訪問看護の開業、訪問介護と比べてどう違うか。

訪問看護の開業、訪問介護と比べてどう違うか。 介護

訪問看護ステーションの開業を考えている方の多くは、訪問介護と比べてどうなのか、という疑問を持っていると思います。結論から言うと、訪問看護は、統計上の数字だけを見れば訪問介護よりも収益率が高い業種です。ただし、それは「誰でも同じように実現できる」という意味ではありません。この記事では、全国平均のデータをもとに、その理由と、見落としやすい注意点を見ていきます。

訪問看護の収支は、訪問介護と比べてどう違いますか

厚生労働省の令和7年度介護事業経営概況調査(令和6年度決算・介護保険分)によると、訪問看護ステーション1事業所あたりの月額の実態は、次のとおりです。

指標 訪問看護の全国平均 (参考)訪問介護の全国平均
月の収入 約347.6万円 約316万円
月の延べ訪問回数 421.5回 853.3回
常勤換算の職員数 8.6人(うち看護職員5.4人) 7.4人
訪問1回あたりの収入 8,248円 3,855円
給与費比率 70.1% 67.8%
収支差率 10.3% 9.6%

この表で目を引くのは、訪問1回あたりの収入が、訪問介護の2倍以上あるという点です。理由は明確で、訪問看護は看護師・保健師などの専門職が提供するサービスで、介護保険だけでなく医療保険からの収入も入るため、1回あたりの単価そのものが高く設計されているからです。この差が、収支差率10.3%という、訪問介護(9.6%)よりやや高い数字につながっています。

収支差率10.3%を、金額でイメージするとどうなりますか

月の収入が約347.6万円の事業所であれば、収支差(利益)はその10.3%にあたる約36万円という計算になります。残りの89.7%、つまり約312万円は、看護職員の給与を中心とした費用として出ていく計算です。給与費比率は70.1%なので、収入のうち約244万円が、常勤換算8.6人分(うち看護職員5.4人)の給与や社会保険料にあたります。

訪問介護(給与費比率67.8%)よりも、訪問看護(70.1%)のほうが、収入に占める人件費の割合がわずかに高くなっています。単価は高いものの、看護職員という専門職を雇う分、人件費の水準自体も高くなるためです。単価の高さがそのまま利益率の高さに直結するわけではなく、その分の人件費もセットで増えるという点は、見落としやすいポイントです。

収入が2つの保険から入るというのは、具体的にどういうことですか

訪問看護の利用者は、要介護認定を受けている高齢者だけでなく、末期がんや難病など、医療的なケアの必要性が高い人も対象になります。前者は介護保険、後者は医療保険から報酬が支払われる仕組みで、1つの事業所の中に、計算方法も入金のタイミングも違う2つの収入源が同居していることになります。詳しい計算方法は、こちらの記事で解説しています(訪問看護ステーションの収入、介護保険と医療保険でどう計算するか。)。

この2本立て構造は、収益機会が広がる一方で、収支計画そのものを複雑にする要因でもあります。介護保険側の利用者が中心の月と、医療保険側の重症度の高い利用者が増えた月とでは、同じ訪問回数でも収入額が大きく変わってきます。開業前の資金計画では、この振れ幅も踏まえておく必要があります。

それでも「大変」だと言われるのは、なぜですか

単価の高さだけを見ると魅力的な業種に見えますが、実際に開業して壁になりやすいのは、次の2点です。

看護職員という、訪問介護よりさらに狭い人材プールで採用する必要がある

訪問看護の人員基準では、看護職員(保健師・助産師・看護師・准看護師)を常勤換算2.5人以上(うち常勤1人)配置する必要があります。訪問介護の訪問介護員等と違い、看護師資格そのものが必須のため、採用できる母集団が最初から限られます。病院・クリニックなど、看護師の勤務先の選択肢は他にも多くあるため、給与水準や働き方の面で選ばれる事業所にならないと、採用そのものが難航します。

24時間対応の体制を維持するコストがかかる

訪問看護は、利用者の急変時に対応する24時間対応体制加算という仕組みがあり、これを届け出るには、オンコール対応や緊急時の出動体制を、実際に維持し続ける必要があります。当番の看護職員への手当、緊急時に出動できる人員配置など、単価が高い分だけ、それを支える体制のコストも大きくなるという構造です。

