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インバータ(インバータ装置)は三相誘導電動機の回転速度を無段階に調整するための電気回路装置です。移動式クレーンの巻上装置・旋回装置にインバータ制御が採用されると、滑らかな速度調整が可能になり安全性と操作性が大きく向上します。試験の「原動機及び電気」科目で出題されます。
インバータとは何か
インバータは電源の交流(AC)を一旦直流(DC)に変換し、任意の周波数・電圧の交流を作り直す装置です。英語の “inverter”(変換器)に由来し、直流→交流への変換(逆変換)を行うことからこの名があります。
三相誘導電動機の回転速度(同期速度)は次の公式で決まります:
同期速度 Ns(rpm)= 120 × 周波数 f(Hz)÷ 極数 P
日本の商用電源は50Hzまたは60Hz(地域によって異なる)の固定周波数です。インバータがない場合、電動機の回転速度はほぼ固定されます。インバータは周波数fを自由に変えることで、電動機の回転速度を自在にコントロールします。
インバータの基本回路構成
インバータ装置は大きく3つのブロックで構成されます。
| ブロック | 名称 | 役割 |
|---|---|---|
| ① | コンバータ(整流回路) | 商用交流電源(AC)を直流(DC)に変換する |
| ② | 平滑回路(コンデンサ) | 直流の脈動(リプル)を滑らかにする |
| ③ | インバータ回路(スイッチング素子) | 直流から任意の周波数・電圧の交流を作り出す |
スイッチング素子(IGBT等)が高速でON/OFFを繰り返し、擬似的な交流波形(パルス幅変調:PWM)を作り出します。この擬似交流の周波数を制御することで電動機の速度を制御します。
インバータ制御のメリット
| メリット | 内容 | クレーンへの効果 |
|---|---|---|
| 始動電流の抑制 | 電動機起動時の大きな始動電流(定格の5〜7倍)を抑えられる | 電源設備への負荷を軽減・電気設備の保護 |
| 無段階速度制御 | 0から定格速度まで無段階に速度調整できる | 精密な位置決め・微速作業が可能 |
| 滑らかな加減速 | 急激な速度変化がなく、加速・減速がなめらか | 荷振れ防止・衝撃低減・安全性向上 |
| 省エネルギー | 負荷に合わせた速度で運転でき、不要な電力消費を削減 | エネルギーコストの削減 |
| 電動機の長寿命化 | 始動電流ストレスの低減により電動機の寿命が延びる | メンテナンスコストの削減 |
スターデルタ起動・直入れ起動との比較
インバータ制御以前に始動電流を抑える方法として「スターデルタ起動」が広く使われていました。3つの方式を比較します。
| 制御方式 | 始動電流(定格比) | 始動トルク(定格比) | 速度制御 | コスト |
|---|---|---|---|---|
| 直入れ起動 | 5〜7倍(大きい) | 定格の150〜200% | 不可(一定速) | 低い |
| スターデルタ起動 | 直入れの1/3 | 直入れの1/3 | 不可(一定速) | 中程度 |
| インバータ制御 | 抑制できる(設定による) | 全速度域で制御可能 | 無段階調整可能 | 高い |
スターデルタ起動は始動電流とトルクが両方1/3になるため、重い荷を持ったままの起動には不向きな場合があります。インバータ制御は始動電流を抑えながらも、必要なトルクを確保した起動が可能です。
インバータ制御のデメリット
- 装置コストが高い:スターデルタ起動や直入れ起動と比較して装置が高価
- 高調波の発生:インバータのスイッチング動作により電源側に高調波(電流の歪み)が生じる。高調波対策フィルタが必要な場合がある
- ノイズの発生:スイッチング周波数による電磁ノイズが他の機器に影響することがある
- 回生制動時のエネルギー処理:降下時の回生エネルギーを電源に返す「回生型インバータ」でないと、制動抵抗で熱として消費する必要がある
クレーンの巻上装置へのインバータ応用
移動式クレーンの巻上装置(ウインチ)にインバータ制御を採用した場合の具体的なメリット:
- 微速巻上・微速巻下:精密な荷置き作業で、センチメートル単位の位置調整が可能になる
- 地切り時の衝撃軽減:荷が地面から離れる瞬間(地切り)の急激な荷振れを減らせる
- 着地時の衝撃軽減:荷を着地させる際の衝撃が少なくなり、荷の損傷防止になる
- 安全な停止:運転操作レバーをニュートラルにした際に、緩やかに停止できる
三相誘導電動機の同期速度と実際の回転数
インバータで制御する三相誘導電動機について、同期速度と実回転数の関係を整理します。
同期速度の計算例:
- 4極・50Hz:Ns = 120 × 50 ÷ 4 = 1,500rpm
- 4極・60Hz:Ns = 120 × 60 ÷ 4 = 1,800rpm
- 6極・50Hz:Ns = 120 × 50 ÷ 6 = 1,000rpm
