基礎試験の5区分のうち、「言語」区分は出題割合が約30%です。
「言語と教育」(30〜40%)に次ぐ出題量で、この2区分だけで全体の60〜70%を占めます。「言語」区分で問われるのは、日本語の音声・音韻・文法・語彙・文字・談話に関する言語学的な知識です。この記事では、「言語」区分で必要な知識と学習の組み立て方を整理します。
「言語」区分が含む範囲
文部科学省が公表している49項目の到達目標のうち、「言語」区分には次のテーマが含まれます(文部科学省「出題内容及びサンプル問題」PDFより)。
| テーマ | 代表的な学習内容 |
|---|---|
| 音声・音韻論 | モーラ(拍)・長音・促音・撥音・音節・アクセント(東京方言と京阪方言)・イントネーション |
| 文法論 | 品詞分類・動詞のグループ(グループI/II/III)・テ形・自動詞/他動詞・ヴォイス(受身・使役・使役受身)・アスペクト(テイル)・モダリティ |
| 語彙・意味論 | 多義語・同音異義語・類義語・コロケーション・語の構造(複合語・派生語)・和語/漢語/外来語 |
| 文字・表記 | ひらがな・カタカナ・漢字の分類(音読み/訓読み)・送り仮名・表記規則 |
| 談話・テキスト | 談話構造・接続表現・照応・省略・文章の結束性(コヒージョン) |
| 言語一般(語用論含む) | 言語機能・言語行為論・ポライトネス・非言語コミュニケーション |
サンプル問題から見る出題形式
文部科学省が公表しているサンプル問題では、「言語」区分から音声に関する問題が含まれています。
拍(モーラ)の問題
サンプル問題には「拍」に関する問題があります。日本語の音韻構造における拍の数え方(長音1拍・促音1拍・撥音1拍)と、外国語話者が難しいと感じる拍の数え方の違いを問う内容です。
例:「東京(とうきょう)」は何拍か。→ と・う・き・ょ・う=5拍(「う」と「ょ」と「う」もそれぞれ1拍)
動詞グループ(グループI・II・III)
日本語の動詞は3つのグループに分類されます。グループIII(する・くる)・グループII(「る」の前が「え段」または「い段」)・グループI(それ以外)という分類規則と例外(「帰る」がグループI・「起きる」がグループII等)は基礎的な問題として出やすいテーマです。
音声・音韻論の学習ポイント
モーラと音節の違いを理解する
英語は「音節(シラブル)」基準の言語ですが、日本語は「モーラ(拍)」基準の言語です。この違いが外国語話者の日本語学習の難しさの一因になっています。
モーラとして独立するもの:
- 長音の「う」(例:「おかあさん」のふたつ目の「あ」・「こうえん」の「う」)
- 促音の「っ」(例:「きって」の「っ」)
- 撥音の「ん」(例:「たんぽぽ」の「ん」)
外国人学習者が長音・促音・撥音を正確に発音・聞き取ることを難しいと感じる理由は、これらが母語(英語等)では独立した音節を形成しないためです。
アクセントの仕組み
東京方言のアクセントは「高低」によって区別されます(高低アクセント・ピッチアクセント)。「橋(はし・高低)」と「箸(はし・低高)」のように、発音のピッチの変化で意味が変わります。
アクセント核(ピッチが下がる位置)の概念と、アクセント型(平板型・起伏型)を整理することが学習の基本です。
文法論の学習ポイント
動詞グループの見分け方
動詞のグループ分類(I・II・III)は、テ形・ない形・辞書形の活用と対応しています。グループの分類規則と活用表を対応させて理解することが基礎です。
| グループ | 見分け方(基本) | 例 |
|---|---|---|
| グループIII(不規則) | する・くる | 勉強する・来る |
| グループII | 辞書形が「る」で終わり、その前が「え段」または「い段」 | 食べる・起きる・見る |
| グループI | 上記以外(「る」で終わらない・または「る」で終わっても前が「お段」等) | 書く・話す・帰る・切る |
注意が必要な動詞:「帰る(かえる)」はグループIIのように見えるがグループI・「切る(きる)」も同様。
アスペクトの「テイル」
「テイル」は複数の意味を持ちます。「食べている」(進行中の動作)・「結婚している」(結果の状態)・「知っている」(単純な状態)のように、動詞の種類によって意味が変わります。
