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移動式クレーンのジブ起伏装置は、ジブの傾斜角度を変える(寝かせたり立てたりする)ための機構です。現代の移動式クレーンの多くは油圧シリンダを使った油圧起伏式を採用しています。この記事では起伏装置の構造・油圧シリンダの仕組み・カウンタバランスバルブの役割を解説します。
起伏装置とは何か
起伏装置はジブ(ブーム)の傾斜角度を変える装置です。ジブを立てると(傾斜角が大きくなる)作業半径が小さくなり、ジブを寝かせると(傾斜角が小さくなる)作業半径が大きくなります。
起伏装置の方式:
- 油圧シリンダ式:現在の移動式クレーンの主流。油圧力でシリンダを伸縮させてジブを起伏する
- ウインチ・ワイヤロープ式:ウインチでワイヤロープを巻き上げ・巻き下げしてジブを起伏する。クローラクレーン等に多い
油圧シリンダの構造
油圧シリンダは油圧力(圧力をかけた油)を直線運動に変換する装置です。
基本構成:
- シリンダチューブ:外筒(固定側または車体側に取り付け)
- ピストン:シリンダ内部を2室に仕切る円板状部品
- ピストンロッド:ピストンに接続した棒・外部に突き出してジブ等に連結
- シール類:ピストン周囲・ロッド貫通部の油漏れを防ぐゴム・樹脂製の封止部品
動作原理:
- 伸長(ロッドが出る):ピストンの受圧側(ロッド反対側の大きな面積)に圧油を供給→ピストン・ロッドが押し出される
- 収縮(ロッドが入る):ピストンのロッド側(小さな面積)に圧油を供給→ピストン・ロッドが引き込まれる
単動式と複動式の違い
| 種類 | 圧油供給方向 | 特徴 | 主な用途 |
|---|---|---|---|
| 単動式(片ロッド・片押し) | 1方向のみ | 伸長方向は油圧力、収縮方向はバネか重力 | アウトリガーシリンダ(ジャッキ下げ)等 |
| 複動式(両ロッド・両押し) | 両方向に供給可能 | 伸長・収縮両方向に油圧力が使える | ジブ起伏シリンダ・テレスコピック伸縮シリンダ |
ジブ起伏に使う油圧シリンダは「複動式」が一般的です。ジブを立てる方向も寝かせる方向も油圧力を使います。
油圧回路の基本構成
移動式クレーンの油圧システムは以下の主要部品で構成されます:
| 部品名 | 役割 |
|---|---|
| 油圧ポンプ | エンジン動力で作動油に圧力をかけて吐出 |
| 作動油タンク | 作動油の貯蔵・冷却・フィルタリング |
| 方向切換弁(コントロールバルブ) | 油の流れ方向を切り換えてシリンダの伸縮方向を制御 |
| リリーフバルブ(安全弁) | 回路内の圧力が設定値を超えたら油をタンクに逃がす安全装置 |
| 油圧シリンダ | 油圧力を直線運動に変換 |
| 配管(ホース・パイプ) | 作動油の流路 |
カウンタバランスバルブ(背圧バルブ)とは
カウンタバランスバルブは、ジブ起伏シリンダの回路に設置される重要な安全バルブです。
役割と必要性:
ジブを起立させた状態では、ジブ+荷の重量がシリンダを縮ませる方向に働きます。もしシリンダ収縮側の油が自由に流れると、ジブが自重・荷重で急落下してしまいます。カウンタバランスバルブはこの「意図しない降下」を防ぐために設置されます。
カウンタバランスバルブの動作:
- 通常時(ジブ停止中):バルブが閉じてシリンダの油をロックし、ジブが自重で下がらないようにする
- ジブを寝かせる操作時:方向切換弁から圧油がシリンダ伸長側に供給されると同時に、カウンタバランスバルブが開いて収縮側の油がタンクに戻ることができ、ジブを制御された速度で下げることができる
- ジブを立てる操作時:収縮側に圧油が供給されてバルブが開き、伸長側の油がタンクに戻ってジブが立つ
パイロット操作チェック弁との違い
カウンタバランスバルブと同様にシリンダをロックする機能を持つ弁にパイロット操作チェック弁(ロジックバルブ等)があります。
- チェック弁(逆止弁):油の流れを一方向にしか許さない弁。逆方向への油の流れを阻止
- パイロット操作チェック弁:通常は一方向にしか流れないが、パイロット(操作)圧が加わると逆方向にも流せる弁
- カウンタバランスバルブ:設定された背圧を超えた場合にのみ開く弁。スムーズな制御降下に適する
テレスコピック伸縮シリンダ