この体制は、看護職員2.5人という最低限の人員だけで無理に回そうとすると、特定の職員に当番が偏り、疲弊による離職につながりやすくなります。24時間対応の負担を分散できるだけの人員規模に育てるまでは、少人数の看護職員のシフトのやりくりが、経営者にとって実務上の悩みになりやすい部分です。

利用者は、どうやって増えていくのですか

訪問看護の利用者も、広告を出せば直接申し込みが来るという業種ではありません。ただし訪問介護と違い、紹介元が2種類あります。介護保険の利用者はケアマネジャーのケアプランを通じて、医療保険の利用者は病院・クリニックの主治医からの指示書を通じて、それぞれ紹介されるのが一般的な流れです。

これは、開業後の営業活動の相手先が、居宅介護支援事業所(ケアマネジャー)だけでなく、地域の医療機関にも広がることを意味します。医療機関との関係づくりには、介護保険の枠組みだけで完結する訪問介護よりも時間がかかりやすいため、利用者の増え方を試算する際は、この立ち上がりの遅さも織り込んでおく必要があります。

収支差率10.3%という数字を、そのまま信じていいですか

信じすぎるのは危険です。訪問介護の記事でも触れたことと同じですが、この数字は、すでに人員体制が整い、利用者数が安定している既存事業所の平均であって、開業したばかりの事業所の実績ではありません。看護職員2.5人以上をそろえた段階から人件費が発生する一方、利用者がゼロからのスタートであることに変わりはなく、資金繰りが厳しい期間を乗り越える必要があるのは、訪問介護と同じです。

さらに、訪問看護には「機能強化型」という、より高い単価を狙える仕組みもありますが、これは看護職員4〜7人以上・ターミナルケアの実績など、開業直後には満たせない要件が前提になっています(訪問看護の機能強化型管理療養費とは。要件をわかりやすく整理します。)。収支差率10.3%も、機能強化型の上乗せも、どちらも「これから積み上げていくもの」であって、開業初日から手に入るものではありません。

機能強化型を目指すと、収支はどのくらい変わりますか

機能強化型の届出をすると、通常の管理療養費に上乗せがつきます。令和8年6月以降の単価では、通常の管理療養費が7,710円であるのに対し、機能強化型1はその差額として月6,050円、機能強化型2は2,750円、機能強化型3は1,320円が、利用者1人あたり月1回上乗せされます(詳しくは訪問看護の機能強化型管理療養費とは。で解説しています)。

1人あたりの差額としては大きく見えないかもしれませんが、医療保険の利用者が50人いる事業所であれば、機能強化型1で月30万円以上の差になる計算です。ただし、この上乗せを届け出るには、看護職員4〜7人以上・ターミナルケアの実績という、開業直後には満たせない条件が前提になります。開業初期の収支計画には、この上乗せを最初から織り込まないことをおすすめします。

訪問介護と訪問看護、どちらが自分に向いていますか

単純にどちらが「良い」とは言えず、確保できる人材や、自分の強みによって向き不向きが変わってきます。

訪問介護 訪問看護
必要な資格 訪問介護員等(初任者研修修了者等) 看護師・保健師等(国家資格が必須)
収入の構造 介護保険のみ 介護保険+医療保険の2本立て
訪問1回あたりの単価 比較的低い(平均3,855円) 比較的高い(平均8,248円)
採用しやすさ 資格要件は比較的幅広い 看護師資格が必須で母集団が狭い
法人格の要否 どちらも個人事業主では開業できません(詳しくはこちら

自分自身、または経営パートナーに看護師としての知見・人脈があるかどうかが、実務上は一番大きな分かれ目になります。看護師の採用ルートを持たないまま訪問看護に参入すると、単価の高さを収入に変える前の「人を採る」段階でつまずくことになりかねません。

開業前に、資金はどう用意すればいいですか

訪問介護と同様、日本政策金融公庫の新規開業・スタートアップ支援資金が選択肢になります。設備資金は返済20年以内・運転資金は10年以内、据置期間は5年以内で、2026年9月1日現在の基準利率は、無担保・創業2期未満で3.75〜5.35%です(金利は変動するため、実際に申し込む際は最新の公表情報を確認してください)。医療保険からの入金は、介護保険とは別のタイミングで行われるため、2つの収入源それぞれの入金時期を踏まえて、資金の谷を試算しておくことが、訪問看護ならではの注意点です。

