基礎試験の5区分のうち、「言語と社会」は出題割合約10%、「言語と心理」は出題割合約10%です。
この2区分を合わせると全体の20%。「言語と教育」(30〜40%)・「言語」(約30%)という2大区分の次に来る対策対象です。出題割合が低いからといって手を抜くと得点の取りこぼしが発生します。この記事では2区分のテーマと効率的な学習方法を整理します。
「言語と社会」区分の範囲
「言語と社会」では、言語が社会・文化・コミュニティの中でどのように使われ、変化し、位置づけられているかが問われます(文部科学省「出題内容及びサンプル問題」PDFより)。
| テーマ | 代表的な学習内容 |
|---|---|
| 言語変種・方言 | 共通語と方言・標準語と話し言葉・社会方言(ジェンダー差・年齢差・職業方言) |
| 言語政策・日本語教育の制度 | 日本語教育推進法・文化庁の日本語教育施策・生活者としての外国人への日本語教育 |
| 多言語社会・接触言語 | バイリンガリズム・ピジン語・クレオール語・コードスイッチング |
| 異文化コミュニケーション | ハイコンテクスト/ローコンテクスト文化・ポライトネス・フェイス・文化的背景と言語行動 |
| 日本語の位置づけ | 在留外国人の日本語需要・国内の日本語教育の現状・海外日本語教育 |
「言語と社会」の学習ポイント
日本語教育推進法と関連制度を整理する
日本語教育推進法(2019年)・日本語教育機関認定法(2024年)・文化庁の施策は、日本語教育の制度的背景として問われます。「なぜこの法律が作られたか・何を変えたか」の大枠を理解することが先決です。細かい条文の暗記より、制度の目的と背景を理解する方が実用的です。
ポライトネス・フェイス理論を整理する
ブラウンとレヴィンソンのポライトネス理論(ポジティブ・フェイス/ネガティブ・フェイス)は、コミュニケーションの丁寧さの仕組みを説明する理論です。日本語の「断り方・依頼の仕方・配慮の表現」との対応で理解すると記憶に残りやすいです。
コードスイッチングと多言語環境の概念
バイリンガル・マルチリンガルの話者が会話の中で言語を切り替える「コードスイッチング」と、その社会的な意味(アイデンティティの表現・場の公式性の変化等)は、現代の日本語教育現場で実際に起きている現象として問われます。
「言語と心理」区分の範囲
「言語と心理」では、言語の学習・習得に関わる心理的なメカニズムと、個人差に関わるテーマが問われます。
| テーマ | 代表的な学習内容 |
|---|---|
| 記憶と言語学習 | ワーキングメモリ・長期記憶・宣言的知識と手続き的知識・インプット処理 |
| 学習者の個人差 | 言語適性・動機づけ(内発的動機・外発的動機)・学習スタイル・不安(言語不安) |
| 認知と言語習得 | 注意と気づき(noticing hypothesis)・スキーマ理論・メタ認知 |
| 情意フィルター仮説 | クラッシェンの情意フィルター仮説・学習環境と不安の関係 |
| 学習ストラテジー | 認知ストラテジー・メタ認知ストラテジー・社会的ストラテジー・オックスフォードの分類 |
「言語と心理」の学習ポイント
習得論と心理の区別を意識する
「言語と教育」区分に含まれる習得論(SLA・i+1・インタラクション仮説等)と、「言語と心理」区分の内容(動機づけ・記憶・学習ストラテジー)は隣接しています。クラッシェンの情意フィルター仮説はどちらの区分とも関連しますが、「心理的な側面(不安・動機づけ)」に焦点を当てた問いは「言語と心理」区分から出題されます。
動機づけの分類を整理する
デシとライアンのSDT(自己決定理論)に基づく動機づけの分類(内発的動機・同一化的調整・外部的調整等)と、ガードナーの統合的動機づけ・道具的動機づけの区別は頻出テーマです。「学習者がなぜ日本語を学ぶのか」という動機づけの種類と、それぞれが学習に与える影響を理解します。
学習ストラテジーの分類
