職長・安全衛生責任者教育(以下、職長教育)は、新たに職長に就く者に対して実施が義務付けられた安全衛生教育です(労働安全衛生法第60条)。建設業は施行令第19条第1号で当初から義務対象業種に指定されており、2023年4月の施行令改正(労働安全衛生法施行令第19条の改正)では義務対象業種がすべての業種に拡大しました。最低限履修すべき科目と時間は安衛則第40条に定められており、職長のみの教育で少なくとも14時間、安全衛生責任者の選任が必要な現場では追加の2時間を合わせた16時間が一般的です。
建設業は施行当初から職長教育の義務対象だった
労働安全衛生法は1972年(昭和47年)の制定当初から第60条で職長教育の規定を置いており、その対象業種については「政令で定める業種」とされていました。この政令である労働安全衛生法施行令第19条は、制定当初から建設業(第1号)を対象業種として列挙しています。
つまり建設業は、50年以上にわたって職長教育が義務付けられてきた業種です。「最近できた規制」ではありません。
2023年4月の施行令改正(施行令第19条の改正)は、それまで同条に列挙されていなかった業種(小売業・飲食業・社会福祉施設等)も含む「全業種」への拡大を意味するものです。この改正は建設業にとっては義務範囲の拡大ではなく、他業種との水準統一という位置づけになります。ただし、建設業での職長教育実施の実態を改めて確認する機会として受け止めることはできます。
職長教育の対象者は「新たに職長に就く者」
安衛法第60条が義務付けているのは「新たに職長等の職務に就くことになった者」への教育です。「新任の職長」を対象とする教育であり、一度受講すれば在職中ずっと有効という性質のものです(定期更新は義務ではありませんが、後述する能力向上教育は5年ごとが目安とされています)。
ここでいう「職長等」とは、安衛法第60条の文言では「作業中の労働者を直接指導又は監督する者(作業主任者を除く。)」と定義されています。現場の班長・組長・リーダー・フォアマンなど、名称にかかわらず「作業員を直接指揮・監督する立場にある者」が対象です。
「管理職だが現場の指揮は部下に任せている」という立場の方は対象外ですが、「現場で直接作業員に作業指示を出す立場」であれば、職場での呼び方が「職長」でなくても対象になります。名称ではなく実態で判断するのが基本です。
教育の科目と時間数は安衛則第40条が定める
職長教育で履修しなければならない科目と時間数は、安衛則第40条(第60条関係)に規定されています。条文が定める科目と最低履修時間は次のとおりです。
| 科目 | 最低履修時間 |
|---|---|
| 作業方法の決定及び労働者の配置に関すること | 2時間 |
| 労働者に対する指導又は監督の方法に関すること | 2.5時間 |
| 危険性又は有害性等の調査及びその結果に基づき講ずる措置に関すること | 4時間 |
| 異常時等における措置に関すること | 1.5時間 |
| その他現場監督者として行うべき労働災害防止活動に関すること | 4時間 |
| 合計(職長のみの場合) | 14時間 |
条文上の最低履修時間の合計は14時間です。ただし建設業では、現場に元方事業者と下請け事業者が混在するため、下請け事業者の職長を「安全衛生責任者」として選任するケースが多くあります。安全衛生責任者の職務を兼ねる場合は、追加で安全衛生責任者教育(2時間)を受ける必要があり、合計16時間となります。実際に行われている職長教育のほとんどが16時間コースになっているのはこのためです。
職長と安全衛生責任者の役割の違い
職長と安全衛生責任者は別の制度に基づく役割ですが、建設現場では同一人物が両方を兼任することが多いため、混同されやすい概念です。
| 区分 | 職長 | 安全衛生責任者 |
|---|---|---|
| 根拠法令 | 安衛法第60条 | 安衛法第16条 |
| 選任義務の発生要件 | 作業員を直接指揮・監督する場合 | 特定元方事業者(元請け)から連絡・調整を受ける統括安全衛生責任者が選任された現場で、関係請負人(下請け)として作業する場合 |
| 主な職務 | 作業方法の決定・作業員への直接指導・監督 | 統括安全衛生責任者との連絡・調整・元方安全衛生管理者への報告 |
| 教育時間 | 14時間(安衛則第40条) | 2時間(安全衛生責任者教育として) |
元請けの現場に作業員を派遣して工事を請け負う下請け会社においては、現場に派遣する職長を「安全衛生責任者」として元請けに届け出るのが一般的な運用です。この場合は16時間の教育を受けていることが求められます。
2023年4月改正で何が変わったか
2023年4月の安衛則改正は、職長教育の義務対象業種を「全業種」に拡大するものでした(安衛則第40条の改正・2023年4月1日施行)。
改正前の施行令第19条が列挙していた業種は、建設業・製造業・電気業・ガス業・自動車整備業・機械修理業などに限定されていました。この改正で追加されたのは、小売業・飲食サービス業・社会福祉施設・医療機関など、それまで職長教育の義務対象外だった業種です。