結局、開業前に何を確認しておけばいいですか

ここまでの内容を整理すると、訪問看護の開業前に具体的な数字で把握しておくべきことは、次の3つです。

  1. 看護職員の採用計画:常勤換算2.5人以上(うち常勤1人)を、いつまでにどう確保するか
  2. 2つの収入源の資金の谷:介護保険・医療保険、それぞれの入金タイミングを踏まえた最も厳しい時期の資金必要額
  3. 損益分岐点:何人の利用者(介護保険・医療保険の内訳含む)を確保すれば、月々の収支がプラスに転じるか

自分の計画にもとづいた具体的な試算は、無料の収支シミュレーターでできます。

訪問看護ステーション 収支シミュレーター(無料)を試してみる →

よくある質問

Q. 訪問看護ステーションの倒産件数はどのくらいですか

東京商工リサーチの調査(老人福祉・介護事業を対象・2025年)では、訪問介護91件・通所短期入所45件・有料老人ホーム16件という内訳は公表されていますが、訪問看護ステーションは、この調査の対象区分に含まれていません。訪問看護は医療保険法にもとづく事業でもあるため、統計上の扱いが訪問介護とは異なります。訪問看護単独の倒産件数について、今回は確認できた公的な統計が見つかりませんでした。

Q. 看護師の採用が難しい場合、どうすればいいですか

採用力そのものを高める方法(給与水準・働き方の柔軟性・研修体制の整備など)に加えて、開業前の収支計画の段階で、採用が計画どおりに進まなかった場合の代替シナリオも用意しておくことをおすすめします。収支シミュレーターでは、看護職員の人数を変えたときの収支の変化を試算できます。

Q. 訪問看護は、個人事業主として小さく始めることはできませんか

できません。訪問看護の指定を受けるにも法人格が必要で、個人事業主のままでは開業できません(訪問介護・訪問看護は、個人事業主でも開業できるか。)。

まとめ

  • 訪問看護の全国平均の収支差率は10.3%で、訪問介護(9.6%)よりやや高い水準です。理由は、訪問1回あたりの単価が訪問介護の2倍以上あることです。
  • 単価が高い背景には、介護保険+医療保険という2本立ての収入構造があります。
  • 「大変」と言われる理由は、看護師という狭い人材プールでの採用と、24時間対応体制の維持コストです。
  • 収支差率10.3%も機能強化型の上乗せも、開業直後から得られるものではなく、実績を積み上げた先にある数字です。
  • 開業前に、看護職員の採用計画・2つの収入源の資金の谷・損益分岐点の3つを具体的な数字で把握しておくことが重要です。

出典:厚生労働省「令和7年度介護事業経営概況調査」(令和6年度決算)、東京商工リサーチ「2025年『介護事業者』倒産動向」、日本政策金融公庫「新規開業・スタートアップ支援資金」(2026年9月1日現在の基準利率)。統計や制度は変わる場合があるため、実際に開業を検討する際は最新の情報をご確認ください。

この記事を書いた人

「見た目がきれいなだけのページ」ではなく、問い合わせや応募につながることを目指したページを作っています。

運営者は、上場企業で20年間、営業ひとすじ。電話営業・インサイドセールスの最前線から、約70名の営業チームのマネジメントまで経験してきました。「どんな言葉で人の心が動くのか」「どうすれば“お願いします”と言ってもらえるのか」を、机上ではなく現場で、20年かけて体に叩き込んできた人間です。

デザイナーが作るLPは“見た目”で終わりがちです。私が作るのは、営業の視点で「何を・どの順番で伝えれば人が動くか」まで考えた、集客・採用のためのページです。「人が来ない・選ばれない」というお悩みのお手伝いに、営業だからこそ力を注いでいます。20年の営業経験が、いちばん生きると考えています。

ご相談はメールだけ・オンラインで完結します。「ちょっと聞いてみたい」だけでも、お気軽にどうぞ。

fufumumu_designをフォローする
介護
fufumumu_designをフォローする
fufumumu_design

コメント

タイトルとURLをコピーしました