グループホームのBCP訓練は年1回以上。夜間支援のある施設特有の視点。

福祉事業の開業と運営

グループホームでは、BCPに基づく訓練を年1回以上実施することが義務とされています(運営基準第95条の3・第217条の3)。「訓練をやったことがない」「BCPを作ったが形骸化している」という事業所は、運営指導での指摘対象になります。令和4〜5年度の報酬改定でBCPの作成・訓練が義務化された後も、未対応の事業所が一定数存在することが指摘されています。

訓練には、感染症(新型コロナウイルス等)を想定したものと、自然災害(地震・水害等)を想定したものの両方が必要です。どちらも年1回以上の実施が義務であり、合わせて年2回以上の訓練が必要です。

BCP訓練の義務の根拠

BCP(業務継続計画:Business Continuity Plan)訓練の根拠は、「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律に基づく指定障害福祉サービスの事業等の運営に関する基準」(運営基準)の第95条の3(介護サービス包括型)・第217条の3(日中サービス支援型)に定められています。

規定の内容を整理すると:

  • 感染症・食中毒の発生時を想定した訓練を定期的(年1回以上)に実施する
  • 非常災害(地震・水害等)に備えた訓練を定期的(年1回以上)に実施する
  • 非常災害時の連絡先・行動手順・避難場所等を「非常災害対策計画」として整備する
  • 訓練の実施にあたって地域との連携が求められる(地域住民の参加が得られるよう努める)

「定期的に」とは少なくとも年1回以上とするのが解釈通知の立場です。感染症と災害でそれぞれ年1回以上のため、合計で年2回以上が必要です。

グループホームがBCP訓練で直面する特有の課題

グループホームの BCP 訓練は、一般的なオフィスや日中通所サービスとは異なる状況を想定する必要があります。主な特有の課題は以下です。

夜間支援員が1人という状況:日中は複数の職員が対応できますが、夜間は世話人または夜間支援員が1人しかいない場合があります。火災・地震・利用者の急病が重なった場合に、1人でどこまで対応できるかをあらかじめ明確にしておく必要があります。

利用者が就寝中という状況:昼間とは異なり、夜間は利用者が各居室にいます。避難に時間がかかる利用者(車いす・歩行が不安定・認知のある利用者)がいる場合、1人の職員が全員を安全に誘導できないケースがあります。このような状況を訓練で体験・確認しておくことが重要です。

GHの立地が多様:戸建て住宅・マンションの一室・市街地・山間部など、GHの立地は様々です。避難場所・避難経路がそれぞれ異なるため、地域の防災マップ・ハザードマップと照らし合わせた個別の計画が必要です。水害リスクの高い立地では、台風接近前に先行避難するかどうかの判断基準も計画に含めます。

関係機関への連絡体制:緊急時に誰に連絡するか(家族・相談支援専門員・行政・医療機関)の順序と、夜間・休日に担当者が不在の場合の対応を整備しておく必要があります。「連絡先リスト」は事業所内の複数箇所(世話人室・玄関付近・職員ロッカー)に掲示しておくと、緊急時に確認しやすくなります。

BCPの「作成」と「訓練」の関係

BCP(業務継続計画)は、緊急事態が発生した際に事業所としてどう動くかをあらかじめ定めた計画書です。グループホームでは、感染症BCP・非常災害BCPの両方を作成することが義務とされています(令和4年度・令和5年度報酬改定で義務化)。

しかし、計画を作るだけでは不十分です。実際に訓練をしてみると「計画に書いてあることが現場でできるか」「職員が計画を知っているか」を確認するきっかけになります。計画書は作成した後も定期的に見直し、訓練の結果を反映して更新していくことが求められます。

BCPの構成要素(感染症):

  • 感染症発生時の初動対応(誰が何をするか)
  • 職員の参集基準(出勤できる職員が減った場合の最低限の運営体制)
  • 利用者の重症化・入院時の対応
  • 物資の備蓄リスト(マスク・手袋・消毒液・非常食等の数量と保管場所)
  • 関係機関との連絡体制(保健所・医療機関・行政・家族)

BCPの構成要素(非常災害):

  • ハザードマップに基づく想定リスク(洪水・土砂崩れ・地震等)
  • 避難場所・避難経路
  • 避難の判断基準(いつ避難するか)
  • 利用者の安否確認の方法
  • 事業を継続するための代替拠点・協力施設

ハザードマップを使った訓練準備

非常災害BCP訓練の前提として、グループホームの立地が「どのような災害リスクにさらされているか」を把握しておく必要があります。国土交通省・各都道府県・市区町村が公表するハザードマップを使います。

確認すべきハザードマップの種類:

  • 洪水浸水想定区域図(河川の氾濫時の浸水深を示す)
  • 土砂災害警戒区域(土砂崩れ・急傾斜地崩壊・土石流のリスクがある区域)
  • 内水氾濫ハザードマップ(下水道が処理能力を超えた場合の浸水リスク)
  • 地震ハザードマップ(地震発生時の震度・液状化のリスク)

