保育所での急変・救急対応は、安全計画(第6条の3)の訓練対象に含まれます。また、内閣府「特定教育・保育施設等における重大事故防止及び事故発生時の対応のための指針」(令和5年改訂版)は、全職員が心肺蘇生とAEDの操作を習得するよう求めています。
この記事では、保育所で起きやすい急変の種類・心肺蘇生の基本・研修で確認すべき手順・急変対応マニュアルに盛り込む内容を整理します。
急変対応の訓練は、安全計画と重大事故指針の両方が根拠
令和5年4月施行の安全計画(第6条の3)は、保育所が安全に関する研修と訓練を年1回以上実施することを義務づけています。急変・救急対応は安全計画の対象分野に含まれます。
内閣府「特定教育・保育施設等における重大事故防止及び事故発生時の対応のための指針」(令和5年改訂版)は、重大事故の防止と発生時の対応について、施設に次のことを求めています。
- 全職員が心肺蘇生法とAED操作を習得する機会を設ける(年1回以上の訓練が推奨)
- 緊急時の連絡体制(119番通報の担当・保護者連絡の担当)を整備する
- AEDを設置し、全職員がその場所を把握する
重大事故の件数(死亡・重篤事故)は年間を通じて発生しており、内閣府は毎年公表しています。窒息・溺水・睡眠中の事故が件数の多くを占めており、保育所はこれらに対する備えを最優先で整える必要があります。
保育所で起きやすい急変の種類と初動
保育所で急変につながりやすい場面を整理します。研修では、各場面ごとの初動を確認してください。
| 急変の種類 | 起きやすい場面 | 初動のポイント |
|---|---|---|
| 窒息 | 食事中・おやつ・異物誤飲 | 声が出ない・顔色が変わったら背部叩打法または腹部突き上げ。119番へ |
| 溺水 | プール・水遊び・手洗い場 | すぐに水から出す・呼びかけ→反応なし→心肺蘇生・119番 |
| アナフィラキシー | 食物アレルギーのある子の食事中 | エピペン処方者はすぐにエピペン使用・119番。エピペン未処方でも症状が重ければ119番 |
| 熱中症 | 夏季の戸外活動・プール後 | 涼しい場所へ移動・冷却・水分補給。意識がなければ119番 |
| けいれん | 熱性けいれん・てんかん発作 | 横向きに寝かせる・周囲の危険物を除く・時間を計る。5分以上続く・初めてのけいれんは119番 |
| 乳幼児突然死症候群(SIDS) | 午睡中(特に0〜1歳) | 呼吸・体動確認(0歳は5分おき・1〜2歳は10分おきが目安)。確認できなければ心肺蘇生・119番 |
上の表はあくまで概要です。各急変の詳細な対応手順は、内閣府の指針や自治体のマニュアルを参照し、施設の急変対応マニュアルに落とし込んでください。
乳児と幼児では、心肺蘇生の手順が異なる
心肺蘇生(CPR)の手順は、対象の年齢によって異なります。保育所では乳児(おおむね1歳未満)と幼児(1歳以上)が混在するため、両方の手順を研修で確認してください。
乳児(おおむね1歳未満)の胸骨圧迫
- 方法:両手の親指を重ねて胸骨の下半分に当て、残りの指で背中を支える「両親指圧迫法」(または人差し指と中指2本を使う方法)
- 深さ:胸の厚みの約3分の1(約4cm)
- 速さ:1分間に100〜120回
- 人工呼吸と圧迫の比率:30回の圧迫:2回の人工呼吸(救助者が1人の場合)
幼児(1歳以上)の胸骨圧迫
- 方法:片手の付け根、または両手を重ねて胸骨の下半分に当てる
- 深さ:胸の厚みの約3分の1(約5cm)
- 速さ:1分間に100〜120回
- 人工呼吸と圧迫の比率:30回の圧迫:2回の人工呼吸(救助者が1人の場合)
訓練では人形(乳児用・幼児用)を使い、実際に圧迫する感覚を体験することが重要です。AEDは小学生未満(おおむね8歳未満)には小児用パッドを使用します。小児用パッドが手元にない場合は成人用パッドを代用します(小児用パッドを優先)。
