無機過酸化物は、第1類危険物(酸化性固体)の中で唯一「水厳禁」の消火方法が適用される品目です。過酸化ナトリウム(Na₂O₂)・過酸化カリウム(K₂O₂)・過酸化バリウム(BaO₂)・過酸化マグネシウム(MgO₂)が代表物質で、指定数量は50kg・危険等級Iです。危険物取扱者 乙1の試験では、この「水と反応して発熱・酸素発生」という性状と「乾燥砂で消火」という消火方法が必ず問われます。
このページでは、無機過酸化物の化学的性状・物性・水厳禁の理由・消火方法・工業用途・試験で問われるポイントと引っかけパターンを整理します。
無機過酸化物の基本データ(消防法別表第一 第一類)
| 項目 | データ |
|---|---|
| 分類 | 第1類危険物(酸化性固体) |
| 指定数量 | 50kg |
| 危険等級 | I |
| 代表物質 | 過酸化ナトリウム(Na₂O₂)・過酸化カリウム(K₂O₂)・過酸化バリウム(BaO₂)・過酸化マグネシウム(MgO₂) |
| 消火方法 | 乾燥砂・膨張ひる石・膨張真珠岩(水・泡・二酸化炭素・ハロゲン化物は不可) |
出典:消防法別表第一(第一類)・危険物の規制に関する政令別表第一・危険物の規制に関する規則別表第4
水厳禁の理由:水と反応して酸素を発生し発熱する
無機過酸化物に水が触れると、酸素を発生しながら強く発熱します。この性質があるため、水・泡消火剤は使えません。
過酸化ナトリウム(Na₂O₂)の水との反応は次のとおりです。
2Na₂O₂ + 2H₂O → 4NaOH + O₂↑(酸素発生・発熱)
過酸化ナトリウムは水と反応して水酸化ナトリウム(NaOH)と酸素を生成します。反応時に強く発熱するため、周囲の可燃物を引火させる危険があります。さらに水酸化ナトリウムは強アルカリ性で腐食性も持ちます。
過酸化カリウム(K₂O₂)・過酸化バリウム(BaO₂)・過酸化マグネシウム(MgO₂)も同様に水と反応して酸素を発生します。
二酸化炭素消火器も使えない理由
無機過酸化物は二酸化炭素(CO₂)とも反応するため、CO₂消火器は使用できません。
過酸化ナトリウムと二酸化炭素の反応:2Na₂O₂ + 2CO₂ → 2Na₂CO₃ + O₂↑
CO₂消火器を使うと酸素が発生してしまうため、消火効果がありません。ハロゲン化物消火剤も同様の理由で不適切とされています。
正しい消火方法:乾燥砂・膨張ひる石・膨張真珠岩
無機過酸化物の火災には次の消火剤を使います。
- 乾燥砂:最も一般的。水分を含まない砂で覆って酸素を遮断し、熱を吸収する
- 膨張ひる石(バーミキュライト):軽量で断熱性が高く、化学的に安定
- 膨張真珠岩(パーライト):同様に乾燥した無機材料で水分を含まない
いずれも水分を含まない無機材料で、無機過酸化物と反応しません。火災時は大量の砂・ひる石・真珠岩で覆って密閉し、熱と酸素供給を断ちます。
各代表物質の物性と性状
過酸化ナトリウム(Na₂O₂)
| 項目 | データ |
|---|---|
| 外観 | 白色〜淡黄色の粉末または顆粒 |
| 分子量 | 78 |
| 融点 | 約460℃(分解を伴う) |
| 密度 | 約2.81 g/cm³ |
| 水との反応 | 激しく反応してO₂とNaOHを生成・発熱 |
| 吸湿性 | 高い(空気中の水分とも反応) |
- 常温の空気中でも水分と反応して徐々に分解(吸湿性が高い)
- 水・酸・二酸化炭素・有機物と激しく反応
- 皮膚・粘膜に強い腐食性(水と接触すると水酸化ナトリウムを生成)
- 繊維・紙などと接触すると自然発火する場合がある
過酸化カリウム(K₂O₂)
| 項目 | データ |