オックスフォードの学習ストラテジー分類(認知・メタ認知・記憶・補償・感情・社会的)は、学習者への指導場面で問われます。「この学習者はどのストラテジーを使っているか」という事例判断の形で出題されることがあります。
「言語と社会」主要テーマの詳解
バイリンガリズムとマルチリンガリズム
2つ以上の言語を使う状態を指す「バイリンガリズム」は、「完全な2言語能力」を指すわけではありません。各言語での能力の偏り・使用の文脈・習得の時期(同時習得か継起習得か)によって多様な形があります。
バイリンガルの「優勢言語」(dominant language)と「弱い方の言語」の関係、コードスイッチング(場面・会話相手・トピックによって言語を切り替える行動)は、出題されやすいテーマです。コードスイッチングは「能力の低さ」ではなく、コミュニティ内で社会的な意味(アイデンティティの表現・インフォーマリティの演出等)を持つ行動として理解することが重要です。
言語変種と方言
「方言」は地理的に分布する言語変種(地域方言)ですが、社会的な属性によっても言語変種が生まれます。これを「社会方言(sociolect)」と呼びます。性別・年齢・職業・社会階層によって言語使用が異なるパターンがあり、日本語では「男性語・女性語」(文末表現・語彙の差)が典型例として取り上げられます。
ただし、「男性語・女性語」のような性差の分析は、現代の言語学では単純な二分法ではなく、個人の社会的文脈・アイデンティティとの関係で理解されています。試験では「言語変種として社会方言が存在する」という概念の理解が問われます。
異文化コミュニケーション:ハイコンテクストとローコンテクスト
ホールの理論によれば、コミュニケーションのスタイルは「ハイコンテクスト(文脈への依存度が高い・言外の意味を読む)」と「ローコンテクスト(明示的な言語表現で意味を伝える)」に分類されます。
日本文化はハイコンテクスト文化の典型例として挙げられ、英語圏文化はローコンテクスト文化の例として対比されます。ただしこれはあくまで傾向の比較であり、個人差・場面差があることを付記することが適切です。日本語教育の文脈では「学習者が日本語を学ぶ際にぶつかる文化的ギャップ」の例として使われることがあります。
「言語と心理」主要テーマの詳解
記憶の仕組みと言語学習
言語学習と記憶の関係では、「ワーキングメモリ(作業記憶)」が重要です。外国語を聞いて処理する・文章を読んで意味を理解するなどの「今この瞬間に行っている言語処理」を支えるのがワーキングメモリです。ワーキングメモリの容量には限りがあり、新しい言語形式に意識を向けながらコミュニケーションをすると処理負荷が高くなります。これが学習者が新しい文法を使いこなせない原因の一つとして説明されます。
長期記憶には「宣言的知識(facts・知っている知識)」と「手続き的知識(how-to・使える知識)」があります。語彙の意味を知っている(宣言的知識)ことと、実際の会話でその語彙を使える(手続き的知識)ことは別のレベルです。日本語学習者が「授業では正しく使えるのに話すときには出てこない」という状態は、宣言的知識は習得されているが手続き的知識になっていない段階として説明できます。
動機づけの種類と学習への影響
ガードナーの古典的な分類では「統合的動機づけ(その言語の文化・社会に属したい)」と「道具的動機づけ(就職・単位・実利目的)」が区別されます。両者のどちらが学習継続に有利かは文脈によりますが、内発的動機(興味・楽しさそのもの)が高い学習者は長期的な継続がしやすいとされます。
自己決定理論(SDT)では動機づけを外部的調整→取り込み調整→同一化的調整→内発的動機の連続体で捉えます。「なぜこの学習者は日本語を学ぶのか」を把握することが、教師として適切なフィードバックや活動設計に役立ちます。
情意フィルター仮説
クラッシェンの情意フィルター仮説は「不安・自己評価の低さ・動機の低さによって言語インプットの吸収が妨げられる」という仮説です。学習者が安心して話せる教室環境を作ることで情意フィルターを下げ、習得を促進するという実践的な意味があります。
