美容院の人件費率(売上に占める人件費の割合)は、全国平均で41.9%です。一般飲食店の約33%と比べると9ポイント近く高く、業種の特性として人件費の比率が大きい事業です。この数字は、日本政策金融公庫総合研究所「小企業の経営指標調査」(美容業・2025年度・2026年掲載)から取ったものです。
なぜ美容院は人件費率が高いのか。その理由は、材料費(原価率)が低い分、コストの中心が人件費と家賃に集中する構造にあります。この記事では、全国平均の費用構造と公庫の記入例の数字を使って、美容院の費用の作られ方を説明します。
全国平均の費用構造:原価15.6%・人件費41.9%・家賃等22.3%
公庫の「小企業の経営指標調査」(美容業・2025年度)は、公庫の融資先の美容業(法人)の決算書を集計した数値です。売上を100とした場合の費用の内訳は次のとおりです。
| 費用の項目 | 売上に占める割合(平均) | 同(黒字企業の平均) |
|---|---|---|
| 原価率(材料費) | 15.6% | — |
| 人件費率 | 41.9% | 38.8% |
| 家賃等(その他の費用) | 22.3% | 20.9% |
| 営業利益率 | −1.9%(赤字) | +13.6% |
全国平均の営業利益率は−1.9%(赤字)です。これは法人の数字で、役員報酬が人件費に含まれているためです。オーナー兼スタイリストの場合、自分の給与が人件費に算入されます。個人事業の場合は事業主の取り分が経費に含まれないため、見かけの利益率は高くなります。
黒字企業(かつ自己資本がプラスの企業)に限った人件費率は38.8%です。全体平均との差は3.1ポイントで、黒字企業は人件費率を抑えながら売上を維持していることが分かります。
出典:日本政策金融公庫総合研究所「小企業の経営指標調査」(美容業・2025年度調査・2026年掲載)。対象は公庫国民生活事業の融資先の法人企業(従業者50人未満・決算期間1年)。「黒字」は黒字かつ自己資本プラス企業の平均。
飲食店(33%)と9ポイントの差がある理由:材料費の低さが人件費に転じる
美容院と一般飲食店の費用構造を比べると、次の違いがあります。
| 費用の項目 | 美容業(全国平均) | 一般飲食店(全国平均) |
|---|---|---|
| 原価率(材料費) | 15.6% | 約33% |
| 人件費率 | 41.9% | 約33% |
| 家賃等 | 22.3% | 約22% |
| 営業利益率 | −1.9% | 約−3% |
最大の違いは原価率です。飲食店は食材費が売上の33%前後を占めますが、美容院のカラー剤・パーマ液・消耗品の材料費は15.6%と飲食店の半分以下です。材料費が少ない分、費用の残りが人件費・家賃・その他に回ります。
美容師の施術は時間を売っています。食材を仕入れて調理して提供する飲食と違い、美容師が技術を提供するのに使うのは時間と材料です。材料は少なくて済む代わりに、施術時間=美容師の労働時間がそのままコストになります。1時間のカラー施術を行った場合、その1時間分の人件費は必ず発生します。これが人件費率が高くなる構造的な理由です。
出典:日本政策金融公庫総合研究所「小企業の経営指標調査」(美容業・一般飲食店・2025年度調査・2026年掲載)。
記入例の軌道後:人件費率は25万円÷142万円=17.6%(法人・役員報酬なしの場合)
公庫の記入例(美容業・軌道後)の人件費は25万円です。売上142.4万円に対する人件費率は25万円÷142.4万円≒17.6%です。
全国平均の41.9%と比べると半分以下に見えますが、理由があります。記入例は個人事業主の計画で、オーナー(開設者)の生活費・報酬は人件費に含まれていません。記入例の人件費25万円の内訳は、専従者(妻・美容師資格あり)10万円とアシスタント15万円の合計です。
オーナー自身の報酬を別途生活費として加算すると、費用の実態は変わります。例えばオーナーが月25万円の生活費を必要とする場合、実態の人件費相当は25万円+25万円=50万円で、売上142.4万円に対する人件費率は50万円÷142.4万円≒35%になります。
| 費用の項目 | 記入例の計上額 | オーナー生活費25万円を加えた場合 |
|---|---|---|