上記の手順は日本蘇生協議会(JRC)「救急蘇生法の指針2020」に基づいています。手順は改訂されることがあるため、最新版を確認してください。
研修で確認すべき手順は4つ
① 119番通報の担当と流れ
急変に気づいた職員が第一発見者になるとは限りません。「気づいた職員がすぐに心肺蘇生・別の職員が119番通報・施設長へ報告・保護者連絡」という流れを事前に決めておきます。1人で全部やろうとすると、どれも遅れます。
② 施設内の連絡体制
施設長・保育士・調理担当など、急変時に誰が何をするかの役割分担を一覧表にまとめておきます。「誰かがやるだろう」という状態を防ぐため、氏名と役割を明示してください。
③ AEDの設置場所と使い方
AEDがある場所を全職員が即答できる状態にしておきます。研修では実物を使って電源の入れ方・パッドの貼り方・除細動ボタンを押すタイミングを確認します。「AEDの場所は知っているが、使ったことがない」という職員に訓練の機会を設けてください。
④ 保護者への連絡
救急搬送が決まった段階で保護者に連絡します。伝える内容は「いつ・何が起きたか・今の状態・搬送先の病院名」です。搬送先が決まっていない段階でも、第一報を入れることを優先してください。
急変対応マニュアルに盛り込む内容
急変対応マニュアルには、最低限以下の内容を入れておくと、実際の場面で判断が速くなります。
- 急変の種類別の初動(上の表を参照)
- 心肺蘇生の手順(乳児・幼児別)
- AEDの設置場所・使い方の手順
- 119番通報の担当者と流れ
- 保護者連絡の担当者と伝える内容
- 自治体(市区町村)への報告が必要な重大事故の定義と報告先・報告様式
- 近隣の医療機関(小児科)の一覧と連絡先
マニュアルは定期的に(少なくとも年1回)見直し、担当者の変更・AEDの更新・近隣医療機関の変更があれば更新してください。
記録の残し方
急変対応研修・訓練の記録に残すべき内容は次のとおりです。
- 実施日
- 訓練の内容(心肺蘇生・AED操作・通報訓練など)
- 参加した職員の氏名または署名
- 使用した教材・人形の種類
- 訓練後の振り返り(うまくできなかった点・改善事項)
年1回の訓練に加え、新規採用職員には着任後できるだけ早く心肺蘇生の基本を確認させてください。
運営指導でよく指摘される不備
- AEDの場所を全職員が把握していない:設置しているが、非常勤職員や新人が知らないケースがあります。定期的に全職員への周知を行ってください
- 心肺蘇生・AED訓練の記録がない:「年1回やっている」という認識があっても、記録が残っていないと実施の証拠になりません
- マニュアルが古い・更新されていない:数年前に作ったまま担当者が変わっている・連絡先が変わっているケースがあります。年度初めに内容を確認する習慣をつけてください
- 乳児と幼児の手順の違いを知らない:保育士が乳児クラス・幼児クラス両方を担当することがある施設では、両方の手順を全職員が把握しているか確認してください
- エピペン所持者の情報が共有されていない:アレルギーのある子どもの中にエピペン処方者がいる場合、担当以外の職員も使い方を知っておく必要があります
まとめ
保育所の急変・救急対応の備えは、安全計画(第6条の3)と内閣府の重大事故防止指針が根拠です。全職員が心肺蘇生とAED操作を年1回以上訓練し、急変対応マニュアルを整備しておくことが求められます。
乳児と幼児で手肺蘇生の手順が異なる点、AEDの設置場所を全職員が即答できる状態を保つ点が、運営指導でも確認されます。研修・訓練の記録を必ず残してください。
研修の資料・確認テスト・対応手順カードをまとめたツールを用意しています。ぜひ活用してください。


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