テレスコピックジブを伸縮させる油圧シリンダには「テレスコピックシリンダ」と呼ばれる多段式のシリンダが使われることがあります。1つのシリンダが複数段階に伸縮することで、コンパクトな格納状態から大きなストロークを得られます。
この記事のまとめ
- 起伏装置:ジブの傾斜角度を変える装置。主流は油圧シリンダ式
- 油圧シリンダ:圧油を直線運動に変換。シリンダチューブ・ピストン・ピストンロード・シール類で構成
- 複動式シリンダ:両方向に油圧力を使える(ジブ起伏に使用)
- カウンタバランスバルブ:ジブが自重で急落下しないようシリンダ油をロック・操作時に制御開放
- 油圧回路の安全弁(リリーフバルブ)は設定圧を超えたら油を逃がす
油圧回路の試験での出題ポイント
「原動機及び電気に関する知識」では油圧回路の各部品・動作原理が問われます。
| 出題パターン | 正しい答え |
|---|---|
| 「リリーフバルブの役割はどれか」 | 回路内の圧力が設定値を超えたとき、油をタンクに逃がして過圧を防ぐ安全弁 |
| 「カウンタバランスバルブを設ける理由はどれか」 | ジブが自重で急落下しないよう、シリンダの油をロックして意図しない降下を防ぐため |
| 「方向切換弁の役割はどれか」 | 油の流れる方向を切り換えて、シリンダの伸長・収縮を制御する |
油圧ポンプの種類
移動式クレーンに使われる油圧ポンプの主な種類:
| 種類 | 特徴 | 用途 |
|---|---|---|
| ギアポンプ | 構造が簡単・安価・脈動が大きい | 低圧〜中圧の補助回路 |
| ベーンポンプ | 脈動が少ない・中程度の圧力・比較的静か | 中圧回路 |
| ピストンポンプ(プランジャポンプ) | 高圧対応・効率が高い・高価 | 高圧が必要な主回路(巻上・起伏) |
移動式クレーンの主要作業(巻上・起伏・伸縮)には高圧が必要なため、ピストンポンプが主回路に使われることが多いです。
作動油の特性と管理
油圧回路に使う「作動油」の適切な管理も重要です。
- 粘度:作動油には使用温度範囲での適切な粘度が必要。粘度が高すぎると流動抵抗が大きくなり圧力損失が増える。低すぎると漏れ・摩耗が増える
- 温度管理:長時間の重作業では作動油温度が上昇し、粘度が低下する。油圧オイルクーラーで適切な温度に保つ
- 汚染管理:金属粉・水分・空気の混入は油圧システムの故障原因。フィルタの定期交換が重要
- 油量確認:始業前点検でタンクの油量を確認する(オイルレベルゲージで確認)
よくある間違い:弁の種類と役割
| 間違い | 正しい理解 |
|---|---|
| チェック弁(逆止弁)はどちら方向にも油を止められる | チェック弁は一方向の流れを止めるだけ(逆方向のみ止める) |
| リリーフバルブは通常から油を流し続けている | リリーフバルブは設定圧以下では閉じており、設定圧を超えた時のみ開く |
| カウンタバランスバルブは手動で開け閉めする | カウンタバランスバルブはパイロット圧(操作圧)により自動的に開閉する |
油圧シリンダの計算例
起伏シリンダの力 F = 圧力 P × 断面積 A
例:圧力20MPa(= 20,000,000Pa)・内径100mm(半径50mm = 0.05m)のシリンダ
断面積 A = π × 0.05² = 0.00785m²
力 F = 20,000,000Pa × 0.00785m² = 157,000N(≒ 15.7t)
この計算から、高い油圧と大きな断面積のシリンダほど大きな力を発揮できることがわかります。
起伏シリンダと旋回モーターの違い
| 装置 | 形式 | 役割 |
|---|---|---|
| 起伏シリンダ | 油圧シリンダ(直線運動) | ブームを起こす(起仰)・倒す(倒伏) |
| 旋回モーター | 油圧モーター(回転運動) | 旋回体を左右に回転させる |
| 巻上げモーター | 油圧モーター(回転運動) | ウインチドラムを回転させてワイヤを巻き上げる |
油圧装置のリリーフバルブの役割
リリーフバルブは油圧回路の安全弁です。回路内の圧力が設定値を超えると自動的に開き、作動油をタンクに戻すことで過圧を防ぎます。
- 設定圧力以上の荷重がかかると作動→ 定格荷重超過の警告でもある
- リリーフバルブが作動した場合は、荷重を減らすか作業方法を見直す
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