試験では「情意フィルターを低くするための教室環境として適切なものはどれか」という事例問題が出ることがあります。「誤りを厳しく指摘する」はフィルターを上げる行動として誤りの選択肢として使われることがあります。
2区分の学習で共通する注意点
「言語と社会」「言語と心理」の出題割合は合わせて20%
この2区分は出題割合がそれぞれ約10%と低いため、「言語と教育」(30〜40%)・「言語」(約30%)の2大区分の学習が最優先です。2大区分を固めてから、残った時間で2区分を補完するのが時間効率のよい順序です。
社会的・文化的背景を「教師として活用する」視点で覚える
「言語と社会」区分の知識は「日本語を学ぶ学習者がどういう社会的・文化的背景を持っているか」という教師としての理解につながります。ただの知識として暗記するより、「この知識を教室でどう活用するか」という教師視点で整理すると定着しやすいです。
サンプル問題から見る出題傾向
文部科学省が公表しているサンプル問題(9問)では、「言語と社会」から1問が出題されています(問題2(4):コードスイッチングの事例を判断する問題)。
問題2(4)の形式は「次の事例のうち、コードスイッチングに該当するものはどれか」というタイプで、定義を知っているだけでなく事例に当てはめて判断できるかが問われます。「言語と心理」からのサンプル問題は9問の中に独立して含まれていませんが、試験案内の出題割合から約10問が想定されます。
2区分の学習ロードマップ
「言語と社会」「言語と心理」の2区分を、他の区分との学習の流れの中でどう位置づけるかを整理します。
全体の学習順序
- まず「言語と教育」区分を固める(出題30〜40%・最優先)
- 次に「言語」区分を固める(出題30%・次点優先)
- 残り時間で「言語と社会」「言語と心理」を補完する(各10%)
- 「社会文化地域」区分も10〜20%のため最後に確認
「言語と社会」「言語と心理」の学習で使えるリソース
この2区分は日本語教育能力検定試験の参考書でも扱われています。「言語と社会」はそのまま「社会言語学」「異文化コミュニケーション論」の章、「言語と心理」は「心理言語学」「言語習得論」の章に対応しています。
日本語教育能力検定試験向けの参考書(「日本語教育のためのビデオ教材」「日本語教育ハンドブック」等)を持っている場合は、該当する章を参照することで効率よく学習できます。ただし、登録日本語教員試験の出題範囲は49項目の到達目標が軸であるため、「到達目標に照らして十分か」を自己確認しながら参考書を読むことが重要です。
AI問題集での区分別練習
当サイトの問題集では「社会・文化・地域」「言語と社会」「言語と心理」の区分を選択して問題を出題できます。2区分は問題数が多くないため、「今日はこの2区分を集中的に練習する」という使い方が効率的です。解説を読みながら「なぜこの答えになるか」を確認することが理解の定着につながります。
まとめ
「言語と社会」「言語と心理」の2区分は、事例や状況の判断問題が多い傾向があります。キーワードの意味を覚えた後は、具体的な教室場面や日常場面に当てはめて確認する学習が定着に効きます。
- 「言語と社会」「言語と心理」は各出題割合約10%。合わせて約20問が想定される
- 「言語と社会」:言語政策・多言語環境・ポライトネス・コードスイッチングが主要テーマ
- 「言語と心理」:動機づけ・記憶・学習ストラテジー・情意フィルターが主要テーマ
- 2大区分(言語と教育・言語)の学習を先に固め、時間を確保した上でこの2区分を補完する
- 定義を覚えるだけでなく、事例に当てはめて判断できるかを意識する
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もう一つの主要区分「言語と教育」の対策は、こちらの記事をあわせてご覧ください。
独学の全体方針については、こちらの記事もあわせてご覧ください。

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