認知症が進んで本人が年金を受け取れない状態になってきた——年金は本人名義の口座に振り込まれるため、家族が「代わりに引き出す」ことが法律上問題になることがある。後見人・法定代理人がいない状態でも生活費を確保するための合法的な方法と、年金を使った介護費用の計算方法を整理した。
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年金の受け取り・管理で認知症後に起きる問題
認知症が進んだ後に年金の管理で起きやすい問題を整理した。
- 本人が年金の振込日・金額を認識できなくなる:通常は毎月(老齢基礎年金は2か月ごと)年金が振り込まれるが、認知症が進んでいる本人がそれを把握できなくなる。いつの間にか口座残高が不審な減り方をしているケースが見つかることがある
- 年金振込口座が凍結された:年金の振込先口座が金融機関によって凍結された場合、年金が受け取れなくなる。日本年金機構への「振込先口座の変更届」が必要になる
- 代理受取人の変更手続きが必要:本人が年金を直接受け取れない状態の場合は、日本年金機構への「代理受取人の届け出」または後見人による受取口座への変更が必要になる
- 施設入所後に年金の一部が施設に振り込まれる仕組みへの変更:特別養護老人ホーム等に入所した場合、施設の費用を年金から自動的に支払う仕組み(施設への直接支払い等)に変更することがある
後見人がいない状態で家族が年金を管理する方法
後見人が設定されていない状態でも、家族が年金管理を支援する合法的な方法を整理した。
- 日本年金機構への「代理人届」:本人が自分で手続きできない場合でも、一部の手続きは家族が代理人として届け出ることができる。ただし対象手続きは限られており、口座変更や受取金額の変更等は本人の意思確認が必要な手続きが多い
- 社会福祉協議会の「日常生活自立支援事業」:社会福祉協議会の「日常生活自立支援事業」(旧「地域福祉権利擁護事業」)では、認知症高齢者・知的障害者等が日常生活の自立を支援するために「年金の払い出しの支援」「通帳・印鑑の預かり管理」等のサービスを提供している。軽度の認知症で判断能力が一定程度残っている段階から利用できる
- 家族の「事実上の代理行為」:後見人がいない状態でも、同居の家族が生活費のために本人の年金口座から引き出すことは、民法上の「家族の日常的な生活費の管理」として許容される場面がある。ただし後で後見手続き・相続手続きの際に引き出しの記録・用途の説明ができるよう、全記録を残しておくことが重要だ
後見人が行う年金管理の実務
後見人が設定された場合の年金管理の実務を整理した。
- 日本年金機構への後見人届の提出:後見人が選任されると、日本年金機構(または各共済組合)に「成年後見人就任の届け出」を提出する。日本年金機構所定の書類(「代理人・後見人・保佐人・補助人届書(様式)」)と後見登記事項証明書を提出する
- 年金の受取口座の変更:後見人の管理する口座(本人名義または後見人が管理する口座)に年金の振込先を変更することができる
- 年金証書・ねんきん定期便の確認:後見人就任後は「年金証書」を確認して受取金額・振込スケジュールを把握する。「ねんきん定期便」でも確認できる
- 年金収入を家庭裁判所への収支報告に記載:後見人は毎年家庭裁判所に「後見事務報告書(収支一覧を含む)」を提出する義務がある。年金収入はその中の「収入」として記録する
年金と介護費用の「収支バランス」の確認方法
介護費用が年金で賄えるかどうかの確認は、在宅介護・施設入所のどちらを選択するかの重要な判断材料だ。
月々の収支の目安を整理した。
- 在宅介護の場合:介護保険自己負担(要介護3で在宅サービスをフル利用した場合の目安:月5〜7万円)+食費・生活費+住居費。年金が月15〜20万円程度あれば、在宅介護の費用は賄える可能性が高い
- 特別養護老人ホーム(特養)の場合:施設利用料+食費・居住費。低所得者は「補足給付(特定入所者介護サービス費)」の対象になれば食費・居住費の自己負担が軽減される。年金が月10〜15万円程度あれば、補足給付を受けた場合に費用が賄える可能性がある
- 有料老人ホームの場合:月額20〜35万円程度(施設によって大きく異なる)。年金のみでは不足するケースが多く、預貯金・家族の補助が必要になることが多い
「年金のみで生活できない場合」の公的制度
年金収入が少なく介護費用の賄いが難しい場合に活用できる制度を整理した。
- 生活保護(生活保護法):収入(年金を含む)・預貯金・利用できる財産を活用しても最低生活費に満たない場合は、生活保護を申請できる。認知症高齢者の場合は居宅保護(在宅介護で住み続ける場合)または施設保護(施設入所の場合)の形で支給される
- 補足給付(特定入所者介護サービス費):介護保険施設(特養・老健・介護医療院)に入所する低所得者に対して、食費・居住費の一部を補助する制度(介護保険法第51条の3)。申請はサービスを利用する市区町村の介護保険担当窓口で行う
