不適切保育の防止は、児童福祉施設の設備及び運営に関する基準 第9条の2・児童福祉法第33条の10・第33条の11に基づく虐待防止の枠組みの中で研修義務が生じます。厚生労働省「保育所等における虐待等の不適切な保育への対応等について」(令和5年5月)では、虐待に至らない「不適切な保育」を早期に発見・是正することを保育所に求めています。
この記事では、不適切保育の定義と虐待との違い・具体的な行為の例・研修で取り上げるテーマ・自己点検チェックリストの活用・記録の残し方を整理します。
不適切保育は「虐待ではないが問題のある関わり」を含む広い概念
厚生労働省の定義によると、不適切保育とは「子どもの人格を尊重しない関わりや、保育所保育指針に基づく適切な保育が提供されていない状態」です。法令上の虐待よりも広い概念で、「グレーゾーン」の行為を含みます。
| 区分 | 定義・範囲 | 法的扱い |
|---|---|---|
| 虐待 | 身体的虐待・性的虐待・心理的虐待・ネグレクト(児童虐待防止法上の定義) | 通報義務・行政処分の対象 |
| 不適切保育 | 虐待には当たらないが、子どもの権利や尊厳を尊重しない保育行為全般 | 行政指導・改善勧告の対象となりうる |
不適切保育は虐待に発展するリスクがあります。「今日は疲れていたから」「子どものためを思って」という言い訳が積み重なることで、本人の感覚が麻痺し虐待につながるケースがあります。早期発見・早期是正が重大な事態を防ぐ鍵です。
不適切保育の具体的な行為の例
厚生労働省の通知等で示された不適切保育の具体例は次のとおりです。研修では職員がこれらの行為を「自分ごと」として認識できるよう、具体的な場面で確認してください。
| カテゴリー | 具体的な行為の例 |
|---|---|
| 言葉による不適切な関わり | 大声で怒鳴る・脅す(「言うことを聞かないと〇〇するよ」)・否定的なレッテルを貼る(「あなたはいつもそう」)・子どもの前で特定の子どもを批判する |
| 身体への不適切な関わり | 食事を無理やり口に押し込む・ロッカーや部屋に閉じ込める・乱暴に抱き上げる・髪をつかむなど痛みを伴う行為 |
| 無視・放置 | 泣いている子どもを長時間放置する・子どもの訴えを無視する・集団行動に合わせられない子どもを一人で部屋に残す |
| 差別的・排除的な扱い | 特定の子どもに対して明らかに態度が冷たい・発達に遅れのある子どもを集団から外す・障害のある子どもへの配慮がない |
| 不適切な保育環境 | 子どもの目の届かない場所に職員が立つ・長時間テレビやタブレットを見せるだけで関わりがない・衛生管理が不十分な環境 |
虐待防止研修との違いを意識して研修を設計する
虐待防止研修は「虐待とは何か・通報義務・施設内で虐待が疑われる場合の対応手順」を中心に扱います。これに対して不適切保育防止研修では、「グレーゾーンの行為を職員自身が自覚する」ことに主眼を置きます。
研修の設計として有効なアプローチは次の2つです。
アプローチ1:事例検討形式
架空の場面(「食事中に食べるのが遅い子どもに対して職員がとった行動」など)を提示し、「この行動は適切か・不適切か」をグループで話し合います。「グレーゾーンと感じる部分」を職員全員が言語化する過程が重要です。「あれはまずかったかもしれない」という気づきが自発的に生まれやすくなります。
アプローチ2:自己点検チェックリストの記入
「自分の保育を振り返る」チェックリストを全職員が個人で記入します。チェック結果を施設長に提出するのではなく、自己確認として使うことで、正直に記入しやすくなります。その後、全体で気になった項目を匿名で共有する形式が機能しやすいです。
自己点検チェックリストに含める項目
不適切保育の自己点検チェックリストに含める主な確認項目は次のとおりです。研修で使う場合は、「していない→している」を問うのではなく「気になることがあったかどうか」という形式にすると正直な振り返りを促せます。
- 子どもに対して大声で怒鳴ったり、強い言葉を使ったことがあるか
- 特定の子どもへの関わりが冷たくなっていると感じたことがあるか
- 食事・着替えなどの場面で子どもに強制的な対応をしたことがあるか
- 泣いている・困っている子どもを意図的に無視したことがあるか
- 他の職員の不適切な行為に気づいたが何も言えなかったことがあるか
- 職員同士が子どもの前で特定の子どもや保護者の話をしたことがあるか
不適切保育を発見したときの対応手順
職員間で不適切保育の疑いがある行為を発見・認知した場合の対応手順を事前に決めておくことが重要です。
- 施設長・主任への報告:目撃した状況を事実ベースで伝えます。「〇〇のような行為を見た」という事実の報告です
- 施設長による事実確認と当事者への指導:報告を受けた施設長が事実を確認し、当事者に対して指導・改善を求めます
- 改善状況の確認と記録:指導後の改善状況を観察・記録します。改善が見られない場合は再度指導し、深刻な場合は自治体への報告を検討します
- 自治体への報告:虐待または重大な不適切保育については、自治体(市区町村・都道府県)への報告が求められます(第9条の2に基づく通報)
「同僚のことだから報告しにくい」という心理は理解できますが、発見した職員が「報告しない」を選択した場合、後から被害が拡大したときの責任問題に発展することがあります。「気になることがあれば相談できる」雰囲気づくりが施設長の役割です。
研修記録に残すべき内容
不適切保育防止研修の記録には、次の内容を残してください。
- 実施日時・参加した職員の氏名または署名
- 研修の形式(事例検討・チェックリスト記入・講義など)
- 取り上げた内容の概要(「不適切保育の定義と具体例」「自己点検チェックリストの記入と共有」など)
- 研修後の気づきや改善の申し合わせ事項
不適切保育防止研修は、虐待防止研修(第9条の2)の一環として位置づけることができます。記録に「第9条の2に基づく虐待防止研修(不適切保育への対応を含む)」と明記しておくと、運営指導での説明がスムーズです。
運営指導でよく指摘される不備
- 虐待防止研修のみで不適切保育に触れていない:虐待の定義・通報義務だけを扱い、グレーゾーンの行為については何も確認していないケースがあります。厚生労働省通知(令和5年5月)を踏まえ、不適切保育についても研修で取り上げることが求められます
- 研修の記録がない:「毎年やっている」という口頭説明では確認できません。参加者名・内容の概要が確認できる記録が必要です
- 自己点検や事例検討の実施記録がない:「講義を聞いた」だけの研修では、職員が自分ごととして考える機会がありません。チェックリストや事例検討を実施した記録を残してください
- 発見・報告の手順が文書化されていない:「不適切保育を発見したらどうするか」の手順がマニュアルや施設のルールとして文書化されていない施設は、対応が後手になります
まとめ
不適切保育防止研修は、第9条の2に基づく虐待防止研修の一環として位置づけられます。虐待の定義・通報義務だけでなく、「グレーゾーンの行為」をチームで言語化し、自分の保育を振り返る機会として設計することが重要です。
研修の形式は、事例検討・自己点検チェックリストの記入・発見時の対応手順の確認の3つを組み合わせると、職員が自分ごととして関われます。記録には「第9条の2に基づく虐待防止研修(不適切保育への対応を含む)」として実施日・参加者・内容を残してください。
不適切保育防止研修の資料・チェックリスト・記録様式をまとめたツールをぜひ活用してください。


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