| 材料費 | 22万円(15.5%) | 22万円(15.5%) |
| 人件費 | 25万円(17.6%) | 50万円(35.1%) |
| 家賃 | 10万円(7.0%) | 10万円(7.0%) |
| その他 | 30万円(21.1%) | 30万円(21.1%) |
| 費用の合計 | 87万円(61.1%) | 112万円(78.7%) |
| 残る利益 | 55.4万円(38.9%) | 30.4万円(21.3%) |
公庫の創業計画書の様式(事業の見通し欄)では、個人事業主の場合はオーナー自身の生活費を費用に入れず、利益から生活費を引いた形で資金計画を組み立てます。全国平均(法人)とは計算の前提が違うため、数字を直接比べる場合は注意が必要です。
出典:日本政策金融公庫「創業計画書 記入例(美容業)」(2025年4月版)「9 事業の見通し(月平均)」欄の数字を使用。計算は当方が行いました。公庫「小企業の経営指標調査」(2025年度)の美容業の全国平均を比較に使用しています。
人件費率を計算するときの注意:法人と個人事業で計上が変わる
美容院を計画するとき、人件費率を確認する際に気をつけることがあります。
法人(会社)として開業する場合、オーナー(代表取締役)の役員報酬は人件費に計上されます。月100万円の売上で役員報酬30万円・従業員人件費15万円の計45万円が人件費なら、人件費率は45%です。
個人事業として開業する場合、事業主自身の報酬(取り分)は経費ではなく利益から支払います。月100万円の売上で従業員人件費15万円なら、帳簿上の人件費率は15%になりますが、事業主の生活費として30万円を利益から引くと、実態の人件費相当は45%に近くなります。
公庫の全国平均(法人・41.9%)と個人事業主の記入例(17.6%)を比べるとき、この前提の違いがあることを理解しておくと、数字の解釈がより正確になります。
スタッフが増えると人件費は上がる:1人増で月15〜25万円が目安
美容師のアシスタントを雇う場合、月の人件費が増えます。記入例では軌道後にアシスタントを1人加えて15万円を追加しています。正社員の場合は社会保険料(厚生年金・健康保険など)の会社負担分も加わるため、実際のコストは給与額の約1.15〜1.2倍になります。
例えばアシスタントの月給15万円の場合、社会保険料の会社負担(概算)は15万円×15%=約2.25万円で、実際のコストは約17万円強です(社会保険料率は年度・報酬額によって変わります。厚生年金・健康保険・雇用保険・労災保険の合計)。
社会保険料(厚生年金・健康保険)の正確な料率は、日本年金機構「厚生年金保険料額表」および全国健康保険協会「保険料率表」(都道府県別)で確認してください。料率は年度・都道府県・報酬額によって変わります。
人件費率を抑えるための考え方
人件費率が高い構造は業種の特性として変えられませんが、次の方法で管理することができます。
| 要因 | 人件費率への影響 |
|---|---|
| 客単価を上げる(施術メニューの単価設定) | 同じ施術時間で売上が増えるため、人件費率が相対的に下がる |
| スタッフの稼働率を上げる(予約の詰め方) | 空き時間が少ないほど同じ人件費で売上が増える |
| パート・業務委託スタイリストを使う | 売上に応じた変動費化が可能だが、管理の難しさと労働法上の偽装請負(偽装業務委託)に注意 |
| オーナー自身が施術を担当する(1人経営) | スタッフを雇わず、人件費をオーナーの生活費のみにできる |
公庫の記入例では、創業当初はオーナー+妻(専従者・美容師資格あり)の2人体制で、アシスタント(15万円)を加えるのは軌道後です。スタッフを増やすタイミングを、売上の伸びに合わせて段階的にする計画です。
収支を自分の条件で確認するには
全国平均の数字は参考ですが、自分の店の人件費率は、実際のスタッフ構成・給与・売上の試算で計算します。収支シミュレーターは、スタッフの人数・給与・客単価・台数・回転数などを入力すると、人件費率を含む費用の内訳が自動で計算されます。
美容院の開業 収支シミュレーター(無料)
スタッフの給与・客単価・台数・家賃などを入力すると、月の人件費率・利益率・資金繰りを計算します。全国平均(公庫の指標調査)と比べる機能もあります。


コメント