院内感染対策の研修、無床診療所は委員会なしで研修だけでいい。

院内感染対策の研修、無床診療所は委員会なしで研修だけでいい。 ??????????(????)

無床診療所(入院ベッドのない診療所)は、感染制御委員会を設置する義務がありません。医療法施行規則第1条の11第2項第1号を根拠とする院内感染対策の規定では、委員会の設置義務は有床診療所および病院に限られています。一方で、感染制御指針の整備と職員への研修の実施は、無床診療所にも求められます。この2点を年2回程度の頻度で記録とともに整えておくことが、立入検査への実務的な対応になります。

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医療法施行規則第1条の11第2項第1号が院内感染対策の根拠条文です

医療法施行規則第1条の11第2項は、医療安全管理体制に必要な措置として、指針の整備・委員会の設置・職員研修の実施を定めています。そのうち院内感染対策に関しては、第1号に基づいて感染制御指針の整備が求められ、あわせて医政総発0330第5号「医療機関における院内感染対策について」などの関連通知により、研修の実施が義務として課されています。

重要なのは、この法令体系のなかで「委員会の設置義務」と「研修の実施義務」が別建てで定められているという点です。有床診療所および病院は、委員会・研修の両方が義務になります。無床診療所は、委員会の設置義務がなく、研修と指針の整備のみが義務となります。この区分を正確に理解せずに、「委員会を開いていないと違反になる」と思い込んでいるクリニックは少なくありません。無床診療所であれば、委員会を設置しなくても法令違反にはなりません。

ただし、「委員会が不要」と「何もしなくていい」は別の話です。指針と研修という2本柱は、無床診療所でも義務として残ります。この2点を整備し、記録を残しておくことが、保健所の立入検査への実務的な備えになります。

無床診療所に求められる2つの対応

感染制御指針(マニュアル)の整備が必要です

感染制御指針とは、院内感染防止のための方針と手順をまとめた文書です。整備が必要なことは医療法施行規則に定められており、保健所の立入検査でも「指針はありますか」と確認されることがあります。規定の様式はありませんが、少なくとも次の内容をカバーしておくことが実務的には求められています。

  • 手指衛生の手順(手洗いおよびアルコール手指消毒の使い分け)
  • 標準予防策の概要(すべての患者の血液・体液を感染性のあるものとして扱う原則)
  • 感染性廃棄物の分類・処理の手順
  • 職員が感染した場合の就業制限と連絡経路
  • 針刺し・血液汚染事故が発生した場合の対応手順
  • 感染症発生時の保健所への報告手順

指針は、作成して棚に入れておくだけでなく、職員全員が参照できる場所に置き、内容に変更があれば適宜更新することが大切です。更新した際は、更新日と改訂内容を記録しておくと、立入検査での説明がしやすくなります。

職員への研修の実施が必要です

院内感染対策の研修は、医政総発0330第5号などの関連通知により、年2回程度の実施が求められています。「程度」という表現が含まれていますが、立入検査で「研修をどれくらいの頻度で実施していますか」と問われたとき、年2回の実施記録があることが実務的な備えとなります。

研修の対象者は、医師・看護師だけでなく、受付スタッフ・医療事務・清掃を担当するスタッフも含みます。感染対策は診療にかかわる職種だけの問題ではなく、施設内で働くすべての職員が基本を理解していることが重要です。

研修に含めるべき内容

手指衛生は院内感染対策の基本です

院内感染対策のなかで最も効果があるとされているのが手指衛生です。研修では、手洗いとアルコール手指消毒の使い分け(手が目に見えて汚れているときは手洗い・そうでないときはアルコール消毒が有効)と、洗い残しが多い部位(指の間・親指の根元・爪の周囲)を確認します。

WHO(世界保健機関)が提唱している「手指衛生の5つの場面(My 5 Moments for Hand Hygiene)」を、診療場面に照らして具体的に説明すると、職員への定着効果が高まります。5つの場面とは、①患者への接触前・②清潔または無菌操作を行う前・③血液や体液への曝露後・④患者への接触後・⑤患者周辺環境への接触後です。研修では、自分たちの診療場面に当てはめて考える時間を取ることを推奨します。

