登録ヘルパー・訪問介護ヘルパーが消費税の値上げを事業所に相談するとき。介護報酬は非課税。でも業務委託料は、課税です。



「介護報酬は非課税だから、私の仕事は消費税と関係ないと思っていた」という人が、登録ヘルパーや訪問介護ヘルパーの中に一定数います。この理解は、半分だけ正しく、半分は違います。

介護報酬が非課税なのは、「介護サービスを受ける利用者に対して」の話です。利用者が事業所に払う費用(介護保険給付と利用者自己負担)には消費税がかかりません。ただし、ヘルパーが事業所から受け取る業務委託料は別の取引です。事業所が業務委託という契約でヘルパーに仕事を発注し、ヘルパーがサービスを提供する、その対価としての業務委託料には消費税がかかります。

この記事の対象は、事業所と業務委託契約を結んで働くヘルパーです。直接雇用(雇用契約)で働いている場合は給与所得者となるため、消費税の申告は必要ありません。自分の契約が業務委託か雇用かわからない場合は、契約書または事業所に確認してください。

この違いを整理した上で、インボイスに登録したヘルパーが事業所に消費税分の上乗せを相談する手順を書きます。

介護報酬と業務委託料は、消費税のルールが違います

消費税法の別表第一(非課税取引の一覧)には、社会保険医療や介護保険サービスが列挙されています。これがいわゆる「介護報酬は非課税」の根拠です(消費税法別表第一第7号)。

ただし、ここで非課税とされているのは「介護保険法に基づく居宅介護サービス費・施設介護サービス費」などの保険給付の取引です。利用者と事業所の間の取引です。

一方、事業所とヘルパーの間には、別の契約があります。ヘルパーが個人事業主として事業所と業務委託契約を結び、サービスに従事する場合、その報酬は「業務委託料」です。この業務委託料は、消費税法上の非課税取引には含まれません。通常の課税取引として消費税がかかります。

整理すると、次のようになります。

取引 当事者 消費税
介護サービスの提供 利用者 ← 事業所 非課税
業務委託料の支払い 事業所 → ヘルパー 課税

「介護は非課税」という一文が、ヘルパー自身の消費税負担にも当てはまると思ってしまうのは、この2つの取引を混同しているためです。

インボイスに登録したヘルパーが、実際にいくら納めることになるか

例として、月10万円の業務委託料を受け取る登録ヘルパーの場合を見ます。

税込10万円の場合、消費税は約9,091円(税抜90,909円に対する10%)です。ヘルパーが第5種の簡易課税を選択した場合、みなし仕入率は50%です。

年分 制度 計算のしかた 1年で納める消費税(試算) 1か月あたり
2026年分 2割特例 9,091円×20% 約21,820円 約1,820円
2027年・2028年分 3割特例 9,091円×30% 約32,730円 約2,730円
2029年分から 簡易課税・第5種 9,091円×50%×10% 約54,550円 約4,550円

2割特例が終わる2027年から3割特例になると、年間で約1万円の増加です。3割特例が終わる2029年以降はさらに増え、2割特例の期間と比べると年間で約3万2,000円の差になります。月換算で約2,730円から4,550円の増加です。

この増加分を事業所に補填してもらえるかどうかを相談するのが、今回の話です。2割特例が続いている2026年のうちに相談を済ませておくと、2027年1月から反映できます。

3割特例の詳しい内容は、訪問介護ヘルパー・登録ヘルパーの消費税は、2027年から3割特例になるで整理しました。

訪問介護は慢性的な人手不足です。言い出しにくいと感じる必要はありません

「事業所に相談したら、シフトを減らされるのではないか」という不安を持つヘルパーがいます。この不安は感情としては理解できますが、事実とはずれています。

介護労働安定センターが毎年実施する「介護労働実態調査」では、訪問介護員・ホームヘルパーの不足を訴える事業所の割合が全介護職種の中でも高い状態が続いています。(出典:介護労働安定センター「介護労働実態調査」)事業所の立場からすれば、消費税分の追加コストと、ヘルパーが離れることで生じる利用者対応の空白を比較したとき、多くの場合は前者のほうが小さな問題です。

ただし、この事実を「だから強気に交渉できる」と使うべきではありません。事業所も利益を管理しながら運営しています。「こちらには有利な状況がある、だから言い分を通す」という姿勢は関係を壊します。そうではなく、「法律と数字に基づいた話し合い」として持ちかけることが、結果的に双方にとって無理のない形です。

