飲食店をいつ閉めるか。閉店の判断基準と、撤退が遅れるほど損失が広がる仕組み。

飲食店をいつ閉めるか。閉店の判断基準と、撤退が遅れるほど損失が広がる仕組み。 飲食店の開業

飲食店の閉店判断の目安は、「損益分岐点を毎月下回り続け、残り運転資金が固定費の3か月分を切った時点」です。公庫の記入例(洋風居酒屋)の損益分岐点は月商240〜249万円で、これを継続的に下回る状態が続くと運転資金の枯渇が近づきます。撤退が遅れるほど借入の残高が増え、最終的な損失が大きくなります。公庫の「2025年度新規開業実態調査」では、開業後に黒字基調でないと回答した開業者が33%に上り、苦労の1位は「資金繰り・資金調達」(56.9%)でした。撤退の判断を遅らせた場合の損失拡大は、数字で事前に確認できます。

飲食店の閉店に至るパターンは3つある

飲食店の閉店に至る経緯は、主に次の3つに分類できます。

1つ目は、売上が損益分岐点を継続的に下回るパターンです。開業直後の立ち上がり期間に売上が伸び悩み、そのまま損益分岐点を超えられない状態が続くと、毎月の赤字が運転資金を削り続けます。公庫の記入例(洋風居酒屋)の損益分岐点は返済開始後で月商249.1万円です。月商がこれを下回る月が3か月・6か月と続くと、運転資金の枯渇が現実的な問題になります。

2つ目は、運転資金の枯渇(資金ショート)です。損益が黒字でも、売上の入金タイミングと仕入・人件費の支払いタイミングがずれると手元現金が不足します。キャッシュレス決済の入金遅延・ボーナス月の人件費・設備の急な修繕費が重なると、損益計算書上は黒字でも現金が足りなくなることがあります。

3つ目は、賃貸契約の更新拒否や建物の事情による閉店です。建物の老朽化・オーナーの方針変更・周辺の再開発などで賃貸契約が更新されないケースがあります。このパターンは事前に避けることが難しく、契約書の更新条件を開業前に確認しておくことが対策の基本です。

本記事では最も頻度が高い1つ目と2つ目のパターン、つまり損益の悪化と運転資金の枯渇について、公庫の数字を使って試算します。

損益分岐点を下回り続けると月次赤字がどれだけ積み上がるか

公庫の記入例(固定費156.1万円・元金返済5.8万円・原価率35%)を前提に、月商が計画比でどの水準まで落ちると赤字になるかを計算します。月次損益は「月商×(1−原価率)−固定費−返済」で求めます。

計画比 月商(万円) 粗利(万円) 固定費+返済(万円) 単月損益(万円) 状態
100% 322.0 209.3 161.9 +47.4 黒字
90% 289.8 188.4 161.9 +26.5 黒字
80% 257.6 167.4 161.9 +5.5 黒字(ぎりぎり)
70% 225.4 146.5 161.9 △15.4 赤字
60% 193.2 125.6 161.9 △36.3 赤字
50% 161.0 104.6 161.9 △57.3 赤字

※粗利=月商×0.65(原価率35%)。固定費+返済=156.1万+5.8万=161.9万円(据置期間終了後)。公庫「創業計画書記入例(洋風居酒屋・2025年4月版)」の数値をもとに試算。

月商が計画の80%(257.6万円)では月次黒字が5.5万円とわずかに残ります。しかし70%(225.4万円)まで落ちると月次赤字が15.4万円になり、60%(193.2万円)では36.3万円の赤字になります。この状態が続くと、開業時に用意した運転資金が月次赤字の分だけ削られていきます。

損益分岐点は返済前で月商240.2万円、返済開始後で249.1万円です。月商がこの水準を下回る状態が3か月・6か月と続く場合、単月損益が改善する見通しが立たなければ運転資金の枯渇リスクを具体的に試算する必要があります。

赤字が続くと運転資金はいつ枯渇するか

公庫の記入例では開業時の運転資金は290万円です。月次赤字が続く場合、この290万円がどの時点で尽きるかを計算します。赤字額の大きさによって、残り時間が大きく変わります。