|---|---|
| 外観 | 橙黄色〜黄色の固体 |
| 分子量 | 110 |
| 吸湿性 | 高い(空気中でも変質しやすい) |
- 過酸化ナトリウムと同様の危険性を持つ
- 吸湿性が高く、空気中で保管すると変質する
- 水との反応で KOH(水酸化カリウム)と O₂ を生成
過酸化バリウム(BaO₂)
| 項目 | データ |
|---|---|
| 外観 | 白色の粉末 |
| 分子量 | 169 |
| 融点 | 約450℃(分解を伴う) |
| 水との反応 | 冷水にはほとんど溶けない。温水・酸と反応してO₂を発生 |
- 過酸化ナトリウム・過酸化カリウムより反応性はやや低いが同様に水厳禁
- 硫酸と反応すると過酸化水素(H₂O₂)を発生する(過酸化水素の製造にも使われていた)
- バリウム化合物は毒性があることにも注意
過酸化マグネシウム(MgO₂)
| 項目 | データ |
|---|---|
| 外観 | 白色の粉末 |
| 分子量 | 56 |
| 反応性 | 過酸化ナトリウムより低く比較的穏やか |
- 上記3物質よりは反応性が低く、土壌改良剤・水処理などに使われる
- ただし危険物取扱者試験では同じく「無機過酸化物・水厳禁」として扱う
工業用途と実際の使用場面
無機過酸化物は産業・工業分野で幅広く使われています。乙1で取り扱う資格を持つことで、次のような現場での業務が可能になります。
- 過酸化ナトリウム(Na₂O₂):パルプ・繊維の漂白剤原料として使われてきた歴史がある。また、酸素発生剤として潜水艦の乗組員向け呼吸用酸素源の研究に使われた。現在は主に化学工業・研究用試薬
- 過酸化バリウム(BaO₂):電子産業における酸化剤、ガラス・陶磁器の原料。かつては過酸化水素(H₂O₂)の工業製造に使用されていた
- 過酸化マグネシウム(MgO₂):農業分野での土壌改良剤(好気性微生物の増殖促進)、汚染土壌の修復技術(バイオレメディエーション)に使用される
第1類の他の品目との消火方法の比較
| 品名 | 消火方法 | 水の使用 |
|---|---|---|
| 無機過酸化物 | 乾燥砂・膨張ひる石・膨張真珠岩 | 禁止 |
| 塩素酸塩類 | 大量の水による冷却 | 可 |
| 過塩素酸塩類 | 大量の水による冷却 | 可 |
| 亜塩素酸塩類 | 大量の水による冷却 | 可 |
| 臭素酸塩類 | 大量の水による冷却 | 可 |
| 硝酸塩類 | 大量の水による冷却 | 可 |
| ヨウ素酸塩類 | 大量の水による冷却 | 可 |
| 過マンガン酸塩類 | 大量の水による冷却 | 可 |
| 重クロム酸塩類 | 大量の水による冷却 | 可 |
消火で水を使えないのは、第1類9品目の中で無機過酸化物だけです。試験では「第1類は大量の水で消火」という一般原則の例外として出題されます。
試験で出る「引っかけ」パターン3例
-
「過酸化ナトリウムの消火には大量の水を使って急冷するのが最善だ」→ 誤り
過酸化ナトリウム(Na₂O₂)に水をかけると激しく発熱し酸素(O₂)を発生します。燃焼を促進させるため絶対に水は使えません。正しい消火は乾燥砂・膨張ひる石・膨張真珠岩です。「急冷が最善」という表現でいかにも正しそうに見せるのが引っかけのポイントです。 -
「無機過酸化物の火災には二酸化炭素消火器が有効だ」→ 誤り
Na₂O₂はCO₂とも反応します(2Na₂O₂ + 2CO₂ → 2Na₂CO₃ + O₂↑)。CO₂消火器を使うと酸素が発生して消火できません。窒息消火の原理に基づくCO₂消火器は、自ら酸素を放出する第1類(特に無機過酸化物)には効果がありません。 -
