障害者グループホーム(共同生活援助、以下GH)には、非常災害に関する具体的計画の作成・定期的な訓練の実施・関係機関への通報連絡体制の整備が義務として定められています。根拠は指定障害福祉サービスの事業等の人員、設備及び運営に関する基準(平成18年厚労省令第171号、以下指定基準)第38条(非常災害対策)で、共同生活援助(包括型・日中サービス支援型・外部型)に準用されています。
訓練の頻度は「定期的」と定められており、福祉・介護施設の実務では年2回以上が一般的な目安とされています。その理由の一つは、GHが宿泊施設であるという点にあります。利用者が夜間も施設内で生活するGHでは、昼間の訓練だけでは夜間の避難体制を確認できません。昼間1回・夜間1回の計年2回以上という考え方が、宿泊型施設の訓練に適用される実務的な根拠です。
この記事では、GHの非常災害訓練を計画・実施・記録する際に押さえておくべき点を整理します。
義務として定められている3要素
指定基準第38条は、非常災害対策として次の3つを求めています。
| 義務の内容 | 基準の要求 |
|---|---|
| 具体的な計画の作成 | 非常災害に関する具体的計画を作成すること |
| 関係機関への通報と連絡 | 地域住民その他の関係者との連携、消防等への通報・連絡体制を整備すること |
| 定期的な訓練の実施 | 非常災害時の対応について、定期的に従業者に周知するとともに、定期的に訓練を実施すること |
(出典:指定基準 第38条)
3つのうち「定期的な訓練」に加えて、「従業者への周知」も義務として定められている点に注意が必要です。訓練を実施するだけでなく、非常災害時の対応を職員全員が理解している状態を維持することが求められます。
宿泊施設としてのGHが年2回以上の訓練を必要とする理由
GHは利用者が夜間も生活する宿泊型施設です。この点が、通所型サービス(放課後等デイサービス・生活介護等)の年1回訓練と異なる実務的な根拠となっています。
宿泊型施設での年2回以上の訓練の考え方は、消防法施行規則(第3条)に定める消防計画の避難訓練の規定(旅館・ホテル・福祉施設等は年2回以上)と整合しています。GHは消防法上の「福祉施設等」の区分に含まれる場合があるため、消防署への確認と合わせて訓練回数を確認することが重要です。
昼間の訓練と夜間の訓練では、確認すべき内容が異なります。
| 時間帯 | 確認すべき内容 |
|---|---|
| 昼間の訓練 | 日中支援中の職員配置での初動対応・避難誘導の役割分担・利用者への声かけ・避難経路の確認 |
| 夜間の訓練 | 夜間支援員1〜2名での初動対応・緊急連絡の手順・利用者を起こして誘導する手順・夜間の避難経路(足元の安全・非常灯の確認) |
夜間避難の難しさ:GH独自の課題
GHの夜間避難には、通所型施設では生じない課題があります。訓練の準備段階でこれらを把握しておくことで、より実態に即した訓練が組めます。
睡眠中の起こし方:深夜に突然声をかけると、強い不安・パニックを起こしやすい利用者がいます。訓練では「誰をどの職員が担当して起こすか」を事前に決めておき、利用者ごとの起こし方(声のトーン・伝え方・順序)を把握します。
足元の安全と夜間の視界:夜間は足元が暗く、なれた環境であっても転倒リスクが高まります。非常灯の設置場所・明るさ・電池の状態を訓練の機会に確認します。スリッパ・靴を履いて誘導できるかも確認します。
夜間支援員の判断と連絡:夜間は管理者・サービス管理責任者が不在であることが多く、夜間支援員が初動の判断を行います。「誰に・どのような順番で連絡するか」を記録した緊急連絡網が実際に機能するかを訓練で確認します。携帯電話・固定電話の両方が使えない状況を想定した確認も有効です。
利用者の個別の支援:車いすの利用者・自力避難が難しい利用者がいる場合は、誰がどう介助するかを役割として決めておきます。一人では介助が困難な利用者がいる場合の外部への連絡・支援要請の手順も確認します。
BCP(業務継続計画)との関係
GHには2024年度から業務継続計画(BCP)の策定が義務化されています(指定基準 第38条の2)。BCPの中には、非常災害発生時のサービス継続・利用者支援の継続に関する計画が含まれます。
非常災害訓練とBCPは別の義務ですが、訓練の内容をBCPの見直しに活用することで、両者を効率的に運用できます。訓練で発見した課題(連絡網の不備・避難経路の問題・職員の役割の不明確さ等)は、BCPの改定箇所として記録します。
自治体(市区町村)への通報・連絡体制の確認
指定基準第38条は、非常災害時に地域住民その他の関係者との連携および消防等への通報連絡体制を整備することを求めています。実務上の確認事項として次を押さえます。
消防署への届出・連携:消防計画(消防法施行規則第3条に基づくもの)を作成している場合、消防署への届出と定期的な届出内容の更新が必要です。消防署と連携した訓練(消防署員の立ち合い)を年1回実施することで、より実効性の高い体制確認ができます。
市区町村の障害福祉担当課への報告:非常災害が発生した場合の事業者からの報告義務(速報・詳細報告)を確認しておきます。市区町村ごとに様式・連絡先が異なるため、事前に確認しておくことが重要です。
訓練の計画と実施手順
年2回の訓練を計画する際の手順の例を示します。
1. 訓練の目的・内容の決定:各回で何を重点的に確認するかを決めます(例:1回目=昼間の火災避難・2回目=夜間の地震避難)。目的が明確であれば、訓練後の振り返りがしやすくなります。
2. 利用者への事前説明:訓練の内容と日時を利用者に事前に説明します。突然の訓練が強い混乱・不安につながる利用者がいる場合は、事前告知の方法を個別に検討します。
3. 職員の役割の割り振り:訓練中の役割(誘導担当・通報担当・記録担当・利用者個別対応担当等)を事前に割り振り、全員に共有します。
4. 訓練の実施と記録:訓練中に課題となった点(誘導に時間がかかった・連絡網が機能しなかった等)を記録します。
5. 振り返りと改善:訓練後に職員間で振り返りを行い、改善点を計画・マニュアルに反映します。振り返りの内容も記録として残します。
運営指導で確認される記録の形
非常災害対策に関して運営指導で確認されることがある記録は次のとおりです(東京都「令和6年度 集団指導 実地検査における主な指摘事項」参照)。
- 非常災害に関する具体的計画(文書として存在すること)
- 訓練の実施記録(日時・内容・参加職員と利用者の確認・課題と改善点)
- 従業者への周知記録(訓練以外でも、非常時の対応を周知した記録があること)
- 消防計画(消防法に基づく届出が必要な施設の場合)
- 緊急連絡網(消防署・市区町村・医療機関・家族への連絡先と手順)
「実施した」だけでなく、「改善につながった」という流れが記録に残っているかが、運営指導での評価の観点の一つです。
障害者グループホーム向け法定研修・訓練キット
障害者グループホームの法定研修(12テーマ)に対応した研修・訓練キットを公開しています。非常災害訓練テーマの訓練記録様式・振り返りシート・関係機関への連絡体制の確認チェックリストをブラウザで使えます。
出典:指定障害福祉サービスの事業等の人員、設備及び運営に関する基準(平成18年厚労省令第171号)第38条・第38条の2・消防法施行規則第3条・東京都「令和6年度 集団指導 実地検査における主な指摘事項」。


コメント