の余力、月次推移グラフ(12か月)、職種別の給与と全国平均の比較、前年度比較などを確認できます。

令和6年度決算の収支差率、サービス別の参考値

6指標を見る際の前提として、サービスによって収支の水準が大きく異なります。自事業所の数字が「高いか低いか」を判断するには、同じサービスの全国値と比べることが重要です。

令和6年度の中央値を確認しておくと:放課後等デイサービス2.7%・児童発達支援9.7%・グループホーム包括型5.3%・生活介護7.9%・就労移行支援4.5%・短期入所2.8%です。収支差率がこの中央値を大きく下回っている場合、詳細な指標の確認が必要です。

診断に使うデータの出典と注意

この記事とツールで使っている全国の数字の出典は次のとおりです。

  • 収支差率・人件費率・職員数・給与水準:厚生労働省「令和7年障害福祉サービス等経営概況調査結果」(令和6年度決算)。当方が読み取り・計算・整理したもので、厚生労働省が作成したものではありません。原典:https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_66260.html(閲覧 2026-09-24)
  • 稼働率:福祉医療機構(WAM)経営分析参考指標 2023年度(令和5年度)決算分。当方が読み取り・計算・整理したもので、機構が作成したものではなく、機構は内容に責任を負いません。WAMの数字は融資先の決算にもとづき、全事業所の平均ではありません。

数字はいずれも調査に回答した事業所の集計です。全国のすべての事業所を網羅したものではありません。

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出典:厚生労働省「令和7年障害福祉サービス等経営概況調査結果」(令和6年度決算)、福祉医療機構(WAM)経営分析参考指標 2023年度決算分。当方が読み取り・計算・整理したもので、各機関が作成したものではありません。

この記事を書いた人

業種別のツールを、一人で作っています。開業前の収支シミュレーター、法定研修キット、資格の問題集。どれも、厚生労働省の告示や調査の原文を自分で確かめてから数字を組み込んでいます。使う人が「この数字、合ってるか」と不安になるようなツールは作りたくないので。

上場企業で20年間、営業ひとすじ。電話営業・インサイドセールスから、約70名のチームのマネジメントへ。現場で「根拠のない数字」が判断を狂わせる場面を見続けてきたせいか、ツールを作るときも出典を確かめずにはいられません。

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