有料老人ホームの法定研修、何が義務で年何回か。

有料老人ホームの法定研修、何が義務で年何回か。 福祉事業の開業と運営

有料老人ホーム(特定施設入居者生活介護)で義務になっている法定研修は、虐待防止・身体拘束の適正化・感染症の予防・業務継続計画(BCP)・ハラスメント対策の5テーマです。訓練まで含めると、感染症とBCPは研修と訓練の両方が必要になります。

根拠は指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準(平成11年厚生省令第37号)です。令和3年度の基準改正で、多くのテーマが明文で義務化されました。

義務の研修・訓練・委員会の一覧

まず全体像を表で確認してください。解釈通知(老企第25号)で示されている目安を含みます。

テーマ 根拠条文 研修 訓練 委員会・担当者
虐待防止 第174条の2 年1回以上(新規採用時必須) なし 委員会:年1回以上/担当者を配置
身体拘束の適正化 第173条 年1回以上(新規採用時必須) なし 身体拘束適正化委員会:おおむね3か月に1回以上/担当者を配置
感染症の予防・まん延防止 第177条の2 年2回以上(新規採用時必須) 年2回以上 感染対策委員会:おおむね3か月に1回以上
業務継続計画(BCP) 第177条の3 年1回以上 年1回以上 なし(BCPの策定・見直しは義務)
ハラスメント対策 第178条の2 方針の周知・研修の実施 なし なし(相談窓口の設置は義務)

このほか、非常災害に関する具体的計画の策定と、定期的な避難・救出等の訓練が第179条に定められています。

特定施設入居者生活介護とは何か

有料老人ホームのうち、都道府県知事の指定を受けた施設が「特定施設入居者生活介護」の事業者として介護保険の給付対象になります。住宅型有料老人ホームや、指定を受けていない施設は特定施設ではないため、介護保険の特定施設入居者生活介護費は算定できません。

この記事で解説する研修義務は、指定を受けた特定施設に適用されます。指定特定施設入居者生活介護事業者には、指定居宅サービス等基準の第5章(第174条〜第191条)が直接適用されます。

厚生労働省の資料(令和5年介護サービス施設・事業所調査)によると、特定施設入居者生活介護の事業所数は令和5年10月1日時点で14,752か所です。

虐待防止研修の義務内容

根拠は指定居宅サービス等基準第174条の2です。条文は「指定特定施設入居者生活介護事業者は、虐待の発生又はその再発を防止するため、虐待防止委員会の開催、従業者に対する研修の実施等の必要な措置を講じなければならない」と定めています。

解釈通知(老企第25号)が示す目安:

  • 定期的な研修:年1回以上
  • 新規採用時:必ず実施
  • 虐待防止委員会:少なくとも年1回以上開催
  • 虐待防止推進担当者の配置
  • 虐待防止のための指針の整備

研修では、高齢者虐待防止法が定める虐待の5種類(身体的虐待・ネグレクト・心理的虐待・性的虐待・経済的虐待)、発見した場合の報告・通報手続き、特定施設特有のリスク(夜間の単独勤務・居室での1対1介助・金銭管理)を扱います。

運営指導で指摘されやすい点は、「研修の記録がない」「指針が整備されていない」「担当者が名目だけで機能していない」の3点です。

身体拘束適正化委員会の設置義務

根拠は指定居宅サービス等基準第173条です。「指定特定施設入居者生活介護事業者は、利用者の生命又は身体を保護するため緊急やむを得ない場合を除き、身体的拘束その他利用者の行動を制限する行為を行ってはならない」と定めています。

特定施設の身体拘束適正化に関する義務:

  • 身体拘束適正化委員会:おおむね3か月に1回以上の開催
  • 身体拘束適正化担当者の配置
  • 身体拘束等の適正化のための指針の整備
  • 定期的な研修の実施(年1回以上・新規採用時必須)
  • 緊急やむを得ない場合は態様・時間・心身の状況・理由を記録

緊急やむを得ない身体拘束の3要件は、①切迫性(生命・身体が危険にさらされている)、②非代替性(他の方法がない)、③一時性(できる限り短い時間で行う)のすべてを満たすことが必要です。

委員会は「おおむね3か月に1回以上」という頻度が定められており、年1回では足りません。令和6年4月の制度改正でも、3か月に1回という頻度は維持されています。

感染症研修と訓練が年2回ずつ必要な理由

根拠は指定居宅サービス等基準第177条の2です。感染症の研修と訓練は、他のテーマと異なりそれぞれ年2回以上の実施が求められています。

解釈通知が示す内容:

  • 感染対策の研修:年2回以上(新規採用時必須)
  • 感染症発生時の対応訓練:年2回以上
  • 感染対策委員会:おおむね3か月に1回以上
  • 感染症・食中毒の予防・まん延防止のための指針の整備

有料老人ホームは高齢者が24時間生活する施設です。インフルエンザ・ノロウイルス・COVID-19・疥癬などのクラスター発生リスクが高く、感染した入居者を帰宅させることができないため、施設内でのまん延防止対策が特に重要です。

研修と訓練を季節で分ける実務が多く見られます。たとえば4月(ノロウイルスのオフシーズンに基礎知識)と10月(インフルエンザ・ノロウイルスシーズン前に手順確認と訓練)のように計画します。

業務継続計画(BCP)の研修と訓練

根拠は指定居宅サービス等基準第177条の3です。感染症または非常災害の発生時においても、利用者へのサービスを継続するための計画(業務継続計画)の策定が義務です。

BCPに関する義務:

  • 業務継続計画の策定
  • 計画の定期的な見直し
  • BCPの研修:年1回以上
  • BCPの訓練:年1回以上
  • 研修・訓練の実施後に評価・改善

特定施設では、入居者が自力で避難できない方も多いため、「施設内に留まる(垂直避難・屋内避難)」か「外部に避難する(広域避難)」かの判断基準を事前に定めておく必要があります。厚生労働省の「介護施設・事業所における業務継続計画(BCP)作成支援に関する研修テキスト」が参考になります。

感染症BCPと自然災害BCPは別々に策定することが推奨されています。年1回の研修・訓練は、どちらか1つでなく少なくとも年1回以上、合わせて1回でも可(ただし感染症・災害の両方をカバーできる内容が必要)です。

ハラスメント対策の義務

根拠は指定居宅サービス等基準第178条の2です。事業者は、ハラスメント(性的な言動、優越的な関係を背景とした言動等)に適切に対応するための方針の明確化と、必要な措置を講じなければなりません。

ハラスメント対策の義務内容:

  • ハラスメント対策方針の明確化・全職員への周知
  • 相談窓口の設置
  • 方針等についての研修・周知の実施

特定施設では、入居者やその家族から職員への暴言・暴力(カスタマーハラスメント)に加え、長期入居による関係性の変化から生じるハラスメントも課題になっています。方針には、入居者・家族からのハラスメントへの対応も含めることが重要です。

看取りに関する義務(研修ではなく指針の策定)

看取りへの対応は、研修の義務とは異なる形で定められています。特定施設では、入居者が死亡を看取ることが多く、「看取りに関する指針」の策定が求められています。

看取り介護加算を算定する場合は、加算の要件として「利用者の看取りに係る質の評価を行う多職種連携のカンファレンスの実施」や「看取りに係る研修を受けた職員の配置」が必要です(看取り介護加算Ⅰは248単位、看取り介護加算Ⅱは144単位/日)。

加算の算定有無にかかわらず、入居時から看取りに向けた体制を整えることが、特定施設の本来の役割です。

新規採用職員への研修

解釈通知(老企第25号)は、虐待防止・身体拘束の適正化・感染症の3テーマについて、「新規採用時には必ず研修を実施することが重要である」としています。

定期研修の計画を年間で立てるとき、新規採用者の入職タイミングに合わせた「随時研修」の機会も組み込んでおくと、対応漏れを防げます。

運営指導で確認される研修の記録

都道府県・市町村が行う運営指導(旧:実地指導)では、研修の実施状況を確認するための記録の提示が求められます。

最低限用意しておくべき記録:

  • 研修実施記録(実施日・テーマ・出席者・内容の概要)
  • 委員会の開催記録(実施日・出席者・議題・決定事項)
  • 各テーマの指針・マニュアル
  • 担当者の任命書類
  • 身体拘束を行った場合は個別の記録

記録の保管期間は、指定居宅サービス等基準により、サービス提供完結の日から2年間(都道府県・市町村によっては5年の場合もある)が原則です。最新の基準・自治体ルールを確認してください。

法定研修を年間スケジュールに落とし込む

5テーマの研修・訓練・委員会をすべて実施するには、年間スケジュールへの計画的な組み込みが必要です。最低限の回数だけ並べると、1年間に次の機会が必要になります。

  • 研修:虐待防止・身体拘束・感染症×2回・BCP・ハラスメントで合計7回(新規採用時研修は別途)
  • 訓練:感染症×2回・BCP×1回・非常災害で合計4回程度
  • 委員会:虐待防止(年1回)・身体拘束(3か月に1回=年4回)・感染症(3か月に1回=年4回)で合計9回以上

委員会の開催頻度が特に多い点に注意が必要です。身体拘束と感染症はそれぞれおおむね3か月に1回以上なので、事実上毎月どちらかの委員会が開催される計画になります。

外部の研修機関を活用する方法もありますが、自施設での記録・出席管理は必ず事業所内で行います。

まとめ

有料老人ホーム(特定施設入居者生活介護)の法定研修は、指定居宅サービス等基準に基づく5テーマです。感染症だけ研修・訓練ともに年2回以上で、それ以外は年1回以上が基本です。身体拘束と感染症は3か月に1回以上の委員会開催も義務になっています。

運営指導では研修の記録が確認されます。実施したことの証拠として記録を残すことと、職員が実際に学べる研修内容にすることの両方が大切です。

研修資料・確認テスト・委員会議題案・訓練記録のひな型をまとめた「法定研修キット(有料老人ホーム版)」を公開しています。よければ確認してみてください。
→ 有料老人ホームの法定研修キット

また、他の福祉事業の開業・運営に役立つ情報は、こちらのページにまとめています。
→ 福祉事業の開業と運営

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この記事を書いた人

業種別のツールを、一人で作っています。開業前の収支シミュレーター、法定研修キット、資格の問題集。どれも、厚生労働省の告示や調査の原文を自分で確かめてから数字を組み込んでいます。使う人が「この数字、合ってるか」と不安になるようなツールは作りたくないので。

上場企業で20年間、営業ひとすじ。電話営業・インサイドセールスから、約70名のチームのマネジメントへ。現場で「根拠のない数字」が判断を狂わせる場面を見続けてきたせいか、ツールを作るときも出典を確かめずにはいられません。

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