建設業にとっての直接的な変化は職長教育の内容の更新です。改正時に科目「危険性又は有害性等の調査及びその結果に基づき講ずる措置に関すること」の時間数が2時間から4時間に増加しています。この科目はリスクアセスメントに関する内容で、建設業でも近年重視されている分野です。旧カリキュラムで受講した職長が多い事業所では、新カリキュラムへの移行の観点から能力向上教育を受講させることを検討する価値があります。
社内実施と外部委託の選択基準
職長教育は、事業者が自社で実施しても、登録教習機関等に委託して実施してもどちらでも問題ありません。実際には外部機関への委託が一般的です。主な理由は次のとおりです。
- 14〜16時間という長い教育時間を社内で確保・運営するコストが高い
- 社内講師が安衛則第40条の全科目にわたって必要な知識・技能を持っていることが条件になる
- 外部機関は修了証の発行とその管理の仕組みを持っており、現場への提示がスムーズ
社内実施を選択する場合、担当講師が「当該教育の科目について十分な知識・技能を有していること」が条件です(安衛法第59条第3項の趣旨)。職長教育を行う担当者自身が、少なくとも当該教育を修了していることが必要です。
外部委託先としては、建設業労働災害防止協会(建災防)、中央労働災害防止協会(中災防)、各都道府県の安全衛生サービスセンター、登録教習機関などが一般的です。費用は機関によって異なりますが、2万〜4万円台が多い目安です。
5年ごとの能力向上教育は法的義務ではないが目安になっている
職長教育は「新たに職長に就く者」を対象とする一回限りの教育で、定期更新は法令上義務付けられていません。ただし、厚生労働省は「職長等に対する能力向上教育に関する指針」(平成元年・能力向上教育指針公示第1号)の中で、過去に職長教育を修了した者に対して「概ね5年ごとに能力向上教育を受けさせることが望ましい」としています。
能力向上教育は、法的義務ではなくガイドライン上の推奨ですが、元請け会社によっては現場への参加要件として修了証の取得年から5年以内であることを求めるケースもあります。特に、2023年4月にカリキュラムが改訂されている以上、改訂前のカリキュラムで受講した職長については、新しい内容(リスクアセスメントの充実化等)をカバーするために能力向上教育を受講させることには実務上の意味があります。
なお、能力向上教育の時間数は指針上は「相当な時間数」とされており、実施機関によって4〜8時間程度のコースが多いです。
修了記録の保存と修了証の管理
事業者は、職長教育を実施した際の記録を作成し、3年間保存しなければなりません(安衛則第38条)。記録に含めるべき事項は次のとおりです。
- 受講者の氏名
- 教育した事項(科目・内容)
- 教育の実施年月日
- 担当講師の氏名または委託先機関名
外部機関で受講した場合、受講者には機関から修了証が発行されます。この修了証は受講者個人が保管するものですが、事業者側でも写しを手元に置いておくと、元請けへの提出・現場入場時の確認がスムーズになります。
修了証の「発行年月日」の確認も重要です。2023年の改訂以前に受講した修了証の場合、改訂前の旧カリキュラムに基づく教育であることが分かります。能力向上教育の受講を検討する際の基準として活用できます。
違反した場合の罰則
職長教育の実施義務(安衛法第60条)に違反した場合、安衛法第119条が定める「6か月以下の懲役または50万円以下の罰金」が科される可能性があります。違反は事業者(会社)だけでなく、実際の指示を行った管理者個人にも適用される場合があります(両罰規定・安衛法第122条)。
罰則適用に至らなくても、労働基準監督署の調査・指導を受けた際に教育の実施記録が整備されていなければ、是正勧告の対象となります。記録は「義務だから残す」という姿勢より、「いざというときに実施したことを証明できる状態を維持する」という観点で管理することをお勧めします。
まとめ
建設業における職長教育について、要点を整理します。
- 建設業は施行令第19条第1号で当初から義務対象業種に指定されている:2023年4月改正は全業種への拡大であり、建設業は50年以上前から対象でした。
- 対象は「新たに職長に就く者」で、最低14時間(安全衛生責任者兼任の場合は16時間)が必要:科目と時間数は安衛則第40条が定めており、2023年4月改正でリスクアセスメントの科目が2時間から4時間に増加しました。
- 5年ごとの能力向上教育は法的義務ではなく目安:ただし旧カリキュラムで受講した職長については、新内容への対応として受講を検討する実務上の理由があります。
- 記録は3年間保存し、修了証は受講者本人が携帯できる状態に:元請けへの提出・現場入場時の確認のために、写しを会社でも保管しておくと実務がスムーズです(安衛則第38条)。
建設業の安全衛生教育の全体像については、ハブ記事「建設業の安全衛生教育、何が義務で何回必要か。雇い入れ・特別教育・職長の3層構造を整理する」(/kensetsu-kenshu-gimu/)もあわせてご覧ください。


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