動作動詞と状態動詞の区別と「テイル」の意味のパターンを整理することが、テ形・アスペクト関連問題への対応につながります。
ヴォイス(受身・使役・使役受身)
直接受身(先生に叱られた)・間接受身(雨に降られた)・迷惑の受身という3種類の受身、使役(させる)、使役受身(させられる)の形成ルールと意味は頻出テーマです。日本語学習者にとって難しい点と、教師がどう説明するかという視点で理解すると記憶に残りやすいです。
語彙・意味論の学習ポイント
和語・漢語・外来語の特徴と使い分け
日本語の語彙は出自によって和語・漢語・外来語に分類されます。それぞれの文体的特徴(和語=柔らかい日常語・漢語=硬い書き言葉・外来語=カタカナ表記)と、日本語学習者が混同しやすい同音異義語(「橋・箸」「母校・母語」等)の理解が問われます。
コロケーション
コロケーションは「一緒に使う語の組み合わせ」です。日本語では「歯を磨く」は言えても「歯を洗う」は不自然であることが典型例です。学習者が犯しやすい誤りとして、語彙問題でよく取り上げられます。
アクセントの詳細:東京方言と京阪方言
日本語のアクセントは方言によって型が異なります。基礎試験で問われるのは主に「東京方言(関東方言)のアクセント」です。
東京方言のアクセントの仕組み
東京方言は「高低アクセント(ピッチアクセント)」です。音が高くなる位置と低くなる位置の組み合わせ(アクセント型)によって語の意味が区別されます。
| アクセント型 | 説明 | 例 |
|---|---|---|
| 平板型 | 最初の拍が低く、2拍目から高くなり、以降は高く続く | 「雨(あめ)」低高・「桜(さくら)」低高高 |
| 起伏型(頭高) | 1拍目が高く、2拍目から低くなる | 「雨(あめ)」高低(頭高型) |
| 起伏型(中高) | 途中の拍から下がる | 「卵(たまご)」低高低 |
| 起伏型(尾高) | 最後の拍で下がる(次に助詞が来ると下がる) | 「橋(はし)」低高(助詞付き「橋が」低高低) |
「橋(は・し)」(尾高型)と「箸(は・し)」(平板型?)のような最小対が日本語の高低アクセントの典型例です。アクセントの違いが意味を区別することを「アクセントの弁別機能」と言います。
京阪方言のアクセント
関西方言(京阪方言)も高低アクセントですが、東京方言と型の対応が異なります。「花(はな)」が東京では低高なのに対し、京阪方言では高低になります。「雨(あめ)」と「飴(あめ)」は東京では同じ高低だが、京阪方言では区別されます。外国語話者への日本語教育では通常「東京方言の標準的なアクセント」を教えますが、出題では東京方言と京阪方言の違いについての理解が問われることがあります。
格助詞の意味と用法
日本語の格助詞は「言語」区分の文法論で頻出です。特に外国語話者が習得で苦労する格助詞の用法を整理します。
| 格助詞 | 主な用法 | 学習者が間違いやすい点 |
|---|---|---|
| が | 主語・排他的強調・存在文の主語 | 「は」との使い分け(対比のは・主題のは) |
| は | 主題・対比 | 「は」と「が」の使い分けは日本語の最難関の一つ |
| に | 存在場所・移動の到達点・時点・目的・受身の動作主 | 「で」との混同(存在場所「に」・動作場所「で」) |
| で | 動作の場所・手段・理由・範囲 | 「に」との混同 |
| へ | 移動の方向 | 「に」と「へ」の差(「に」は到達点・「へ」は方向) |
「は」と「が」の使い分けは日本語教育の中でも特に説明が難しいテーマです。「主題(topic)を表す「は」」と「焦点(focus)を表す「が」」という機能の違いが基本的な整理です。教師として学習者にどう説明するかという記述問題でも出題されやすいテーマです。
談話・テキストのポイント
談話レベルの知識は「言語」区分の中では比較的問われにくいですが、応用試験の記述問題で「文章の結束性」や「談話構造」の知識が問われることがあります。
コヒージョン(cohesion)とコヒーレンス(coherence)
コヒージョンは文章内の語句間のつながり(代名詞・照応・省略・接続表現)によって表される表面的な結束性です。コヒーレンスは読み手が理解する文章全体の意味的なつながりです。文章が「ばらばらに読める」ときはコヒーレンスの問題、「指示語が何を指すか不明」のときはコヒージョンの問題です。
