特別教育(安衛則第36条等に基づく業務別の教育)の記録は、労働安全衛生規則第38条により3年以上の保存が義務付けられています。「修了証を渡したから大丈夫」では不十分で、事業者側にも教育を実施した記録を保存する義務があります。一方、雇い入れ教育(安衛則第35条)の記録保存義務は条文上明示されていませんが、労働基準監督署の調査では記録の提示を求められることがあり、実務的には同様の扱いで管理しておくことが必要です。電子データでの保存は認められており、クラウド管理・電子サインとの組み合わせも有効な選択肢です。
安衛則第38条が定める特別教育の記録事項
安衛則第38条は、特別教育の記録について次のように規定しています。
事業者は、特別教育を行つたときは、当該特別教育の受講者、科目等の記録を作成して、これを三年間保存しておかなければならない。(労働安全衛生規則第38条 e-Gov法令検索より)
「受講者、科目等」という表現が法令上の記録項目ですが、「等」の範囲については行政通達・指導で具体化されています。実務上、最低限記録に残すべき項目は以下のとおりです。
- 受講者の氏名
- 受講者の生年月日(本人確認・記録の同一性確認のため)
- 教育の実施年月日
- 教育の科目(何の特別教育の、どの科目を受けたか)
- 教育の時間(各科目の時間数)
- 担当講師の氏名・資格・経歴
「受講者の署名・サイン」は法令上の必須項目ではありませんが、「この人が確かに受講した」ことの証明として記録に含めておくことが推奨されます。後日「受けていない」という主張が出た場合でも、署名があることで事実関係を確認しやすくなります。
保存期間は「3年間」です。教育実施日から3年後ではなく、雇用が継続している限りは最後の教育実施日から3年が基準となります。作業員が退職した後も、退職から3年間は記録を保持することが望ましいとされています。
出典:労働安全衛生規則第38条(e-Gov法令検索で原文を確認)
電子データでの記録・保存は法的に認められている
安衛則第38条は「記録を作成して」「保存」することを求めていますが、紙による記録を義務付けているわけではありません。電子データによる記録・保存も法令上認められています。
厚生労働省は、各種法令に基づく帳簿・記録類について、電子化による管理を推進しています。電子データで保存する場合に求められる条件は、おおむね次のとおりです。
- 必要な記録事項がすべて含まれていること
- 権限のない者による改ざん・削除を防止できる管理体制があること
- 必要な時にすぐ確認・出力できること
これらの条件を満たすのであれば、スプレッドシート(クラウド保存型)・専用の安全衛生管理システム・工事管理ソフトの記録機能いずれも使用できます。
電子サインについても、本人が受講した事実を証明できる手段として有効です。受講者のスマートフォンやタブレットで電子サインを取得し、受講記録に添付する運用を採用している会社も増えています。
ただし、クラウドサービスを使う場合は、サービス終了・契約解除によってデータが失われるリスクを考慮したバックアップが必要です。3年間の保存義務を果たすためには、サービスの継続性とデータのエクスポート手段の確認が前提となります。
雇い入れ教育の記録保存義務の実態
特別教育(安衛則第36条等)の記録保存については安衛則第38条で明確に規定されていますが、雇い入れ教育(安衛則第35条)については、記録保存を義務付ける条文が安衛則に存在しません。
この違いは、雇い入れ教育が特定の危険業務に就く前の基礎教育であるのに対し、特別教育は特定の危険業務に直接関係する技能・知識の習得を目的としており、義務の重みが異なることによるものと考えられます。
しかし、記録保存の義務がないことと、記録を残さなくてよいこととは別の話です。労働基準監督署の臨検(立入り調査)や、労働災害発生後の調査において、「雇い入れ教育を実施したか」を問われるケースは実際に発生しています。その際に記録がなければ、実施したことを証明できません。
特別教育の記録保存期間(3年)に準じて、雇い入れ教育の記録も3年以上保存することが実務上の標準的な対応です。新規入場者教育の記録を現場別に管理している元請会社では、入場日・教育内容・受講者名を記録したシートを工事完了後も一定期間保存する運用をとっているところが多くあります。
