保育所の熱中症対策は、令和5年4月施行の安全計画(第6条の3)の対象分野に含まれます。年1回以上の研修・訓練の実施と記録が義務の枠組みに入りました。
この記事では、根拠・熱中症の重症度分類・WBGT(暑さ指数)の基準・保育所で起きやすい場面・研修で確認すべき内容・記録の残し方を整理します。
熱中症対策研修の義務の根拠は安全計画(第6条の3)
熱中症対策の研修を独立して義務づける条文はありませんが、令和5年4月施行の安全計画(児童福祉施設の設備及び運営に関する基準 第6条の3)では、保育所が安全に関する研修と訓練を年1回以上実施することが義務づけられています。安全計画の対象分野には「熱中症」が含まれます。
また、内閣府「特定教育・保育施設等における重大事故防止及び事故発生時の対応のための指針」(令和5年改訂版)は、熱中症による重大事故の防止を重点項目の一つとして挙げています。
安全計画の訓練日に熱中症対応訓練を組み込む、または夏前(5〜6月)に熱中症対策研修を実施する施設が多いです。
熱中症の重症度は3段階で判断する
熱中症の重症度は、環境省「熱中症環境保健マニュアル」に基づき3段階(Ⅰ度・Ⅱ度・Ⅲ度)に分類されます。研修では各段階の症状と初期対応を全職員で確認してください。
| 重症度 | 主な症状 | 初期対応 | 119番の目安 |
|---|---|---|---|
| Ⅰ度(軽症) | めまい・立ちくらみ・筋肉のこむら返り・大量の発汗 | 涼しい場所へ移動・衣服をゆるめる・水分・塩分補給 | 休息で回復すれば不要。改善がなければ受診 |
| Ⅱ度(中等症) | 頭痛・吐き気・嘔吐・倦怠感・体がだるい・集中力の低下 | 涼しい場所・水分・塩分補給・体を冷やす。口から飲めない場合は119番 | 自力で水が飲めない・改善しない場合は救急車 |
| Ⅲ度(重症) | 意識障害・けいれん・高体温(40℃超)・まっすぐ歩けない | すぐに119番。到着まで体を冷やす(首・脇・鼠径部) | 即119番 |
子どもは体温調節機能が未発達で、体重あたりの体表面積が大きく、大人より急速に体温が上昇します。「少し顔が赤い」「ぐったりしている」という段階で涼しい場所に移動させ、水分補給と体の冷却を始めることが重要です。
戸外活動の中止基準はWBGT31℃以上
WBGT(湿球黒球温度・Wet Bulb Globe Temperature)は、気温・湿度・輻射熱の3要素を組み合わせた「暑さ指数」です。単純な気温より熱中症リスクを正確に反映します。
日本スポーツ協会「熱中症予防のための運動指針」に基づいた活動判断の目安は次のとおりです。
| WBGT(暑さ指数) | 活動の目安 | 主な対応 |
|---|---|---|
| 28℃未満 | 原則実施可 | こまめな水分補給・休憩を設ける |
| 28〜31℃ | 厳重警戒(活動を制限) | 激しい活動は避ける・積極的に休憩・水分補給を頻繁に |
| 31℃以上 | 原則中止 | 戸外活動・プール活動は中止。室内で過ごす |
WBGT計(測定器)は市販品で3,000〜10,000円程度から入手できます。自治体によっては学校・保育施設向けに無償貸与や購入補助を行っている場合があります。
「WBGT計がない場合はどうするか」という声もあります。環境省の「熱中症警戒アラート」や気象庁の「暑さ指数の実況・予報」(Web公開)を活用して、前日から翌日の外遊びの可否を判断する施設も多いです。ただし、実測と予報には差があるため、可能な範囲でWBGT計の導入を検討してください。
保育所で特に注意が必要な4つの場面
熱中症リスクが特に高い場面を整理します。研修では各場面の対策を職員全員で確認してください。
① 送迎バス・車内
令和4年の送迎バスへの置き去り事故を受け、保育所等の送迎バスには安全装置の設置が義務化されました。夏場の車内温度は外気温より20〜30℃以上高くなることがあり、短時間でも命に関わります。送迎の際は「乗り込んだ子どもの人数と降りた人数を必ず照合する」「バスから離れる前に全座席を確認する」を徹底してください。
② 散歩・戸外活動