月次赤字額 290万円が尽きるまでの月数 計画比との対応 残り時間の目安
月15万円 約19か月 計画比75〜80%水準 1年半強
月30万円 約9.7か月 計画比65〜70%水準 約10か月
月45万円 約6.4か月 計画比55〜60%水準 約6か月
月60万円 約4.8か月 計画比50%以下の水準 約5か月

※開業時の運転資金290万円(公庫記入例)から月次赤字を毎月引いた場合の試算。実際の現金残高は返済・キャッシュレス入金のタイミングによりこの試算とずれることがあります。

月次赤字が30万円(計画比65〜70%水準)の場合、運転資金が尽きるまでは約10か月です。開業時に余裕を見て運転資金を400万円用意していた場合でも、400÷30≈13か月と1年強しか持ちません。月次赤字が45万円まで拡大すると、400万円でも約9か月で枯渇します。

この計算から、月次赤字が続いている場合に「あと何か月で資金が尽きるか」を具体的に把握することが、閉店判断を適切なタイミングで下すための基本です。毎月末に「現在の運転資金残高÷月次赤字額=残り月数」を計算しておくと、判断のための数字を常に手元に置けます。

撤退を遅らせると損失がどれだけ広がるか

閉店の判断を先送りすることは、追加の損失を積み上げることを意味します。月次赤字が30万円の状態を例にとると、撤退のタイミングを遅らせるほど損失が増加します。

撤退の遅れ 赤字による追加損失(月30万円) 月次赤字が60万円の場合 月次赤字が15万円の場合
1か月遅れ 30万円 60万円 15万円
3か月遅れ 90万円 180万円 45万円
6か月遅れ 180万円 360万円 90万円
12か月遅れ 360万円 720万円 180万円

閉店には費用が伴います。主なものは原状回復工事費(スケルトン物件であれば内装・設備の撤去で数十万〜200万円以上)・未払い賃料・残置物の撤去・従業員への給与や退職金(就業規則等で定めていた場合)です。居抜きで次のテナントに引き渡せる場合は、造作譲渡料を受け取れる分だけ閉店費用を圧縮できます。

閉店費用は撤退のタイミングに関わらず発生しますが、赤字による損失は撤退を遅らせるほど直線的に増加します。月次赤字が30万円の店舗が判断を6か月先送りすると、赤字による追加損失だけで180万円増加します。この180万円は、撤退を早めれば失わずに済んだ資金です。

閉店を「失敗」と位置づけて先送りするほど、最終的な借入残高が増え、残債の処理が複雑になります。閉店の判断を数字ベースで下す仕組みを持つことが、損失の最小化につながります。

閉店の判断を早めるシグナルは3つある

以下の3つのシグナルが重なった場合は、閉店の可能性を具体的に検討する段階と考えられます。

1つ目は、3か月連続で月商が損益分岐点を大きく下回ることです。公庫の記入例の損益分岐点は返済後で249.1万円です。249.1万円の20%下は約199万円(249.1×0.80)です。月商が199万円前後を3か月連続で下回り、改善の見通しが立たない場合は、運転資金の試算を始めるシグナルです。

2つ目は、運転資金の残高が月次固定費の3か月分を切ることです。公庫の記入例では固定費156.1万円の3か月分は468.3万円です。ただし、開業時の運転資金が290万円の場合はすでにこの水準を下回っているため、実務的には「残り運転資金÷月次赤字額が3か月を切った時点」が判断の目安になります。

3つ目は、設備の大規模修繕が発生し、回収の見通しが立たないことです。冷蔵設備・厨房機器・空調の故障で50万〜200万円規模の修繕費が発生した場合、修繕費を支出した上でなお損益分岐点を超えられる見込みがあるかを試算します。修繕費を支出して損益が改善しない見通しであれば、修繕前に閉店する選択が損失を小さくする場合があります。

シグナル 公庫記入例での具体的な数字 確認の頻度
月商が損益分岐点の20%以上下回る月が3か月連続 月商199万円(249.1万×80%)を3か月連続下回る 毎月末に月商と損益分岐点を比較する
残り運転資金÷月次赤字額が3か月を切る 月次赤字30万円なら残り運転資金が90万円を切る 毎月末に現金残高と月次赤字を確認する
設備修繕費が発生し、損益改善の見通しが立たない 修繕費50万円以上かつ月商249万円超を実現できない場合 修繕の必要が生じた時点で試算する