接続表現の機能分類
接続表現(接続詞・接続助詞)は「順接・逆接・添加・対比・例示・言い換え・転換」の7種類に分類されます。日本語学習者は接続詞を「また(添加)」「しかし(逆接)」「たとえば(例示)」など機能別に習得するため、教師は機能による分類を正確に理解していることが前提になります。
「言語」区分で失敗しやすいパターン
音声の理論と実際の発音を結びつけない
「モーラとは何か」を定義として知っているだけでなく、「外国語話者が日本語の長音・促音を習得するときどんな困難があるか」という教師の視点で理解するのが「言語と教育」区分との接続につながります。「言語」区分の知識が「言語と教育」区分の教授法の問題にも関連していることを意識してください。
文法の例外を覚えすぎる
動詞のグループ分類や格助詞の用法には例外があります。例外を全部覚えようとすると時間が取られます。まず原則を確実に押さえ、出題頻度が高い例外(「帰る・切る」のグループI等)を補足するアプローチが効率的です。
文字・表記の知識
「言語」区分には文字・表記に関する知識も含まれます。外国人日本語学習者にとって「日本語の文字体系を習得すること」は大きな課題のひとつです。
3種類の文字体系の特徴
| 文字 | 文字数 | 特徴・使い方 |
|---|---|---|
| ひらがな | 基本46字+濁音・半濁音等 | 日本語の基礎。文法的な要素(助詞・活用語尾)に使われる |
| カタカナ | 基本46字+濁音・半濁音等 | 外来語・外国の地名・擬音語に使われる |
| 漢字 | 常用漢字2,136字(文化庁告示) | 名詞・語幹など意味の核となる部分に使われる |
外国語話者が日本語の文字体系で特に難しいと感じる点として「3種類の文字を並行して学ぶ必要がある」こと・「ひらがなとカタカナが同じ音に対して2系統ある」こと・「漢字の数が多く読み方(音読み・訓読み)が複数ある」ことが挙げられます。
送り仮名の規則
漢字と共に使うひらがな(送り仮名)の規則は文化庁「送り仮名の付け方」(昭和48年内閣告示)に基づきます。「書く→書き・書いた」「動く→動き・動いた」のように活用語尾から送るのが原則です。例外(「承る・関わる」等)もあり、外国語話者への指導場面では送り仮名の迷いやすい語を把握しておくことが実用的です。
語用論の基礎
語用論(pragmatics)は「言語が実際のコミュニケーション場面でどのように使われるか」を研究する分野です。「言語」区分の中では、コミュニケーション能力の定義と関連して問われます。
グライスの協調の原則
グライスの「会話の含み」理論では、コミュニケーションには「量・質・関係・様式」の4つの格率が協調して機能しているとされます。「なぜ話し手はこう言ったのか」という文字通りの意味を超えた意図(会話の含み)を読み取る能力は、コミュニカティブ・コンピテンスの一部として日本語教育でも重視されます。
スピーチアクト(言語行為)
発話は情報を伝えるだけでなく、何かを「行う」機能があります(約束する・依頼する・謝罪する等)。オースティン・サールの言語行為論では、発話を「発語行為・発語媒介行為・発語効果行為」の3層で分析します。日本語教師として「この場面で学習者はどんな言語行為をしているか」を把握することが指導の文脈で関係します。
まとめ
- 「言語」区分は出題割合約30%。「言語と教育」と合わせると試験の60〜70%を占める
- 音声・音韻(モーラ・アクセント)・文法(動詞グループ・アスペクト・ヴォイス)・語彙が主要テーマ
- 定義だけでなく「学習者が何を難しいと感じるか」という教師視点で理解すると定着しやすい
- 「言語」区分の知識は「言語と教育」区分の教授・誤り訂正の問題とつながっている
- 例外を覚えすぎるより、原則を確実に押さえてから頻出例外を補足する
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独学の全体方針については、こちらの記事もあわせてご覧ください。

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