認知症と診断されたら、財産管理・介護・相続対策で動くべきことがたくさんある。「何から手をつければいいか」がわからず先延ばしにしているうちに、口座が凍結され・保険が請求できず・任意後見の設定も間に合わなかった——という状況は実際に多い。診断後の全手続きを「今すぐ(1週間以内)」「2週間以内」「1か月以内」「余裕があれば」の4段階に分けてチェックリストにまとめた。各項目に「なぜ重要か」「どこで手続きするか」を加えたので、動き始める際の参考にしてほしい。
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チェックリストの前に:先延ばしの代償
「まだ大丈夫」「もう少し様子を見てから」という先延ばしが最も危険だ。認知症の進行スピードは個人差があり、「来月まで意思確認できるか」は誰にもわからない。
先延ばしの間に実際に起きている3つの損失を把握しておく必要がある。
- 口座凍結:銀行が認知症を把握した時点で口座を凍結する。介護費用が引き出せなくなり、成年後見人を選任するまでの数か月間、家族が立替を余儀なくされる
- 任意後見・家族信託の設定不可:本人の意思確認ができない状態になると、任意後見・家族信託は設定できない。設定できないままだと、法定後見(家族が選ばれない可能性がある)しか選択肢がなくなる
- 生前贈与・相続税対策ができない:本人の意思能力がある間にしかできない贈与・契約の変更が、すべてできなくなる。結果として相続税の負担が重くなる可能性がある
チェックリスト1:診断後「今すぐ」(1週間以内)
- □ 主治医に「現時点での意思能力はあるか」を確認する(家族信託・任意後見の設定可否を判断するために必要)
- □ 主な取引銀行に「代理人カードの申請」を申し込む(口座凍結前に取得しておけば家族が介護費用を引き出せる。費用無料・今すぐ動ける最優先の手続き)
- □ 生命保険・医療保険の「指定代理請求人の登録」を申し込む(本人が手続きできなくなった後でも家族が保険金を請求できるようになる)
- □ 加入中の保険の一覧を整理する(保険会社・証券番号・毎月の保険料額・受取人。証券が見つからない場合は生命保険協会の「生命保険契約照会制度」で確認可能)
- □ 年金の振込口座・振込額を確認する(認知症が進んで受け取り方法を変更できなくなる前に、家族が把握しておく)
- □ 介護保険の申請状況を確認する(要介護認定が出ていない場合は市区町村の窓口で今すぐ申請。認定が出ないと介護保険サービスが使えない)
チェックリスト2:「2週間以内」に動くこと
- □ 司法書士または弁護士に「任意後見・家族信託・法定後見」の相談をする(意思能力が残っているうちにしか設定できない手続きがある。「まず相談」を2週間以内に動かす)
- □ 財産の一覧を整理する(預貯金・不動産・株式・ローン・保険等。財産を把握していないと後見人への引き継ぎや相続対策が進められない)
- □ 通帳・印鑑・キャッシュカードの保管場所を家族と共有する(認知症が進んで本人が言えなくなる前に場所を確認しておく)
- □ 生命保険の受取人が最新の状況と一致しているか確認する(離婚・再婚・子の誕生後に変更が必要な場合は手続き。意思能力が低下してからでは変更できない)
- □ 地域包括支援センターに相談して、介護サービスの案内を受ける(訪問介護・デイサービス等の利用申請・ケアプランの作成をケアマネジャーに依頼する)
チェックリスト3:「1か月以内」に進めること
- □ 任意後見契約または家族信託の設計を司法書士・弁護士と進める(意思能力があるうちに設定完了させる。公正証書で作成することで設定時の意思能力が記録に残る)
- □ 公正証書遺言の作成を検討する(公証役場に事前相談。遺言書がない場合は相続人全員の合意が必要な遺産分割協議が必要になる)
- □ 兄弟(相続人)全員で認知症の現状・今後の方針を話し合う機会を設ける(後になって「話が違う」「知らなかった」が起きないよう、早い段階で全員の合意を形成する)
- □ 介護サービス(訪問介護・デイサービス・ショートステイ)の利用開始を検討する(在宅介護の限界を事前に把握し、施設移行の時期の見通しを立てる)
- □ 施設への入所を検討している場合は「施設の見学・入所待ちリストへの申し込み」を開始する(特別養護老人ホームは数か月〜数年の待機が必要。早めに動いておく)
チェックリスト4:「余裕があれば」進めること
- □ 相続税対策の見直し(暦年贈与・生命保険の活用)を税理士に相談する(意思能力がある間にしかできない。2024年から暦年贈与の加算期間が3年→7年に延長されたため、早めの対策が重要)
- □ 不動産の登記情報(現在の名義)を確認する(本人名義の不動産は、認知症が進むと売却・活用ができなくなる。家族信託の設計に不動産の情報が必要)
- □ 加入している保険の「払い済み保険」への変更を検討する(保険料支払いが困難になった場合、払い済み保険に変更することで保険を継続しながら保険料支払いを止められる)
- □ 財産管理・費用支出の記録を「家族全員が確認できる形」で共有する仕組みを作る(後見人が選任された場合、後見人は収支を記録して家庭裁判所に定期報告する義務がある。事前に記録の仕組みを作っておくと移行が楽になる)
- □ 延命治療に関する本人の意思確認(ACP)を主治医と一緒に進める(意思確認ができなくなってから家族が判断を迫られる事態を避けるため、本人の意思を書面に残しておく)
「今すぐ動けない」場合の最優先1つを選ぶなら
チェックリストが多くて動けない場合、最初に1つだけ選ぶなら「代理人カードの申請」だ。
代理人カードは「今すぐ」できて・「お金がかからず」・「取り消しも可能」な手続きで、口座凍結前に取得しておくだけで家族が介護費用を引き出せる体制が整う。最もコストパフォーマンスが高い最初の一手だ。代理人カードの申請が終わったら、次に「指定代理請求人の登録」を申し込む。この2つが終われば、急いで動くべき最低限の準備は整う。
手続きの全体像を把握する診断ツール
チェックリストだけでは「自分の状況で何が最優先か」がわかりにくいことがある。5問の簡単な診断で、今の状況に合った手続きの優先順位と損失リスクを確認できる。
この記事のまとめ
- 診断後1週間以内:代理人カード・指定代理請求人・介護保険申請
- 2週間以内:司法書士への相談・財産の整理・地域包括の相談
- 1か月以内:任意後見・家族信託の設計・遺言書の準備・兄弟全員の話し合い
- 余裕があれば:相続税対策・不動産の確認・費用記録の共有体制
- 何も動けないなら「代理人カードの申請」だけを今すぐ始める
- 先延ばしの間に口座凍結・任意後見の設定不可・相続税対策不能という3つのリスクが同時に進行する
出典:介護保険法(要介護認定・介護サービス)、民法(後見・委任・贈与・相続)、任意後見契約に関する法律、各保険会社「指定代理請求人制度」、生命保険協会「生命保険契約照会制度」
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