居宅介護支援事業所の廃業・事業承継は、利用者への影響を最小限にしながら手続きを行うことが求められます。廃業時の届出・利用者への引き継ぎ・事業を引き継ぐ場合の手順を解説します。
開業後の収支を試算したい方は、こちらをどうぞ。
▶ 居宅介護支援事業所 収支シミュレーター
この記事で分かること
- 廃業(指定廃止)の手続きと必要な書類・期限
- 廃業前の利用者への対応手順(通知・引き継ぎ)
- 事業承継・M&Aで事業を引き継ぐ場合の仕組み
- 廃業後の記録保管義務と税務・社会保険の手続き
廃業(指定の廃止)の手続き
居宅介護支援事業所を廃業(指定を廃止)する場合、廃止日の1か月前(都道府県・市区町村によっては3か月前)までに届け出ることが必要です。
| 手続き | 内容・期限 |
|---|---|
| 廃止届の提出 | 廃止日の1〜3か月前(指定を受けた市区町村または都道府県に提出) |
| 利用者への通知 | 廃止日の1か月前までに、利用者・家族に書面で廃止を通知する |
| 他事業所への引き継ぎ | 利用者が引き続きケアマネジメントを受けられるよう、他の居宅介護支援事業所への引き継ぎを支援する |
| 書類の保管 | 廃止後も利用者の記録を一定期間(最低2年以上・都道府県によっては5年以上)保管する義務がある |
| 国保連への連絡 | 請求の締め処理・未収金の確認を行い、廃止後の請求漏れがないよう確認する |
廃業届の記載事項と提出時の注意点
廃業届(事業廃止届)を提出する際は、以下の点に注意してください。
- 提出先の確認:居宅介護支援事業所の指定を受けた機関(都道府県または市区町村)に提出。近年は市区町村が指定権者になっているケースが多い。
- 提出期限:廃止日の1か月前(都道府県・市区町村によっては3か月前)が一般的。事前確認が必要。
- 記載事項:廃止日・廃止理由・廃止後の利用者への対応方針を記載する場合が多い。
- 書類の入手:廃止届の様式は指定権者(都道府県または市区町村)のホームページからダウンロードできるか、窓口で入手できる。
廃業前の利用者への対応
廃業を決めた際に最も重要なのは、利用者への影響を最小限にすることです。以下の手順で対応します。
- 廃止日の確定と社内調整:廃止日・スタッフの退職・書類整理のスケジュールを確定する
- 利用者への通知:利用者・家族に廃止日・引き継ぎ先の候補を書面で通知する。認知症の利用者には家族への説明を丁寧に行う
- 引き継ぎ先の選定・調整:利用者の希望を確認しながら、引き継ぎ先の居宅介護支援事業所を紹介する。地域包括支援センターに相談して紹介先を探してもらう方法もある
- 引き継ぎ文書の作成:ケアプラン・アセスメント・サービス事業所一覧・医療機関情報・家族連絡先等を引き継ぎ文書としてまとめる
- 最終モニタリング・挨拶:最後の訪問で利用者・家族に挨拶を行い、次の担当ケアマネへの引き継ぎが完了したことを確認する
事業承継(後継者への引き継ぎ)の仕組み
居宅介護支援事業所を廃業せず、他者に事業を引き継ぐ場合(事業承継・M&A)の主な方法を整理します。
- 法人内の承継(個人→法人への移行):個人事業主(指定を受けた個人)として運営している場合、法人化した際に改めて指定申請が必要になることが多い。管理者の変更等を伴う場合は変更届が必要。
- 法人の事業譲渡:指定は法人に紐づいているため、指定そのものを譲渡することはできない。事業所の建物・設備・スタッフを含めて事業を引き受けた法人が新たに指定申請を行う必要がある。
- 法人の合併・分割:法人の合併や分割を通じて指定を承継できる場合がある。介護保険法上の「みなし指定」規定の対象となる場合がある。都道府県・市区町村に事前確認が必要。
介護事業所のM&A・事業売却の仕組み
近年、介護事業所のM&A(合併・買収)・事業売却が増えています。居宅介護支援事業所を廃業ではなく売却する選択肢について整理します。
- M&Aのメリット:廃業した場合は事業がゼロになるが、M&Aでは売却額を受け取れる可能性がある。利用者・スタッフへの影響を最小限にしながら事業を引き継ぐことができる。