「過酸化ナトリウムは空気中では安定であり、特別な保管は不要だ」→ 誤り
Na₂O₂は吸湿性が高く、空気中の水分(湿気)とも反応して徐々に変質します。密閉容器に乾燥した状態で保管することが必要です。「固体だから空気に触れても大丈夫」という思い込みを逆手にとった引っかけです。
保管と取扱い上の注意
- 水分との接触を避ける(密閉容器・乾燥した場所に保管)
- 可燃物・有機物から離して保管(特に紙・繊維・木材)
- 皮膚・目への付着は即時水洗(取扱い者は防護具着用が推奨)
- 少量を水中に少しずつ入れて廃棄する(急激な接触は危険)
- 火災以外の漏出時は水に近い場所に持ち込まない。乾燥した容器に回収する
- 容器の表示:「火気・衝撃注意」「可燃物接触注意」「水との接触注意」(危険物の規制に関する規則第44条)
よくある受験者の誤解
- 「過酸化ナトリウムは第6類(酸化性液体)ではないか」:誤りです。過酸化ナトリウムは固体なので第1類(酸化性固体)です。第6類の代表物質は過塩素酸(液体)・過酸化水素(液体)・硝酸(液体)です。固体か液体かで分類が変わります
- 「無機過酸化物は水と反応するので空気中でも水分を吸って自然発火する」:常温・少量の吸湿では自然発火はしません。ただし吸湿で品質劣化し、繊維や紙などの可燃物と大量に接触した場合に発熱・発火する危険があります。保管は密閉容器・乾燥した場所が必須です
- 「無機過酸化物の消火に水が使えないのは有毒ガスが発生するから」:誤りです。水厳禁の理由は有毒ガスではなく、酸素(O₂)の発生と発熱です。生成される水酸化ナトリウム(NaOH)は腐食性がありますが、「水を使えない主な理由」は発熱・酸素発生です
- 「過酸化バリウムは過酸化水素とは全く別物だ」:製造面では関連があります。かつて過酸化バリウム(BaO₂)に硫酸を反応させて過酸化水素(H₂O₂)を製造する「バイエルシャル法」が使われていました(BaO₂ + H₂SO₄ → BaSO₄ + H₂O₂)。現在は別の方法が主流です
甲種取得を目指す場合の無機過酸化物の位置づけ
甲種危険物取扱者の試験(性質消火20問)では、第1類危険物として無機過酸化物が出題されます。乙1で第1類を深く理解しておくと、甲種の性消で第1類の問題をすべて得点源にできます。
甲種の受験資格として「乙種の免状を4種類以上取得していること(うち第1・2・3・5類のいずれかと第4類または第6類を含む)」という要件があります(消防法施行令第33条)。乙1(第1類)はこの要件に含まれる類です。乙4を起点に乙1・乙2・乙5の3種を追加取得すると甲種受験資格になります。
第1類(固体酸化剤)の知識は、第6類(液体酸化剤:過塩素酸・過酸化水素・硝酸)の学習にもつながります。どちらも酸化性の危険物という共通点がありながら、固体か液体かで取扱い上の注意が異なる点が甲種の試験でも問われます。
乙1の問題集で無機過酸化物を練習する
危険物乙1 AI問題集では、無機過酸化物を含む第1類9品目の性質消火問題を100問練習できます。「無機過酸化物=水厳禁」の問題は繰り返し出題されるため、問題集で正確に判断できるまで練習することを推奨します。
法令・物化・性消の3科目合計220問を無料で練習できます。第1類9品目の一覧表は第1類危険物9品目の一覧ページでも確認できます。試験概要全体は乙1試験概要ページをご覧ください。
出典:消防法別表第一・危険物の規制に関する政令別表第一・危険物の規制に関する規則別表第4

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