訪問介護ヘルパー・登録ヘルパーが消費税分の値上げを事業所に相談するとき。介護報酬が非課税でも、業務委託料は課税売上になります。



「介護報酬は非課税だから、自分には消費税の問題は関係ない」と思っている登録ヘルパー・訪問介護ヘルパーがいます。この認識は半分正しく、半分は違います。

介護報酬(利用者負担分・保険給付分)は消費税法上の非課税取引に該当します(消費税法別表第一第7号)。利用者がヘルパーに直接支払うお金に消費税はかかりません。

しかし、業務委託契約で訪問介護事業所から受け取る業務委託料は、別の取引です。事業所とあなたの間の役務の提供は課税取引です。あなたがインボイスに登録している場合、この業務委託料が課税売上になります。

この記事は、訪問介護事業所と業務委託契約を結んでいるヘルパー(登録ヘルパー・非常勤ヘルパー)を対象にしています。事業所に雇用されているヘルパー(労働契約・雇用契約)は、給与所得者になるため消費税の申告は必要ありません。契約の形態が不明な場合は、事業所または契約書で確認してください。

介護報酬の非課税と業務委託料の課税の違い

整理します。

お金の流れ 消費税の区分 根拠
利用者→事業所(介護報酬) 非課税 消費税法別表第一第7号
保険者(市区町村)→事業所(給付費) 非課税 同上
事業所→ヘルパー(業務委託料) 課税 消費税法第4条(国内取引の課税)

訪問介護事業所にとって介護報酬は非課税収入です。一方、あなたが事業所から受け取る業務委託料は、あなたにとっての課税売上になります。「事業所は消費税を受け取っていないのに、ヘルパーには消費税がかかるのか」と思う方もいます。これは制度の構造上、そういう仕組みになっています。

事業所にとって、あなたへの業務委託料は仕入(課税仕入れ)になります。あなたがインボイス発行事業者であれば、事業所はその分の仕入税額控除を受けられます。この控除が受けられるかどうかが、事業所にとってのインボイス対応の意味です。

2027年以降の消費税の変化

インボイスに登録している登録ヘルパーの場合、2026年末まで使える「2割特例」が終わります。2027年・2028年分は「3割特例」になり、2029年分以降は本則課税または簡易課税の選択になります。

月の業務委託料が12万円(税込)の場合を例にします。税込12万円の消費税分は約10,909円(税抜10万9,091円の10%)です。

年分 制度 計算のしかた 1年で納める消費税(試算) 1か月あたり
2026年分 2割特例 10,909円×20% 約2万6千円 約2,200円
2027年・2028年分 3割特例 10,909円×30% 約3万9千円 約3,300円
2029年分から 簡易課税・第5種 10,909円×(1-50%) 約6万5千円 約5,500円

訪問介護ヘルパーが該当する簡易課税の区分は第5種(サービス業・みなし仕入率50%)です(国税庁タックスアンサーNo.6509)。2029年以降、2割特例の時期と比べて年間で約3万9千円多く納めることになります。

事業所に消費税分を相談できるのか

業務委託料に含まれる消費税の増加分を事業所に相談することは、法律的に正当な行為です。

財務省・公正取引委員会・経済産業省・中小企業庁・国土交通省の連名Q&A(令和4年1月19日、改正:令和8年1月30日)には次のように書かれています。

「これまで消費税相当分を上乗せしていなかった免税事業者が課税事業者に転換した場合は、消費税の仕組み上、発注側が支払う取引価格には新たに消費税相当額を上乗せすることが相当であると考えられます。」

(出典:財務省ほか「免税事業者及びその取引先のインボイス制度への対応に関するQ&A」Q6の注)

また、フリーランス保護法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律・2024年11月施行)では、業務委託の発注者が受託者の課税事業者転換を理由に報酬を一方的に引き下げることを禁じています。この法律の対象は、従業員を雇用していない個人事業主(または役員1名のみの法人)として業務委託で仕事を受けている人です。

「介護報酬が非課税だから事業所は消費税を受け取っていない」という事業所側の状況は、あなたへの業務委託料の扱いを変える根拠にはなりません。事業所にとっての仕入税額控除(インボイス発行者への支払いとして経費に算入できる)という利益はあります。

事業所側の事情も知っておく

訪問介護事業所の多くは介護報酬が収入の大部分を占めます。介護報酬は非課税のため、事業所は消費税の納税は少ないか、消費税の還付を受けているケースもあります。この状況で「消費税分を上乗せしてほしい」という相談を受けた場合、事業所の担当者が「なぜうちが?」と感じるケースはあります。

ただし、「事業所が消費税を受け取っていない」ことと、「あなたへの業務委託料に消費税がかかる」ことは、それぞれ別の法律上の話です。事業所が仕入税額控除を使うために、あなたのインボイスを必要としているという構造があるため、インボイス対応についての話し合いの入口は開かれています。

相談する前に確認すること

1点確認します。あなたの契約が「業務委託」であることの確認です。訪問介護の現場では、雇用契約と業務委託契約が混在しています。

確認の手順:契約書を見て「業務委託契約書」であることを確認します。「労働契約」「雇用契約」と書かれていた場合は雇用です。契約書がない場合や判断が難しい場合は、都道府県の労働局・ハローワークに相談できます。

相談のメッセージの例

件名:業務委託料に含まれる消費税の取り扱いについてご確認をお願いしたいことがあります

〇〇訪問介護事業所 〇〇様

お世話になっております。〇〇(名前)です。

インボイス制度の変更により、2027年1月から消費税の申告が変わります。現在の業務委託料〇〇円(税込)に含まれる消費税について、2027年以降の増加分として月あたり〇〇円の増加が見込まれます。

この部分について、来年1月分の業務委託料への上乗せをご検討いただくことは可能でしょうか。ご確認のほど、よろしくお願いいたします。

「値上げ要求」ではなく、「消費税の制度変更への対応についての確認」という枠組みにすることで、担当者が社内で動きやすくなります。

3割特例と自分の数字を確認できます

3割特例の仕組みと、2029年以降の変化については、訪問介護ヘルパー・登録ヘルパーの消費税は、2027年から3割特例になるで整理しました。

年間の売上・経費を入力すると、2026年から2029年以降の消費税の変化を試算できます。試算の結果から、事業所への値上げ相談シート(A4・法律根拠入り)を作成することもできます。

▶ 訪問介護ヘルパー・登録ヘルパーのインボイス試算ツール

この記事と合わせて読む

出典:消費税法別表第一第7号(居宅介護等の非課税)・消費税法第4条(課税の対象)・特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(2024年11月施行)・消費税法附則第51条の2(2割特例)・国税庁「令和8年度 税制改正特集」(3割特例)・タックスアンサーNo.6509(第5種・みなし仕入率50%)・財務省ほか「免税事業者及びその取引先のインボイス制度への対応に関するQ&A」。本記事の内容は執筆時点の情報に基づきます。詳細は税務署・税理士にご確認ください。

この記事を書いた人

業種別のツールを、一人で作っています。開業前の収支シミュレーター、法定研修キット、資格の問題集。どれも、厚生労働省の告示や調査の原文を自分で確かめてから数字を組み込んでいます。使う人が「この数字、合ってるか」と不安になるようなツールは作りたくないので。

上場企業で20年間、営業ひとすじ。電話営業・インサイドセールスから、約70名のチームのマネジメントへ。現場で「根拠のない数字」が判断を狂わせる場面を見続けてきたせいか、ツールを作るときも出典を確かめずにはいられません。

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