- M&Aの主な手段:事業譲渡(利用者・スタッフ・設備等を含む事業全体を譲渡)・株式譲渡(法人ごと譲渡)の2種類が主流。居宅介護支援事業所の場合、指定は法人に紐づくため、法人ごとの株式譲渡が多い。
- 売却価格の目安:介護事業所のM&A価格は収益・担当件数・スタッフ体制・地域のニーズ等によって異なる。売上の0.5〜2倍程度が目安とされる場合がある(事業所規模・収益性による)。
- M&A仲介業者の活用:ラッコM&A・バトンズ・介護業界に特化したM&A仲介業者を活用することで、適切な相手先を探しやすくなる。
廃業・承継を検討するタイミング
居宅介護支援事業所の廃業・承継を検討するタイミングの目安を整理します。
- 後継のケアマネジャーがいない:管理者・主力ケアマネが退職・引退を検討しており、後継者が見つからない場合
- 収益が改善しない:担当件数が少なく、人件費・固定費を賄えない状態が続く場合
- 指定更新(6年ごと)を機に廃業を判断:指定更新時に廃業するか継続するかを判断する区切りとして活用する
- 高齢・健康上の理由:管理者・経営者の年齢・健康状態によって、事業継続が難しくなってきた場合
廃業時の税務・社会保険の手続き
法人として運営している居宅介護支援事業所が廃業する場合、介護保険の指定廃止手続きだけでなく、法人の解散・清算手続き・税務申告・社会保険の資格喪失等の手続きが必要です。
- 法人の解散・清算:株式会社・合同会社・NPO法人等の種類によって解散の手続きが異なる。司法書士・行政書士への相談が有効。
- 税務申告:廃業年度の確定申告(法人税・消費税等)を期限内に行う。未払い税金・消費税の還付等の確認も必要。
- 雇用保険・社会保険の喪失手続き:スタッフが退職する際の雇用保険離職票の発行・健康保険・厚生年金の資格喪失届を期限内に提出する。
居宅介護支援事業所を引き継ぐ側の注意点
居宅介護支援事業所を事業承継で引き継ぐ側(買い手・引き受け側)の注意点を整理します。
- 指定の移転は原則不可:介護保険の指定は法人単位で付与されており、指定そのものを別法人に移すことはできない。株式譲渡(法人ごと)または新法人での指定申請が必要。
- 利用者の同意が必要:引き継ぎ先の事業所(または引き継いだ後の事業所)が変わることについて、利用者・家族に説明し同意を得ることが必要。
- スタッフの処遇確認:引き継ぐ際にスタッフの処遇(給与・勤務条件)の継続・改善が必要かどうかを確認する。スタッフが引き続き勤務してくれるかが事業の継続性に直結する。
- 未払い費用・係争中の案件の確認:引き継ぐ前に、未払いの税金・社会保険料・訴訟・行政指導等がないかを調査(デューデリジェンス)する。
廃業を防ぐための経営改善策
廃業を検討するに至る前に試みるべき経営改善策を整理します。
- 担当件数の増加策:地域包括支援センター・病院・サービス事業所からの利用者紹介ルートを強化する
- 加算の算定漏れの確認:特定事業所加算・処遇改善加算・各種加算の算定状況を見直し、取りこぼしがないか確認する
- 経費の見直し:事務所賃料・通信費・システム費等の固定費を見直す
- 他法人との連携・統合:単独運営が難しい場合、近隣の事業所との連携・吸収合併を検討する
廃業を決める前に相談できる機関
廃業・事業承継を検討する際に相談できる機関を紹介します。
- 都道府県の介護事業者向け相談窓口:都道府県によっては、介護事業の廃業・経営改善に関する相談窓口を設けている場合がある。
- 中小企業診断士・事業引継ぎ支援センター:後継者探し・M&A仲介のサポートを行う「事業引継ぎ支援センター」が各都道府県にある。無料で相談できる。
- 税理士・社会保険労務士:廃業時の税務手続き・雇用保険・社会保険の手続きについて相談できる。
- 日本介護支援専門員協会・都道府県ケアマネ協会:業界団体に相談することで、同業者への事業引き継ぎ先探しの情報を得られる場合がある。
廃業後も続くケアマネジャーとしての責任