標準予防策の考え方を全員で共有します

標準予防策(スタンダードプリコーション)は、すべての患者の血液・体液・分泌物・排泄物・損傷のある皮膚・粘膜などを、感染性があるものとして扱うという考え方です。特定の患者が「感染していないから大丈夫」という判断を個人がしないことで、感染リスクを組織全体で均一に下げることができます。

研修では、個人用防護具(PPE)の選択基準と正しい着脱の手順を確認します。手袋・サージカルマスク・ガウン・アイシールドのそれぞれについて、どのような処置や場面で使用するかを整理しておくことが大切です。特に着脱の順序(手袋を脱ぐときは外側に触れない方法で行う等)は、定期的に練習形式で確認することを推奨します。

感染経路別予防策はリスクに応じた対応です

標準予防策に加えて、飛沫感染・空気感染・接触感染のリスクが高い病原体に対しては、経路に応じた追加の予防策をとります。外来診療を行うクリニックで特に重要なのは、インフルエンザウイルスや新型コロナウイルスのような飛沫感染のリスクへの対応です。

飛沫感染対策では、咳・くしゃみをしている患者への距離の確保(1メートル以上)、マスクの着用、受付や診察室の換気が基本になります。研修では、感染症が疑われる患者が来院した場合の待合室での動線分離の手順も確認しておくとよいです。具体的には、発熱患者を別の待合スペースや車内で待機してもらう仕組みをどう運用するかを、スタッフ間で事前に確認しておくことが大切です。

針刺し事故の対応手順は新人が入職するたびに確認します

注射・採血・縫合などの処置が多いクリニックでは、針刺し事故がゼロになることはありません。事故が発生したときに慌てずに対応できるよう、手順を全員が把握しておく必要があります。

針刺し事故後の基本的な対応手順は次のとおりです。

  1. 傷口を流水で十分に洗い流す(絞り出して血を出す行為は、近年推奨されていない)
  2. 院長または担当者にすぐに報告する
  3. 患者の感染状況(HBV・HCV・HIV)を確認できる情報がある場合は記録する
  4. 感染症科・職場の指定する医療機関を受診し、血液検査と必要な予防措置を受ける
  5. 事故の状況・対応内容を記録に残す

新人の入職時には、この手順を個別に確認することを推奨します。ベテランスタッフは知っているつもりでも、細部が更新されていることがあるため、年1回の確認研修に含めることが安全です。

感染性廃棄物の取り扱いは清掃スタッフも対象にします

注射針・血液が付着したガーゼ・使用済みの手袋などは感染性廃棄物として、適切な容器への廃棄と、許可を受けた処理業者への引き渡しが義務づけられています(廃棄物の処理及び清掃に関する法律および廃棄物処理法施行令)。

研修では、どの廃棄物が感染性廃棄物に該当するか、バイオハザードマーク付きの容器の種類(鋭利なものには専用の硬質容器を使用する等)、廃棄時に混入してはいけないものを確認します。清掃を担当するスタッフも分別の基本を理解しておく必要があるため、清掃担当者向けの説明時間を研修に組み込むことを推奨します。

アウトブレイク発生時の対応も研修に含めます

院内で感染症のアウトブレイク(集団発生)が疑われる場合の対応についても、研修で扱うことが求められています。新型コロナウイルス感染症の流行を経て、外来診療所においても感染発生時の対応プロセスを整備しておくことの重要性が改めて確認されました。

研修で確認しておくべき内容は次のとおりです。

  • 同一の感染症が短期間に複数の患者・職員に発生した場合の報告ルート(院長への報告・保健所への連絡)
  • 感染疑いのある患者の待合での動線分離の手順
  • スタッフが感染した場合の就業制限の基準と代替体制の確保方法
  • 診療の縮小・休止が必要になった場合の患者への連絡方法と意思決定者の確認
  • 保健所・医師会・近隣医療機関への連絡体制