閉店後の借入残高の処理

閉店した後も借入残高が残っている場合は、返済義務がなくなるわけではありません。公庫の記入例では借入700万円・年利2.5%・10年返済です。開業から3年目に閉店した場合でも、残りの借入残高(元金700万円から3年分の返済を差し引いた額)の返済義務は続きます。

借入の処理は、店舗が個人事業か法人かによって対応が異なります。個人事業の場合は事業主個人が返済義務を負います。閉店後に返済が困難な場合は、金融機関との条件変更(リスケジュール)・個人再生・自己破産などの手続きが選択肢になります。法人の場合は会社の清算手続きを行い、資産を換価して借入の返済に充てます。残債が残る場合は代表者が連帯保証をしていれば個人として返済義務が生じます。

いずれのケースも、手続きの選択と進め方は状況によって異なります。閉店を検討する段階になったら、税理士・中小企業診断士・弁護士に早めに相談することをおすすめします。相談を遅らせると選択肢が狭まることがあります。

開業前に出口の基準を設定しておく意味

閉店の判断は、経営が悪化した後に下そうとすると、感情・借入の残高・スタッフへの責任感などが絡み合い、先送りになりやすいです。開業前の段階で「どういう状態になったら撤退を検討するか」の基準を数字で設定しておくと、実際に閉店を判断するときに迷う余地が小さくなります。

たとえば「6か月連続で月商が損益分岐点を下回り、かつ残り運転資金が月次赤字額の6か月分を切った場合は閉店を検討する」という基準を開業計画書に書いておきます。この基準はあくまで目安であり、業態・季節変動・改善施策の進捗によって柔軟に判断することが前提です。

事前に基準を設定することのもう一つの効果は、投資額に見合った回収期間を意識できることです。公庫の記入例では初期費用1,260万円の累積損益回収に32か月かかります。開業から32か月以内に閉店した場合、初期投資の全額は回収できません。この現実を開業前に数字で把握しておくことが、撤退時の損失の大きさを正確に見積もる出発点になります。

公庫の「2025年度新規開業実態調査」では開業後に黒字基調と回答した開業者は67.0%でした。裏を返すと33%は黒字基調ではありません。開業前に「うまくいかなかった場合の出口」を具体的に設計しておくことは、33%の可能性に備えることです。

まとめ

飲食店の閉店判断には、月次の損益と運転資金の残高の2つを毎月確認する習慣が必要です。公庫の記入例をもとにした試算では、月商が計画の70%(225.4万円)まで落ちると月次赤字が15.4万円になり、60%(193.2万円)では36.3万円の赤字になります。運転資金290万円は月次赤字30万円が続けば約10か月で尽きます。

撤退を遅らせるほど、赤字が積み上がる分だけ損失が広がります。月次赤字30万円の状態を6か月先送りすれば、それだけで180万円の追加損失が発生します。閉店の判断を早めるシグナルを事前に設定し、毎月の数字と照らし合わせることが、損失を最小化する基本的な対処法です。

開業計画の段階から損益分岐点と運転資金の枯渇シナリオを確認するには、飲食店の開業 収支シミュレーターのPro版で36か月の試算ができます。

本記事の数字は日本政策金融公庫「創業計画書記入例(2025年4月版・洋風居酒屋)」および「2025年度新規開業実態調査」をもとにした試算です。実際の損失額・撤退費用は物件・業態・経営状況により大きく異なります。借入の処理・法的な手続きについては、税理士・中小企業診断士・各行政窓口にご相談ください。本ツールは当方が作成した民間のシミュレーターであり、日本政策金融公庫が作成・提供するものではありません。むむ(fufumumu_design)作成・2026年10月確認。

この記事を書いた人

業種別のツールを、一人で作っています。開業前の収支シミュレーター、法定研修キット、資格の問題集。どれも、厚生労働省の告示や調査の原文を自分で確かめてから数字を組み込んでいます。使う人が「この数字、合ってるか」と不安になるようなツールは作りたくないので。

上場企業で20年間、営業ひとすじ。電話営業・インサイドセールスから、約70名のチームのマネジメントへ。現場で「根拠のない数字」が判断を狂わせる場面を見続けてきたせいか、ツールを作るときも出典を確かめずにはいられません。

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