美容院の売上は、客単価×台数×回転数×営業日数で決まる。「1台で1人に使える時間」から回転数を考える。

美容院の売上は、客単価×台数×回転数×営業日数で決まる。「1台で1人に使える時間」から回転数を考える。 美容院の開業

美容院の売上は、客単価×セット面(椅子)の数×1台あたりの1日の回転数×営業日数の掛け算で組み立てます。

日本政策金融公庫の「創業計画書 記入例(美容業)」(2025年4月版)では、1か月の売上をこう計算しています。

  • 客単価:6,000円
  • セット面:3台
  • 1台あたりの1日の回転数:2回転
  • 営業日数:26日

6,000円×3台×2回転×26日=93万円(施術)+ヘアケア商品の物販2万円=月商95万円が創業当初の売上です。軌道に乗った後は回転数が3回転になり、アシスタント1人が加わって月商142万円になります。

この記事では、公庫の記入例の数字を使いながら、4つの変数それぞれが売上にどう影響するかを順番にたどります。

出典:日本政策金融公庫「創業計画書 記入例(美容業)」(2025年4月版)・「創業の手引+ 新たに美容業を始めるみなさまへ」(令和6年6月)・「小企業の経営指標調査」(2025年度調査)

4つの変数が、それぞれ売上を決める

美容院の売上は次の式で表せます。

月商=客単価 × セット面数 × 1日の回転数 × 月の営業日数

それぞれが何を表すか、記入例の数字と合わせて確認します。

客単価:6,000円

1人の施術で受け取る平均の金額です。カット・カラー・パーマを合わせた平均になります。

(公財)全国生活衛生営業指導センターの調査(令和5年1〜3月・厚生労働省「美容業の振興指針」新旧対照表に引用)では、1回あたりの費用の分布はこうなっています。

費用の帯 割合
4,000〜5,999円 25.9%
6,000〜7,999円 35.2%
8,000〜9,999円 19.5%

最も多い帯は6,000〜7,999円で、記入例の6,000円はこの帯の下限に当たります。立地・メニュー・客層によって変わるため、近隣の競合の価格帯を確認してから設定します。

セット面数:3台

椅子(セット面)1台が、1人の美容師が同時に施術できる席です。セット面の数が多いほど売上の上限は大きくなりますが、美容師の数が追いつかなければ稼働率は下がります。

記入例の店舗は3台で、創業当初は事業主1人(施術あり)と家族従業者1人の2人体制、軌道後にアシスタント1人を加えた3人体制になります。3台・2人体制でも施術中は空き台ができるため、全台稼働が基本です。

1日の回転数:2回転→3回転

1台のセット面で、1日に何人施術できるかを表します。回転数は施術時間と営業時間から決まります。

記入例の営業時間は9:00〜18:00(9時間)・火曜定休・月26日です。2回転は1台あたり1日2人、9時間÷2人で1人に約4時間30分かけられる計算になります。カット(60〜90分)よりパーマやカラー(2〜3時間)を多く受ける店なら現実的な設定です。

3回転だと1人に約3時間で、カットに集中する店や予約の回転が速い店の水準です。

回転数 月商(記入例の3台×26日×6,000円) 1台1人あたりの時間(9時間÷回転数)
1回転 約47万円 9時間00分
2回転(創業当初) 約94万円 4時間30分
3回転(軌道後) 約140万円 3時間00分
4回転 約187万円 2時間15分

回転数が0.1変わると月商は約5万円(3台×26日×6,000円×0.1)動きます。施術時間の短縮は売上に直結しますが、客単価を保ちながら時間を縮めるには施術の組み合わせとメニュー設計が必要です。

営業日数:26日

月に何日営業するかです。美容院は火曜定休が一般的で、週6日×約4.3週=26日前後になります。

営業日数を増やすと売上は増えますが、美容師の体力と施術の質に直結します。記入例の26日は週1回の定休と月1〜2回の祭日休業を含む現実的な水準です。

創業当初と軌道後の違い

公庫の記入例は、創業当初と軌道に乗った後(以下、軌道後)を2列で比較しています。売上と利益の違いはこうなっています。

創業当初 軌道後
施術売上(月) 93万円 140万円
物販(月) 2万円 2万円
合計売上(月) 95万円 142万円
原価率 15% 15%
総経費(月) 42万円 67万円
利益(月) 38万円 53万円

軌道後に経費が増えているのは、アシスタント1人(月15万円)が加わるためです。売上が増えても人件費の増加で利益の増分は約15万円にとどまります。

「軌道に乗った後」がいつかについて、記入例には目安の記載がありません。公庫の手引では半年程度の赤字補てん資金を手当てすることを勧めており、立ち上がりに半年〜1年程度を見込む必要があります。

固定客200人が売上を支える

記入例では「固定客 約200人」と記載されています。

月26日・1日2回転・3台で月商93万円のとき、1か月の施術人数は3台×2回転×26日=156人です。固定客200人が月1〜1.5回来店する水準で、毎月の売上が安定します。