- 高額介護サービス費:1か月の介護保険サービスの自己負担額が「負担上限額」を超えた場合に超過分が払い戻される制度(介護保険法第51条)。申請は市区町村の介護保険担当窓口で行う
「年金の種類」によって手続きが変わる
本人が受け取っている年金の種類によって、管轄・手続きが異なる。
- 国民年金(老齢基礎年金):自営業者・農業者・フリーランス等が加入。日本年金機構が管轄。偶数月の15日に2か月分が振り込まれる
- 厚生年金(老齢厚生年金):会社員・公務員等が加入。国民年金と合わせて受け取ることが多い(老齢基礎年金+老齢厚生年金)。日本年金機構が管轄。偶数月の15日に振り込まれる
- 共済年金(教員・公務員等):教員・国家公務員・地方公務員等が加入。各共済組合(文部科学省共済組合・国家公務員共済組合連合会等)が管轄。手続き先は各共済組合になる
- 企業年金(確定給付年金・確定拠出年金等):会社によって設けている場合がある。各企業年金基金・確定拠出年金の管理会社が管轄。手続き先が日本年金機構と異なるため、受け取っている年金の種類を確認する必要がある
「遺族年金・障害年金」と認知症
本人が配偶者を亡くして遺族年金を受け取っている場合、または障害年金を受け取っている場合の注意点を整理した。
- 遺族年金:配偶者が亡くなって遺族年金を受け取っている場合、本人が再婚すると受給権が失われる(国民年金法第49条)。認知症が進んでいる本人が判断能力なしに再婚の意思表示をしてしまうリスクを防ぐために、後見人が設定されていることが重要だ
- 障害年金:本人が認知症を発症する前から障害年金を受け取っている場合、障害年金は継続して受け取ることができる。ただし「障害認定日から一定期間が経過した場合の更新手続き(障害状態確認届)」の対応が必要な場合がある。後見人が就任した場合は後見人が対応する
「年金の差し押さえ」は原則できない
固定資産税の滞納・借金等で差し押さえがかかっても、年金には原則として差し押さえが及ばない。
国民年金法第24条・厚生年金保険法第41条により、「年金を受け取る権利(受給権)」は「譲渡・担保・差し押さえを禁止」されている。ただし受給権の差し押さえは禁止されているが、口座に振り込まれた後の「預金」は差し押さえの対象になる可能性がある。
年金が振り込まれる口座に他の預貯金も混在していると、差し押さえの際に「年金由来の資金」と「他の資産」の区別が難しくなることがある。年金専用口座を設けることで、差し押さえの問題を回避しやすくなる。
この記事のまとめ
- 認知症が進んで本人が年金管理できなくなった場合、後見人が日本年金機構に届け出ることで年金の受取口座の変更・管理ができる
- 後見人がいない段階では、社会福祉協議会の「日常生活自立支援事業」で年金払い出しの支援を受けられる可能性がある
- 家族による事実上の代理引き出しは、記録(引き出し日・金額・用途)を残しておくことで後の説明に備える
- 年金で介護費用が賄えない場合は、補足給付(介護保険法第51条の3)・高額介護サービス費(同第51条)・生活保護(生活保護法)の申請を検討する
- 年金の種類(国民年金・厚生年金・共済年金・企業年金)によって管轄・手続き先が異なる。管轄を間違えると手続きが大幅に遅れることがある
- 遺族年金は本人が再婚すると受給権が失われる(国民年金法第49条)。認知症高齢者の再婚リスクを防ぐために後見人を設定しておくことが重要だ
- 年金の受給権(振込前)は差し押さえ禁止(国民年金法第24条・厚生年金保険法第41条)。ただし口座に振り込まれた後の預金は差し押さえの対象になる可能性がある。年金専用口座で管理するとリスクを低減できる
- 遺族年金は本人が再婚すると受給権が失われる(国民年金法第49条)。認知症高齢者が判断能力なしに再婚の意思表示をするリスクを防ぐために、後見人の設定が重要だ
- 社会福祉協議会の「日常生活自立支援事業」は後見人がいない段階でも利用できる。年金払い出し支援・通帳管理等を受けられる。ただし軽度の認知症で一定程度の判断能力が残っていることが要件だ
- 年金で介護費用が不足する場合は「補足給付(特定入所者介護サービス費)(介護保険法第51条の3)」「高額介護サービス費(同第51条)」「生活保護(生活保護法)」を組み合わせて活用する
- 相談先:日本年金機構(ねんきんダイヤル:0570-05-1165)・社会福祉協議会の日常生活自立支援事業・市区町村の介護保険担当窓口・後見人・地域包括支援センター
出典:介護保険法第51条(高額介護サービス費)・第51条の3(特定入所者介護サービス費=補足給付)、生活保護法、民法第7条以下(成年後見制度)
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