国土交通省「ハザードマップポータルサイト」(国土地理院)では、地点を指定すると各種ハザードマップを重ね合わせて確認できます(無料・ブラウザで利用可)。

グループホームの立地がハザードマップの「警戒区域」や「浸水想定区域」に入っている場合は、避難のタイミング(大雨警報が発令された時点で先行避難するなど)を計画に明記しておく必要があります。

感染症BCP訓練の内容

感染症を想定したBCP訓練では、「感染者が出た場合にグループホームとしてどう対応するか」を職員が実際に動いて確認することが目的です。

訓練で確認すべき事項(例):

  • 感染者(利用者・職員)を発見した場合の初動対応
  • 感染者を居室に隔離する手順と、他の利用者への説明
  • 防護具(マスク・手袋・エプロン・ゴーグル)の着脱の手順
  • 消毒・清掃の手順
  • 医療機関・保健所への連絡の手順と記録
  • 食事・排せつの介助が必要な利用者への感染対策
  • 職員が不足した場合のシフト組みと外部からの応援依頼

「机上演習(テーブルトップ・エクササイズ)」として、シナリオをもとに職員が「自分はこのとき何をするか」を口頭で確認する形式でも訓練として認められます。実際に動く訓練より短時間で実施できるため、年1回の義務を確実に果たす手段として有効です。机上演習は「感染者が1名出た想定で30分」という短時間でも実施できるため、職員会議の一部として組み込む事業所もあります。重要なのは、実施後に記録を残して「訓練した」という証拠を作ることです。

非常災害BCP訓練の内容

非常災害を想定したBCP訓練では、地震・火災・水害等が発生した場合の避難訓練が中心になります。

非常災害訓練の構成例(夜間火災を想定・90分):

時間 内容
0〜10分 シナリオ説明(「午後11時、厨房から出火。夜間支援員1名・就寝中の利用者○名」という想定を参加者に伝える)
10〜30分 避難実施(実際に居室から集合場所まで誘導。支援が必要な利用者を想定したロールプレイを含む)
30〜50分 振り返り(「何が難しかったか」「実際に1人で対応できるか」を議論)
50〜70分 連絡訓練(家族・行政・医療機関への連絡の模擬練習。電話がつながらない場合の代替手段を確認)
70〜90分 記録・次回改善点のまとめ

避難訓練は、利用者も一緒に実施することが推奨されます。訓練を通じて「避難場所を知っている」「職員の指示に従う経験がある」という状態を利用者に体験させることが、実際の緊急時の混乱を防ぎます。

職員が不足したときの事業継続

BCP訓練で見落としやすいのが、「職員が不足した場合にどう事業を継続するか」という視点です。感染症の集団発生時には、職員も感染・濃厚接触者になり、通常の勤務ができなくなる可能性があります。

事前に準備しておくべき事項:

  • 最低限の運営に必要な職員数(利用者1人あたりの最低限の人員)
  • 法定の人員基準を維持できなくなった場合の行政への届出・報告の手順
  • 同法人の他施設・近隣のGHからの応援職員の依頼手順
  • 職員派遣会社・ボランティアセンターへの緊急要請の連絡先
  • 利用者の家族への連絡基準(家族に一時的に引き取ってもらう場合の基準と手続き)

「家族への一時帰省依頼」は、家族の事情によっては難しい場合もあります。そのため、「グループホームがどういう状態になったら家族に相談するか」を平時から関係者と確認しておくことが、実際の危機対応の速さにつながります。

地域との連携

運営基準では、非常災害時の訓練について「地域住民の参加が得られるよう努める」という規定があります(努力義務)。

地域との連携の例:

  • 自治会・町内会の防災訓練に参加する
  • 近隣の消防署・消防団と連携した避難訓練を実施する
  • 地域の福祉施設(同法人の他施設・近隣のGH等)と合同で訓練する
  • 地域の避難場所(指定避難所・福祉避難所)を事前に確認し、ルートを職員が把握しておく

地域との合同訓練は運営指導でも評価されることがあります。「地域との連携を示す証拠」として記録に残しておくことが重要です。

訓練後の改善サイクル(PDCAサイクル)

BCP訓練は実施して終わりではなく、訓練の結果をもとにBCPを更新するサイクルを回すことが重要です。「訓練をやったが、課題が見つかったまま計画を直していない」という状態では、実効性が伴いません。

P(Plan:計画):BCP(業務継続計画)を作成・更新する。前年度の訓練結果・ヒヤリハット事例を反映する。

D(Do:実施):計画に基づいて訓練を実施する。感染症BCP訓練・非常災害BCP訓練をそれぞれ年1回以上。

C(Check:評価):訓練後に「何が課題だったか」を職員と振り返る。「夜間1人でこの対応は無理」「連絡先がわからなかった」などの気づきを記録する。

A(Act:改善):振り返りで出た課題をBCPに反映する。「連絡先一覧の更新」「備蓄品の見直し」「研修内容への追加」など、具体的なアクションで改善する。

このサイクルを年1回回すことで、BCPが「棚にあるだけの書類」でなく「実際に使える計画書」になっていきます。運営指導でも、「過去の訓練の結果をBCPに反映した形跡があるか」が確認される場合があります。