居宅介護支援事業所を廃業しても、廃業前に担当していた利用者に関する情報の守秘義務は廃業後も続きます。ケアマネジャーとして知り得た利用者・家族の個人情報を第三者に漏らすことは、廃業後も許されません。
また、廃業前に作成したケアプラン・アセスメント等の書類は、一定期間の保管義務があります。廃業後の保管場所・担当者(管理者や代理者)を決めておき、必要に応じて後任ケアマネジャーや利用者家族から問い合わせを受けられる体制を維持しておくことをお勧めします。
記録の保管期間と廃業後の対応
居宅介護支援事業所が廃業した後も、在籍中に作成した記録(ケアプラン・アセスメント・モニタリング記録等)は一定期間保管する義務があります。都道府県によって異なりますが、最低でも2年間(最終のサービス提供日から)の保管が必要です。廃業後の書類保管場所・担当者を事前に決めておくことが重要です。
事業継続年数と事業所価値の考え方
居宅介護支援事業所を長期間運営することは、利用者・スタッフ・地域のネットワークという形で事業所の価値を高めていきます。事業の継続期間・担当件数・信頼関係の積み重ねが、M&A・事業承継時の評価にも影響します。
- 事業所の信用力:開業から数年以上安定して運営していることが、利用者・地域包括支援センターからの信頼につながる
- 利用者の継続率:利用者が長期間担当ケアマネを変えずに継続している事業所は、サービスの質が評価されている証拠
- スタッフの定着率:ケアマネジャーが長期間在籍している事業所は、採用・育成コストが低く抑えられており経営効率が高い
廃業・承継を円滑に進めるための事前準備
廃業・承継を決断してから慌てないよう、事前に準備しておくべきことを整理します。
- 書類の整理・デジタル化:紙の書類をスキャンしてデジタル保存しておくと、廃業後の引き継ぎ・保管がしやすくなる
- 利用者情報の一元化:担当ケアマネ別にバラバラになっている利用者情報を一元化した台帳に整理しておく
- 取引先・連携先のリスト化:地域包括支援センター・サービス事業所・医療機関等の連絡先を一覧化しておく
- 財務情報の整理:貸借対照表・損益計算書・月次収支の記録を整理しておく
廃業・事業承継の費用と時間の目安
廃業・事業承継にかかる費用と時間の目安を整理します。
| 項目 | 目安の費用 | 目安の期間 |
|---|---|---|
| 廃業届・利用者引き継ぎ対応 | 実費のみ(数万円程度) | 1〜3か月 |
| M&A仲介(事業譲渡) | 成功報酬型:売却額の5〜10%(最低手数料50〜100万円程度) | 3〜12か月 |
| 弁護士・司法書士費用(法人解散) | 30〜80万円程度 | 2〜6か月 |
| 税理士による清算申告 | 10〜30万円程度 | 1〜3か月 |
M&Aによる事業譲渡の場合、仲介会社への登録は無料のケースも多く、候補先が見つかってから交渉・契約という流れになります。小規模の居宅介護支援事業所では、売却金額より「利用者の継続を守る」「スタッフの雇用を守る」という引き継ぎの条件を優先して交渉するケースが多いです。
まとめ:廃業・承継は早めに専門家へ相談する
居宅介護支援事業所の廃業・事業承継は、「利用者への影響を最小化する」という介護保険の理念から、単なる企業の撤退よりも慎重な対応が求められます。廃業を考え始めた時点で、まず都道府県や市区町村の担当窓口、地域包括支援センター、社会福祉士会等に相談することが第一歩です。後継者や事業を引き受ける法人を早期に見つけることで、利用者とスタッフの双方を守ることができます。
参考・出典
- 介護保険法(第75条・第115条の31等)
- 居宅介護支援事業の設備及び運営に関する基準(厚生労働省令)
この記事は2026年11月時点の情報に基づいています。廃業・変更届の提出先・期限は指定を受けた市区町村または都道府県にご確認ください。
福祉事業の開業・運営に関するツールと記事の一覧は福祉事業の開業と運営(入口ページ)にまとめています。収支シミュレーター・経営診断・法定研修キットを無料で試せます。


コメント