アスファルトの地面は晴天下で60℃を超えることがあります。子どもは身長が低く、地面に近い高温の空気を吸い込みやすいです。散歩時はWBGT基準を確認し、帽子の着用・水分持参・日陰のあるルートを選ぶことが基本です。
③ プール活動後
体が濡れていても熱中症は起きます。プール後は皮膚が濡れているため一見涼しそうに見えますが、強い直射日光の下で長時間過ごすと体温が上昇します。プール後は速やかに着替えさせ、日陰で休ませてください。
④ 午睡中
乳幼児は午睡中に熱中症になることがあります。特に昼食後は体温が上がりやすい時間帯です。午睡室の室温(目安:26〜28℃)と換気を管理し、定期的に呼吸確認を行ってください。呼吸確認はSIDS(乳幼児突然死症候群)予防とも兼ねています。
研修で確認すべき4つのテーマ
テーマ1:熱中症の種類と症状
前述のⅠ度・Ⅱ度・Ⅲ度の症状と、子どもがとくに訴えにくい症状(「なんか変」「頭が痛い」という曖昧な表現しかできない)を確認します。言語化できない乳児については、顔色・機嫌・発汗の状態を観察する視点を共有してください。
テーマ2:WBGTの測定と活動判断
WBGT計の使い方・測定のタイミング(外遊びの開始前・プール開始前)・活動可否の判断フローを確認します。「誰が測定して、誰が判断するか」という役割分担を決めておくと、迷いなく動けます。
テーマ3:初期対応の手順
「涼しい場所への移動→衣服をゆるめる→体を冷やす→水分補給→経過観察」という手順を、実際にロールプレイ形式で確認します。特に「どのタイミングで119番するか」の判断基準(意識がない・自分で水が飲めない・Ⅲ度の症状)を明確にしておいてください。
テーマ4:119番通報と保護者連絡
119番通報の担当者・施設長への報告・保護者への連絡の順番と内容を確認します。「誰が通報して、誰が保護者に電話するか」を事前に役割分担しておかないと、緊急時に全員が子どもの対応と通報と電話を同時にしようとして混乱します。
日常の予防対策
研修で取り上げるだけでなく、日常の保育の中で継続して実践することが大切です。
- 水分補給の声かけ:喉が渇いたと感じる前に補給させる。外遊び前・活動の合間・帰室後に習慣化する
- 帽子の着用徹底:戸外では必ず帽子を着用。日差しの強い時間帯(10〜14時)の外出を避ける
- 日陰の確保:園庭の日陰になるスペース・サンシェードの活用。直射日光の下で長時間遊ばせない
- 室温・湿度の管理:保育室・午睡室の温度計と湿度計を設置し、適切な範囲(温度26〜28℃・湿度50〜60%)を保つ
- 体調確認の徹底:登園時に体温測定・体調確認を行い、発熱や体調不良の子どもを早期に把握する
研修・訓練の記録に残すべき内容
- 実施日
- 研修のテーマ・使用した資料
- 参加した職員の氏名または署名
- WBGT測定の実習を行った場合はその内容
- 振り返り・改善点
安全計画の訓練と兼ねる場合は、「安全計画に基づく訓練(熱中症対応)」として記録に明記しておくと、安全計画訓練の実施記録としても機能します。
運営指導でよく指摘される不備
- WBGT計がなく、中止基準が文書化されていない:「なんとなく暑かったら中止にする」という運用では、判断基準の根拠を示せません。中止基準を安全計画または別の文書に明記しておいてください
- 熱中症対策研修の記録がない:毎年夏前に口頭で伝えているだけで記録がないケースがあります。参加者名と内容を記録した書類が必要です
- 送迎バスの点検記録がない:送迎バスを使用している施設では、乗降の人数確認と最終確認の記録が義務化されています(令和5年4月施行)。安全計画にバスの安全確認手順を盛り込んでいるか確認してください
- 午睡中の体温管理の記録がない:室温・湿度の記録を午睡の記録と合わせて残している施設は運営指導で説明しやすくなります
まとめ
保育所の熱中症対策は安全計画(第6条の3)の訓練対象です。年1回以上の研修・訓練と記録が必要です。
研修では重症度分類(Ⅰ〜Ⅲ度)・WBGT基準・初期対応の手順・119番通報の役割分担の4テーマを確認してください。WBGT31℃以上で戸外活動を原則中止とする基準を施設の文書に明記し、全職員に周知しておくことが運営指導での説明に役立ちます。
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