障害者グループホーム(共同生活援助、以下GH)で生活する利用者の中には、強度行動障害に該当する方が含まれていることがあります。こうした利用者への支援の質を高めるために、GH事業所には行動障害をテーマとした研修を実施することが期待されています。
一方で、「GHの法定研修」と「強度行動障害支援者養成研修(外部の養成研修)」は、根拠も目的も別物です。この2つを混同すると、「どちらを何のために実施するか」が曖昧になり、体制整備が実態に合わない形になりがちです。この記事では、両者の違いと、事業所として両方をどう位置づけるかを整理します。
GHの法定研修における「行動障害支援」の位置づけ
指定障害福祉サービスの事業等の人員、設備及び運営に関する基準(平成18年厚労省令第171号、以下指定基準)が共同生活援助に求める法定研修の義務を列挙した条文には、「行動障害支援」は独立した研修テーマとして列挙されていません。
では、なぜGHで行動障害に関する研修が重要とされるのでしょうか。それは次の2つの理由によります。
第1は、運営の実態です。精神障害・知的障害・自閉スペクトラム症のある利用者が入居するGHでは、行動障害に類する言動(自傷・他傷・強いこだわりへの固執・パニック等)への対応が日常的に求められます。職員がこうした行動の背景を理解し、適切に対応できない状態では、虐待・身体拘束・緊急入院といったリスクが高まります。
第2は、義務化された研修テーマとの関連です。指定基準が定める「虐待防止」「身体拘束廃止」の義務研修の中で、行動障害のある利用者への対応は中心的な内容の一つです。行動障害の理解なしに虐待防止研修を実施しても、実際の支援場面での判断力は育ちません。
こうした背景から、「法定研修の一部として行動障害を扱う」という位置づけが実務では一般的です(厚生労働省「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律に基づく指定障害福祉サービスの事業等の人員、設備及び運営に関する基準について」の各テーマ別の解説参照)。
強度行動障害支援者養成研修とは何か
強度行動障害支援者養成研修は、独立した外部研修として国が体系化しているプログラムです。次の特徴を持ちます。
研修の対象:強度行動障害のある人に直接支援を行う職員。GHに限らず、生活介護・施設入所支援・グループホーム等の事業所に勤める支援者が対象です。
研修の内容:基礎研修と実践研修の2段階で構成されています。基礎研修では強度行動障害の基礎知識と支援の考え方を学び、実践研修では具体的な支援技術を学びます。基礎研修のみで基礎的支援者として修了できる場合と、両方修了で実践リーダーとして認定される場合があります。
実施機関:都道府県が指定する研修機関(社会福祉協議会・法人・委託先など)が実施します。費用と日程は都道府県によって異なります。
修了の効果:修了者は「強度行動障害支援者養成研修修了者」として位置づけられ、後述の加算の算定条件を満たします。
2つの研修の違いを整理する
| 項目 | GHの法定研修(内部) | 強度行動障害支援者養成研修(外部) |
|---|---|---|
| 義務の根拠 | 指定基準(GH事業所の義務) | 自治体が指定する外部研修プログラム |
| 実施場所 | 事業所内 | 都道府県指定の研修機関 |
| 対象者 | 事業所の全職員 | 強度行動障害支援に従事する職員(個人申込) |
| 加算との関係 | 直接の加算要件ではない | 強度行動障害者地域移行特別加算・強度行動障害支援加算の算定要件に関係 |
| 修了証 | なし(記録で管理) | 都道府県発行の修了証 |
加算の要件としての強度行動障害支援者養成研修
強度行動障害支援者養成研修の修了者が在籍していると、次の加算の算定が可能になります(対象となる加算は事業種別・年度によって異なるため、最新の報酬告示を確認してください)。
強度行動障害者地域移行特別加算:施設入所支援や入院から地域生活への移行支援を行う場合の加算です。算定にはサービス管理責任者等が実践研修を修了していること等の要件が設けられています。
強度行動障害支援加算:施設入所支援・生活介護・自立訓練(生活訓練)・就労継続支援等において、強度行動障害のある利用者に支援を行った場合の加算です。直接支援を行う職員が基礎研修または実践研修を修了していることが算定要件の一つとなっています。
GH(共同生活援助)での算定については、令和6年度の報酬改定の内容を含む告示・通知で確認が必要です。
GHの法定研修として「行動障害支援」を扱う場合の内容
法定研修(事業所内研修)として行動障害支援のテーマを取り上げる場合、次のような内容が実務的に参考となります。
強度行動障害の定義と判定基準の確認:厚生労働省の行動援護の判定基準(12の行動特性・各5段階)を確認します。現在の利用者の中で該当する可能性のある方がいるかどうかを、記録をもとに職員間で確認します。
行動の背景(機能的なアセスメント)の考え方:「問題行動」は何かの機能を果たしている(注目を得る・嫌なことを回避する・感覚刺激を求める等)という視点から行動の意味を読む方法を学びます。行動の「直前」に何があったかを記録する習慣が、支援計画の質を高めます。
構造化支援の基礎:視覚的な手がかりを使う(スケジュールボード・作業の完成例の提示等)・環境を整理する(刺激の少ない空間・次の行動が分かる設定)といった支援の工夫を共有します。
緊急場面でのチーム対応の確認:パニック・自傷・他傷が起きた場合に職員がどう動くかを、チームで共有しておきます。「一人で抑え込まない・複数で対応する・記録する」という原則を全員が知っていることが重要です。
外部研修の受講促進と記録
強度行動障害支援者養成研修は外部研修のため、事業所の全職員を一律に受講させることは一般的に困難です。しかし、利用者の状態・加算の算定状況・将来的なサービス展開を踏まえて、受講を計画的に進めることが望ましい場合があります。
外部研修の受講状況を記録しておく場合は、次の情報を管理します。
- 受講した職員の氏名・研修の種類(基礎・実践)
- 受講日・実施機関・修了日
- 修了証の保管場所
- 未受講の職員の受講計画(予定年度・申込状況)
内部研修との連携:外部研修の内容を事業所全体に広げる
強度行動障害支援者養成研修を受講した職員が、研修で学んだ内容を事業所内の研修で共有する形が、最も効果的な体制整備の一つです。外部研修修了者が「事業所内の行動障害支援の担当者・相談相手」として機能することで、受講していない職員も日常的に知識を得やすくなります。
法定研修の年間計画に「強度行動障害支援の基礎(内部研修)」を設定し、修了者が講師役を担う形で実施する方法が、実務上の工夫として参考になります。
障害者グループホーム向け法定研修・訓練キット
障害者グループホームの法定研修(12テーマ)に対応した研修・訓練キットを公開しています。行動障害テーマを含む研修教材・確認テスト・受講記録様式をブラウザで使えます。
出典:指定障害福祉サービスの事業等の人員、設備及び運営に関する基準(平成18年厚労省令第171号)・厚生労働省「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律に基づく指定障害福祉サービスの事業等の人員、設備及び運営に関する基準について」(令和6年一部改正版)・厚生労働省「強度行動障害支援者養成研修実施要綱」。


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