公庫の手引の別の記入例(3,950円×2台×4.5回転×25日=約89万円)では、回転数が高いぶん1人に使える時間が短く(9時間÷4.5≒2時間)、カット中心の店の設定と読めます。

美容院の売上は、新規客の集客だけでなく固定客の来店頻度と客単価を保つことで安定します。同じ200人でも、来店頻度が月1回から月1.5回に上がれば施術件数は50%増えます。

人件費率41.9%と原価率15.6%が全国の平均

日本政策金融公庫「小企業の経営指標調査」(2025年度調査・美容業 n=555)によると、全国の美容業の平均はこうなっています。

指標 全国平均(美容業・法人)
総利益率(売上総利益÷売上高) 84.4%
原価率 15.6%
人件費率 41.9%
営業利益率(全体) −1.9%
営業利益率(黒字企業のみ) 5.1%

原価率15.6%は記入例の15%と近い水準です。人件費率41.9%は法人(役員報酬を含む)の平均で、個人事業主が事業主自身の人件費を計上しない場合は低く出ます。

営業利益率が全体では−1.9%というのは、赤字企業も含む平均です。黒字企業に絞ると5.1%。全国の美容業のうち黒字は 238/555=42.9%が黒字の基調で、5割近くが赤字または収支トントンという実態があります。

売上の規模では、全国平均の1人当たり売上高は11,125千円(約1,112万円)です。従業者2〜3人の店なら年商2,225〜3,338万円(月商185〜278万円)が目安です(全体平均のため、1人体制の店と複数人の店が混在しています)。

管理美容師が必要になる条件

美容師法第12条の3では、美容師である従業者が常時2人以上の場合、管理美容師を置かなければならないと定めています。

管理美容師の要件は、①美容師の免許取得後3年以上の実務経験②都道府県知事が指定した講習の修了の2つです。受講料の目安は20,000円(理容師美容師試験研修センター)、検査手数料は保健所へ24,000円(東京都の場合)です。

記入例の店舗は、事業主(施術あり)+家族従業者(免許あり)で2人のため、創業当初から管理美容師が必要です。軌道後にアシスタントが加わっても、管理美容師は1人で足ります。

「事業主が1人で、アシスタントは施術しない」場合は美容師である従業者が1人のため、管理美容師は不要です。ただし、アシスタントが施術を行う場合や見習いでも施術免許がある場合は2人以上になります。実際の数え方は保健所で確認することをお勧めします(美容師法第12条の3ただし書きで、開設者自身が要件を満たす場合は自ら管理美容師になれます)。

売上が計画どおりにいかないとき

開業後は売上が計画の80〜90%にとどまる期間が続くのが一般的です。公庫の手引でも「半年程度の赤字補てん資金」を手当てすることを勧めています。

売上が90%に落ちたとき(月商85万円)、変動費は原価率15%のため収入の変動に追随します。固定費(家賃・人件費・利息)は変わらないため、売上10%の差が利益を直撃します。記入例の創業当初の利益38万円は、売上が10%落ちると約23万円(−15万円)になります。

立ち上がりの期間は固定客を増やすことが最優先です。新規客が定着して固定客になるまで、平均で半年〜1年程度かかるとされています。

収支シミュレーターで試してみる

客単価・セット面数・回転数・営業日数を入力して、月商・利益・資金繰りを一覧で確認できる収支シミュレーターを作りました。

公庫の創業計画書「事業の見通し(月平均)」の様式に合わせた計算書の形で出力します。記入例の数字も初期値として入れてあるので、自分の計画と比べながら使えます。管理美容師が必要かどうかの判定と、開設届・検査の流れも確認できます。

無料で使えます(Pro版は月次の資金繰り表・感度分析・CSV・印刷用の事業計画書が使えます)。

→ 美容院の開業 収支シミュレーター

まとめ:売上を決める4つの数字

  • 客単価:全国の最多帯は6,000〜7,999円(35.2%)
  • セット面数:美容師の人数と合わせて稼働率を考える
  • 回転数:施術メニューの時間で上限が決まる(0.1回転の差が月商±5万円)
  • 営業日数:火曜定休・週6日で月26日が標準的な水準

公庫の記入例の6,000円×3台×2回転×26日=93万円という計算は、立地や客層に関係なく成り立つ構造です。自分の店の施術時間と客単価から回転数の上限を確認し、固定客の目安(記入例では200人)を逆算することで、現実的な売上の計画を立てられます。

この記事を書いた人

業種別のツールを、一人で作っています。開業前の収支シミュレーター、法定研修キット、資格の問題集。どれも、厚生労働省の告示や調査の原文を自分で確かめてから数字を組み込んでいます。使う人が「この数字、合ってるか」と不安になるようなツールは作りたくないので。

上場企業で20年間、営業ひとすじ。電話営業・インサイドセールスから、約70名のチームのマネジメントへ。現場で「根拠のない数字」が判断を狂わせる場面を見続けてきたせいか、ツールを作るときも出典を確かめずにはいられません。

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