労働基準監督署の調査で「見せてください」と言われたとき
労働基準監督署(労基署)の臨検は、事前通知なしに突然来る場合もあれば、事前に日程を知らせる場合もあります。建設現場に対する臨検では、元請事業者と下請け事業者の両方に対して、安全衛生管理の状況を確認します。
記録の提示を求められることが多い書類には、次のものがあります。
- 特別教育修了者の一覧と修了証(フルハーネス・足場・アーク溶接等の特別教育)
- 作業主任者の選任記録と技能講習修了証
- 新規入場者教育の記録
- 安全衛生計画書・作業手順書
- 健康診断の受診記録
このうち特別教育の修了証・記録は、安衛則第38条の3年保存義務があります。提示できない場合は「整備不良」として是正指導や是正勧告の対象となります。
「記録はあるはずだが探せない」という事態を防ぐために、記録の整理と保管場所の決定(電子データであればフォルダ構成・保存場所の統一)を日常業務として組み込んでおくことが重要です。年度末や工事完了のタイミングで記録の整理を行う習慣をつけることで、突発的な調査にも対応できます。
なお、記録の提示を求める権限は労働安全衛生法第101条に基づいており、正当な理由なく提示を拒否したり、虚偽の記録を提示したりすることは違法です。
記録台帳を作る際に入れておくと便利な項目
安衛則第38条が求める最低限の記録事項(受講者氏名・生年月日・実施年月日・科目・時間・担当者)に加えて、以下の項目を台帳に入れておくと実務上の利便性が高まります。
まず「教育の実施場所・形式」です。集合研修・OJT・外部機関委託のいずれかを記録しておくと、後日「どのように教育したか」を確認しやすくなります。集合研修では会場名や参加人数も記録に加えると整理しやすいです。
次に「使用したテキスト・資料の名称・版」です。教育に使用した資料が特定できると、内容の変更があった場合に「どの時点の版で教育を受けたか」を把握できます。法改正があった場合には、改正前の版で教育を受けた作業員への追加教育が必要かどうかの判断にも役立ちます。
三つ目は「次回更新の目安」です。特別教育に法定の更新義務はありませんが、作業主任者技能講習には再教育や技量確認を推奨する団体の指針があります。記録台帳に「次回確認目安年」を記入しておくと、長期在籍者の知識・技能の維持管理に役立ちます。
四つ目は「受講者の確認署名欄」です。上述のとおり法令上の必須項目ではありませんが、本人が受講した事実を確認するために、受講者本人のサインまたは押印欄を設けることを推奨します。電子サインも有効です。
研修キットの記録管理の仕組み
建設業 法定研修キット(https://fufumumu-design.com/kenshu-kit-kensetsu/)では、ブラウザ上で各テーマの研修を完了した後に、確認テストの結果と受講情報をもとにした記録票を出力できます。
記録票には受講者名・研修テーマ・実施日・テスト結果が含まれており、安衛則第38条が求める記録の骨格をカバーしています。紙に印刷して台帳に綴じることも、PDFでの保存もできます。
職員がそれぞれのスマートフォンやパソコンから受講し、その結果を管理者がまとめて保存する運用にも対応しています。外部の登録教習機関に委託せずに社内で特別教育の記録を整備したい場合のツールとしてもご活用いただけます。
まとめ
特別教育の記録は、労働安全衛生規則第38条が定める事項(受講者氏名・生年月日・実施年月日・科目・時間・担当者)を満たした形で3年以上保存する義務があります。電子データでの保存も認められており、改ざん防止・必要時の出力ができる管理体制が整っていれば問題ありません。
雇い入れ教育(安衛則第35条)の記録保存義務は条文上明示されていませんが、労基署の調査対応や労働災害後の確認に備えて、特別教育と同様に3年以上の保存を目標とした管理が実務上の標準です。
記録台帳には法令上の必須項目に加えて、実施形式・使用テキスト・受講者の確認署名を含めておくと、後日の確認に対応しやすくなります。電子化・クラウド化を進める場合は、3年間のデータ保持とバックアップ体制の確認を先に行ってください。


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