訓練の記録の書き方

BCP訓練の記録には次の内容を含めます。

  • 訓練の名称(例:令和○年度 感染症BCP訓練 / 非常災害避難訓練)
  • 実施日時・場所
  • 参加者(氏名または人数・利用者が参加した場合はその旨も)
  • 訓練の内容・シナリオの概要
  • 訓練の結果(課題として発見されたこと)
  • 次回の改善点

記録は5年間保管が原則です。運営指導では「感染症BCP訓練の記録」「非常災害訓練の記録」を別々に確認される場合があるため、両者を分けて整理しておくと対応しやすいです。参加者の署名欄を設けると、全員が参加したことの証拠になります。

運営指導での確認事項

都道府県が実施する運営指導(実地指導)では、BCPに関して次の点が確認されます。

  • 感染症BCP・非常災害BCPが文書として作成されているか
  • BCPの内容が最新の状態に更新されているか(作りっぱなしでないか)
  • 感染症BCP訓練を年1回以上実施した記録があるか
  • 非常災害BCP訓練(避難訓練)を年1回以上実施した記録があるか
  • 訓練の結果をBCPに反映した形跡があるか
  • 備蓄品(マスク・消毒液・非常食等)の確保状況
  • 地域との連携(避難場所の確認・地域の防災訓練への参加等)

「BCPは作ったが訓練記録がない」「訓練はしたが記録が残っていない」というケースは指摘の対象になります。計画書・訓練記録・改善の記録を一か所にまとめて保管しておくと、運営指導での対応がスムーズです。

BCPと訓練の整備状況は、加算(特定事業所加算等)の要件とも関連している場合があります。加算を取得している事業所は、加算の要件としてBCPが整備されているかどうかも確認する必要があります。運営指導で指摘を受けた場合は、改善報告書の提出が求められることがあります。

法定研修キットの活用

グループホームのBCP訓練を体系的に準備するには、法定研修・訓練キット(グループホーム版)を活用できます。

BCPテーマの収録内容:

  • 感染症BCP・非常災害BCPそれぞれの訓練シナリオ(机上演習用・実働訓練用)
  • 確認テスト(職員がスマートフォンで受講・受講記録を残せる)
  • 訓練後の記録様式
  • 運営指導での確認書類チェックリスト

有料版(買い切り14,800円)では、感染症BCP・非常災害BCP以外の10テーマ(虐待防止・身体拘束・行動障害・意思決定支援・個別支援計画・ハラスメント・個人情報・事故と苦情・金銭管理・地域連携推進会議)も利用できます。

まとめ

グループホームのBCP訓練は、「計画書の整備」と「訓練の実施」「訓練結果のBCPへの反映」が三位一体で機能することで、実際の緊急時に役立つ体制が作られます。計画書だけを棚に置いておくのではなく、毎年の訓練を通じて職員全員が動き方を身に付けることが目的です。開業前の準備として収支計画を確認する際は、グループホーム収支シミュレーターも参照ください。

  • グループホームのBCP訓練は、感染症・非常災害それぞれ年1回以上が義務(合わせて年2回以上)、根拠は運営基準第95条の3・第217条の3
  • 夜間支援員が1人・利用者が就寝中という状況を想定した訓練が必要(GH特有のリスク)
  • 感染症BCP訓練は机上演習でも可。非常災害訓練は実際の避難行動を含む訓練が推奨
  • ハザードマップで立地のリスクを確認し、避難場所・避難経路・避難のタイミングを明確にしておく
  • 職員不足時の事業継続体制(応援要請・家族への連絡基準)を平時から整備しておく
  • 地域住民の参加を得るよう努めることも規定されている(努力義務)
  • 訓練の記録(実施日時・参加者・内容・課題・改善点)を5年間保管する
  • 訓練後の改善サイクル(PDCA)でBCPを毎年更新する

出典:

  • 「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律に基づく指定障害福祉サービスの事業等の運営に関する基準」(厚生労働省令)第95条の3(介護サービス包括型)・第217条の3(日中サービス支援型)
  • 「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律に基づく指定障害福祉サービスの事業等の運営に関する基準について」(解釈通知・障発第1206001号の最新版)
  • 国土交通省「ハザードマップポータルサイト」(国土地理院)
この記事を書いた人

業種別のツールを、一人で作っています。開業前の収支シミュレーター、法定研修キット、資格の問題集。どれも、厚生労働省の告示や調査の原文を自分で確かめてから数字を組み込んでいます。使う人が「この数字、合ってるか」と不安になるようなツールは作りたくないので。

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