これらはBCP(業務継続計画)の内容と重なります。感染症対策の研修とBCPの訓練を組み合わせて実施することで、職員一人ひとりが「感染が広がったときに自分はどう動くか」を理解した状態を作ることができます。

外部研修も活用できます

院内感染対策の研修は、院内だけで完結させる必要はありません。都道府県医師会、地域の感染対策拠点病院(感染対策向上加算を届け出ている病院)、地方衛生研究所などが主催する外部研修に職員を参加させることも、研修実施としてカウントできます。

外部研修への参加を院内の研修記録として残すには、受講証明書・参加証の保存と、院内の研修記録簿への記入(参加者氏名・研修名・日時・主催者)が必要です。院長一人が院内研修を準備することが負担に感じられる場合、外部研修を組み合わせて年間2回の義務を満たすことを検討してください。

外来クリニックが感染対策拠点病院と連携するカンファレンスに参加した場合も、参加記録があれば研修として記録できます。地域の感染対策連携ネットワークの活用は、情報収集としても有益です。

研修記録の作り方と保存

記録に含める最低限の項目

研修を実施したら、必ず記録を残します。保健所の立入検査では研修記録を確認されることがあります。記録に含めるべき最低限の項目は次のとおりです。

  • 実施日時
  • 参加者氏名または参加者数と職種
  • 研修テーマ・内容の概要
  • 講師または担当者名
  • 使用した資料(資料名またはファイル名)

様式に決まりはありません。A4のシートに手書きで記録する方法でも、スプレッドシートで管理する方法でも問題ありません。大切なのは「いつ・誰が・何を学んだか」が後から確認できる状態にしておくことです。

保存期間は5年を目安にします

研修記録の保存期間について、医療法施行規則に明文の規定はありません。立入検査は数年に一度実施されることがあるため、前回の検査から今回の検査までの期間をカバーできる保存期間として、5年程度を実務的な目安としているクリニックが多いです。

デジタルで管理する場合は、バックアップも含めて確実に保存される仕組みを整えておくことを推奨します。紙で保管する場合は、年度ごとにファイルにまとめておくと、検査時に提示しやすい状態になります。

まとめ

無床診療所における院内感染対策の義務を整理します。

対応内容 無床診療所 有床診療所・病院
感染制御委員会の設置 義務なし 義務あり
感染制御指針の整備 義務あり 義務あり
職員への研修の実施 義務あり(年2回程度) 義務あり(年2回程度)
研修記録の保存 保存が必要(5年が目安) 保存が必要(5年が目安)

出典:医療法施行規則第1条の11第2項第1号、医政総発0330第5号「医療機関における院内感染対策について」

委員会がないからといって何もしなくていいわけではありません。感染制御指針の整備・年2回程度の研修・記録の保存という3点を整えておくことが、立入検査への実務的な対応です。

研修内容は、手指衛生・標準予防策・感染経路別予防策・針刺し事故対応・感染性廃棄物の取り扱いが基本です。アウトブレイク発生時の対応もあわせて確認しておくことで、BCPとの整合性も取れます。外部研修を組み合わせることで、院内だけで準備する負担を減らすことも可能です。

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関連記事:クリニック・診療所の法定研修、何が義務で年何回か。

この記事を書いた人

業種別のツールを、一人で作っています。開業前の収支シミュレーター、法定研修キット、資格の問題集。どれも、厚生労働省の告示や調査の原文を自分で確かめてから数字を組み込んでいます。使う人が「この数字、合ってるか」と不安になるようなツールは作りたくないので。

上場企業で20年間、営業ひとすじ。電話営業・インサイドセールスから、約70名のチームのマネジメントへ。現場で「根拠のない数字」が判断を狂わせる場面を見続けてきたせいか、ツールを作るときも出典を確かめずにはいられません。

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