複数の事業所に登録している場合は、全部に相談することになります

登録ヘルパーは、複数の事業所と個別に業務委託契約を結んでいることが多くあります。A事業所との契約とB事業所との契約は独立した別々の契約ですので、消費税の相談も各事業所に対して別々に行います。

一度にすべての事業所に連絡するのが大変な場合は、仕事量が多い事業所から順番に相談するのが現実的です。最初の相談で相手の反応を確認してから、残りの事業所への連絡文を調整することもできます。

なお、ある事業所での結果(上乗せを認めてもらえた・断られた)が、別の事業所の交渉に影響するわけではありません。各事業所の予算状況・経営判断・担当者の対応はそれぞれ異なります。

法律的な根拠

事業所に相談することには、法律的な根拠があります。

財務省・公正取引委員会・経済産業省・中小企業庁・国土交通省が連名で出している「免税事業者及びその取引先のインボイス制度への対応に関するQ&A」(令和4年1月19日、改正:令和8年1月30日)には、次のように書かれています。

「これまで消費税相当分を上乗せしていなかった免税事業者が課税事業者に転換した場合は、消費税の仕組み上、発注側が支払う取引価格には新たに消費税相当額を上乗せすることが相当であると考えられます。」

(出典:財務省ほか「免税事業者及びその取引先のインボイス制度への対応に関するQ&A」Q6の注)

また、フリーランス保護法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律・2024年11月施行)では、業務委託の発注者が受託者の課税事業者転換を理由に報酬を一方的に引き下げることを禁止しています。

この法律が対象とするのは、従業員を雇用していない個人事業主(または役員1名のみの法人)として業務委託契約で働く人です。事業所との関係が業務委託契約であれば、登録ヘルパーの多くがこの対象に当てはまります。

ひとつ確認しておくと、フリーランス保護法は「事業所が一方的に報酬を下げてはいけない」という規制です。「増額しなければならない」という強制ではありません。相談して断られる可能性はあります。しかし、相談することは正当な行為であり、法律の枠組みの中の話し合いです。

実際の相談のしかた

口頭や電話よりも、メールや書面で「記録に残る形」で相談する方が、相手も社内で確認・承認を取りやすくなります。担当者個人が即決するのではなく、経営陣や事務部門を通じて判断することが多いためです。

以下は、事業所への連絡例です。

件名:消費税の取り扱いについてご確認をお願いしたいことがあります

〇〇事業所 〇〇様

いつもお世話になっております。〇〇(ヘルパー名)です。

インボイス制度の変更により、来年(2027年)1月から消費税の納税額が変わります。現在の業務委託料〇〇円(税込)に含まれる消費税のうち、2027年以降の増加分として月あたり〇〇円の追加が見込まれます。

この部分について、来年1月分の業務委託料に上乗せしていただくことは可能でしょうか。ご確認のほど、よろしくお願いいたします。

長い説明は必要ありません。「何が変わるのか」「いくら上乗せをお願いしたいのか」の2点を具体的な数字で書くことが、相手が動きやすくなる条件です。

自分の数字で試算と相談シートを確認できます

年間の売上・経費を入力すると、2026年・2027年・2028年・2029年以降の消費税の変化を試算できます。試算の結果から、事業所への値上げ相談シート(A4・法律根拠入り)を作成することもできます。試算は無料です。

▶ 訪問介護ヘルパー・登録ヘルパーのインボイス試算ツール

出典:消費税法別表第一第7号(介護サービスの非課税)・特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(2024年11月施行)・消費税法附則第51条の2(2割特例)・国税庁「令和8年度 税制改正特集」(3割特例)・タックスアンサーNo.6509(第5種・みなし仕入率50%)・財務省ほか「免税事業者及びその取引先のインボイス制度への対応に関するQ&A」・No.6505(簡易課税の届出と2年間継続適用の制限)。本記事の内容は執筆時点の情報に基づきます。詳細は税務署・税理士にご確認ください。

この記事を書いた人

業種別のツールを、一人で作っています。開業前の収支シミュレーター、法定研修キット、資格の問題集。どれも、厚生労働省の告示や調査の原文を自分で確かめてから数字を組み込んでいます。使う人が「この数字、合ってるか」と不安になるようなツールは作りたくないので。

上場企業で20年間、営業ひとすじ。電話営業・インサイドセールスから、約70名のチームのマネジメントへ。現場で「根拠のない数字」が判断を狂わせる場面を見続けてきたせいか、ツールを作るときも出典を確かめずにはいられません。

ご質問はメールで。電話・面談はしていません。

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