実際の電動機の回転数(回転子速度)は同期速度より若干低く、この差を「すべり(slip)」といいます。すべり率は通常2〜5%程度です。
インバータで周波数を下げると同期速度が低下し、電動機はゆっくり回ります。例えば4極・25Hz(50Hzの半分)では同期速度は750rpmになり、電動機の回転数も約半分になります。
この記事のまとめ
- インバータは交流→直流→任意の交流という変換で電動機の周波数を制御する
- 同期速度 = 120 × f ÷ P(fを変えることで速度を無段階制御)
- 直入れ起動と比較して始動電流を大幅に抑制できる
- スターデルタ起動と違い、速度制御も同時にできる
- コストが高い・高調波発生がデメリット
- クレーンの巻上に使うと微速制御・荷振れ防止に効果的
三相誘導電動機の基礎知識
インバータで制御される三相誘導電動機について、もう少し詳しく整理します。
三相誘導電動機の構造:
- 固定子(ステータ):コイルを巻いた固定部分。三相交流を流すと回転磁界を発生する
- 回転子(ロータ):固定子の内側で回転する部分。回転磁界によって誘導電流が流れ、その力で回転する
- かご形回転子:回転子の構造の一種。アルミ棒を円形に並べた形状(かごのような形)
- 巻線形回転子:回転子にもコイルを巻いた形状。スリップリングで外部抵抗と接続できる
かご形三相誘導電動機の特徴:
- 構造が簡単で堅牢・メンテナンスが少ない
- 直入れ起動では始動電流が定格の5〜7倍になる(電源への負担が大きい)
- インバータと組み合わせた場合の始動電流制御が容易
インバータの周波数と速度の具体的関係
インバータを使った速度制御の具体例を整理します。
4極のかご形三相誘導電動機をインバータで制御する場合:
| インバータ出力周波数 | 同期速度(4極) | 実際の回転数(すべり約4%) | 速度比(50Hz基準) |
|---|---|---|---|
| 10Hz | 300rpm | 約288rpm | 約20% |
| 25Hz | 750rpm | 約720rpm | 約50% |
| 50Hz(商用周波数) | 1,500rpm | 約1,440rpm | 100%(基準) |
| 60Hz(商用周波数・60Hz地域) | 1,800rpm | 約1,728rpm | 120% |
このように周波数をほぼリニアに変えることで、回転速度を細かく制御できます。クレーンの巻上装置に応用すると、微速(点吊り・精密な位置決め)から高速(移動時)まで任意の速度で操作できます。
試験でよく問われるインバータの特性
| 特性・項目 | 正しい内容 | よくある間違い |
|---|---|---|
| インバータの変換の流れ | 交流→直流→交流(整流後に逆変換) | 直接交流の周波数を変える(誤) |
| 始動電流 | インバータで大幅に抑制できる | 直入れ起動と同じ(誤) |
| 速度制御 | 無段階(連続的)に制御可能 | 段階的にしか変えられない(誤) |
| デメリット | 高調波発生・装置コストが高い | デメリットがない(誤) |
スターデルタ起動の仕組みをもう少し詳しく
スターデルタ起動は三相誘導電動機の起動方式で、次のように動作します:
- スター(Y)結線で起動:電動機の巻線をスター結線にすると、各巻線にかかる電圧がデルタ(△)結線の1/√3(約57.7%)になる
- デルタ(△)結線に切り換え:起動後、電流が安定したら巻線をデルタ結線に切り換えて定格電圧で運転する
スター起動時の特性:
- 始動電流:直入れ起動の1/3に低減
- 始動トルク:直入れ起動の1/3に低減(起動力も1/3になる)
トルクも1/3に下がるため、重い荷物を持ったままの起動(荷がつり下がった状態での起動)にはスターデルタ起動は不向きな場合があります。インバータであれば始動電流を抑えながら必要なトルクを確保できます。
インバータ制御の利点まとめ
| 比較項目 | インバータ制御 | スターデルタ起動(参考) |
|---|---|---|
| 速度調整 | 無段階(周波数を自在に変更) | 段階的(星形→三角形の切り替え) |
| 起動電流 | 小さい(周波数を低くして緩やかに起動) | スター起動で1/3に抑制 |
| 荷の振れ | 緩やかな加速で荷振れを防止できる | 切り替え時に衝撃が発生しやすい |
| エネルギー効率 | 高い(低速時の消費電力を低減) | 固定速度のみ |
インバータの主要部品と役割
- コンバータ(整流器):交流電源を直流に変換する
- 直流中間回路:安定した直流を保持する(コンデンサ・リアクトル)
- インバータ回路:直流を任意の周波数の交流に変換する(スイッチング素子)
「交流→直流→交流(任意の周波数)」という変換の流れを理解すると、「なぜ周波数を自在に変えられるか」が明確になります。
公表問題2回分80問が無料。AI生成問題(¥980・買い切り)で初見問題に慣れておくと安心です。
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